ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

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第6話 そして勘違いは加速した

 土曜日。俺と里沙は、校区内にある大型デパート『ルミナス』にきていた。父さんが学生の頃からずっとあるルミナスは、やはりというべきか様々な客で賑わいを見せている。

 そんな賑わいの一部であるはずの俺たちは、表情に出さないよう内心に絶望を貼り付けて、二人並んで立っていた。

 

「さぁ、どうしよっか……」

「知らないよ……」

 

 背後から感じる好奇心と期待に濡れた視線は気のせいではないだろう。

 

 俺たちがここにきている理由は、『便利部』に依頼を持ってきた三上さんにある。

 俺と里沙がカップルだと勘違いしている三上さんは、アドバイスをもらうどころかお手本を見せてほしいと俺たちに言ってきた。もちろん麒麟寺さんは「そういうことであれば、我が部の、いえ、日本の、いえ、世界のベストカップルの力をお見せ差し上げますわ!!」と俺たちの意見も聞かず承諾した。それを逃す春斗ではなく、「そういえば、次の土曜ルミナス行くって言うてへんかったっけ?」と俺たちを蜂の巣にし、霞は「里沙に恥かかせるなよ」と良心を見せつけた。

 

 しかし、恋人同士の振る舞いなんて知らない……いや、両親を見てたからなんとなくわかるけど、それを里沙とやろうとも思わない。でも、ここでそういう演技をしないってことは『便利部』の沽券に関わる。俺としては知ったこっちゃないけど、麒麟寺さんは霞を部に引き入れるために里沙を人質にとってたし、あまりにもひどいこと以外は従っておいた方がいい気もする。

 

「ま、せっかくだしぶらぶら見て回ろうぜ。あっ! 今のはブラジャーブラジャーのことをぶらぶらって言ったわけじゃねぇからな!?」

「そっか」

 

 冷たい反応をされてしまった。せっかくなんかちょっと気まずい雰囲気だったから和ませようと思ったのに……。本当に間違われてないか不安だったっていうのもあるけど。

 

 俺と恋人と思われていて、なおかつそれを見られているという状態が気になるのか、少し様子のおかしい里沙を連れて歩く。土曜日だからか俺たちと同じく……厳密にいうと違うけどカップルもそこそこいて、それを見るたびあっちを観察した方がためになるんじゃねぇかと振り向いてみるも、三上さんは俺たちにしか目がいっていないようだった。

 それなら、できるだけ恋人っぽく振舞った方がいいか……。恋人っぽい振る舞い、そういえば、両親はどこか出かけるときに時々別々に家を出ていく。なんでそんなめんどくせぇことすんのかって聞いたら、「待ち合わせ場所で会った時に、綺麗にしてきてくれた日葵を褒めたいからな」とカッコつけていた。

 

 そういえば俺は里沙のこと褒めてないなと思って里沙に視線を向けると、ちょうど目が合った。

 

「なに?」

「里沙。お前は本当にいい体をしてるな」

 

 里沙の顔が青ざめて、家族を見る目から敵を見る目になってしまった。どうやら何か違ったらしい。

 

「え、まさか夕弥、私をそういう風な目で見てたの……?」

「勘違いしてるようだから言わせてもらうけど、『いい体だと思う』ことと『性の対象として見る』ことは直結しないぞ」

「いや、だとしてもそんなこと言われていい気分しないよ。やり直し」

「なんか、仮にもデートしにきてるからか、いつも可愛いけど今日はより可愛いな」

「は? キモ」

「ぶっ飛ばすぞテメェ」

 

 やり直しを要求されてやり直したらこの仕打ち。そりゃ俺も褒め言葉あんまり思いつかなかったけどさ。仕方ねぇだろ。可愛い以外出てこなかったんだから。

 ……ただなんとなく、隣にいる里沙が機嫌よさそうにしてるから不正解ってわけじゃなかったんだろう。ぷぷ。キモとか言って照れ隠しですか。可愛いやつめ。

 

「そうだ。手とか繋いでみる?」

「さっきキモって言ったやつの発言かよそれ」

「別に手を繋ぐくらいどうってことないでしょ。キスとかは死ねって思うけど」

「人の命を何だと思ってんの?」

 

 ん、と手を差し出すと、ん、と手を握ってくる。ちゃっかり恋人繋ぎしてきたのはこいつの根性を褒めるべきか、引きつりそうな表情を注意するべきか。別に「なんで繋がなかったの?」て三上さんに聞かれたら「人が多くてむしろ危ないかと思いまして」って言えばいいだけなのに、頑張るなぁこいつ。

 

「久しぶりに繋いだけど、おっきくなったね」

「おいやめろよ! そんなえっちなこと言うの!」

 

 爪を立てられた。痛い。

 

「ごめんなさいは?」

「里沙より手が大きくなってごめんなさい……」

「そっちじゃなくて」

 

 里沙はため息を吐いてから「まぁいいよ」と言って前を見る。まさか俺の手が里沙の手より大きくなっただけでブチギレるなんて、どうなってんだ教育ってやつは。日本の未来は終わってんな。

 しかし、マジで久しぶりに繋いだけど里沙の手がめちゃくちゃ小さく感じる。可愛い女の子の手って感じだ。俺の手は固いのに、里沙の手は柔らかい。きっと童貞レベル100なら握っただけで昇天することだろう。ちなみに俺のレベルは89だから危ないところだった。

 

 しばらく歩きながらいつも通りの会話を繰り広げている中、店の前、アウトドアショップだろうか。その前に展示されているテント? が目に入った。

 

「里沙。あれってテント?」

「ん? ……テント、じゃないかな? へぇ、透明なテントってあるんだ」

 

 見つけたのは、ドーム型のテント。ただし透明であり、中がスケスケの。ただでさえキャンプはプライバシー守られにくいのに、自らそれをぶち壊しに行く大胆なテント。一瞬簡易ラブホテルかと思った俺はかなり一般的と言っていいだろう。

 

「そういやキャンプってあんまり行ったことないよな」

「だね。次のゴールデンウィーク、キャンプもありかも」

「ちょっと見てみるか」

「うん。行こ」

 

 簡易ラブホテルの横を通って店内に入る。アウトドアショップというよりはキャンプ用品店べきか、キャンプに詳しくなくても「あ、キャンプで使うんだろうな」とわかるくらいわかりやすくキャンプ専門店の装いだ。

 

「もうここでキャンプでいいんじゃね?」

「自然どころか人工物に囲まれてるけど……」

「ちゃんと雨も降るだろ」

「それ多分、バーベキューの煙で火災報知器が反応してるだけだと思う」

 

 ここでキャンプをする案は却下らしい。なんでも使えるし色んなテントを楽しめるしいいと思ったんだけどなぁ。

 

 それより、二人用のテントとかないかな。もちろん光莉さんとの愛の巣ってわけ。自然に囲まれながら二人きりの世界を構築して、そのまま結婚して子どもができるって寸法よ。

 

 里沙が手を離した。そんなに気持ち悪かった?

 

「ね、見てこれ!」

「ん?」

 

 別に俺が気持ち悪かったわけじゃなく、いいものを見つけただけだったらしい。

 

 里沙が手に持っているのは、直径20cmくらいの球体。色は水色で、近くを見ると様々な色のものがある。

 

「そんなにボール好きだったっけ」

「これボールじゃないの! なんだと思う?」

「でっかいうんこ!」

「今日ほど夕弥との血の繋がりを恨んだ日はない」

「そんなに?」

 

 俺としてはルミナスが揺れるくらいの爆笑ワードだったのに、どうやら里沙には刺さらなかったらしい。里沙はため息を吐いてまた一つ幸せを逃し、手に持っているボールの説明を始めた。

 

「これね、中に材料入れて転がすだけで、アイスができるらしいの」

「ってことはフンコロガシってことだから、さっきの俺の回答もあながち間違いじゃないのか」

「あと、思いきり叩きつければ人殺しの道具にもなる」

「俺を冷たくしてどうする。すみませんでした」

 

 謝ったら許してくれた。里沙はボールを眺めながら「ほしい……」と呟き、値段を見てぐぬぬと唸り始めた。値段は1万5千円で、学生には少し手を出しづらい金額。

 仕方ないな。今日はデートだし、俺が一肌脱いでやるか。

 

「里沙」

「え、なに?」

「んなもん買ってしばらくは使うけど、どうせ普通にアイス買って食うのが楽だって気づいて使わなくなんだからやめとけよ」

「血も涙もない……」

 

 いや、わかってるけど……と文句を言いながら棚に戻して、不満がありますと頬を膨らませたまま自然と手を繋いだ。

 

「なんか、ほら、ないの? 否定するだけじゃなくて楽しそうだとか、肯定するようなさ」

「里沙がいればどこでも楽しいからな」

「……ふーん」

 

 里沙はちょろいのでこんな感じのことを言うと機嫌が直る。実際一緒にいると楽しいからずっと一緒にいるわけだし、嘘は言ってないから別にいいだろ。今も上機嫌なのか俺の手をにぎにぎして喜びを表現してるしな。こいつマジで可愛いな。妹みたいに思ってるけど、本当の妹だったらキモいくらいシスコンになってた自信がある。だって、父さんは妹の薫さんいまだに可愛がってるし、母さんも同じだからあの二人の血が流れてる俺は間違いなくそうなっていた。

 

「てか、だから俺里沙のこと好きなのか」

「え?」

「え?」

「え?」

 

 思わず出た言葉に里沙が反応して、俺以外の誰かがそれに反応して、その声があまりにも聞き覚えがありすぎて俺が反応して、振り向いた。

 

 そこには、艶のある黒い髪を肩まで伸ばし、少々釣り目気味な大きい目、笑いすぎたのか目尻にある小皺がとってもチャーミングな、おっぱいの大きいお姉さんがいた。

 

 朝日光莉。俺が好きな人。

 

 状況を整理してみよう。俺たちは恋人繋ぎで、今俺が里沙に対して好きって言って、それを聞かれて見られた。

 

「光莉さん、こんにちは。今日もお綺麗ですね」

「こんにちは」

 

 ひとまず、挨拶は大事。そして褒めることも大事。もしかしたら聞かれてないかもしれないし、自分から墓穴を掘ることはない。相手が触れてこないならこっちから言うべきじゃない。いや、本当にそうか? 光莉さんがもし俺と里沙が付き合い始めたって勘違いしてたら終わりじゃないか?

 

 ……いや、それならこっちから「さっきのは勘違いです」って言った方がいい。最悪は避けなきゃいけない。そう決意して口を開こうとした時、繋いだ手がちょこ、と引かれた。

 

「ね、ねぇ夕弥。今の、ほんと?」

 

 こいつも勘違いしてんじゃねぇか!! 状況わかってんのかテメェ! 今光莉さんは俺と里沙が付き合い始めたって勘違いしてるかもしれねぇんだぞ!! なのになんで「いや、恋愛的な意味じゃねぇんだよ」って否定するのに罪悪感がある聞き方してくんだよ! ちょっと言葉詰まっちゃうだろうが!

 

「私、お邪魔みたいね。またゆっくり話聞かせて」

「あ、違うんです! 光莉さん! 光莉さーん!」

 

 光莉さんは俺と里沙を交互に見てから、小さく微笑んで俺たちに背を向け、そのまま去っていった。すぐに追いかけるべきだとわかっていても、この勘違い女、いや言い方が悪かった。里沙の勘違いを置いていくわけにもいかず。

 

「……とりあえず、飯にすっか」

「う、うん」

 

 えっと、多分ごめん。とようやく先ほどの事態を理解し始めた里沙の頭をぽんぽんと撫でると、「ウザい」と弾かれた。嘘だろお前。

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