異世界で広まる遊戯王 作:決闘者
気がついた時には、私はこのファンタジーな世界に迷い込んでいました。
個人的には転移するなら大好きな遊戯王の世界が良かったんですけど。
元の世界でそこまで徳を積んでいた覚えこそないけれど、何の説明もなくこの世界に迷い込んだ身としては神様に恨み言の一つも言いたいです。
初めて遭遇し、お世話になった商家の人から聞いた話では魔物や魔法が存在するファンタジーな世界だということですが、文明レベルは思ったより低くありません。
浄化の魔法道具を使用した衛生管理もされていますし、トイレも水洗ではありませんが謎のスライムみたいなのが処理してくれるので臭くありませんし。
特にファンタジーを感じるのは教会の存在でしょうか。
教会で世界を創造した女神さまに祈ることで、一生に一度だけ『異能』が一つ貰えるのです。
走っている時だけ疲れにくくなったり、明日の天気を3割当てられたり、10歩までなら水面から沈まず歩けるなどあんまり役に立たないことも多いらしいですが、もらって損することも少ないそうなので私も祈って『異能』をいただきました。
……まあもらった異能は『手のひら大くらいまでの大きさの紙のカード(絵柄自由)を出せる』というだけなのですけど。焚き付けには便利。
一応白紙でも出せるので、メモ帳代わりにもできます。この世界で紙の流通はそれなりにしているので多少経費が浮くくらいですけど。個人的に
しばらくお世話になった商家の旦那さんは『うちの養子になるか?』と言ってくれたのですが、奥さんの視線が非常に厳しいので自立するため就職先を探すことに。
この世界で天涯孤独の私は、商家の旦那さんの紹介のおかげで教会の孤児院に働き手として雇ってもらえ、この世界では割と専門的な義務教育以上の計算ができることから子供たちの教育係(算数)を任されました。
「みんなー! 1+3はー?」
「えっと、えっと……」「Zzz」「ねーちゃん、そとであそんでいいー?」
うーん、小学校低学年くらいの子供たちにとって算数はあまり魅力的じゃない教科です。
まじめに解こうとする子もいるけど、大半はそもそも聞いてないみたい。
私が計算用に出した白紙のカードも落書きなんかに使われてるようで、教育って大変なんですね……
ああ、私の尊敬する教師クロノス先生、貴方ならこのドロップアウトボーイたちにどう教えるのでしょうか?
そんな事を考えながら書き取り用の白紙を用意している時、私の脳裏に電流が走りました。
そうだ! ありますよ、子供たちが自分で計算する方法!
「いけーっ! ララ・ライウーンでデーモン・ビーバーにこうげきっ!」
「えっと、ぼくのデーモン・ビーバーのこうげきりょくが400で、ララ・ライウーンが600だから、ダメージは……」
うんうん、みんな楽しんで計算ができていますね。
『ライフ計算は
慣れた子のデッキには『闇晦ましの城*1』や『ダーク・キメラ*2』などを入れているので油断なりません。
互いに相手が有利になるために計算を誤魔化さないように検算もするあたり、勝利への真剣さがうかがえますね。
実際に使う機会があると人間は必死に学ぶものですし、それが娯楽の少ない孤児院にさっそうと現れたカードゲームならなおさらのこと。
私の担当する算数の時間がデュエル(実技・座学)になってしまった事を除けば、子供たちは急速に計算力を伸ばし良いことずくめなのです。
「お話とは何でしょうか、院長先生」
「ああ、そう緊張せずに。難しい話ではないよ」
しばらくして、私はなぜか孤児院の院長先生に呼び出されました。
計算の授業でカードゲームで遊び呆けていることを怒られるのかとも思いましたが、授業に遊びを取り入れることは事前に許可を取っていたので違うはずです。
心当たりが無いのでなんとなく居心地の悪い気分でいると、院長先生は真剣な顔でふざけたことをおっしゃいました。
「あの遊び……『デュエルモンスターズ』だったかね? 私もやってみたいのだが、カードをもらえないかな?」
「はい?」
予想外の言葉に思わず目が点になってしまいます。
要綱はお伝えしていましたが院長先生は詳しい内容までは知らないはず、一体誰が彼に布教したのでしょう……同僚の中にもちらほら
仕方ありません……院長先生には天涯孤独の私を拾ってもらった恩がありますから断れないですし。
私が能力でカードの束……いうなればデッキ1つ分のオリジナルパックを出して渡すと、院長先生は子供のように喜びました。
子供たちと院長先生では思考力が違うので、本気で戦ったらイジメになるのではと思うのですが……
「すばらしい! ……ここだけの話だが、ちょっと強いカードとかないかな? いや、子供たちとのゲームでは使わないが個人的に持っておきたくてね」
……意外に欲張りますね院長先生?
私はデュエルモンスターズの持つ力を侮っていたのかもしれません。
私がこの世界にやってきてほぼ一年、暦が異なるので正確なところは分かりませんが、季節の移ろいからそれくらいの時間が経ちました。
今現在、私の住んでいる街の住民の八割が
八割、もはや老人や幼児以外はみんな
孤児院の買い出しで町に出ても、店先のテーブルで気軽に
原因は間違いなく院長先生でしょう。
この街で孤児院を破綻なく経営しているあの人は、教会の関係者だということもあって街の人物に無駄に顔が広いのです。
孤児院の運営であまり外に出ない同僚たちと違ってよく渉外に出るあの人が街の人々に自慢気に見せびらかしたに違いありません。
結果として私はカードを欲しがる街の人々に何度もカードを生成することになり、労働の対価としてカードの有料化に踏み切らざるを得ませんでした。
それでもカードを求めるものは絶えず……子供たちもお手伝いの報酬にカードを提示すると積極的に手伝ってくれるんですよね。
デュエルモンスターズが広まるのは素直に嬉しいのですけど、なにか釈然としませんね……
院長先生いわく、特筆する産業の無いこの街に最近はカードの噂を聞いた商人が来るようになりつつあるとのことですが、まあ院長先生の言うことですから話半分に聞いた方がいいでしょう。
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「ああ、楽しみだな……!」
今までは商人もそれほど仕入れに来るわけではなかった街に、頻繁に来るようになった行商人の一人。
彼の懐にあるのは、あの街に寄るたびに少しずつ買い集めたカードで組んだ魂のデッキ。
特に彼は『融合』を用いて新たな力を得る【
子供のころに寝物語に母から聞いた元素の精霊の力を借りて戦う勇者、それをモチーフにしたのか独特の姿で各属性の力をふるう勇士たちは彼の憧れだ。
多彩な魔術を扱うトリッキーな【
関連カードが新しく出たなら手に入れたいし、相性の悪いカードなら他の街で売ればいい。
中間業者が入る都合上、他の街ではデッキを組めるのは富裕層がほとんどだが、これまでにない絵札としてだけでも人気は高いのだ。
なにより、あの街では誰とでも気軽に
もはや立派な一人の