ただ、光莉さんと結婚したい   作:酉柄レイム

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第7話 そして新たな問題が舞い込んだ

 どうやら三上さんの参考になったらしく、ほくほく顔でお礼を受けてそのまま見送り、帰り道。

 

「……一瞬でも勘違いしちゃってごめん」

「いや、俺があんなこと言っちゃったのが悪いんだよ。里沙は何も悪くない。俺のママにしてやってもいい」

「なんで?」

 

 俺にもわからない。

 

 あの後、里沙には『家族として』好きだって言ったのは理解してもらった。でも光莉さんはあの場からすぐいなくなっちゃったし、まだ説明できていない。『便利部』の活動で里沙とデートを演じることになって、俺がぽろっと里沙に好きだって言っちゃっただけ、と言えば話は早いけど、少し待ってほしい。

 光莉さんは『里沙が俺のことが好きだ』と思っている。つまり、光莉さんから見れば『自分に好意がある女の子を期待させ突き放したクソ野郎』に映るっていうことだ。

 

「どうする……このままじゃ俺がクソ野郎になっちまう」

「それは大丈夫じゃない? 元々だし」

「俺は父さんの背中を見て育ったんだ! そんなわけあるか!」

「じゃあクソじゃん」

「あ、じゃあクソか」

 

 納得した。だから俺入学間もなくしてクラスメイトから『ゴミ』って罵倒されるのか。なんであんな子育て大失敗男が教師なんてやってるんだ?

 

「光莉さんには私から言っとくよ。『便利部』の活動で、そういう風に見せるために夕弥が言ったって」

「マジでいい女じゃん。結婚してくれ」

「ふふ、いいよ。しよっか?」

 

 え、と呆ける俺に里沙はまた笑う。その頬は赤く染まっていて、「それじゃ!」と何かを誤魔化すように背を向けて走り去っていった。

 

 ……え? うそ、ほんとに? いや、そんなはずない。事実確認だ。このまま連絡を取り合わず明日を迎えたら変に意識しちゃって俺が恥ずかしくなる。

 スマホを取り出し、『おい、今の冗談だよな』と里沙に送ると、『そだよー』と返ってきた。

 

 そだよーじゃねぇよ。

 

「男の純情を弄びやがって……許さねぇ……!!」

 

 ……あれ? この流れ、なんか知ってるような気がする。

 

 まぁ気のせいだろ。きっと。でも一応月曜日は死なないように気を付けようと思う。一応ね?

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……!!」

 

 月曜日。息を切らしながら、俺は部室棟廊下にある掃除用具入れに身を潜めていた。

 

 事の顛末はこうだ。俺と里沙が向かい合っている写真が一面になっていて、俺がプロポーズして里沙が受け入れたっていうニュースが学内サイトに上がっていた。そして俺は里沙の過激派に命を狙われた。クソッ、なんでこの学校は命のやり取りが日常的に行われてんだ!?

 

「いたか!?」

「いや、いない」

「探せ! 必ずやつを性犯罪者の骨格標本にしてやるんだ!!」

 

 どうやらうちの学校にはサイコパスがいるらしい。なんでそんな恐ろしい発想ができるんだ。

 里沙と一緒に登校して、学校に近づいた瞬間背後から気配を感じ、振り向けばどう見ても俺を殺す気しかない目をしている数人の男子生徒。脱兎のごとく逃げ出した俺は、追手からの目線を切りながらこの掃除用具入れに逃げ込んだってわけだ。

 

 なんで俺がこんなみじめな目に……? 今回ばかりは悪いの里沙だろ。流石の父さんと母さんも里沙を叱ってくれるだろ。だって二度目だぞこれ。もしかして確信犯なんじゃねぇのかあいつ。だとしたら許さねぇ。今度会った時「正直お前に性的魅力を感じてる」って言って死ぬほど嫌な気持ちにさせてやる。

 

 俺が里沙への復讐を考えていると、殺伐とした空気に似合わない綺麗な鼻歌が聴こえてきた。その鼻歌の主は俺が隠れている掃除用具入れの前で立ち止まると、ゆっくりとドアを開ける。

 

「すんません」

「えっ、ちょっ」

 

 顔も確認せず腕を掴んで中に引き入れ、また閉めた。そして間髪入れず大声を出されないように口を塞ぐ。すみません、こうしないと俺の居場所がバレるかもしれなかったんです。

 

「……!」

「すみません。俺、命を狙われてるんです」

 

 つかこれ、掃除用具入れ狭いから密着しちゃってますね。本当にすみません。絶対女性ですよね。鼻歌聴いててそう思ったし、女性特有の香りするし、柔らかさとかもモロにそう。俺性犯罪者じゃん。なんで? なんで俺性犯罪者になるか殺害されるかの二択を選ばなきゃならなかったんだよ。

 ……いや、この人が知り合いならワンチャンある。恐る恐る目線を下げ、どうか知り合いであってくれと祈りを捧げながら顔を確認した。

 

「……」

 

 そこには恍惚としている麒麟寺さんがいた。知り合いは知り合いだけど様子がおかしい。なんか小刻みに震えてるし。もしかして呼吸できない? いや、鼻まで塞いでないから大丈夫なはず。それなら閉所恐怖症とか? でもなんか気持ちよさそうだしそれもない? じゃあなんだ!? なんで俺が麒麟寺さんを引きずり込んだのに俺が怖い思いしてるんだ!?

 

 そうして混乱する俺の耳に、予鈴の音が届く。それと同時に追手も教室に戻っていく音が聞こえて、しばらくしてから掃除用具入れの外に出た。

 

「ぷはっ、はぁ……ハァ……」

「あ、あの、麒麟寺さん。さっきのには訳があって」

「い、いえっ、わかっていますわ。ニュースを見れば大体のことは推測できます、もの」

 

 頬を赤く染め、息を切らしながら話す麒麟寺さんはどこか色っぽい。ぺたんと可愛らしく座り込んでるものだから余計にそう見えてしまう。光莉さんには及ばないけど。

 

「でもすみませんでした。苦しかったですよね?」

「大丈夫ですわ。わたくし、少々ドMですので」

「矛盾してねぇか?」

 

 え、何? じゃあ掃除用具入れに引きずり込まれて口を押えられて興奮してたってこと? いや、怖がらせるよりはいいけど……むしろ最善か? だって喜んでくれてるんだし……よし、麒麟寺さんがドMでよかった!

 

「てかなんで部室棟に?」

「朝、少しでも時間があれば掃除しておりますの。使用させていただいているわけですから、少しでも綺麗にしておかなければと」

 

 少し落ち着いてきたのか、流暢に喋りながら立ち上がる。麒麟寺さんってただの、っていうかとんでもないアホだと思ってたけど結構見習うべきところある気がするんだよな。今のだってそうだし、これだけできた人ならさっきのドM発言も俺に気を遣ってのものに思えてきた。

 

「夕弥さん、ありがとうございました。おかげで非常に興奮いたしましたわ」

 

 違うわ、ガチだった。なんだこの人。『お嬢様に憧れているドM留年女子生徒』って世界のどこを探してもこの人くらいしかいないだろ。どんだけ追加する気だよ不名誉なアイデンティティ。進歩のない日本の教育が産んだ化け物か?

 

「あぁんっ、それより聞きましたわよ」

「咳払いに見せかけて喘ぐな。何をです?」

「三上さんから、随分いいデートを見せてもらったと。部長として鼻が高い高ーい! ですわ」

「鼻をあやすな。いや、ほぼ普段通りだったんですけどね」

「夕弥さんと里沙さんはいとこでしょう? 長い年月の上に今の関係があるのなら、それは関係を進めたい三上さんにとっていい見本になるのは当然でなくて?」

 

 この人本当に留年したのか? 単純に勉強できなくて留年したって聞いたけど、今のセリフ聞いたら少なくとも留年するほどバカじゃない気がする。まぁ、それを聞いて何かの地雷踏んでもなんだし別に気にしなくていいか。ドMは本当っぽいし、嘘つくタイプじゃないだろ。

 

「それと、また新たに対処しなければならないことがありますわ」

「対処っていうと、なんか依頼には聞こえませんね」

「えぇ。わたくしを壁に押さえつけながらこれを見てくださいまし」

 

 もちろん壁には押さえつけず、残念そうな麒麟寺さんを無視してスマホを覗き込む。

 

 そこには、里沙に対するおぞましい書き込みがあった。便利部の依頼ページに書き込まれたそれは、里沙に対する求婚であったり告白であったり、中には俺への殺害予告まであった。別にそれは日常茶飯事だからいいとして、里沙へのおぞましい書き込みは放っておけない。

 

「既に先生が動いてくださっているようですが、我が部の一員にこのような書き込みは許せませんわ。里沙さんはわたくしと違いまともな女性。毎日これを見てしまっては心に傷を負ってしまうかもしれません」

「とりあえず麒麟寺さんに自分がまともじゃないって自覚があってよかった。それで、何か対策は考えてるんですか?」

「わたくしはアホなので考えてくださいまし」

「カス。とりあえず、今日の昼にでもあいつら集めましょう」

 

 やっぱりこの人頭が悪くて留年しただけだ。間違いない。俺の罵倒で気持ちよくなっている麒麟寺さんを見て確信した俺は、春斗と霞に『今日の昼、便利部部室に集合』と送っておいた。

 すぐに返信があり見てみると、『里沙の件やな。了解』と春斗から、『里沙の件だな。とりあえず武器の調達から始めよう』と霞から。察しが良くて助かるが、流石に身内から犯罪者が出るのは止めなきゃいけないので『バレないようにな』と返しておいた。

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