ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

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第15話 そして裸で付き合った

「日葵と風呂に入ることを想像したらめちゃくちゃ勃起したわ」

「息子と風呂に入りながら言うセリフか?」

 

 アルストロメリア、大浴場。家族風呂があるみたいだけど、父さんがこんな感じだから却下された。あと俺も光莉さんと入るってなるとこんな感じになるだろうから自らやめておいた。光莉さんと二人きりなら全然問題ないのに、他有象無象どもが邪魔すぎて話にならない。

 

「日葵はすごいんだぞ? 特にあの」

 

 息子の目の前で母親のすごいところを語ろうとした父さんの頭を掴み、湯船に叩きつけてその場から離れる。「せっかくだから久しぶりに息子と入りたいわん! へっへっへっ」とクソ汚い犬のフリをしながらの懇願があまりにも見てられなかったから一緒に入ってやったけど、もう息子としての義務は十分に果たしただろう。ていうかあんな姿を見せられてまだ息子でいてやっていることに感謝してほしい。

 あんな化け物は放っておいて、春斗と霞を探す。千里さんは「子どもは子ども同士の方がいーじゃんね!」と流石の気遣いを見せた蓮さんに連れていかれたから、あの二人は一緒にいるはずだ。どうせならあの化け物から俺を救い出してほしかったのに、薄情すぎないか?

 

 小さい頃から一緒にいた親友たちの薄情さに憤りつつ大浴場をふらふらしていると、二人の姿を見つけた。何やら荘厳な扉の前で立ち止まって何かを話している……待て、なんで大浴場に荘厳な扉があるんだ?

 

「何してんだ?」

「お、バケモンから逃げてきたん?」

「春斗。いくら事実だからって友だちの親に対してバケモンはないだろう」

 

 どうやら春斗と霞からしても父さんは化け物に映っていたらしい。安心した。俺が間違っているわけじゃなかったんだ。

 

 俺の父さんが化け物だということを改めて認識したところで、二人は俺から扉がよく見えるように移動する。その扉に書かれていたのは、『イケない混浴』という文字。説明も何もなく、それだけが書かれていた。

 

「なんだこれ」

「父さんが言うには、この扉の先に水着があって、それを着ると混浴できるらしい」

「屈強なオカマさんが見張ってるから悪いこともできんようになってる言うてたわ」

「屈強なオカマに見張られてる混浴……?」

 

 ちゃんと施設だからそういうことはないと思いつつも、少し恐怖を感じる。どうせ混浴に行けばチャラい男が数少ない女の子を囲んでるだろうし、女の子がいなければ今か今かと獲物を待ち受けているクソ汚い男がいるだけだ。

 

「もしかして入ろうとしてたのか?」

「やー、ちょっと気になってもうてな」

「なにが」

「考えてみろよ。多分こういうところには入らないだろうけど、もし里沙がここに入ってたとしたら、すぐに悪い男の餌食になる」

「……!!」

 

 そうか、なんで想像できなかったんだ。確かに、その可能性はある。

 

 荘厳な扉に手をかけて、二人の方へ振り向いた。ふっ、どいつもこいつも男の目をしてやがるぜ。

 

「光莉さんが俺に会いたくて入ってる可能性が、ここにはある!!」

「話聞いとった?」

「夕弥にあまり酷なことを求めるなよ」

 

 なぜか呆れ気味な二人の声を背に、近くにある水着をひっつかんで一秒で着替え、『イケないコね』と書かれている、普段なら触れたくもないような荘厳な扉を開けた。

 

 そこに広がっていたのは、死体の山だった。正確には息はあるけど、白目をむいた海パン一丁の男たちが山になっているその光景は死体の山と言うほかない。

 その山を作り上げたであろう人物は、俺たちに気が付くと血にまみれた手を親し気に振って出迎えてくれた。

 

「なーに? こんなところに入ってきて、いっつも私に好き好きって言うけど、他の女の子のこと気になっちゃった?」

「光莉さん! やっぱり俺に会いに来てくれたんですね! つか大丈夫ですかなんですかこの男ども! もしかして光莉さんに声をかけてきたとか、クソッ、くるのが遅れてすんません! おい春斗、霞! この性犯罪者どもの写真を撮って出会い系サイトに『おじさんが大好きです』って一文添えて登録するから手ぇ貸せ! あっ、あと光莉さん! 水着姿めちゃくちゃ可愛いです! 好きです!」

「うるさい」

 

 俺の愛に対して返された光莉さんの言葉は四文字だった。そんなつれないところも可愛らしくて好きだぜ。「なーに?」もお姉さんっぽくて非常によかったし、この場に春斗と霞がいなかったら体を震わせながら弓のようにしなって、天へと昇る心地に抗えずどうにかなってしまっていた。こんなに俺の心を惑わせて、光莉さんは本当に罪な女だぜ。

 

「光莉さん。なんでこんなとこおるんですか?」」

「日葵がね。『恭弥がいるかも、しれないから……一緒にきてくれる?』っていじらしく頼んできてくれたから。ちなみに里沙も来てるわよ」

 

 多分母さんと光莉さんを二人きりにしたら万が一のことがあるといけないからだろう。万が一っていうのは二人が男にどうこうされるっていうわけじゃなくて、光莉さんが母さんにどうこうするっていう方の心配。その点で言えば里沙はその場にいるだけで光莉さんが自重するようになるしかなり適任だ。

 

「その二人はどこに?」

「里沙が男に声かけられたから避難させてるわ」

「は? 里沙何にもされてないですよね?」

「私を誰だと思ってんのよ。男が声をかけた瞬間ぶっ殺したわ」

「もうちょっと待ってもよくないですか……?」

「何言ってんだ霞。里沙くらい可愛い女の子が混浴にいて、それに話しかける男に下心以外があると思うか? こればっかりは光莉さんが正しい」

 

 そもそも混浴にくる男は下心しか持ってないんだから。クソ、うちの年がら年中父さんに恋をしてる母さんのせいで光莉さんに余計な拳を震わせて、里沙を危険な目に遭わせちまった。あの人もう歳なんじゃねぇか? 元からポンコツだったけど、日々常識とか判断力とか失われていってる気がすんだけど。あと光莉さんのおっぱいが大きいんすけど。

 

「そんなこといいから、他のカスどもに声かけられる前に二人を迎えに行くわよ」

「はい! あの、その……手、つないでもいいですか?」

「嫌よ。あんた興奮するでしょ」

「俺の下半身を見ても同じことが言えますか!!?」

「見たから言ってんの」

「霞。光莉さんは見たらしい」

「僕に話しかけるな」

 

 なぜか霞に嫌われてしまったようで、霞は爆笑する春斗の陰に隠れてしまった。ははーん? さては光莉さんが魅力的すぎて、『俺を嫌い』ってことにして光莉さんから距離をとったな? この思春期め!

 

「夕弥夕弥。そのまんまで日葵さんと里沙のとこ行くん?」

「やっべ。気まずいどころの騒ぎじゃねぇ」

「なんか嫌なものでも思い浮かべろ」

 

 嫌なもの嫌なもの……いや、面白いものにしよう。直近で見た嫌なものが嫌なもの過ぎて思い出したくもない。

 面白いもの……今から里沙に会うってなって、小さい頃からずっと一緒にいたのにも関わらず、明らかな異性を感じてるからめちゃくちゃ恥ずかしくなってる霞。だっひゃっひゃっひゃ!!!

 

「よし、ありがとう霞」

「僕が嫌なものってこと!!?」

「あ、違う。家族みてぇな異性にすらどぎまぎしてんのが滑稽で面白くて。だからありがとう」

「舐めてんのかこいつ……」

「いいじゃないそれくらい。むしろそうやって身近な男の子に恥ずかしがってもらえる方が、女の子としては嬉しいもんよ」

「あ、あのぅ、光莉さん……俺、恥ずかしいですぅ」

「生き様がやろ?」

「テメェ!!」

 

 俺の100点満点の光莉さんに対するアプローチに余計な一言を挟んできた春斗と大乱闘。しようとしたところで、「ここお風呂場よ。暴れんのはやめなさい」という光莉さんの声に冷静になって振り上げた拳を下ろした。「あれ? さっき光莉さん男の人たちを」なんて余計なことを言いそうになった霞の口を塞いでおくことも忘れない。光莉さんのあれは必要なことで、俺たちの喧嘩は必要ないことだ。わかったな?

 

 そうして暴れながら歩いていると、開けた場所にでた。テニスコート六面分くらいはある広さのお風呂で、正常そうな男女が各々お湯を楽しんでいる。よかった。光莉さんが手を下さずに済みそうだ。

 二人は男に話しかけられることもなく、仲良く談笑している。近くでオカマさんたちが目を光らせているのは勘違いじゃなければ護衛だろう。俺たちが近づくと一瞬睨んでから、優しい微笑みを浮かべてその場から去っていった。カッケェな普通に。

 

「日葵! 里沙! 大丈夫だった? 男に変なことされてない?」

「大丈夫! ありがとね、光莉」

「光莉さんも相手に怪我させすぎてませんか?」

「あいつ、心配するのが相手なあたり性根を疑うよな」

「ナチュラルに失礼やんな、里沙」

「は、春斗っ! 僕は目を閉じるから手を引いてくれ!」

 

 初めは光莉さんのことをずっと心配していたからか光莉さんのことしか見えていなかったみたいだが、俺と春斗が里沙に低評価を与え、霞が目を閉じていつも通り初心ムーブをかましたことで俺たちに気づいたのか、母さんが俺たちに手を振って里沙が目を丸くしてから母さんの背中に隠れた。

 

「夕弥! 春斗くんに霞くんも!」

「どうも! 里沙はどうしたん? なんで隠れたん?」

「な、なんか恥ずかしい」

「お前まで俺の生き様が恥ずかしいって言うのか!?」

「なんの話!?」

 

 違ったか。まぁ俺の生き様に恥ずかしいところなんてないから間違いだろうとは思ってたけどな。

 しかし今更水着姿程度で恥ずかしがること……霞は例外として。恥ずかしがることないと思うんだけどなぁ。……いや、えっと、俺個人的にはなんとなく恥ずかしくなる原因はあるけども。なんか母さんは俺と里沙交互に見てにやにやしてるし。わかりやすすぎだろあんた。子どもの恋路はもっと隠れて応援するもんなんじゃねぇの?

 

 母さんのポンコツは今に始まったことじゃないから置いといて、せっかく会ったのに隠れられるとちょっと寂しい。ここはなんともないからって安心させておかないとな。

 

「別に、里沙の水着姿見たところで今更なんとも思わねぇよ。肌が綺麗とかスタイルいいとかやっぱり可愛いとかその程度だ。なぁ春斗。俺ものすごい勢いでとんでもない暴露しなかったか?」

「事実やしええんちゃう? 声に出すのはキモいけど」

 

 なぜか思惑と違うことを口走ってしまったが、これでも大丈夫だろう。里沙なら顔を青くしながら「キモ……」と言っていつもの調子を取り戻すはずだ。せっかくの風呂で気分を悪くさせて申し訳ない。でも元を返せば里沙が恥ずかしがるのが悪いんだから、これは自業自得だ。

 

「……?」

 

 って思っていたのに、里沙が中々出てこない。どころか、母さんの背中に一層縮こまって姿を隠す。

 

「あんた、やっぱり恭弥の息子ね」

「何かよくわかりませんけど、不名誉だっていうことはわかります」

 

 どこか呆れている光莉さんに答えながら、里沙を見る。

 

 母さんの背中に隠れているからよく見えないけど、ちらっと見えた耳は赤くなっているように見えた。

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