ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

14 / 19
第14話 そして解を導いた

「今考えたら、俺日葵さんに言わせたいセリフとかないんやけど」

「俺も里沙に言わせたいセリフないな……」

「あ、そうなんだ。僕は朝日さんの自尊心を粉々にしようと思ってたんだけど」

「恐ろしいにもほどがあんだろ」

 

 先攻、男。メニューを決めた俺たちは席を立ち、ぶらぶらと店を眺めていた。スマホでメニューを見て決めてから来てもよかったが、実際に目で見るのと違うかもしれないし。あとなんか、目の前で当てようと必死になってメニューとにらめっこするのが普通に恥ずかしかったのもある。

 

「んー、じゃあさ。男はもし当てれたとしたら『大好き』って言ってもらうことにしね?」

「じゃあ僕は朝日さんからで」

「俺は里沙からで」

「俺は日葵さんからで」

「俺は薫ちゃんから!」

 

 間違いなく死人が出る。それにそれって光莉さんの目の前で里沙に「俺に向かって大好きって言え」って言わなきゃいけないってことだろ? 終わってんだろ。その後一日里沙の顔も光莉さんの顔も見れる気しねぇしその場に母さんもいるから四面楚歌どころの騒ぎじゃなくなる。

 

「まぁさすがにやめときません?」

「もう送った! すまん!」

「俺絶対当てへんようにせなあかんやん……」

 

 蓮さんの独断により春斗の顔色が変わる。春斗の相手は母さんだから、もし『大好き』なんて言われようもんなら父さんと光莉さんに殺される。……面白そうだから母さんが好きなものを「あれ嫌いって言ってたぜ」って嘘教えようかな。

 その点で言えば俺は安心だ。里沙の好きなものならわかるし、それを持っていかなければ大好きって言われる心配もない。適当にコッペパンとか持って行きゃいいだろ。

 

「夕弥?」

 

 コッペパンを買おうと店へ行こうとした俺の肩に手を置いたのは、にこにこ笑顔を浮かべている千里さん。何か粗相をしたかと首を傾げるが、何も心当たりはない。

 

「君は里沙から大好きって言ってもらいたくないの?」

「……」

「あんなに可愛くていい子で優しい女の子から大好きって言ってもらえるなんて、男からしたら勲章ものだと思わない?」

 

 なるほど。俺が里沙の好物を当てられるにも関わらず、コッペパンを買おうとしてたから怒ってるのか。世の中には娘に手を出すやつはぶっ殺すとかいう物騒な父親もいるけど、千里さんは別ベクトルでめんどくさい父親だったらしい。

 

「いや、そりゃそうですけど」

「里沙に色目つかってんのか!!」

「どうしてほしいんだよあんた」

 

 何? 里沙から大好きって言ってもらいたくないみたいなのはムカつくけど、それはそれとして色目使われるのもムカつくってか? クソめんどくせぇなこの人。薫さん結婚相手間違えたんじゃねぇか? 今のところ大正解なのって里沙が生まれたことくらいだろ。

 ただ俺は理解のある男。娘を持っている父親なんてこんなものだと思っている。父さんも「もし娘が生まれていたら俺は化け物になっていた」って言ってたくらいだし。もうとっくに化け物だけど。

 

「まぁ冗談だけどね。夕弥は朝日さんのことが好きなんでしょ? だったら里沙から大好きって言われるわけにはいかないよね」

「千里さんっていきなり理解のある大人みたいな言動しますけど、多分さっき言ってたことも本心だろうから一番信用ならないんですよね」

「そういうことを正面切っていってくるのは流石恭弥の息子って感じだね。興奮してきた」

「できれば二度と俺に話しかけないでもらえますか?」

 

 父さんと千里さんはかなり仲がいい。恥ずかしげもなく親友だってお互い言うくらいだし、一か月に数回は時間を見つけて遊ぶくらいには。もう一緒に住めばいいだろって思うけど、その場合里沙も一緒の家に住むことになるからそれは流石に……何が問題なんだ? 別に妹みたいなもんだし、何の問題もないか。

 

「でも、コッペパンはやめてあげて。夕弥なら好きだけど一番食べたいかって言われるとそうじゃないもの、持っていけるでしょ?」

「そんな以心伝心みたいなマネできると思います?」

「恭弥の息子と僕の娘なんだから、できるでしょ」

「キッショ」

 

 素直な感想を口にすると「根絶やしにしてやろうか、クソガキ」と凄まれてしまったので走って逃げた。

 

 

 

 

 

「にしても、よくチョコフォンデュなんてものをお昼に食べようなんて思えるわね」

「あはは……その、好きっていうのもあるんですけど、自分でやってこなきゃいけないから夕弥ならめんどくさがるだろうなって思いまして」

 

 その考えは正しかったんだと小さくガッツポーズ。当てられて何か言わされるのが嫌だったからそうしたんだけど、蓮さんから『男が当てたら女の子には『大好き』って言ってもらいます!!』って連絡がきたときは心臓が止まるかと思った。本当に当てられないようにしてよかった。

 あとまぁ、本当にチョコフォンデュみたいな楽しいものが好きっていうのもある。あとで個人的にやりにいきたい。

 

「でも、蓮のやつも先に言ってくれたらよかったのにね。そしたら里沙は当ててもらえるようにしたでしょうに」

「ひ、光莉さん!」

 

 え? と首を傾げる光莉さん。乙女度が高いおばさんと察しがいいお母さんはすぐに光莉さんが言ったことの意味に気が付いて、私にとっては嫌な笑みを浮かべている。

 

「へー、そうだったんだ。お母さんにも一言くらい言ってくれたらよかったのに」

「里沙ちゃんが夕弥をねー! ふふ、里沙ちゃんがお嫁さんになってくれるなら安心だなぁ」

「あら、まだ言ってなかったの?」

「だってその、恥ずかしいですし」

 

 咄嗟に言い訳するとひとまず納得してくれたようで、「そ、ごめんなさい」と謝罪してくれた。危ない。そうか、そうだよね。光莉さんに言ってるなら別におばさんとお母さんに言っててもおかしくない。危なかった。バレるところだった。

 

「あ、それじゃあ夕弥が何を持ってきたとしても正解だってことにする?」

「そ、それはだめです! なんかずるっていうか」

「里沙。恋にズルもなにもないんだよ」

「閃いた!」

「日葵ねーさんを押し倒して手籠めにしようとするのはやめてね、光莉さん」

 

 『恋にズルもなにもない』を捻じ曲げて解釈した光莉さんはしかし、お母さんに注意されてしゅんと項垂れる。光莉さん、いい人で面白くて可愛くて素敵な人だっていうのはわかるんだけど、どうしてもこういうところが目立って見えてしまう。私とか夕弥とか、子どもと一緒にいるときは比較的まともなのに、大人で集まるとどうしてこうなっちゃうんだろう。

 

「あ、きたみたいだよ! 夕弥だけだけど……何も持ってない?」

 

 おばさんが見ている方に目を向けると、確かに夕弥だけがこっちに向かって歩いてきていた。その手には何も持っていなくて、番号札みたいなのもないから何かを頼んできたっていうわけでもなさそう。

 もしかして、「え、俺を食べたいんじゃねぇの?」って言って大幅に外しに来たのかもしれない。何か食べ物を選んだら当たる可能性が少しでもあるから。それなら流石にお母さんたちも「正解」だって言えないだろうし、もしそうだったとしたら夕弥は超ファインプレーだ。

 

「夕弥、どうしたの?」

 

 声の届く距離まで近づいてきた夕弥に声をかけると、夕弥は私と目を合わせてどこかへ向かって指をさす。

 

「チョコフォンデュあったからやろうと思ったんだけど、里沙は自分でやりたいかと思ってな。行くか?」

「……」

「ふふ。いってらっしゃい! 里沙ちゃん!」

「恭弥の息子であり恭弥の息子ではないわね」

「よかった……段々氷室家の血が薄まってるみたいで」

 

 本当に、本当にちょっとだけきゅんとした。

 

 

 

 

 

 ふっ、俺の作戦は完璧だ。隣を歩く里沙を横目で見て、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 メニューを選ぶ中で考えたのは、外しに行ったとしても安全じゃないってことだ。里沙も外してほしくて一番食べたいもの以外を選んでるかもしれないし、かといってルール的には好きなものを選ばなきゃいけないから、他の人から見て「あれ、そんなの好きだったっけ?」って違和感を持たれないようなものを選ばなきゃいけない。だとすると、当ててしまう可能性はぐんと跳ね上がる。

 それならいっそ、当ててしまってもいいから里沙を席から遠ざけさせて、もし当たっていたとしても「二人の時に言ってもらいましたよ」って言ってお茶を濁すのが一番いいと導き出した。俺が天才すぎて光莉さんが惚れてくれる気配までしている。

 

「春斗のためにも、こんなことやってるってのは父さんに知られないようにしないとな」

「おじさんが知ったら、たとえ春斗が正解してなくてもおばさんとペアを組んだっていう事実だけで殺しにかかってきそうだしね」

 

 春斗は一瞬「まぁゲームやし、せっかくやから勝ちに行こか」って言って父さんに母さんの好きなものを聞こうとズルをしようとした瞬間、「あっぶな! 死ぬとこやった!」ってスマホを投げてたし。その後「なんとしてでも負けなあかん」って決意を固めてたし。本当に危ないところだった。あいつこのゲームで勝つと光莉さんも待ってるからな。

 

「あ、そういえば夕弥」

「なんだ?」

「私が夕弥のこと好きってこと、おばさんとお母さんにバレちゃった」

「何してくれてんの?」

「ひ、光莉さんだから! ばらしたの!」

「薫さんはまだしも、母さんポンコツなんだぞ……? 瞬く間に広まっていく未来しか見えねぇよ……」

 

 あと多分俺に悟られまいと様子おかしくなるし。もしかして俺たち取返しのつかないことしてねぇか?

 

「そう考えたらこうやってわざわざ二人で席を立ってるのってかなりマズいことなんじゃねぇか?」

「ちょ、チョコフォンデュやりにいってるだけだから! そ、それにその、ほら。二人きりなら、みんなに見られてないなら恥ずかしくないし」

「なにが?」

 

 里沙が一歩俺に近づいて、背伸びして耳元でぼそっと囁いた。

 

「大好き」

 

 言ってすぐに少し離れて、顔を赤くしてもじもじしながら「ちょ、チョコフォンデュがね?」と付け足す里沙に、一言。

 

「……いや、席から離れてんだから言ったことにすりゃよかっただろ」

「……」

「……」

「……」

「……ごめん」

「……うん」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。