神奈川県某所にあるホテル『アルストロメリア』。そこは敷地内に様々なアミューズメントがあり、それはプールだったりゴルフだったりと思いつく限りの遊びがそこにある。
ゴールデンウィークに氷室家、織部家、井原家、岸家、そして光莉さんでアルストロメリアに訪れ、チェックインを済ませたかと思えば父さんが全員を引き連れてやってきたのは、いくつもの真っ白な真四角の大きい建物。中に何があるか想像もつかず、ここにくるまでに受けた説明は、『1つの建物ごとに4人で入り挑戦すること』、『リタイアせずクリアできたら、滞在費がタダになる』という二つだけ。
「父さん、なんだここ?」
「アルストロメリアは父さんが世話になった人が経営していてな。で、このアミューズメント……『花を捧ぐ』っていうらしいんだけど」
なんかうまくは言えないけどとりあえずつける名前を間違えている気はする。
「ぜひ最初のお客さんにってことで招待されたんだ。本来はクリアしたら夕食がタダになるんだけど、滞在費をタダにするからってことでな」
「ほーん。で、俺は光莉さんと一緒なんだろうな?」
「バカ! こういう組み分けの時はくじ引きの方が楽しいに決まってんだろうが!」
そういってウキウキしながら12本の割り箸を取り出す父さんに呆れて、「恭弥かわいい」と優しく笑う母さんを見て更に呆れた。いつまでカップル気分なんだこの人たち。両親の仲がいいと子どもは優しい性格に育つって聞いたことあるけど、俺に対する周りの評価を見るにそんなことなさそうだからあの説は嘘だと思っている。
カップルモードになっている両親と絡むと気持ち悪いから、俺は自然にスキップしながら光莉さんへ近づき、「光莉さんも俺と一緒がいいですよね!」とイケメンスマイル。ふっ、これで光莉さんは俺に惚れたに違いない。これで惚れてくれるなら既にゴールインしてるだろうからそんなことはないけど、俺も着々と男を磨いてるから今日はわからないぞ???
「ん、そうね。夕弥はなんでもできるし、何があっても何とかなりそうだもの」
「これが愛の告白ってやつですか……」
「違うよ」
「簡単に否定するのはやめてくれ」
さっきまで千里さんと話していた里沙がわざわざ俺の方を見て否定してくる。いいじゃん別に告白じゃなくても愛であることは多分そうなんだから。息子とか弟とかに対するそれだとは思うけど。
……いや待て、そういえば思い出した。確か里沙って光莉さんの前だと俺のことが好きなフリをしないといけないんじゃなかったか?
嫌な予感がして里沙の方を見てみると、どことなく光莉さんの近くにいる俺を面白くなさそうな目で見ている。あいつの演技力半端ねぇな。
「おいおい。明らかに光莉さんの方が自分より魅力的だからって腹立てるなよ」
「言っちゃ悪いけど、私の方が若いもん」
「千里? この子本当に言っちゃ悪いこと言ってるわよ。どういう教育してんの?」
「僕の背中を見て育ったんだ。誇らしいよ」
「だからなのね……」
よかった……光莉さんが子どもには優しくてよかった……。光莉さんを挑発するようなことを父さんとか千里さんとかが言ったら再起不能にさせられるから、里沙もそんなことになったらどうしようかと思った。今千里さんが子どもの責任取らされようとしてるけど。まぁ千里さんならいいや。
千里さんが光莉さんに詰められている間に、父さんが俺のところにやってくる。手で握った割り箸を俺に差し出し、「引いても番号見るなよ!」と連呼するのが鬱陶しくてすぐに引いて、里沙も俺の後にすぐ引いた。なんか同じような言葉が聞こえるなって思ったら父さん「引いても番号見るなよ!」ってずっと言ってる。あれの息子だってことが漠然と不安になることがあるのはきっとあぁいう姿を何度も見ているからだろう。
「夕弥と一緒がいいなぁ」
「今光莉さんは千里さんを殺してるところだから、別に演技しなくていいぞ」
「え?」
「え?」
「よーし! じゃあ番号見ていいぞ!」
里沙が首を傾げた理由を聞こうとした時、やっと別の言葉を父さんが発した。まぁいいかと疑問をどこかへ追いやって番号を見ると、『Tres』。なんでスペイン語?
「あ、私『Tres』」
「俺もだ。マジで一緒じゃん」
「ほんと? やった」
「ハイ番号別に分かれて! キビキビ動く! 『Uno』がそっちで『Dos』がそっちで『Tres』がそっち!」
「学校におるときよりやる気やん」
「当たり前だろ。学校は子どもの未来がかかってんだぞ?」
「普通学校におるときの方がやる気のやつが言うねん、それ」
どうやら春乃さんは父さんと一緒らしい。いち早く父さんに近づいて、楽しそうに会話を始めた。そういうことすると母さんが嫉妬するからやめてほしい。あの人父さんが女の人に話しかけられるだけで嫉妬するんだから。父さんが母さん以外の人になびくわけがないのに。キッショ。
「あら、夕弥と里沙も『Tres』?」
「光莉さん! 光莉さん一緒なんですか!」
「あ、あの、さっきはすみませんでした。父は無事ですか?」
「死んだわ」
どうやら千里さんは死んだらしい。どうりでさっきから見かけないと思った。
あと一人は誰だろうと待っていると、里沙に後ろから優しく抱き着く影が一つ。
里沙の母親であり、父さんの妹である薫さんだ。
「わ、お母さん」
「一緒みたいだね。よろしく、光莉さん。夕弥」
「よろしくお願いします。すみませんね、カップルと一緒じゃ気まずいでしょうけど」
「ちなみに、私は千里を葬って勢いづいてるわよ」
即座に頭を下げ許しを請う。危ない。そういえば光莉さん、ある日を境に俺に対してあんまり甘くなくなったんだった。それはそれで子どもっていうより男として見てくれてる気がしていい気もするけど、光莉さんに殺されるようになるってことでもある。今更だけど日常的に殺してくる人ってなんなんだ? 日本は放っておいていいのか? いい。なぜなら光莉さんは世界一可愛くて綺麗でいい人だからだ。
他は父さん、春乃さん、恭華さん、霞が『Uno』、母さん、千里さん、蓮さん、春斗が『Dos』らしい。光莉さんに殺されたはずの千里さんがいつの間にか戻ってきているのを見て、慣れって恐ろしいなと震える俺に、里沙がそっと耳打ちした。
「ごめん、夕弥」
「ん?」
「……やらなきゃいけない」
やらなきゃいけない? と少し考えて、あ。と気づく。
そういえば光莉さん一緒じゃん。里沙、俺のこと好きなフリしなきゃじゃん。しかも薫さんいるじゃん。え? ってことは里沙は自分の母親の前で、俺のことが好きなフリしなきゃいけないってこと?
「1組でもクリアできたら滞在費無料らしいからな! みんな頑張れよ!」
誰よりもウキウキしている父さんの声が遠く聞こえたのは気のせいだろうか。
多分気のせいじゃなくて、きっとこれから先訪れるであろう心労が原因だろう。娘と一緒なことが嬉しいのか、機嫌が良さそうな薫さんを先頭に白い建物へ入りながら、バレないようにため息を吐いた。
『ようこそお越しくださいました! このアミューズメント花を捧ぐは、4人1組となりゲームのクリアを目指すものです!』
中に入って聞こえてきたのは、人のような機械音声のようなちぐはぐな声。全体に響き渡るそれと、ちょうどこの建物の辺を4等分するかのように扉が設置されている。入ってすぐの場所にあるテーブルには、ごつい機械的な腕輪が置かれていた。
「デスゲームみたい」
「ここにいるのがあんたたちじゃなかったら、私の勝ちだったのに……」
「勝てないからとかじゃなくて、殺すのに躊躇するからっていう意味で言ってます?」
恐る恐る聞くと、光莉さんは真面目な顔をして頷いた。多分この中だと俺が殺されやすいから距離をとっておこうと思う。
『まずは各々そちらにある腕輪を装着してください! 装着いただきましたら、次の説明に参ります!』
こういうのってつけたらダメだって漫画で学んだけど、それは漫画の話。父さんの知り合いが経営してるホテルっていうのが気になるけど、まさか犯罪まがいのことはやらされないだろうし、多分大丈夫だろ。
腕輪を腕に通すと、ガチッという音とともに腕輪がはまる。腕輪にはモニターがあり、そこに表示されているのは『98』という数字だった。3人の腕輪を見れば、光莉さんが『40』、里沙が『67』、薫さんが『31』。なんだろう、男らしさの数値とか?
『皆様にやっていただくのは、かくれんぼ&鬼ごっこ! 扉の先には街が広がっており、数機のドローンが飛んでおります! そのドローンから隠れ、見つかったら逃げる! 腕輪に表示された数値は見つかりやすさとなっております!』
「うそだろ」
「ひゃ、100じゃないだけマシって思えば、ね?」
里沙の慰めが耳に入ってこない。もし俺が光莉さんより数値が低かったら、見つかった光莉さんを助けに入って俺に引き付けるみたいなイケメンムーブができたのに、これ俺が追いかけまわされるだけじゃね? しんどい。
『高い数値が表示されてしまった人もいることでしょう。しかしご安心ください! 街中にはボックスが設置されており、その中には腕輪に差し込めるカードが入っております! その効果は様々であり、数値を下げるカードも存在します、が! カードは差し込むまで効果がわかりませんのでお気を付けください!』
「夕弥は兄貴とそっくりだから、ドローンを引き寄せるカード引き当てそう」
「父さんと似てるシリーズで一番嬉しくないんですけど」
どっちみち数値高いから引き寄せるし。
『カードを駆使し、助け合い、30分間逃げ切ることができればクリアです!』
30分。もし低い数値が出て見つかりにくいって場合はそれほど長くないのかもしれない。ただ俺の数値は98で、もうドローンから見れば爆音流して輝いているようなものだろう。ドローンなのに「アホがきやがった」と思うに違いない。
『あ、ちなみに4人全員ですよ! それではお楽しみください!』
「ごめん。終わった」
「他の組に期待しよっか」
「何言ってんの」
俺の背中をバン! と叩き、光莉さんが笑う。あまりにも女神すぎる微笑みに俺は死んだ。
「始まったら私がなんとかしてあげる。私もあんたを探すから、あんたも私を探しなさい」
「この腕輪は、結婚指輪だったってことか……」
「違うよ」
否定されてムカついたから里沙に投げキッスをしておいた。里沙が泣いた。俺は薫さんに怒られた。