扉を開けた先には、ふよふよ浮いているUFOキャッチャーみたいな形したドローンが7機くらいありました。
「うそだろ」
『ハッケン! ハッケン!』
ビカビカとドローンが発光し始め、機体から2本のアームが伸びる。先が手の形になっているそれを俺に伸ばしてくるのと同時に走り出した。
なんだよ98ってそんなにひでぇのかよ!! 見つかりやすさとかじゃなくて探されてすらなかったんだけど! バランス調整ミスりすぎだろクソが!!
ビービーと警報音のようなものを鳴らしてくれるのは距離がわかるからありがたい。どうやら全力で走れば直線距離なら逃げきれるほどの速さらしく、音がどんどん遠ざかっていくのがわかる。とはいえ、ずっと全力疾走できるわけじゃないからどこかに隠れないといけない。
周囲を見渡して、あ、そういえばめちゃくちゃしっかり街っぽく作られてるなと今更ながらに気づく。見た目はビル街で、気になったのは高い位置に映し出されているモニターくらいだろうか。モニターには残り時間が映し出されていて、それぞれの見つかりやすさの数値も表示されていた。よく見れば俺のところが赤くなってるから、恐らく見つかった人は赤く表示されるんだろう。
ちら、と後ろを確認して、近くの路地裏に入る。忘れちゃいけないのが俺は見つかりやすさ98だってこと。多分どっかに隠れたとしても、めちゃくちゃな速さで見つかるに違いない。だから俺が期待するのは、ボックス。
路地裏に入って少し奥に入った場所でそれを見つけた。正方形の四角い箱にひまわりが刻まれているそれをすぐに開けて、中に入っているカードを取り出し腕輪に差し込んだ。
『氷室夕弥様がひまわりのカードを使用されました! 効果は[これから5分間、全ドローンに自分の位置がバレる! 更にその間ドローンは他の人には目もくれない!]』
街全体に響くアナウンスの直後、街のあちこちから『ハッケン!! ハッケン!!』という音が俺に向かってくるのがわかった。は?
「俺が何したってんだよ!!」
5分って長すぎだろ! まぁその間は他の人が見つからないし終われないって考えたら悪い話じゃないんだろうけど!
いや、ここは3人を信じよう。3人がいいカードを拾ってこの状況を打破してくれるに違いない! 心の中で3人に希望を託し、四方八方から現れたドローンから逃げるために近くにあったドアを開けた。
ご丁寧にビルの内部まで作りこまれているらしく、入った場所はラウンジのようになっていた。走りながら見渡せば、そこには先ほど俺を地獄の底に落としたボックスが一つ。
「……今度こそ!」
さっきは死ぬほど悪い効果だったが、近くに悪い効果を2つも置かないだろ、多分! やけくそ気味にボックスを開けて、カードを取り出して一気に差し込むと、さっきと同じようにアナウンスが鳴り響いた。
『氷室夕弥様がエリカのカードを使用されました! 効果は[今いる建物が5分間封鎖される!]』
ガシャン! という音とともにすべての壁にシャッターがおりた。いや、これは当たりなんじゃないか? 俺も出られないけど、ドローンも入ってこれない。しかも5分間なら俺が追われ続ける効果が切れるまでこのままってことだろ?
そう余裕をぶっこいている俺の耳に届いたのは、外から聞こえてくる無数の『ハッケン! ハッケン!』という音と警報音。見なくても無数のドローンがこのビルを取り囲んでいることがはっきりわかる。
「おかしくなるおかしくなる! もういいだろ中に入れないんだからほっといてくれよ! 効果に忠実すぎだろお前ら機械かよ!」
機械だったわクソが!
クソ、なんだこれ。絶対捕まることはないのにめちゃくちゃ怖い。ずっと『ハッケン! ハッケン!』って聞こえるしビービービービーうるせぇし、つかよく考えたら5分間乗り切ったとしても、見つかりやすさ98だったらこの無数のドローンがそのまま俺のところに殺到してもおかしくない。だったら今俺がやるべきことはここで頭がおかしくなることじゃなくて、ビルの中からボックスを探し出すことだ!
階段を使って2回に上がる。オフィスをイメージしているのかいくつものパソコンと業務デスクが並んでいる。それに混じって忌々しいボックスが存在感を放っていた。
もうこうなったら何があっても一緒だろうとボックスを開け、カードを差し込む。事態が好転してくれと祈りを捧げると同時に働き者のアナウンスが効果を告げた。
『氷室夕弥様がゲッケイジュのカードを使用されました! 効果は[ドローンは周囲にいるドローンを攻撃する!]』
『コロス!』
『シネ!』
『ハッケン! ハッケン!』
『ジゴクニオチロ!』
『クツウヲアジワエ!』
『ハッケン! ハッケン!』
「俺はただ楽しみにきただけなのに、なんで争いの引き金を引いてるんだ……」
頭がおかしくなるどころかもうおかしくなった。外からドローンの殺伐としたセリフが聞こえてくるし、そんな中でもまだ俺を発見しているドローンがいる。これもうR18だろ。子どもがこんな目に遭ったら泣いちゃう通り越して感情失うよ。
もうこれ以上俺が何かしたらひどいことになる気がするから、おとなしくしておこう。このまま捕まったとしてもみんなわかってくれるはずだ。
願わくば、光莉さんと愛の逃避行をしたかったなぁ……。
「何あの地獄絵図……」
「清々しいくらい恭弥の血を引いてるわね」
「ど、どうにかして助けられないかな……」
夕弥が開始早々とんでもないカードを引き当てて、そのまま連続でとんでもないカードを引き当てて、作り上げられたのはビルを取り囲むドローンがお互いを攻撃し合いながら、中にいる夕弥を捉えようとうろついている地獄絵図。そのおかげと言ってはなんだけど、すぐにお母さんと光莉さんと合流できたのはまぁ、いいことなんだとは思う。夕弥にとっては最悪だろうけど。
「助けるっていうならこの現状を打破できるカードを使うしかないわね」
「でもカードの効果はランダムだって言ってたし……」
そう。カードを使って助けようにも、カードの効果はランダム。もしかしたら今よりもひどいことになるかもしれないし、実際夕弥もなんとかなってくれって祈りながらカードを使って、今みたいにひどいことになったんだろうし。そう思うとカードを使うのに躊躇してしまう。
のに、光莉さんは懐からカードを取り出して腕輪に差し込もうとしていた。
「ひ、光莉さん! ストップ! 夕弥が死んじゃうかもしれないんですよ!?」
「聞いたことある? 運営側が積極的に死人を出すアミューズメント」
「流石に兄貴の知り合いでもそれはないだろうけど、これ以上ひどい目に遭うのは夕弥がかわいそう」
「ほんとにひどい目に遭うと思う?」
言って、光莉さんはカードを見せてくる。見た目はシンプルで、長方形で真っ白。両面には名前のわからない花が描かれている。
「さっきからアナウンスでわざわざ花の名前言ってたから、何か関係あると思うのよね」
「ひまわりとエリカと、ゲッケイジュ? だっけ」
「ひまわりの花言葉は『私はあなただけを見つめる』、エリカは『孤独』、ゲッケイジュは『裏切り』。他にも色々あるんだけど、実際の効果と一致する意味としてはこれくらいね」
「……カードに描かれている花の花言葉と効果が関係してるってことですか?」
多分ね、と頷く光莉さん。そう考えれば、何かおかしいなと思っていたアミューズメントの名前である『花を捧ぐ』にも意味が出てくる。私もアナウンスで花の名前を聞いた時なんだろうなとは思ったけど、花言葉と効果が関係してるなんて思いもしなかった。
「光莉さん、花言葉知ってるんですね」
「光莉さんは可愛くてロマンチックだから」
「む、昔アルバイトしてた時に勉強しなきゃいけなかったから知ってるだけよ」
夕弥がいるビルの周りは殺伐としているのに、私たちの雰囲気は和やかだった。夕弥もここにいさせてあげたかった。ビルに引きこもってるせいで光莉さんの可愛いところを見逃しちゃったんだから。
カードに描かれている花の花言葉と効果が関係してるなら、光莉さんの持っているカードに描かれている花はなんなんだろう。さっき差し込もうとしてたからひどいものじゃないんだろうけど、せっかくだから気になってしまう。
「光莉さんの持ってるカードの花ってなんなんですか?」
「『屁』に『糞』に『葛』って書いてヘクソカズラ。昔暇だった時、恭弥とひどい花を探そうって言って知ったのよ」
「花言葉は?」
「『人嫌い』。だから……」
光莉さんがカードを腕輪に差し込むと、アナウンスが流れる。
『朝日光莉様がヘクソカズラのカードを使用されました! 効果は[これより5分間、ドローンは参加者から逃げ回る!]』
『ウワァ、ニンゲンダ!』
『キモイ!』
『コロス!』
アナウンスが流れてすぐに、ドローンが夕弥のいるビルから離れていく。夕弥が使ったカードの効果は残ってるみたいで、ドローン同士が争いながら。でも、夕弥を追い続けるっていう効果はなくなったみたいだから、上書きされる効果とそうじゃない効果があるのかな?
「さて、どうせしばらく夕弥はあのビルから出られないでしょうし、その間カード探しましょっか」
「あーあ。夕弥また光莉さんに絡んでくるよ。光莉さんが助けてくれたんですね! これが愛ってやつですか、結婚しましょう! って」
「女に助けられてるような男は願い下げよ」
「だから行き遅れてるんですね」
「よかったわね里沙。あんたが可愛くて」
どうやら私は可愛くなかったら今の一言で殺されていたらしい。口には気を付けようと思う。