異世界で広まる遊戯王   作:決闘者

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だがしかし!まるで全然!冥界に追いつくには程遠いんだよねぇ!

 最近、決闘塾(デュエル・スクール)1期生の卒業などお仕事が忙しかったので、久しぶりの休みは趣味にいそしむことにします。

 前々から懇意にしている魔法造形師の方に個人的に"千年アイテム"のレプリカを依頼したのですが、良い金色を出す素材が高価なため予算をオーバーすると言われてしまいました。

 せっかくカードを生成する能力の応用でデザイン画まで用意したのに…………しかたないのでこれは穴にポイです。

 未だに街のあちこちで開くこの『奈落の穴』。私は現状強すぎるカードの証拠隠滅などで結構便利遣いしていますが、似たようなことをしているのは石とか花とかツッコむ子供くらいですね。

 街では生ごみなどは堆肥の素ですし、木切れ布切れも捨てずに焚き付けやパッチワークに使われます。意外に役に立たないものはないんですねぇ。

 もしかしたら絶対に手元に置いておきたくないものを捨てている人も居るかもですが、それを知るのは穴が繋がっているという冥界の底に封じられた神々くらいのものでしょう。

 まあこの穴が本当に冥界に繋がっていればの話ですが。

 

 

 翌朝、ベッドから起きると昨日穴が開いていた部屋の隅に何か転がっています。

 こ、これは……! 間違いありません、この金色、この造形! 完璧な『千年(リング)(1/1スケール)』! 

 もしかして院長先生がサプライズプレゼントでもしてくれたのでしょうか? 

 ふふ、私も最近はかなり働いてましたから? ご褒美がもらえるならありがたく受け取ります! 

 

 喜び勇んで拾い上げた瞬間、千年リングはぼんやりと光を放ち、どこからか声が頭の中に響いてきました。

 

【ふむ、無事地上界に届いたようだな。小娘、この黄金のリングを運ぶ栄誉をやろう】

 

 頭の中に直接声が! これはまさか千年リングの闇の人格の再現!? こんなことまでできるなんて魔法ってスゴイ! *1

 

【む? よく分からんが、我が声を聞け。我は飽くなき探求を司る者、(あまね)く魔族の父。冥界に封じられし魔神、その写し身である】

 

 あれ、邪神ゾークとか盗賊王バクラじゃないんですね。もしかして、プレゼントではない……? 

 そういえば寝る前に部屋は施錠しましたし、流石に院長先生も女性の寝室の鍵を開けたりしないでしょう。

 じゃあこのリングは一体どこから? 

 その考えを読み取ったのか、リングから響く声は答えました。

 

【冥王の許しの無い限り、封じられた神は冥界を出られぬ。ゆえにこの神器に神力と神格の一部を込めて地上界に送り込んだのだ】

 

 冥界から? ……ハッ、もしかして昨日開いていた穴から!? 

『奈落の穴』が冥界に繋がっているという話は本当だったんですねぇ。てっきりおとぎ話の類かと。

 でも冥界は地の底というくらいですから、穴とは相当離れていると思うんですが。

 

【うむ、難儀した。遥か天の上に開いた小さき穴にこの神器を投げ入れるのは神の身をもってしても難行であったわ】

 

 まさかの物理……! 冥界も意外にセキュリティガバガバですね!? 

 冥界に封じられた神が地上界に……もしかしてこれヤバイやつでしょうか。

 そもそも何のために地上界に? その理由次第では穴にもう一度ポイするのも辞さないのですが。

 

【愚問である……………………決闘(デュエル)の探求のためだ!】

 

 ──────────は? 

 

【冥界に存在するカードは全て地上界より降り来たる。ならば更なる決闘(デュエル)の探求のためには地上界を見なければなるまい!】

 

 ……あー、はい、ちょっと脳が理解を拒絶していましたが、ようやく理解が追いつきました。

 つまりこの方もまた、頭決闘者(デュエリスト)ってことですね。

 まあ今日も私は休みですし、孤児院の子供たちの決闘(デュエル)を案内するくらいは大丈夫ですよ。

 冥界の決闘(デュエル)と比べてどんな感じかまでは知りませんが。

 ……ところで、なんで千年リングの形をしてるんですか? 

 

【地上界より来たりし絵の中で最も親和性が高かったからだ。人の子の言葉で言えば"ビビッと来た"だろうか?】

 

 は、はぁ……。

 

 

 

 

 

【な、なんだこれは…………!!】

 

「なにって、子供たちの決闘(デュエル)ですが?」

 

 至って平和なよく見る決闘(デュエル)です。

 年少組はおこづかいが少ないので通常モンスターのビートダウンが多く、年長組になると多彩なデッキになってきます。

 とはいってもたくさんのカードが買えるわけでもないので、頻繁に子供同士でトレードを行ってカードを集めている感じですね。

 

【そうではない! なんだこの平和な決闘(デュエル)は!? なぜ先行でモンスターだけセットして終わる!? 後攻の展開への妨害札を用意して制圧して蓋をしないのか!?】

 

「あー……」

 

 ようやく思い至りました。多分これ、私が穴にポイしたカードのせいですよね? 

 期待に沿えないようで残念ですが、今の地上界の決闘(デュエル)はそこまで進んでいないのです。

 うらら*2も増G*3もニビル*4も泡影*5もない平和な世界であって、間違っても先攻制圧と妨害と捲り合いが蔓延る現代遊戯王ではないのですよ。

 

【そんな、我の知る決闘(デュエル)は、もっと情け容赦のない、ひりつくような……】

 

「たしかにそれも、ひとつの決闘(デュエル)のかたちなのでしょうけれど」

 

 少なくとも子供たちの勝率1位が闇堕ち疑惑が未だ晴れない少年のヴォルカニック・バーンデッキである以上はまだ早いとしか言えません。

 でも、徐々に決闘(デュエル)は先へ進みますよ。神様にとってはきっとあっという間です。

 

【……そうだろうか】

 

「ええ、そうですよ」

 

 現にシンクロが普及して決闘(デュエル)はスピードの世界に足を踏み入れたのです。

 高速化するのは目に見えたことですよ。

 

 そんな会話をしながら見学している私に気づいた子供たちが私のところに集まってきます。

 

「なにそれー、あたらしいあくせさりー?」

「いかちー!」

「ねーちゃんののほほんとした顔には似合ってねーよ!」

 

 ぐ、人の気にしていることを……

 私だって和希先生の絵みたいなエッジのきいた顔に生まれたかったですよ! 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 邪神・悪神の封じられたる世界、冥界。

 その管理者たる冥王の目を盗み、一つの企みが蠢いていた。

 

 冥界に旋風を巻き起こした札遊戯"デュエルモンスターズ"。しかし冥界に来るのは偶然か恣意か、地上界に開いた穴から落ちてきたものしかない。

 もっと多くの種類があるだろう地上界の決闘(デュエル)、ひいては他のカードも見たい! という欲求から来た計画である。

 首謀者は創造の女神の末子たる魔神。

 母なる女神の権能を真似て魔族を生み出したその術の冴えは力を制限された冥界においても地上界へ送り込むための神器を創ることを可能にし、他の協力した神にとっては末っ子だからバレてもそんな怒られないだろうという見込みだった。

 果たして計画は成功し、地上界の決闘(デュエル)事情を知ることはできたのだが、それは彼らの求めたものではなかった。

 まさかの源泉の方が遅れている。

 そんなことは玩具の販売元が商品の詳細を把握してないことくらいに予想できない事だった。

 

 しかし転んでもタダでは起きないのが悪神・邪神として封じられた所以。

 魔神は地上界の少女と取引をし、条件付きで定期的に地上界では一般的に流通していない"進んだ"カードを手に入れられるようになったのだ。

 今まで冥界に封じられている神々は不定期に落ちてくるカードを求めて待つだけの雛鳥でしかなかった。

 しかしこれからは定期的にカードが入ってくることが約束される。なんと素晴らしきかな! 

 勿論冥界を巡回している冥王配下の官吏たちも居るので確実に自分の手に入るかと言われれば否だが、これまでよりは格段に確率が上がる。

 そのためには少女の提示した条件を満たさねばならない。

 彼女の出した条件は"故郷の様子が見れるようになること"。

 該当する権能を持つのは1柱であるので嫌々ながら仲間に引き入れた。

 遠見、看破などの権能も持つ予見の神。創世の時代に"明日起きることがわかったら便利だろ"と全ての生き物に未来予知を標準搭載しようとして史上初の天界出禁を喰らった冥界最古参のやべーやつである。

 あまり関わり合いになりたくない手合いだったが、彼もまた決闘者(デュエリスト)だったので権能の使用に関する交渉はスムーズだった。

 冥界に封じられているため神器を介して覗き見るようなくらいのものだが、条件は満たせる。

 魔神に少女との接触を任せながら、冥界の神々は新カードを待ちわびるのであった。

 

 

 

 ちなみに交渉相手の少女は勝ち取った能力を、この世界に来た後に出た新弾カードを見るのに使っている。

 彼女も大概、頭決闘者(デュエリスト)である。

*1
脳内お花畑

*2
《灰流うらら》手札誘発の代名詞その①。デッキからカードをどうこうする効果を無効にする

*3
《増殖するG》手札誘発の代名詞その②。相手が特殊召喚するたびにドローする

*4
《原始生命態ニビル》相手がモンスターを5体以上出すとモンスター全てを焼き払い出てくる隕石。ただし相手に焼き払ったモンスター全ての合計の攻守を持つトークンを渡すので、対処できないとムキムキのトークンに殴られることも

*5
《無限泡影》モンスターの効果を無効化する、条件次第で手札からも使える罠。伏せても使えるのでまず腐らない

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総合評価:46886/評価:9.05/完結:26話/更新日時:2022年06月30日(木) 18:00 小説情報


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