「次はハイエルフがええんや!それも王女な!」
もう何度目かになるロキの提案にフィンは苦笑いを浮かべる。
カルーナと言う宿場町に着いた私達は暫く町に滞在し次の目的地を決めるための情報収集と路銀稼ぎに勤しんでいた。
そんな中、ハイエルフの里近くを通る辻馬車があると聞いたロキは毎度の如く私達に提案してくる。
「ロキ、何度も言うがハイエルフはやめた方がいい。まず、国際問題になるのは間違いない。世界中のエルフを敵に回せる余裕は無いんだ。あと、気難しいエルフの中でも特にハイエルフは輪にかけて誇り高いんだ。神でさえ見下すと聞く」
「気難しいと言われてもなぁ〜」
ロキがこちらを見てくる。
2人の会話を聞き流しながら食事に勤しんでいた私を見てロキはエルフと言う種族を再度考え直す。
「にゃんだ?」
口いっぱいにスパゲッティを含み。口回りにはケチャップが付いている。
気難しいエルフではなく食いしん坊エルフである。
「ロキ、世の中には例外もある。アリスは特にエルフらしく無い。僕と出会った時だって見下さずに接してくれた変わり者だよ」
「ゴクン。まあ、私が変わり者なのは否定しないよ。普通なら里を飛び出してないからね。とは、言えこの近くのハイエルフと言えばアールヴの血族か。なら可能性はゼロじゃ無いかもね」
「「?」」
「あの一族の女性達は外に憧れる風潮があるんだよ。実際に飛び出して英雄譚に名を残した人もいるし。たしか、今の王女は70を超えたあたりの若いほうだからまだ諦めてないと思うよ」
「70ってババァやないか」
一般のヒューマンからしたら70は高齢だけど不老長寿であるエルフ達からしたら70歳は10代半ばみたいな者だ。
「それ本人の前で言わないほうがいいよ。王女様の名前はリヴェリアだったかな?噂によると父王によく反発してるお転婆姫って話だけど」
「?二つほど疑問があるんだけど、アリスはエルフとしての意識?と言うのかな。王族へと敬意が低い気がするだんけど」
「あー、フィンだから言っても大丈夫だよねロキ?」
「んー、あのことかいな?まぁ、無闇矢鱈に広めないなら大丈夫やろ」
ロキから許可も降りたので、説明するのに手っ取り早いのでステータスの写しを見せる。
アリス・グレイ
レベル1
力:254
耐久:299
器用:325
敏捷:416
魔力:728
アビリティ
破邪:B
「随分と成長が早いんだね。ここに来るまで1ヶ月くらいしか経ってないよ。僕の最高ステータスでも器用が200を越してるぐらいだし」
フィンは私のステータスを見て目を見開く。
ステータスの成長は1日そこらで上がらない。プレブリカでの死闘でもステータスのトータルは30を超えるぐらいだったのだ。
移動用の足として魔獣を創り出しているとは言え異常に伸びているのだ。
「私としてはもう少し均等に上げたいんだけど。まあ、贅沢な悩みかな。スキルを見て貰えば納得すると思うよ」
フィンは私の言葉に目を下に下げ続きを見る。
魔法
『オフレスキャ・レイコウス』
詠唱「創生」
怪物創造魔法
自身のイメージした怪物を魔力によって形成する
イメージが不確かな場合は不発する
精神力の消費量及び本人のレベルによって怪物の強さ、数が変動する
自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能
『スミーダ』
詠唱「創造」
武器創造魔法
自身のイメージした武器を魔力によって創造する
イメージが不確かな場合は不発する
精神力の消費量及び本人のレベルによって武器の質、強さ、能力が変動する
自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能
『ラグナロク・ハイリヒトゥーム』
詠唱「黄昏の時、空を染め尽くせ」
結界魔法
自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内に結界を構築する
結界内で任意での事象を起こす
「うん、魔法も相変わらず規格外だね」
「まあ、その分本来ならごっつい精神力を使うんやけど。スキルが程よく相殺してくれてるしな」
スキル
【異界精神】
精神汚染への高耐性
精神力消費量の超削減
獲得経験値量の増大
【異界超越】
必要経験値の増大
ステータスの限界突破
【精神変換】
精神力を消費する代わりにステータスの向上
【魔力放出】
精神力を消費して武具の性能を向上
【妖精剣舞】
戦闘継続時間に比例してステータスの向上
【妖精歌唱】
任意にて詠唱文の追加を行い魔法の効果を激上、変化させる
【聖女祝福】
任意にて発動
聖属性と光属性の付与
自動にて治癒、解呪、解毒
発動時間に応じてステータスの超向上
アビリティ破邪の獲得
「バグやな」
「どれもすごい効果だけど最初の二つは別ものだね」
ロキは知っていたがあまりにも規格外に遠い目をする。
フィンはあまりの規格外に苦笑いを浮かべる。
「スキルに書いてるように私は異界での精神。つまりは魂を宿してる。簡単に言えば異界で人間と過ごした魂がこの世界に流れ込んできたんだ」
あまりの規格外の話にフィンはロキを見る。
「嘘は言ってへんで。うちは魂を見通す事はできひんけどアリスたんが異常なのはわかる」
「幻滅したか?」
異界の存在、それはこの世界の住民達とは別の存在。神に近い存在とも言える。
「いや、納得はしたよ。君は僕が知るエルフ達とはかけ離れている。でも、エルフとしてではなく人間としての魂を持っているなら価値観が違うのも納得する。でも、だからどうした?」
「えっ?」
「アリス・グレイは僕の友で戦友だ。そして、同じ恩恵を授かったファミリアだよ」
余りにも気にしない様子に面食らう。
異質な存在は人々から忌み嫌われる。実際、里では女の戦士というだけで異質だったのに価値観すら合わなかったせいで孤立していた。
「全く、フィン。君はつくづく私の予想より斜め上を行くな」
「まあ、アリスたんの事情もわかったやろ。それでフィンもう一つの質問はなんや?」
「ああ、アリスって実質何歳なんだい?」
ロキはこいつマジかよと余りにも無遠慮な質問に破顔する。
先ほど歳のことに関して注意されたばかりだ。
だが、いくら精神が大人びていてもフィンは14歳の子供だ。まだ、女性の扱いはお子ちゃま並みなのだ。
「ん、言ってなかったか?私はフィンと同い年の14だが」
「「・・・」」
アリスの返答に固まる2人。
2人とももっと年上だと思っていたのだ。
「えぇーーーー。そのいやらしいボディで14ってえぇーー⁉︎そのいやらしいボディで14ってえぇーー⁉︎」
ロキの絶唱が店内にこだまする。
その内容を聞き店内の人達が私の身体を見てくる。
少し恥ずかしく身に纏うマントで体を隠す。
「う、2度もいうな。確かに昔からよく食べてたせいか身体の成長は早かったが、そこまでいやらしく無い!」
身長が伸びるのは嬉しい、胸が確かに大きいのは認める。しかし、そこまで言われるほどでも無いはずだ。
「いやいやいや、14でフレイヤ並みにはあるやん!てか、まだ成長途中やろつまりはドチビを抜いてデメテル並みにもなるんか⁉︎」
ロキは歓喜し、そして自分に絶望した。14の子供に負けたのだ。
「うぅ〜〜〜。うちが揉んで育てたる!」
ロキは泣きながら飛びついてくる。
「やめろ」
「うぐっ⁉︎頭が割れる」
拳骨を落としたことによりロキは床でのたうち回っている。
「どうした、フィン?」
いまだに固まっているフィン。
「いや、まさか同い年だと思わなくて」
「まぁ、前世の記憶もあるから精神年齢はもっと上だ。あながち年上と言うのも間違ってない」
「そう言うわけじゃ無いんだけど」
●●●●●
「うおぉーー!来たでハイエルフの森。待っとれよ可愛いエルフたーーん!!」
結局、ロキのハイエルフへの夢を諦めさせる事はできず目的地へと来てしまった。
アルブの王森と呼ばれる樹海は自然の迷宮。平原からではその全容が見れず、案内が無ければ遭難するのは間違いない。
「で、どうするんだロキ? 私もフィンも里に入る手段を持ち合わせてないが」
「そこは同族のアリスたんがどうにかしてくれへんか?」
まさかの他力本願だとは思わなかった。
だが、一つ困ったことがある。
「無理だロキ。私たちの血族はエルフ達から少し敬遠されている」
「なんでーや!うちのエルフたんはどうするんや」
誰もロキの物になってない。
「それは初耳だね。なんでだい?」
「うちの里はかなり危険地帯で死者数も多い。それなのに一族が繁栄してるのは数が減らないからなんだ。本来、長寿のエルフの出生率は低い。しかし、うちの里は年にかなりの同胞が生まれる」
まあ、10を超える前に死ぬことが多いんだが。
「なんや、どういうことや?」
「身ごもりづらい筈のエルフがなんでそんなに?」
二人の疑問もごもっとも。
「数打てば当たる、と言えばいいかな」
「「・・・」」
絶句。
まさかの予想斜め上どころか場外ホームランな発想に二人は絶句する。
「性に旺盛なんだよ。あの里は食う寝る戦う交じり合うの4拍子そろった魔境だった」
戦士として才能があったのが幸いして性教育は施されなかったが同い年の子が異性の下の世話をしているのを見た事がある。
「なんやそれ。エルフじゃなくてエロフやないか!フィン、ハイエルフを仲間にしたら次は常闇の森へ行くで。待ってろやエロフたん!」
「ロキ、話が進まないから少し黙ってくれ。あと、エロフならアリスがいるだろう」
「と、言う訳で潔癖なエルフからは少し敬遠されているんだ。私たち血族は一般的なエルフと違って肌色や髪色が白に近いからすぐばれる。あと、私はエロフじゃない」
通常のエルフ達よりも白すぎる肌と白に近い金髪、白金色をしている私は他のエルフとも見分けがつきやすい。
「まあ、アリスたんがエロフなのかは置いといて。フィン、何かおもろいことがおきてそうやで」
「ん・・・?エルフ達が・・・?」
ふと真面目な顔になって指さすロキに導かれ、視線を向けると、森の入口にいた守り人達が騒然としていた。
かなりの慌てぶりで森の中に入っていった。
「いくで、フィン、アリスたん」
にんまりと笑うロキにわたし達はため息交じりに森へと入る。
●●●●●
守り人の跡を追うとそこには二人の女エルフを襲うエルフの戦士たちがいた。
「運が良いのか悪いのか。まさか王女の脱走事件の最中とは」
「アリスにはハイエルフがわかるのかい?」
「エルフという種族のせいなのか知らないけど、今叫んでるのがハイエルフの王女様で間違いないよ」
「うひょーまじもんのハイエルフや。フィンはよ助け」
「関わりたくないんだけどなぁ」
渋々駆け出すフィン。
私としては絶対に関わりたくない。ここで関われば居場所が里にばれる。呼び戻されることは間違いない。
「待っててな。ハイエルフたん」
「ちょ、ロキ。危ない」
戦場へと駆け出すロキ。
流れ弾でも喰らえば無能なロキが死ぬのは間違いない。
それなのになんの躊躇いもなく走り出した。
「加勢の必要はないか」
一方、フィンの方は無双状態だった。
近くのエルフは槍で薙ぎ払い。魔法を発動しようとしているエルフには小石の投擲にて防ぐ。
しかし、数が多いし殺さないように手加減してるためか数が減らない。
「ロキ、何してる・・・?」
背中を晒すハイエルフと恩恵を刻んでいる神を見た。
(やりやがった。ハイエルフを眷属にした)
2人のやり取りを見ていないが確実に円満な契約ではないことだけはわかる。
だって、ハイエルフが屈辱に塗れた顔してるんだもん。
その後、ハイエルフが使った魔法らしい魔法によりエルフ達は氷漬けになった。
●●●●●
「ふへへぇ〜!ハイエルフの王女様ゲットやで〜。見たか、フィン、アリスたん」
「まさか本当に仲間にするとは。脱帽だよ」
「これで私たちはお尋ね者だ」
大喜びしてるロキと苦笑いするフィン、そして頭を悩ませる私。
そんな私たちを見ている緑髪の2人のエルフ。
「なんて愚劣な存在なんだ。噂には聞いていたがあんなのが神とは信じられない・・・」
「リ、リヴェリア様、そのようなことおっしゃっては・・・。気持ちはわかりますが・・・」
2人は余りにも下品な神にカルチャーショックを受けていた。
確かに、下品極まりない神は多いけど。尊敬に値する神もいるから、アストレアとかアルテミスとか、あとはアテナとか。うん、委員長属性ばっかだ。
「まぁ、そう言わないで。私はアリス・グレイ。ハイエルフに出会えたことを光栄に思う」
「あぁ、リヴェリアだ。しかし、貴様は他の同族みたいに畏まらないのだな」
「ん?そっちの方がいいか?」
「いや、砕けた感じで構わない。そちらの方が新鮮だ」
「私はアイナと言います。よろしくお願いしますアリスさん」
「よろしくアイナ」
いまだに喜び続けるロキとそれを宥めるフィンを置いて私は2人に挨拶をする。
「しかし、最奥の森のエルフが森を抜けて神の眷属になっていようとはな」
「里を抜け出したのは私だけだから、エルフの中ではかなりの変わり者だと思う」
「うちも混ぜてぇーな!」
話し込んでいるとロキが混ざってきた。
アイナに触ろうとしてリヴェリアに杖を向けられたりしていたが2人から事情を聞き出した。
そして、リヴェリアとアイナの関係やリヴェリアの思いを聞いた。
「ふへぇへぇ、百合やぁ〜。本物の百合やぁ〜。しかもえらい別嬪のエルフ同士の〜。たまらんでぇ〜、たまらんでぇ〜
グヒヒ」
「「黙れ」」
「ぐひぃ⁉︎」
話が拗れるためフィンはロキの腹に肘鉄を、私は頭に拳骨を落とす。
「取り敢えず、自己紹介を済ませようか。もうロキとアリスの紹介はいいだろう?僕は「黙れ」」
そしてお約束の小人族アンチ発言をかますリヴェリア。
アイナはおろおろしている。
まあ、今まで会ってきたエルフとは必ずこうなっていたからフィンも大人の対応をするだろう。
「・・・」
「2人とも落ち着いてください」
ならなかった。
フィンも14歳の若僧にすぎない、買い言葉に売り言葉。
リヴェリアの言葉に軽く怒ったフィンは言い返したのだ。
それにリヴェリアは怒り言い返す。怒りを表しているリヴェリアと涼しい顔で言い返すフィン、なんとか2人を宥めようとするアイナと未だ悶えてるロキ。それとなんか面倒くさくなってきた私が居た。
その後、復活したロキによって宥められた2人はやっと自己紹介が終わった。
●●●●●
追手から逃げるため森を抜けようと歩き始めたアリスたち。
ここまでくるのに目印をつけてきたフィンの後を続き、来た道を引き返している。
ロキは念願のハイエルフであるリヴェリアに構い倒している。それに叫ぶリヴェリアと宥めるアイナ。
「さて、アリス。これからどうしようか。エルフと敵対なんて僕はごめんだよ」
「私もごめんだ。他のエルフに追われれば私の存在もバレる。無断で里を抜け出したのは私も同じだから連れ戻される可能性もあるんだよ」
「最悪の場合は、リヴェリアを残してみんな殺される可能性もあるよ」
「リヴェリア本人になんとかしてほしいけど、そこまで頭が回るなら追われてもないよね」
いまだに怒り狂ってるリヴェリアを見て頭を悩ませた。
問題にならないように立ち回れるならロキの眷属になんてなっていないだろう。
「「はぁ〜」」
アリス達はこれからの未来に頭を悩ませた。
『オオオォォォ‼︎』
突如、野蛮な怪物の雄叫びが森にこだました。
「えっ、モンスターやん!この森におるの⁉︎」
「嘆かわしいことにな。エルフの戦士達が定期的に駆除してるが奴らはどこからか湧いて出てくる。昔は竜種も住み着いていたと聞く」
「敵は追手だけじゃないか・・・。ひとまずは森を抜けよう、これじゃあ話もできない」
アリスとフィンはロキを庇いながら前へ出る。
「アイナ、弓を」
「はい」
アイナから弓矢を受け取ったリヴェリアは次々と矢を放ちモンスターを退治する。
応戦しようとしたアリス達だったがリヴェリアの弓捌きに脱帽する。
「お見事」
「ふん、低俗な小人族。貴様は弓を使えんのか?」
いまだに喧嘩腰なリヴェリア、それにフィンは余裕を持って言い返した。
「見てろ。あの程度、私1人で片付けてやる」
褒めて載せる。
「チョロいね」
「うわぁー、腹黒やなフィン」
「腹黒」
リヴェリアに怪物を押し付けたフィンはロキに近づいて呟く。
先ほどの一件で無駄に言い争う事になると学んだフィンはリヴェリアをうまい具合に利用することへシフトチェンジしたのだ。
暫くリヴェリアの戦闘を見守っていた。フィンとアリスは一応は加勢できるようにしていたがそれも杞憂に終わり怪物達は全滅した。
「馬蹄の音」
異変にいち早く気づいたアリスは呟く。
「まずい、走れ!」
その呟きを聞いたリヴェリアはすぐに状況を理解して叫ぶ。
走り出したアリス達。しかし、相手は馬に乗っている、速度の違いからあっさりと補足されてしまい追いつかれた。
「見つけたぞ、リヴェリア!」
「父上・・・」
「おっめっちゃイケメンやん」
「ロキ、黙って」
親子の再会。家で王女とそれを追いかけてきた父王。
そんな2人にロキを入れたら絶対に話が拗れるに決まっている。
そこからは、盛大な親子喧嘩の言い争い。
王族としての務めを叫ぶ父王と世界を見たいと叫ぶリヴェリア。
「私は、貴方達が嫌いだ。この里が大っ嫌いだ!」
「・・・」
「貴方の押し付けた鳥籠なんて私は要らない!」
「・・・」
「私は、貴方の『人形』なんかじゃない!」
リヴェリアの叫びを黙って聞く父王。
これはリヴェリアの決別だ。
「それだけか? リヴェリア」
しかし、父王には響かない。誇り高きエルフの王にとって自由を求める娘の想いなど気にしていないのだ。
「この時代に我らハイエルフが偶像にならねばならんのだ。誇りを失えばエルフに待っているのは破滅だ。なぜわからん、我らには責務があるのだ」
娯楽を求めて下界に降りた神々の存在に世界は激変した。
英雄の時代、そんな中で魔法を使えるエルフは重宝されてきた。故にエルフは傲慢な態度でいられたのだ。
しかし、フィアナと言う希望を失い堕落した小人族のように、魔法と言う希少価値を無くしつつあるエルフはハイエルフと言う偶像のみが拠り所なのだ。
「なんや、政治のことはうちにはさっぱりわからん。神々から言わせればもっと気ままに生きればええやんと思うんやけど」
リヴェリア達の会話を聞き入っていら抑えてロキがいつのまにかリヴェリア達の前にいた。
「まぁ、王様、うちが今言いたいのはそんな事じゃあらへん。もっと単純や」
ロキは父王に向かって腰を直角に曲げて頭を下げる。
「あんたの娘さんをうちにください!!必ず幸せにします‼︎」
空気が凍った。
皆が顔を引き攣らせている。
フィンのみが笑みを噛み殺していた。
そして、父王を怒らせた。
「王女を捕えろ!他は殺して構わん!」
こうなった。
「この数に開けた場所で戦うのは不利だ。森に引き返す」
フィン達は獣道に引き返しエルフを迎撃する。
「近づいてきたエルフは僕が倒す。アリスは魔法を使って牽制してくれ」
「わかった」
「【黄昏の時、空を染めつくせ】」
「【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】」
世界が黄昏に染まる。
ドーム状に魔法陣が展開する。
フィンはエルフに接敵し槍を振るう。そんなフィンに向けて矢が放たれる。
「【防げ】」
しかし、その矢は光の壁によって防がれる。
アリスの三つ目の魔法、ラグナロク・ハイリヒトゥームは結界魔法。
その効果は範囲内に任意の事象を起こす。
つまりは結界内ならありとあらゆる魔法を使えるチート魔法。
その分、デメリットが存在する。結界発動中は常に精神力を消費し、起こす事象によって精神力を消費する。そして、本来の魔法ほどの効果を発揮できない。
リヴェリアの魔法ほど高威力高範囲な事象を起こすことはできないのだ。
しかし、それらデメリットを補うスキルをアリスは持っている。
異界精神にて精神力消費を抑える。
妖精歌唱にて結界内での追加詠唱を行い高威力高範囲高性能な事象を起こすことができる。
フィンの槍が、リヴェリアの矢と魔法が、アリスの魔法が次々とエルフ達を戦闘不能にしていく。
『オオオォォォ!』
咆哮が森に響いた。
先ほどの怪物達とは比較にならないほどの大絶唱に皆が動きを止めた。
「うぅわぁぁぁ⁉︎」
そして、森が爆ぜた。
後方に控えていたエルフ達が吹き飛ばされた。
「なっ⁉︎」
「あれは『竜』⁉︎」
リヴェリアとフィンが驚愕の声を上げる。
「『木竜』⁉︎」
10mを超える紛れもない竜種。
ダンジョンの中層にて生息する階層最強と呼ばれる怪物。そのポテンシャルはフィン達を圧倒する。
フィンとリヴェリアが固まる中、アリスは駆け出した。
「あぁぁぁ!」
恐怖にて逃げ遅れるエルフ。それを見逃すほど木竜は甘くない。エルフに向かった腕を振り下ろす。
「逃げろ!」
木竜の攻撃を刀にて弾き飛ばす。
(重い、手が痺れる。怪物や武器を生み出すにも戦闘中はまだ無理だ)
アリスの二つの魔法は超短文詠唱。しかし、イメージが明確じゃないと発動しない。戦闘に意識を向けながらイメージをするのは魔導士の平行詠唱並みかそれ以上の技量が要求される。
「【爆ぜろ】」
したがって使えるのは今発動してるラグナロク・ハイリヒトゥームによる魔法行使。
詠唱なしなら速攻魔法程度、短文詠唱なら単発魔法並み、それ以上なら本職と変わらない程度の魔法行使ができる。
この状況でアリスが選択したのは短文詠唱。
「ちぃ、硬いか」
致命傷は与えられなかったが明確なダメージを与える事に成功する。
確かな痛みに暴れ出す木竜。
「早く逃げて」
エルフ達を庇いながらアリスは木竜の猛攻を防ぐ。
「おおおおおおおぉっ!」
突如黄金の光が木竜を襲う。
「フィン⁉︎」
赤い瞳をしたフィンが木竜を抑え込む。
そして、後方から魔力の激流を感じたアリスはすぐに理解する。
リヴェリアの魔法での殲滅。
それを理解したのはアリスだけではない。木竜も自身を倒す存在に気づいたのかフィンとアリスに目をくれずにリヴェリアへと向かおうとする。
「させない!」
一閃
スキルによる身体強化と武具の性能向上。
二つが合わさった居合い切りを放つアリス。
その一撃は木竜の足を切り落とす。
「避けろ2人とも!」
リヴェリアの叫びを聞きアリスとフィンはその場から離脱する。
「【レア・ラーヴァテイン】‼︎」
炎の一柱が木竜を貫く。
その柱はアルヴの王森に大きな穴を開けた。
「これがリヴェリア・リヨス・アールヴ」
片鱗を見た。
いずれ最強の魔導士と呼ばれる者の魔法。それはレベル1の魔法の域を遥かに超えたものだった。
●●●●●
「少し待ってくれ同胞よ」
リヴェリアと父王の決別を済ませて旅立とうとした時、アリスを呼び止める声があった。
「なに?王様」
リヴェリアの父親、その人がアリスを呼び止めた。
他のエルフは負傷者達に手当てをしながら帰還の準備をしていた。
「貴殿は最奥の森出身、アリス・グレイで違いないか?」
「確かに私はアリス。でも、里は抜け出した」
「やはり、最奥の英雄か」
「私は英雄なんかじゃ無い!」
父王の言葉に叫び返すアリス。
事情を知る父王はばつの悪い顔をする。
「里長から伝言を預かっている」
「⁉︎」
その言葉にアリスは身構える。
「『すまなかった。お前に全ての責任を押し付けて本当にすまなかった』と」
「・・・」
アリスは予想と違った言葉に目を見開く。
「私も事情は聞いている。確かに貴殿は数多くの命を救えなかったのだろう、でも数多くの命を救ったのだ。あの里が滅んでいれば世界に混沌を撒き散らしていた。貴殿は戦い、戦い抜いたのだ。そのことを誇っていいのだ。貴殿は我々の誇りだ」
「・・・」
涙が流れた。
アリスの苦悩は晴れない。それでも、その言葉は確かにアリスに響いていた。
「っ、もう行く」
アリスは涙を拭う。
「それと、娘を頼む。あの小人族や愚劣な神は信頼できないが貴殿なら娘を安心して預けられる」
「大丈夫。リヴェリアは大切な仲間だから」
「ああ、よかった」
アリスは見た。
王としての顔ではなく親としての父王の姿を。
アリスにとってそれはとても眩しくて羨ましい光景だった。