ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

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第4話 そしてお嬢様が現れた

「ようこそいらっしゃいまし! 『麒麟寺(きりんじ)朱音(あかね)をお嬢様に育て上げる部』への入部希望ということでよろしくて!!?」

 

 表札の掲げられていない部室のドアを春斗に言われるまま開けると、テーブルの上に仁王立ちしながら意味のわからないことを金髪碧眼の女の子が叫び始めたのでとりあえず閉めて春斗を見た。

 

 爆笑している。

 

「なんだあの珍妙な生き物」

「ダハハ!! な? おもろそうやろ?」

「なんか私たちとてつもなく変な部活の入部希望者だと思われてるけど」

「あ、まだ部やないで。申請通るわけないやろし」

 

 じゃあまだ部活でもなんでもないのに一人で部室を占領して、意味の分からない部を名乗ってるってことか。イカれてんなあの人。

 里沙と目を合わせ頷き合い、部室に背を向ける。あぁいうのと関わるとろくなことがない。ただでさえ俺たちは今全校中の注目の的なのに、あんなのと一緒にいたら確実に悪い噂が立つ。確かに光莉さんと話す話題が増えるって思ったけど、こういうんじゃねぇんだよな。

 

 そんな俺たちに待ったをかけたのが春斗だった。

 

「話だけ聞いたってもええんちゃう? ここで帰ったらあの人悲しむんちゃうかな。せっかく来てくれたのに一回見ただけで帰られるってめっちゃきついで」

「うっ、確かに……」

「驚くほど良心が傷つかない」

「里沙はええ子やなぁ。おい、見習えよカス」

「そこまで言われるようなこと?」

 

 言われっぱなしは趣味じゃないから仕方なくもう一度入ってやることにして、またドアに手をかける。まるで初めて入るかのように「お邪魔します」と言ってからドアを開けると、そこにはテーブルの上に仁王立ちしている金髪碧眼の女の子がいた。

 

「ようこそいらっしゃいまし! 『麒麟寺(きりんじ)朱音(あかね)をお嬢様に育て上げる部』への入部希望ということでよろしくて!!?」

「あの子はNPCか何か?」

「あれがNPCやとしたら明らかな設計ミスやろ」

「どう見てもメインじゃないとおかしいもんね」

 

 人をゲームキャラ扱いするやつはドチクショウだから、里沙と春斗もドチクショウだってことが今証明された。

 

 どうもと頭を下げて、各々名前を告げて自己紹介すると、麒麟寺さんはテーブルから華麗に降りて無駄に豪華な椅子に座り、「お茶でも淹れてくださる?」と一言。

 

「お茶の場所も教えられてねぇのに淹れられるか!! ふざけんな!!」

「指示されたことに対して怒ってるんじゃないんだ……」

「はぁ、使えませんわねこのゴミカス」

「おい、今このお嬢様初対面の相手にゴミカスって言ったか?」

 

 かなり失礼なお嬢様にブチギレながら、いつの間にか春斗が淹れてくれた紅茶を飲んで椅子に座る。なんで春斗お茶の場所わかってんだっていうのとそもそもなんでこの部屋にティーセットがあるんだって言いたいことはいっぱいあるが、前者は春斗だからっていうことで納得し、後者はこの学校だからってことで納得した。

 

「で、なんで俺たちは麒麟寺さんをお嬢様に育てあげなきゃなんねぇんだ?」

「"あげなきゃならない"? むしろこのわたくしをお嬢様に育て上げられることを光栄に思うべきですわ!」

「それはほんまにそう」

「面白そうだからって適当に同意しないで。えっと、麒麟寺さん。そもそもなんでお嬢様になりたいの?」

 

 こんな失礼で意味のわからないやつにお嬢様になりたい理由聞くとかいいやつかよ。俺と同じでいい子に育ったんだな。俺たちをこんなところに連れてきた悪魔とは大違いだぜ。

 

 麒麟寺さんは里沙の質問に対し、春斗の淹れた紅茶を一口飲んで「うますぎでは?」とお嬢様らしからぬ言葉を漏らして慌てたように咳払いした。

 

「なぜか留年してしまいましたので、お嬢様になれば巻き返せると思ったからですわ! 聞くところによるとお嬢様はお金持ちらしいですし!」

「あんたが留年したのは確実にアホだからだろ。つか先輩だったんすね?」

「お嬢様がお金持ちなのは、いいところに生まれたからやで」

「あまり難しいことを言わないでくださいまし」

「どんどん留年した理由が露呈してる……」

 

 そして致命的にお嬢様には向いていない。カップもわしづかみにして飲んでるし。掌で上から覆うように掴むって何? なんかカッコいいんだけど。お嬢様よりお嬢を目指した方がいいんじゃね? あの、ヤのつく感じのやつ。

 

 でも、なんか不思議だな。こんなにおかしい人がいるなら父さんが放っておくわけないと思うんだけどなぁ。あの人、なんかおかしい生徒担当みたいになってるらしいし。

 

「ちなみに顧問の先生とか決まってるん?」

「氷室先生が『人数集めたら承認する』とおっしゃってくださいましたわ!」

 

 担当してたわ。流石父さんだった。

 

「でも確か部活の承認得るのって、5人は必要ですよね?」

 

 ちび、と可愛らしく紅茶を飲んで言った里沙に、麒麟寺さんが「あと一人、悩ましいですわね……」と顎に指を添える。いつの間にか俺たちが数に加えられてんだけど。なんで俺の貴重な青春を光莉さんじゃなくてわけのわかんない部活に捧げなきゃいけないの? 面白そうって言ってたし春斗だけにしてくれよ。今も一緒になって「あと一人だけやったら心当たりあるで」って言ってるし。

 

「同じクラスで、『お前らと一緒にいたら内申がマイナスに振り切れる』って言うてあんまり学校で話してくれへんやけど。ちなみにこの二人の従兄弟」

(かすみ)ぃ? 確かにあいついいやつだから押せばいけそう……じゃねぇよ俺入る気ねぇからな」

 

 井原(いはら)(かすみ)。俺と里沙の従兄弟であり、うちの高校教師である井原(いはら)(れん)さんの息子。今思ったんだけど、この高校に身内が多いのは、この高校がおかしいやつらの集まりだからじゃねぇのかな。

 とは言ってみたものの、霞はおかしいやつではない。うちの遺伝子では珍しい常識人で、イケメンであり恥ずかしがり屋という可愛らしい一面もある。

 

「あら、夕弥はわたくしをお嬢様にしたくないと?」

「どう活動すれば麒麟寺さんをお嬢様にできるんです?」

「わたくしに勉強を教え、いい大学に入れるよう教育を施していただき、勝ち組の人生へのレールを敷いていただきますわ」

「活動内容が真面目だと断りにくくなるからやめてくれませんか」

「でもそれって部活動っていうよりただの勉強会じゃ……」

 

 里沙の言葉に、麒麟寺さんがふっと笑う。まるでその言葉を待っていたとでも言いたげな笑みに、この数分間で既に麒麟寺さんに対して『アホ』の烙印を押している俺たちは、どうせくだらねぇこと言うんだろうなと期待ゼロで待ち受けた。

 

「お嬢様とは位高きもの。つまりすべてを導く立場にあるべきですわ! ですので、皆様方の助けになるような活動をしたいの。いわゆるvolunteerというやつですわ!」

「なんでボランティアの言い方ネイティブなんだよ」

「それなら生徒会とかでいいんじゃないですか? わざわざ部活じゃなくても」

「わたくしみたいなアホに生徒会は無理でしてよ」

「現実見えてへんようで見えてるみたいやな」

 

 よかった。「それいいですわね。でしたらわたくしたちで生徒会を乗っ取りましょう!」なんて言い出さなくて。俺絶対嫌だぞ生徒会。あんな時間削って学校のために動くような意味の分からない団体。内申点とかプラスされそうではあるけど、もうその程度じゃ取返しのつかないくらい内申点マイナス振り切ってる自覚あるし。なにせ入学間もなくして命狙われてんだから。

 ……まぁだからといって部活に入るわけじゃない。あくまで生徒会よりはマシだってだけで、ボランティア活動してるのになぜか悪評が広まりそうな部活は願い下げだ。このまま部活に入ったら学校中に『アホお嬢様(偽)の取り巻きのアホ』だって認識されてしまう。

 

「さて、お返事聞かせてくださる? もちろん入りますわよね!」

「俺はええよー」

「すみません、私は遠慮しておきます……」

「俺も……」

 

 断ろうとしたところで、スマホから着信音。この音楽は……! 高鳴る鼓動を抑えつつ、スマホを取り出してみてみれば『マイスウィートラバー』と表示されていた。

 

「あら、お知り合いにゴムがいらして?」

「アホは黙ってろ。もしもし!」

『もしもし。元気そうね』

「光莉さん! もしかして新婚旅行で行きたいところが決まったんですか!」

『はいはい。それは将来のお嫁さんと考えてね』

「将来のお嫁さんは光莉さんですし、光莉さん『お嫁さん』って言うの少女みたいで可愛いですね」

 

 光莉さんだ! 光莉さんから電話がかかってくるなんてどうしたんだろう? 十中八九俺に愛を伝えたいがためにかけてきたに違いないが、光莉さんは恥ずかしがり屋なところがある。ここは光莉さんから愛を伝えてくれるのを待って、それから俺からも愛を伝えよう。なんだろう、『待て』をされてるみたいで興奮してきたな。

 

『今どこにいるの?』

「学校ですよ。春斗のやつに部室棟の方連れてこられて、今変な部活の勧誘受けてます」

『へぇ。そこって連絡通路渡ってすぐのところ?』

「? そうですけど……」

『懐かしいわね。そこ、私が入ってた文芸部の部室だったのよ』

 

 俺は懐から入部届を取り出し、名前と血印を捺して麒麟寺さんに提出した。

 

「奇遇ですね。ちょうど俺もこの部活に入ろうとしてたんで、やっぱり運命かもしれません」

『そ。で、里沙は一緒にいるの?』

「あぁ、いますよ」

 

 里沙に目配せする。光莉さんは今『里沙は俺のことが好き』だと思っている。つまり俺が部活に入るってことは、里沙も入らなきゃ怪しまれるかもしれない。

 里沙もそれがわかっているのか、はちゃめちゃに嫌そうな顔をして俯いた。少しして顔を上げると、瞳を潤ませ、頬を紅潮させながら俺の制服の裾をちょこんとつまんだ。

 

「ゆ、夕弥が入るなら、私も……だめ?」

 

 演技うまっ。相手が俺じゃなかったら恋に落ちるぞその仕草。ただなんでそんなことしたんだ? 別に見えてねぇからそこまでやらなくていいだろ。見ろ、春斗が面白くて爆笑してるじゃねぇか。

 

『相変わらず仲良さそうね』

「家族みたいなもんですから。それよりいつ俺に愛を伝えてくれるんですか?」

『そんな予定はないし、もう用はないわよ。それじゃ』

 

 え? と呆けた声を出す暇もないまま電話が切れる。用はないって、俺の場所と里沙が一緒にいるかって聞いただけじゃね? 何の用だったんだ?

 

 ! もしかして、俺の声を聞きたかっただけとか? いやぁーかわいい人だ! きっと嫌なことがあって俺の声を聞きたくなったに違いない。は? 光莉さんに嫌な思いさせたやつがこの世に存在してるってのか? ぶっ殺してやる。

 

「夕弥夕弥」

「ん?」

 

 俺が光莉さんに仇なす一切を塵にしようと決意していると、春斗が俺を呼んでスマホを見せてきた。何々?

 

「『夕弥と里沙を部活に入れたいから協力してください……』」

「……春斗?」

「ってわけで麒麟寺さん! あと一人!」

「では先ほどお話に上がりました霞さんを襲撃しにいきますわよ!」

 

 麒麟寺さんと春斗が部室を飛び出し、霞を襲撃しに行く。

 取り残された俺と里沙は目を合わせて、同時にため息を吐いた。

 

「あいつ、許せない……」

「あぁ。勝手に光莉さんと連絡とりやがって……!!」

「そっちじゃない」

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