ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

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第18話 そしてジャブを放った

 放課後、便利部部室。こんな部活に毎日依頼が舞い込んでくるわけもなく、「中間試験が迫っていますわー!!」と大騒ぎする麒麟寺さんの勉強を見るのが日課となり始めた頃。

 里沙以外の四人が先に部室へ集合し、後から疲れた表情の里沙が部室にやってくるのも見慣れた光景になっていた。

 

「やっと解放された……」

「お疲れ様ですわ。春斗さん」

「ほい紅茶」

「ありがと」

 

 なぜかできる執事の動きが板についている春斗から紅茶を出され、俺の隣に座りながら一口。一息ついて落ち着いたように見えるが、やはりその表情には疲れが見えた。

 

「なんで女の子って恋バナ好きなのかな……」

「そりゃ女の子である里沙が一番理解できるだろ」

「わたくしも女の子ですわよ?」

「一般的なっていう枕詞つけられる自信あります?」

「わたくしはお嬢様ですわー!」

 

 里沙が精神的に疲弊している理由。それは、『ゴールデンウィーク中俺と何かあったんじゃないか』と女の子に質問攻めされているからだ。

 そりゃ家族みたいなもんだから旅行には行くし、旅行に行っていない間もふらっとお互いの家に行って時間を潰すこともある。旅行中一緒にお風呂に入ったのはまぁその、あれだとして、そういう家族的な交流も『里沙は俺と付き合っている』と思っている女の子たちからすれば、『家族的な交流の中にあった二人だけの大切な時間』を知りたい、っていう風になるらしい。んな場面一ミリもなかったけどな。

 

「夕弥、もういいんじゃないか? 里沙に捨てられたって言えば」

「俺は変な目で見られてもいいけどよ、それやったら里沙がいとこと付き合って別れた女の子っていう風に見られるだろ? んなことしたら俺が父さんに殺されんだろうが何回言ったらわかんだよ愚図」

「こんなすぐ暴言飛ばすようなやつが、まだ里沙と付き合ってるって信じられてんのがおかしいと思うんやけど」

「あら、夕弥さんは素敵な男性だと思いますわよ? 誰彼構わず暴言を飛ばすようなお方ではございませんでしょうし」

 

 まぁあなたにドMだ留年だなんだって平気で言ってますけどね。気にしてないならいいんです。

 

 ただ確かに春斗の言うことも一理ある。俺は入学して間もないのにやばいやつだって認識されるくらいだったのに、今じゃ全然そんなことも……なくはないが、少なくとも前より避けられることはない。そう考えると、里沙の『俺のいいところアピール』がものすごい効果を発揮してるってことになるけど、それはそれであんまり考えたくもない。

 

「でも悪いことちゃうやろ? 男避けになってんのも事実やろし」

「それはそうだけど、そういう会話になる度に夕弥のことが好きだってフリしないといけないから、いい加減ゲボ出ちゃう」

「里沙も大概ひでぇから帳尻取れてんだろ、俺たち」

「夕弥以外には言わないだろ」

「すなわち愛ということですわね!」

「違いますから」

 

 違うこともねぇと思うけどなぁ。『この人にはこれを言っても大丈夫』って言うのは信頼っていう名の愛だろ。里沙が違うって言いたくなる理由もわかるけど、そうはっきりと否定されるとへこむように見せかけてまったく気にならない。そもそも光莉さん以外眼中にない。そして光莉さんの眼中に俺はいない。ぐすん。

 

「しかし、里沙さんが毎日夕弥さんとのことを聞かれて疲弊しているのも事実。これを解決できる手がありましてよ。ずばり! 女の子たちの欲を満たしてあげればいいんですの!」

「女の子たちの欲?」

「そう。里沙さんと夕弥さんのことが聞きたい! となっているのは、お二人について『付き合っている』という情報を知っているのみで、『どこまで行っているのか』『普段どんなことをしているのか』が不透明だからだと考えられますわ」

「……確かに、私いつも歯切れ悪い答えばっかしちゃってます」

「そらゲボ出そうやったらそうなるわな」

 

 里沙と俺は付き合ってるっていうことになっている。そしていとこだってこともバレている。だからこそどこまで行ってるのか知りたいっていうのはまぁ理解できる。ただ里沙はさっきも言っていた通り俺のことが好きなフリをするとゲボが出そうになるから、女の子たち満足のいく答えを出せていない。

 

「っていうことは、やっぱり里沙が女の子たちを満足させないといけないってことですか?」

「おい霞。お前らしくもないド下ネタだな」

 

 里沙に無言でビンタされたから、霞に一言「ごめん」と謝っておいた。なんだよ、ちょっとした冗談じゃん。何? 霞相手だからダメ? 過保護すぎだろお前。もう霞も16になる歳っつーか俺たちと同い年だからいいだろ。霞がそういうの苦手って知ってるでしょ? でもこいつ、そのくせ俺と春斗が猥談してたら自分が入れないからって拗ねるんだぜ?

 

「夕弥さん、里沙さん。お二人の世界に入るのはやめてくださいまし」

「麒麟寺さん。変な言い方やめてください」

「それはお嬢様言葉のことですの? それとも二人の世界のこと?」

「お嬢様言葉が変っていう自覚あったんですね……」

「世界広しと言えど、お嬢様でもないのにお嬢様言葉を使う留年女学生は、わたくしくらいですわ!」

 

 あとドMな。

 

「つまり、わたくしが言いたいのは、夕弥さんも責任を負うべきということですわ! お二人が付き合っているとなっている現状、これはお二人の問題なのですから」

「俺が育児をしない夫みたいな言い方するのやめてくれません?」

「うっ」

「おい里沙! 今吐きそうになったらつわりがきたみたいになっちゃうだろ!」

「別にならへんで」

 

 焦った。育児っていうワードの後に里沙が吐きそうになったから『育児をしない夫』がリアルになるところだった。俺は世間の夫は育児をしないっていうイメージを一人で払拭するくらい育児をしたい男なのに。むしろ光莉さんの母性に甘えて俺も育ててほしいとまで思ってるのに。あれ、それだったら別の形で育児に参加してね?

 

 それもまたアリ。

 

「夕弥が責任を負うって、具体的にどうするんです?」

「女の子たちが里沙さんに聞かなくてもいいや、となるくらいお二人が仲睦まじい様子を校内で展開する、というのはいかが?」

「待ってください麒麟寺さん。私、流石に夕弥を殺したくはありません」

「そんなに嫌なわけ? 流石に傷つくぞ俺」

「今まで里沙が夕弥の隣にいてくれたんだぞ。その気持ち考えてみようと思わないのか」

「俺ってそこまで嫌悪感与える人間なのかよ」

「俺は別にそうは思わへんで」

 

 一人味方をしてくれた春斗に投げキッス。負け時と返されたウィンクに頬を赤らめると、「うわ、キショ」という率直な意見を里沙からいただき、とりあえずは春斗と二人で猛省することにした。正しいことは受け入れるタチなんだ、俺たちは。

 

 しかし、学校で里沙と仲睦まじく……つまりいちゃいちゃするのか。俺はそれで里沙の負担が減るなら全然やれるけど、里沙の負担の種類が変わるだけじゃねぇのか? しかもそれって父さんたちにもその様子が伝わるかもしれないってことだし、リスクがでかい気がする。

 

「まぁ、俺もただ見てるわけにはいかねぇってことはわかりました」

「あくまで先ほどのものは解決策の一つとして考えていただければ結構ですわ」

「でも確かに、普通に里沙がまぁ、惚気? みたいなことやってもうたら、次から次へとほしがってきそうやしな」

「そう考えると聞く必要がないって思わせるのはありか」

「あとは俺が頑張るだけ、か」

「あの、私の意見は無視? 嫌なんだけど私」

「里沙」

 

 里沙の肩に手を置いて、正面から見つめる。少し驚いて目を丸くした里沙は、気まずそうに眼を逸らして小さく「なに」と呟いた。

 

「俺を信じろ。やるときはやる男なんだ」

「……別に、信じてないわけじゃないけど」

「決まりですわね! 夕弥さん、あなたに里沙さんの今後がかかっていること、重々ご承知くださいな!」

「任せてください」

 

 

 

 

 

 翌日、昼休み。

 

 最近里沙は友だちと食べることが多く、俺は春斗と一緒に霞を拉致って三人で食べているが、昨日の便利部での会話で決意を固めた俺は、今まさに弁当箱を取り出して友だちと昼飯を食おうとしている里沙の元へと歩いていく。それに気づいた里沙は、一瞬嫌そうな顔をした後、『え、な、いきなりどうしたの? 一緒にお昼食べるっていう話してなかったのに!』と焦る乙女の表情に切り替えた。大女優かよお前は。

 

「里沙」

「どうしたの? 夕弥」

 

 周りから視線を感じる。これから何が起きるのかという期待の色を感じる。別に、今日この一撃で満足させようとは思っていない。そんなきつい一撃を放ったら里沙が気持ち悪すぎて死ぬか俺を殺す。だとすると、今必要なのはジャブだ。想像しろ、『里沙からの惚気があまり聞けず、悶々としている気持ち』を満たせるようなジャブは何か。

 

 ちゃんと頬まで赤くして表情を作っている里沙のそばにしゃがみこんで、懇願するように見上げる。その時点で里沙の完璧な作られた表情が一瞬崩れたのを見なかったことにして、言った。

 

「最近一緒に飯食えてねぇから、今日は二人で食いたいんだけど、いいか?」

「ひっ」

 

 これ以上教室にいるとボロが出るからと急いで里沙の手を取って、教室を出る。これで正解だ。あのままあそこにいると、「あとで色々聞かせてよー!」攻撃が始まる。だから強引に連れていくことで、その攻撃から逃れ、俺の強引さを際立たせる。そうすれば放課後だって俺が連れていくことが可能になる。

 ジャブに加え今後の布石も打つ俺のこの対応は完璧と言えるだろう。

 

「吐きそう……」

 

 俺が気持ち悪すぎて吐きそうになっている里沙の心情を除けば。

 

「大丈夫か里沙」

「誰が言ってんの。……でもありがと。正直、そんなにゆっくりお昼食べられてなかったから」

 

 だろうな、という言葉は飲み込んで、とりあえず便利部の部室を目指す。誰かに見られるところで食べてたら里沙の心が休まらない。その点便利部なら誰かがきたとしても気を遣わなくていいやつだし、むしろ二人きりにならない可能性がある分俺も気が楽だ。

 

「ね、夕弥」

「なんだ?」

「さっきみたいなやり取り、光莉さんとやりたかったりした?」

「は? 里沙以外にやんねぇだろ」

「そっか」

 

 そもそも光莉さんは学生じゃねぇし。あ、これは多分失言。女性に年齢に関する言葉は禁句。

 

 その日は便利部の部室について、そういやここまでずっと手つないでたけどその必要なかったなと二人で笑ってから、二人で飯を食った。マジで薫さん料理上手だなって褒めたら里沙は自分で弁当を作ってるみたいらしかった。超恥ずかしい。

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