剣姫
「アイズどこにいる!」
初めての誓いから十数年が経った。
オラリオに居を構えて、今では二大派閥と呼ばれるまでに成長した。
つい先日ファミリアに加入した幼い少女アイズ・ヴァレンシュタインの教育係となったリヴェリアは脱走したアイズを探していた。
フィンに諭されてリヴェリアの授業を受けるようになったが1時間も経たずに脱走するのがファミリア内での恒例となっていた。
「どうした、リヴェリア?」
「戻ってきていたのかアリス、アイズを見なかったか?あの小娘め今日という今日は目上への礼儀を教えてやる!」
「アイズは見てない。ほどほどにしてやれよ」
「そうか、見つけたら教えてくれ」
リヴェリアはアイズを探しに立ち去る。
わずかにアリスのコートが揺れる。
「アイズ、もう行ったぞ」
「ありがとうアリス」
アリスのコートに隠れていたアイズが出てくる。
「今度はリヴェリアに何を言ったんだ?」
「また、おばさんって言っちゃった」
「・・・学習しないんだな、アイズは」
勉強初日にアイズはリヴェリアをおばさんと呼んだ。
その時いたロキの話によれば余りのリヴェリアの怒りに茶化すことも出来なかったらしい。
アイズは度々リヴェリアの虎の尾を踏む。
「だって、答えを間違えたらがみがみ言われて」
地頭が良くないアイズ。それにまだ7歳と幼いアイズに取ってリヴェリアの授業は退屈で難しかった。
何度も同じ間違いをする。わからないことを何度も根気よく教えてくるリヴェリアのことがアイズは苦手だった。
「リヴェリアもアイズのことが大切だから気にかけてるんだ」
「でも、あの人いつも私に指図する。あれはダメこれはダメって私に何もさしてくれない」
「そうか。でも、それはアイズのことが心配だからだ。今は街もきな臭い、あまり外に出てほしくないんだ」
暗黒期、ゼウスとヘラが都市を去り。身を隠していた闇派閥がオラリオを襲った。
街やダンジョンで闇派閥の襲撃が多発する今、ロキファミリアであるアイズは狙われやすい。そのため極力1人にはさせずにしている。
一方のアリスはその魔法の有用性から都市やダンジョンに魔物を放ち監視をしている。妖精歌唱により視覚共有の効果を追加し、自身と魔物の居場所を入れ替える効果を使い多くの人を救っている。緊急の場合はオラリオ全体に結界を展開して都市の市民達に防護魔法をかけている。
「アリス疲れてる」
常日頃から駆けずり回っているアリスは目に隈を浮かべている。アイズが前にアリスと会ったのは10日前になる。アリスは10日間ホームに戻らず闇派閥に対応していた。
「大丈夫だ、アイズ。そうだ、これをあげるよ」
「じゃが丸くん?」
「ああ、食べると元気がでる。リヴェリアには内緒だぞ」
アリスは紙袋に入っていたじゃが丸くんをアイズに一つ渡す。
アイズもこのじゃが丸くんが大好物なのだ。前にアリスがアイズが欲しいだけじゃが丸くんをご馳走して夕飯が食べれなくなったのを知ったリヴェリアはアイズとアリスに拳骨を落とした。それからは時より一つだけアイズにじゃが丸くんをあげていた。
「ここにいてはリヴェリアが戻ってくるかもしれない。どこかバレない場所で食べるといい」
「うん、ありがとうアリス」
アイズはじゃが丸くんを大事そうに持ち走っていく。
「わーるいんだーわーるいんだー。またアイズたんに餌付けしてる」
「ロキか?戻った」
「おかえりや、アリスたん」
眷属の久々の帰還に喜ぶロキ。
●●●●●
「ほい、完了や。相変わらずごっついステータスの伸びやな。闇派閥とそこまでやり合ったんか?」
「ダンジョンではアレクトとアパテーの連中とはよく出くわした。都市ではよく白髪鬼が暴れてるけど」
常に都市、ダンジョンを警戒しているアリス。アリスに救われた冒険者は多い。
「全く、ギルドの連中も無茶いいよる。ダンジョン攻略と闇派閥の対処をしろって。しかも、うちのアリスたんを酷使しすぎやで」
「仕方ない。ゼウスとヘラがいなくなった今、世界にオラリオの戦力がまだ健在なんだと知らしめる必要がある」
「だからってアリスたん1人に負担かけすぎやろ。アリスたんのおかげで被害が抑えられてるのもわかるんやけど」
アリスは身支度を済ませてロキからステータスの写しを受け取る。
レベル6
力:895
耐久:680
器用:1080
敏捷:2565
魔力:7525
アビリティ
破邪:B
魔導:D
精癒:E
剣士:D
耐異常:E
魔防:F
魔法
『オフレスキャ・レイコウス』
詠唱「創生」
怪物創造魔法
自身のイメージした怪物を魔力によって形成する
イメージが不確かな場合は不発する
精神力の消費量及び本人のレベルによって怪物の強さ、数が変動する
自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能
『スミーダ』
詠唱「創造」
武器創造魔法
自身のイメージした武器を魔力によって創造する
イメージが不確かな場合は不発する
精神力の消費量及び本人のレベルによって武器の質、強さ、能力が変動する
自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能
『ラグナロク・ハイリヒトゥーム』
詠唱「黄昏の時、空を染め尽くせ」
結界魔法
自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内に結界を構築する
結界内で任意での事象を起こす
スキル
【異界精神】
精神汚染への高耐性
精神力消費量の超削減
獲得経験値量の増大
【異界超越】
必要経験値の増大
ステータスの限界突破
【精神変換】
精神力を消費する代わりにステータスの向上
【魔力放出】
精神力を消費して武具の性能を向上
【妖精剣舞】
戦闘継続時間に比例してステータスの向上
【妖精歌唱】
任意にて詠唱文の追加を行い魔法の効果を激上、変化させる
【聖女祝福】
任意にて発動
聖属性と光属性の付与
自動にて治癒、解呪、解毒
発動時間に応じてステータスの超向上
アビリティ破邪の獲得
【眷属守護】
同眷属と共闘時にステータスの向上
「魔力が伸びすぎてる」
「そりゃあ、寝ずに魔法使ってれば伸びるわ。10日前から寝てへんやろ」
「18階層では少し寝た」
「ダンジョンでって、気が休まんやろ。ランクアップしててもおかしくないのにな」
「スキルでステータスは伸びやすいがランクアップはしずらい。その分貯蓄があるから助かっているが」
「必要経験値量の増大=偉業が高難易度だったからな」
ロキとしてはここいらで少しアリスを休ませたいと思っていた。たまに帰ってきて睡眠はとっているが3時間程度の睡眠しかしていない。
「主神命令や、魔物の監視はそのままでええから暫くはアイズたんの面倒を見てや」
「そんな暇「これも家族を助けるためや、アリスたんやってアイズたんが襲われて死ぬのはややろ?」それはずるい」
ロキに言い負かされて渋々引き受ける。
アリスは立ち上がり部屋を出る。
「アイズたんのことよろしくなぁ〜」
●●●●●●
翌日、
アイズは中庭で剣を振っていた。
フィン達の許可が無いとダンジョンに行けないため渋々1人で訓練している。
フィンやガレスがたまに稽古をつけてくれるが2人とも多忙のため今日は合わなかったのだ。リヴェリアも常につきっきりでは無い。今日はギルドに呼び出されたらしくホームにいない。
「・・・」
「・・・」
剣を振っていたアイズは視線を感じた。
視線の先にはアリスがいた。静かにずっとアイズを眺めていた。
アイズは視線が気になって素振りを止める。
「?どうして止めるんだアイズ」
「アリス。そんなに見られるとやりづらい」
「そうか、それは済まない」
素直に謝るアリス。
「アリスはどうしたの?こんな時間からホームにいるの珍しいよね?」
「ああ、ロキにアイズの面倒を見てくれと言われてな。今日は闇派閥の動きもないようだからな」
魔物を通して都市を監視しているアリスは今のところ怪しい動きがないため久々に休んでいた。
「アリスが稽古つけてくれるの?」
「ああ、アイズが構わないなら稽古をつけよう」
「ならお願い」
アリスは腰に刺した刀を抜き鞘を掴み刀は壁に立てかける。
フィンに木の棒切れであしらわれた経験のあるアイズは油断しない。アイズ本人はアリスのことをよく知らない。アイズからしたらよくじゃが丸くんをくれる優しいお姉さんといった印象だ。同ファミリアの老兵ノワールからはファミリア最強の存在と聞いている。現オラリオでレベル6の2人のうち1人、最強の片割れ、オラリオ始まって以来の異才にて異端の存在。
そんなアリスに神々がつけた二つ名は【不動】。
ゼウスとヘラの全盛期、オラリオは他派閥との抗争に絶えない時代、そんな時代に当時レベル2を引き連れてやってきた新参のファミリア、ロキファミリアに目を付けた多くの他派閥達。小人族でありながら都市外でレベルを上げた傑物、ハイエルフという希少種属であり2つの魔法を有し2つで6つの効果を発揮する最強の魔導士の卵、ドワーフという力に優れた種族でその名に恥じぬ力を見せつける猛者、そして魔境である最奥の森を窮地から救った古代の秘術を宿した妖精。
レア中のレア者達を引き連れたロキファミリアは注目を集めたのだ。
娯楽に飢えた神々はそのレアモノを手にするべく抗争を仕掛けた。
アリスはその抗争でその特殊な魔法を使い一歩も動かずに他派閥を蹂躙してみせた。
アイズの印象とファミリア内、街の住民の印象は違う。
「さて、好きに仕掛けてくるといい。私の方からたまに反撃するが基本は受けに徹する」
「わかった」
両者が構えた。
アイズは早速仕掛ける。
アイズの猛攻を防ぎ、いなすアリス。たまにアイズが防げ、躱せるギリギリの攻撃を放つ。
フィン達との稽古で技と駆け引きを覚えつつあるアイズは単調な攻撃ではなく変化を加えてアリスを崩そうとする。
(なんで、届かない。確実に強くなったはずなのに当たらない)
「うん、だいぶ技も身についてる。悪くない」
アリスはアイズを弾き飛ばす。
距離が離れた2人。アイズは構え直す。
「次はこっちから仕掛ける。死ぬ気で防いで」
空気が変わったことにアイズは冷や汗を流す。
アリスの動きを逃さないためにアリスを注視する。
しかし、目の前にいたはずのアリスが消えていた。
「えっ⁉︎ッ⁉︎」
突然の現象に驚くが横からの斬撃に気づいたアイズは咄嗟に防ぐ。
「よく防いだ」
「今のなに?」
鍔迫り合いをしながら話す。
アリスは鍔迫り合いから流れるようにアイズの剣を逸らす。アリスの後方へと流されるように動かされる。後ろからの攻撃が来ると思ったアイズは咄嗟に振り向きながら斬撃を放つ。
「えっ、また」
しかしそこにはアリスが居ない。
そして、今度は後方からの斬撃に気づいた。
「うん、良いね。防御もそれなりに出来てる。でも、武器への労りが足りないから」
パリンとアイズの剣が砕けちる。
「ここまでだね」
「まだやれる!」
「だめ、そんなに打ち合ってないけどアイズは相当消耗してる」
言われて初めて気づいた。アイズの身体からは滝のように汗が流れており、手は震えている。息はあがっていて、体の疲労感も強い。
「少し、本気で打ち込みすぎた。ごめん」
手加減はされていた。きっと本気で打ち込んで来てたら一瞬で終わっていた。でも、それよりも一撃に乗っていた殺気にアイズは当てられたのだ。
「怖い」
死への恐怖。
ダンジョンでも味わったことのない体験をした。
「うん、ちゃんと恐怖してるね、それが死だよ。きっとアイズがこのまま戦い続ければそれは本当になる。それでも戦う?」
「死にたくない。でも、強くなりたい。そのためには戦わないといけない」
「なんで強くなりたい?」
「えっ?強くならないといけないから」
「なんでなりたい」
「・・・」
アリスの言葉に答えられなくなる。
モンスターを、あの黒竜を倒したい。
私に英雄は現れないから私が英雄になるしかないから。
でも、それは答えとは違う気がした。
「意味を持たない強さはただの暴力と変わらない。目的もなく意思もなく振るわれる力は他者を傷つける」
「・・・」
「私もそうだった」
「えっ?」
「幼い頃、強さを求められた。そして、私は強かった。認められたと思った。異端な私が初めて皆んなに認められたと。
そこからは強さを振るった。家族の心配なんて知らずに皆んなが褒めてくれるから。私は力を振るうことを他者の意思に委ねた」
「どうなったの?」
「破滅だよ。巨大な敵を前に無力だった。家族に庇われて家族を死なせて家族を狂わせた。前しか見えてなかった私は周りに大切なものがあることも気づかなかった。
意思なき力は巨大な力の前では無力になる。でも意思を持った力はちっぽけでも強い力になる。
知ってるかアイズ? そう言う力を持って偉業を成し遂げたモノ達の名を」
「わかんない」
「英雄と言うんだよ」
「⁉︎」
「今は迷うと良い。君は1人ではないんだから。
君には私たちがいる。君の中には君の親がいる」
「私の中」
アリスはアイズの胸を指して言う。
アイズは自分の胸を抑える。
「父親の言葉は君の中で生きている。母親の愛情は君の中で育っている。君が2人を覚えている限り2人は常に君とある」
「常に一緒・・・」
「今日の稽古はここまでだな。ちゃんと休むんだよ」
アリスはアイズの頭を撫でてその場から立ち去る。
アイズはアリスの言葉を聞いて確かな胸の温かみを感じていた。自分の中に母親を感じることはできない。でも、確かに何かあるのはわかった気がした。
●●●●●●
アイズが入団してから1年が経った。
相変わらず闇派閥は暴れ回っておりその対処にロキファミリアは追われていた。次回の遠征も迫っておりファミリア内は大忙しだ。
そんな時、アイズが消えた。ステータスの伸びが止まりランクアップ間近、しかしフィン達はアイズの危うさを読み取り方法を教えなかった。
「恨むなよ、ロキ。保険は多い方がいい」
1人の男神によってアイズはランクアップの方法を知った。
明確なリヴェリアへの拒絶。それはかつてリヴェリアが自分の父親に言った言葉と同じだった。リヴェリアは何も言い返せず離れていくアイズを見ることしかできなかった。
ダンジョンでの異変と闇派閥の襲撃。
フィンとロキの指示でリヴェリアとアリスはダンジョンに向かった。途中闇派閥の襲撃に遭い、リヴェリアのみを先行させて対処したアリスがリヴェリアに追いついた時には全てが終わっていた。
抱き合う2人を見てアリスは微笑んだ。
●●●●●
「この状況は何かな⁉︎」
「大丈夫、痛いのは最初だけ」
神ヘルメスは椅子に縛り付けられていた。
目の前には【不動】アリスがいる。
ヘルメスファミリアを訪れたアリスに団員はヘルメスを差し出した。
また、何かやったなこのバカ主神。
団員の心は一致していた。
街全体を監視しているアリスはよくヘルメスの企みを目撃している。普段は見逃すが度が過ぎてる場合は折檻をしに来るのだ。
一週間ヘルメスの顔は腫れ上がったままだったとか。
次はアストレアレコードにするか
それとも原作に行くか