ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

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第12話 そして死人が出た

「マジで流石です光莉さん! 大好きです! 今すぐ結婚するっていうのはどうでしょう!」

「あんたがもっと大きくなったらねー」

「光莉さんとのことを想像したら、いつでも大きくなれます!」

 

 光莉さんにぶっ飛ばされた。理由は流石にわかる。みんなの前だと恥ずかしいからってことだよな?

 

 あの後。光莉さんに助けられた俺はビルの閉鎖が解除された瞬間にビルを飛び出し、女神である光莉さんと合流した。あ、里沙と薫さんもいた。

 3人は俺がビルに閉じ込められている間にカードを集めていたらしく、『カードに描かれている花の花言葉がそのまま効果になる』という光莉さんの素晴らしい推理のもと有効活用し、見事30分逃げ切った。俺はほとんどおとりに使われた。

 

「っと。お疲れ様、夕弥」

「あ、すみません薫さん」

 

 ぶっ飛ばされた俺を受け止めて、柔らかく笑う薫さん。父さんの妹なのに綺麗で優しくていい人だなぁと会う度に感心する。薫さんが妹だっていうのが父さんの妄言だって言われても納得するくらいには信じられない。でも薫さんも父さんのこと兄貴って呼んでるし、本当なんだろう。

 

「……あの、もう大丈夫なんで離してもらっていいですよ」

「んー? せっかく可愛い甥と会ったんだから、もうちょっとお姉さんにサービスしてくれてもいいでしょ?」

 

 そのままぎゅっと俺を後ろから抱きしめ、ふふ、と笑う薫さんにめちゃくちゃ照れ臭くなって里沙に目で助けを求めるも、「もう、お母さんったら」と微笑ましく見つめてくるのみ。お前、俺のこと好きなフリするんだったら自分の母親に対しても嫉妬しろよ! いやいや、母親に嫉妬って。甥を可愛がるのは普通のことでしょ? じゃなくて俺とお前がいとこ同士だってこと忘れてんのか! お前に限ってはその論理破綻してんだよ!

 

「そういえば兄貴たちどこ行ったんだろうね」

「スマホ見たら、『なんかお前ら遅すぎるから適当に遊んどくわ。ちなみに、クリアできなくて拗ねてるわけじゃないから勘違いしないでよね!』って恭弥からきてたわ」

「うわ、キツ」

「里沙。それ父さんに直接言わないでやってくれよ」

 

 あの人大体の悪口は効かないのに、母さんか薫さんか里沙からの悪口はめちゃくちゃ効くから。里沙から敬語使われ始めた時もすげぇへこんでたし。「俺、もう家族じゃないってことなのかな……」ってへこんで母さんに慰められてたし。あのクソジジイ、母さんに慰めてもらいたいからへこんでるフリしてただけだろ。

 

「ふーん。じゃあ私たちも私たちで遊んじゃおっか」

「夕弥は大丈夫? 春斗とか霞とかと一緒の方がいいんじゃない?」

「光莉さんがいればあとは誰でもいいですよ」

「……私は?」

「里沙はどうせ誰と一緒でもついてくんだろ」

 

 拗ねた様子で俺を睨みつけてくる里沙に返すと、光莉さんと薫さんがため息を吐いた。あの、光莉さんはともかく薫さんが今ため息吐くとぞくっとするからやめてくれません?

 

「夕弥。そういうのはちゃんと最初に言わなきゃ愛想つかされちゃうよ?」

「もっと言うと恭弥みたいになるわよ」

「ごめん里沙。ずっと一緒にいてくれ」

「極端すぎない? いゃ……いいけど」

 

 いやだけどって言おうとして、光莉さんの前だから急ハンドル切ったな。いつもならキモいとも言ってくるのに、今はもじもじしながら視線を逸らして頬を染める強烈コンボ付きだ。乙女の反応として100点過ぎて、将来詐欺師にならないか心配になってくる。薫さんも「あれ?」って首傾げてるし。あの、勘違いしないでよねっ! 里沙は俺のこと好きじゃないんだからっ!

 

 俺の気持ち悪さが伝わったのか、それとも俺から父さんと同じ空気を感じ取ったのか、薫さんが「夕弥、やめて」と言ってきた。俺目に見えるところでは何もしてないのに流石だぜ。

 

「さ、どこに行く?」

「光莉さん。ここ式場もあるみたいですよ」

「私、仲良くしてた友だちがみんな先を越していく姿見てるから、式場トラウマなのよね」

「俺がそのトラウマ、幸せに塗り替えてあげますよ」

「夕弥。そんな妄言はいいから遊ぼ」

「薫さん。おたくの娘さんの教育はどうなってるんですか?」

「ちゃんと育ってると思うよ」

 

 どうやら薫さんも俺のさっきの発言を妄言と捉えたらしい。俺は泣いた。

 

 まぁ流石にもうちょっと段階を踏まないと結婚は早いか。そう納得して、ここに来た時にダウンロードした地図を見る。ひょっこり顔を出して地図を覗き込んでくる薫さんと一緒に……つかまだくっついてたのかこの人。もはや違和感なさすぎて忘れてたわ。

 

「ほんとに色々あるね」

「あ、私にも見せて」

「じゃあ私も」

「光莉さんは私の隣にきてください。うっかり夕弥が妊娠させちゃうかもしれないんで」

「これがちゃんと育ってる娘さんの言うことですか?」

「うん」

 

 どうやら薫さんも俺がうっかり光莉さんを妊娠させると思っているらしい。俺は再び泣いた。

 

 全員に見えるようスマホを横に向けて、敷地内の地図を見る。敷地内にはプールやゴルフ場、ボウリング場に乗馬もあるようで、動物とのふれあいコーナーもあるらしい。里沙が目を輝かせてふれあいコーナーのアイコンをタップすると、『愛しいベイビーちゃんたちと触れあれる憩いの場』というタイトルとともに、犬や猫、うさぎの写真が表示された。ちょくちょく思うけどクセ強いなここ。

 

「里沙。ここに行きたいの?」

「うん! うち、お父さんが襲われるからペット飼えないし」

「あ、ちゃんと育てられないでしょ! とかそういんじゃねぇんだ」

「飼う前からヒエラルキーでペットの下に行く人間っているのね」

「でも本人がペットみたいなものだから」

 

 薫さんのとんでもない発言は聞かないことにした。なぜなら里沙が気まずそうな顔をしていたから。多分、その、まぁなんだ。そういうことだろう。

 

 

 

 

 

 薫さんが「じゃあ手つなごっか」と言って俺の手を握り、「じゃあ私も」と言って光莉さんが里沙の手を握り、存分に子ども扱いされながら向かったふれあいコーナーの入り口で。

 

「ええもん。期待するだけアホやってことやん」

「あの、春乃さん。気にしないでください。躾が行き届いていただけですから」

 

 三角座りしてしょげている春乃さんと、春乃さんを慰めている霞がいた。先生でもあり友だちの母親でもある春乃さんのあんな姿を見るのは気まずいどころの騒ぎじゃないから目を逸らしたくなるが、霞に気づかれて「助けてくれ」とジェスチャーで伝えられる。

 

「……どうしたんだ?」

「聞いてくれ。恭弥さんが始まった瞬間秒で捕まって、荒んだ心を癒そうとここにきたら、春乃さんが動物みんなをうっかり服従させちゃったんだ」

 

 仕方なく話しかけるとなんとも可哀そうな出来事を聞かされてしまった。なんだ? 父さんの年代は動物に対して何かしら特性持ってないと気が済まないのか? そういえば父さんから「春乃を前にした動物は服従するんだぞ。特に犬」って聞かされてたけど、マジだとは思わなかった。

 

「あのねぇ春乃。あんたいっつもわんちゃん服従させるんだから、やめておきなさいって言ってるでしょ?」

「だって! なんかいけるかなって思ってん! せやのに今日こそはって思って入ってみたら一斉に服従するし、恭弥くんと恭華が入ったら一斉に懐かれるし!」

「あいつらは感性が獣だから仲間だと思われてるのよ」

「そっちのが嬉しいやん……あとわんちゃんって言うのかわええな……」

「仮にも慰めてる相手を煽ってんじゃないわよ」

 

 それは光莉さんが可愛いから仕方ない。春乃さんは悪くない。

 

 にしてもそうか。父さんと恭華さんがいないなって思ったらまた懐かれてるのか。あの双子は警戒心抜群の野良猫にも一瞬で懐かれるし、ふれあいコーナーに行こうものなら一瞬で動物に埋め尽くされる。多分中に入ったらもふもふの山が二つ出来上がっていることだろう。

 

「私のことはほっといてええから、行ってきてええよ。霞もごめんな」

「……悪い夕弥。恭弥さんと恭華さん連れてきてくれ。これじゃあまりにも春乃さんがかわいそうだ」

「任せろ」

 

 こっちには薫さんがいるんだ。きっと可愛い妹の頼みならすぐに聞いてくれるだろう。まったく、春乃さんがこんなにも可哀そうだってのにあの2人は何やってんだ?

 

 憤りながらふれあいコーナーと書かれた扉を開けて中に入る。様々な動物がいるようだがやはり人気なのは犬、猫、うさぎといったペットとして身近な動物。動物ごとに柵で区切られており、一つ一つ見て回って探すのは苦労しそうだなと思った矢先、もふもふの山が二つ見えた。

 

「多分あそこだね」

「よかったな里沙。大量に触れ合えるぞ」

「あぁいうのじゃないんだけど……」

 

 よく見ればもふもふの山の一番下には父さんと恭華さんがいて、「ヘルプ! ヘルプ!」と叫んでいる。ただあまりにも一体化しすぎて「ねぇみて! ヘルプ! って鳴いてるわんちゃんいるよ!」と子どもが喜ぶ始末だ。いや、そうはならねぇだろ。

 

 逃げ出さないように二重になっている扉を開けて、もふもふの山に近づく。春乃さんなら既に服従させているであろう距離まで近づくと、山の下にいるアホどもが俺たちを見た。

 

「お、どうだった? クリアできたか?」

「その状態でよく普通に会話しようと思ったな。クリアしたよ」

「やるな、流石私の甥と妹と姪と親友。恭弥はすぐに捕まったっていうのに」

「あぁ!? 最初に100が出たらもう終わりだろうが! 俺は悪くねぇよ調整ミスだ調整ミス!」

「俺98だったぞ」

「俺の息子ともあろうものが2の違いもわかんねぇのか? 100円のものを98円で買えんのか? 買えねぇだろうが!」

「夕弥。夕弥はこんなみっともない大人にならないでね」

 

 里沙の一言が父さんに刺さり、父さんは死んだ。

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