平安の呪言師   作:亀と羽公

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 本誌であの人の術式が2年生組のあの人の術式だったので、同じ様に2年生の棘の術式を持たせた平安時代の術師が居てもおかしくないだろ!!ってことで書きました。

 なお、主人公は敵サイド(第3陣営)です。


あばんたいとる

 

 

 

 丹後国、大江山にて。

 今まさに、一人の老爺が最期の刻を迎えようとしていた。

 老爺。名を大江丹後守源威光(おおえたんごのかみみなもとのたけみつ)と云う。

 

 つまりは、まあ、この儂だ。

 そう、呪術と太刀を以て多くを屠った源威光(みなもとのたけみつ)である__

 狗巻威光(いぬまきのたけみつ)

 そう名乗ったこともあったような、なかったような。まあ今さら何がどうという事もない。

 

 ………………。

 

 ……。

 

 ……。

 

 

「……早い早い。まだ、儂は眠りはせんわ」

 

 

 さて、瞼よ、開け。そうだそれでいい。

 今日死ぬか明日死ぬかの身ではあれども、今すぐ死ぬというのは性急に過ぎる。しばし、耐えよ。

 なにせ、待ち人が来ておらぬ。

 

 ……ふうむどこまで述懷したものか。

 そうだ呪術。呪術であった。

 儂は呪術を以て人をそれなりに殺してきた、だったか。

 

 呪術___

 其は時に縛り、時に祓い、時に呪い、時に人を殺すモノ。

 昔は(まじな)い・妖術と云い、今は陰陽だの呪術だの云うものだ。

 呪術を携えし兵ども。術師。呪術師。それが呪霊であるなら、単に呪い、と呼ぶのもある。

 ともあれ、それらを総て平伏させし者は、()()となる。

 

 だが、その名を冠するのはきっと後にも先にも奴だけなのだろう。

 

 

 両面宿儺。呪いの王と呼ばれた男。

 それは、言わば武士の棟梁か、この国の帝の様な存在であろう。

 圧倒的な力で世界を屈服させ、己の快・不快のみを生きる指針とできる者。

 それでいて、天下の道理を弁え、傲岸不遜でありながらも過剰な慢心をせぬ者。

 

 

 ……意味がわからぬぞお師匠様、などと幼い頃の菅原の倅なら云うだろう。

 藤原のとこの日月星進隊の隊長あたりはわかった様な顔をするか?

 まあ、するのだろう。

 

 

 儂は駄目だ。若い頃の儂には何もわかっていなかった。

 ただ、力を以て悉くを斬り伏せた。妖も呪いも、時には人すらも。

 鬼神の如き(かような)存在に至れるという確証はなかったが、あの世界に指先一つでも届いたなら、と何度も夢見た。

 

 愚かな事だ。

 そうとも。呪術の才なぞに何の意味があろう? 祓い、呪い、敵も味方も悪戯に命の数を減らすばかり。

 あの狐奴の様に、占術でもしていた方が良かったのかも知れぬ。

 

 播磨の貞綱あたりは笑うだろうな。多少の年嵩を重ねたぐらいで何を今さら、と。

 そうだな貞綱。儂に、後悔なぞ許されはしまいよ。

 

 

「…………等と、口にしてなるものか。はははッ!」

 

 

 愚か結構! 悪戯結構!

 血風吹き荒れ、阿鼻叫喚響き渡る乱世に儂は生きた! 後悔なぞするものか!

 祓い、呪い、悪戯に命を屠り続けた我が人生!

 

 ああ! なればこそ、最期は戦いの内に果てたい!

 我が最期そのものとなるモノ、我が(つい)運命(すくな)よ!

 

 天よ、儂がこうして今際に見てしまう夢を許すがいい。

 天を前にした老爺の繰り言と聞き流せ。

 

 だが、儂に残された刻は短い。

 肝心の運命(ソレ)に辿り着くよりも先に瞼を閉じるやもしれぬ。

 

 

「……ん、ん__ゴホッ、ゴブォッ……!」

 

 

 ……おお、口惜しい。

 これではあまりに口惜しいぞ。

 

 神よ。仏よ。もはやこの際、鬼でも魔でも構わぬ。

 いや、鬼ではダメだ。()()()()()()()

 

 兔に角、刻をくれ。再び、あの鬼神に出逢うために。

 地獄の底では、流石に我が足も追いかけられぬ。

 

 或いは___

 …………嗚呼。或いは、この世が地獄であれば………。

 

 

「___やあ、威光(たけみつ)

 

 

 ___なんだ、お前が儂の運命か?

 

 

「ある意味そうかもね」

 

 

 ふん。お前が儂の運命とは………つまらん最期だ。

 で、用向きはなんだ?

 

 

「こんなに散らかして………少しは楽しめたかい?」

 

 

 ………全くだ。

 山に妖、それも()()()()と云うから、重い腰を上げてわざわざ出張ってきたというのに………。

 やはり一度、貴様と()っておけばよかった。……今からでも遅くはないか?

 

 

「勘弁してよ。今は戦闘向きじゃないんだ」

 

 

 いつもそう言って、結局戦わずじまいではないか。

 ………して、宿儺(ヤツ)はどうなった?

 

 

「………死んだよ。遺骸は呪物になったけどね」

 

 

 そうか、奴も遂に死んだか。

 諸行無常よな………。奴が死に、儂もそろそろだ。

 貴様だけよ、変わらぬのは。最も、()()()()だかな。

 

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 

 しかし、あの宿儺が呪物。呪物か! では、いつかは受肉するのか。

 

 

「器が見つかればね。あれほど強大な力だから中々探すのに苦労しそうだけど」

 

 

 そうか。

 

 ………なあ羂索(けんじゃく)。一つ、縛りを結ぼう。

 さすれば例の話、甘んじて受け入れてやらんこともない。

 

 

 

 

 

   ■■■

 

 

 

 __狗巻威光(いぬまきのたけみつ)

 

 千年前、平安時代に生きた術師であり、現代の狗巻家の祖。

 丹後守として都の警護に当たっていたが、ある日を境に”悦”に身を委ねる行為を繰り返す様になった者。

 

 そのきっかけは何であったか。

 ある者は、悪鬼に取り憑かれたのだ、と。

 ある者は、元来よりああであったのだ、と。

 またある者は、鬼神に魅入られたのだ、と云う。

 

 その生涯は、波乱のものであったと語られているが、その死に関する記述のみ定かではない。

 曰く、病にかかり一人旅先で息絶えた、とも。

 曰く、無謀にも鬼神に挑み、破れた、とも。

 曰く、業が祟って、地獄に落ちた、とも。

 或いは、()()()()()()()()()()()、とも云われている。

 

 真相は定かではないが、一つ言えることがあるとすれば、

 

 ”()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 と云うことだ。

 

 

 

 

 

 

   ■■■

 

 

 

 目が覚めると、身体が若返っていた!

 

 

「おはよう」

 

「………(とき)が来たか」

 

 

 目覚めた俺に話しかけてくる声がする。

 男。男の声だ。だが、知らぬ声だ。

 だが、この抑揚、この喋り方。知っている。知っているぞ。

 

 

 直後、頭の中に流れ込んでくる威光(じぶん)の知らない情報。

 これでようやく状況を理解する。

 

 平安より時は流れ、時代は西暦?2018年。

 都は京から東へ移り、東京なる場所に位置しているらしい。

 

 まだイマイチよく分からんが、とりあえず__

 

 

「__儂は受肉したんだな?」

 

「そう。あれからざっと1000年くらい経ってる。久しぶりだね、威光」

 

 

 顔も違う、声も違う、出立ちも違う。

 だが、変わらない胡散臭さ。

 

 

「千年振りか、羂索………久しいな」

 

 

 額に()()()()()()がある、黒の僧衣と袈裟を着た、黒髪の長髪に特徴的な前髪の男。

 中身以外何もかも別人だと云うのに、薄っぺらい笑いは変わらない。

 何も変わらない。こいつはそれで千年も生きてきた。故に、面白いと思う。

 

 

「それでその身体、調子はどうだい?」

 

 

 若い肉体。恐らく元服前のものだ。

 肉体は問題なく動き、呪力を少し流しただけでも生前の肉体と遜色ない物だと理解する。

 

 そして、それに()()()()()()()

 

 

「羂索、この身体をどうやって見つけた?」

 

「どうって、普通にそこら辺に居たのに受肉させただけだよ」

 

「恍けるな。この身体は、この人間は、『器』として()()()()()()()()()

 

 

 呪力を流して確信した。

 この身体はまるで、初めから『器』として作られたかの様な強度だ。

 術師であっても、ましてや非術師であればなおさら、この様な『器』は生まれない。

 

 であれば、考えられるのは一つ。

 

 

「”貴様が何かした”、それ以外にありえんだろう」

 

「流石に鋭いね。だけど、それをやったのは私じゃない」

 

 

 羂索が断言すると同時に、部屋の扉がノックされる。

 

 

「入って来ていいよ。もう話は殆ど終わったから」

 

 

 羂索の言葉に従い、三人、いや三体の呪霊が入室する。

 

 一体は、単眼で頭部が火山の様になっている。

 一体は、筋骨隆々な大男で、本来眼球があるべき部位には二本の枝が生えている。

 そして最後の一体は、フードを被ったタコのような姿をしている。

 各々の呪霊としての格は、恐らく最高峰に近い。

 

 全員が入室すると、羂索は彼らを紹介する。

 

 

「紹介しよう。今の私の協力者たちだ。右から漏瑚(じょうご)花御(はなみ)陀艮(だごん)。みんな、彼は千年前の術師、威光(たけみつ)だ。これから仲良くやっていこうね」

 

 

 





 狗巻 威光(いぬまき たけみつ)

 「狗巻威光」は通り名で、本名は「大江丹後守源威光(おおえたんごのかみみなもとのたけみつ)」。狗巻が源氏か知らないけど、「蛇の目と牙の呪印が呪術界でめちゃくちゃ有名」、「烏鷺(藤原直属)でも知っている」、「御三家ではない(平安時代で上位の役職ではない)」という三点から、源氏という設定にしました。
 宿儺の追っかけ。NARUTOで言うところの柱間に対するマダラ、東京喰種で言うところの金木に対する月山、仮面ライダーで言うところの門矢士に対する海東大樹みたいなヤツ。
 受肉先は、羂索が実験で真人に改造させた『器』。流石にあの羂索がぶっつけ本番で死滅回遊の器作りやらないだろ、ってことで、プロトタイプ的な立ち位置に。

 棘と同じく銀色がかった白髪。髪型は同じくマッシュルーム。棘は紫目だったが、こちらは碧眼。
 好きな食べ物は、生前から甘味が好物(現代に来てからねるねるねるねにハマった)。嫌いな食べ物は、細かく刻んだ物(曰く、食感がしないのは嫌い)。趣味は楽しい事。

 術式は変わらず「呪言」。反転術式・領域展開は習得済み。呪言師で最強角に食い込むには反転術式はマスト、領域展開があってようやく対等レベルになれるかも、という鬼畜。原作のインフレが酷すぎるんだよ!!


 備考1:宿儺との再戦を希望して、羂索と縛りを結び、受肉を果たした。受肉の条件とか他色々盛り込んだ縛りでした。因みに受肉の条件は「宿儺が受肉して間も無く」。

 備考2:当の宿儺からはウザがられている。裏梅もウザいと思っている(けど勝てない)。真っ向勝負もしたことあるけど、藤原軍介入で痛み分けになっている。



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