異世界で広まる遊戯王   作:決闘者

2 / 16
デッキからカードの剣を抜け!

「さあ、決闘(デュエル)大会の始まりだ! 武器たる剣は己のカード、誇りを賭けて挑め!」

 

「「「ウォォォォォォオオオオ!!!」」」

 

 

 一体何がどうなってるんですか……

 今日は一年で一番大きな祭事『冬の祭礼』の日。

 弱まった太陽が今日から力を取り戻していく、ようは冬至の日です。

 教会も関わって街中がお祭り騒ぎになるのですが、まさかこんな事をするなんて……準備の時に聞いてないんですけど? 

 

 老若男女問わず集まった決闘者(デュエリスト)たちの前で音頭を取るのは孤児院の院長先生。

 さてはこの催しを企画したのは貴方ですね、いつもは長いはずの聖典の説法をやけに早く切り上げたと思ったら……罰が当たりますよ。

 私は参加者たちを一望できる高座にちょこんと座らされて、優勝者に賞品を授ける役を任されました。だから聞いてないんですが!? 

『優勝者のエースカードをこの前に見せてくれたレアカード仕様にすればいいから』って、販売パックにレアカード仕様を封入するのを時期尚早とか言って止めておきながらそれですか。

 既に参加者たちには優勝賞品が周知されているらしく、期待に胸膨らませる彼らを見るともうこれは止められませんね……

 形式はトーナメント戦、勝ち抜いた一人が優勝する分かりやすい形ですね。

 デュエル大会、と聞くとたくさんの長テーブルと椅子を置いて同時並行で試合が進行するのを思い浮かべてしまうのですが、用意されたのは何やらごてごてした二人掛けくらいの机と椅子だけ。

 一戦ずつ観戦するにしても外側の人には分からないのでは、という疑問は決闘(デュエル)が始まると氷解しました。

 

「俺の先攻! 現れろ、アックス・レイダー召喚!」

 

 参加者がカードを机に備え付けのプレイマット風のくぼみに嵌めると、片手斧で武装した戦士の姿が浮かび上がりました。

 すごい、すごいすごいすごい!! ソリッドビジョンですよねアレ! どうやったんですか!? 

 主催者の院長先生曰く、魔法道具師に依頼して制作された机でカードのモンスターを幻影魔法で投影する仕組みらしいです。

 なるほど、これなら盤上が良く見えない距離でも決闘(デュエル)を楽しんで観戦できますね。

 というか、私もアレ欲しいです。青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)で『スゴイぞーかっこいいぞー!!』してみたい! 

 カードの有料販売で懐もそれなりに温かいですし、院長先生におねだりしてみましたが……

 

「でも君、魔力ほとんどないでしょ」

 

 そうでした……魔力なんて使ったことのない世界から来た私は、魔法道具のほとんどを動かせない程に魔力はスカポンタンなんでした……

 くぅ、リアルでソリッドビジョンがあるのに自分は使えないなんて、なんという悲しさ。

 ならば、せめて各試合を目に焼き付けなければ! 

 

 俄然、熱意の宿った視線を向けられる試合場では、竜殺しの剣を持ったアックス・レイダーが三本角の竜(トライホーン・ドラゴン)に倒されながら、返しの太刀で道連れにしていました。

 

 

 

 

 

 

「……そこまで! 決勝勝者は匿名参加の気高き紳士J!」

 

 宣言と共に、優勝者の名前が呼ばれました……が、まさか匿名参加の方が勝つとは。

 院長先生が小声で教えてくれましたが、匿名参加なのはおそらく貴族関係者、もしくは本人だからだろうとのことです。

 匿名にすることで無礼講ということを示しているそうですけど、明らかに身なりが良いんですよね。

 使用デッキは【帝】*1、オリパにちょこちょこ紛れているデッキパーツを買い集めたあたりに執念を感じます。

 レアカード仕様で貰うカードをどの帝にするかかなり悩んでいたようですが、最終的に『氷帝メビウス』にお決めになりました。

 はいどうぞ、今後どうなるかはわかりませんが、現在はこの一枚しかこの世にないレリーフの氷帝メビウスです。大事にしてくださいね。

 …………歓喜の雄叫びが迫真過ぎてちょっと引くんですが。

 なにはともあれ、教会孤児院主催の『冬の祭礼杯 決闘(デュエル)大会』は無事に幕を閉じました。

 孤児院というか、院長先生主催と言ってもいいのですけど。

 惜しくも敗退された参加者の方々も、魔法道具で投影された自分のモンスターたちが見れて満足なようでした。

 ……本当に、なぜ私にはあれが使えないのでしょうね。ぐぬぬ。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 初めに聞いた報告では、私の拝領している領地の中で、今までにない遊戯が広まりつつあるということだった。

怪物たちの決闘(デュエルモンスターズ)』というその遊戯は、これまで流通している美術品とは全く異なる技法で描かれた絵を付けられたカードで決闘(デュエル)という競い合いをする斬新なものだった。

 流行の震源地は、領地の中でも際立った産業が無く住民の有力者に自治を任せていた小さな街。

 早期にこの遊戯を考えたものを抱え込めば所属する派閥の中でも影響力が増そうと下男に調べさせたが、困ったことにこの遊戯に使うカードは女神様から授けられし異能で作られているという。

 女神様の授けし異能を己のためにだけ使わせる、あんまりにも外聞が悪すぎる……娘の社交界デビューも控えているのに敵対派閥にわざわざ攻撃材料は与えたくない。

 万が一にも考えの足りん連中に遊戯の作成者が奪われないように人を配置させつつ、己の領地の産業として他の貴族に紹介できるよう遊戯への理解を深めておく。

 カードには様々な絵のものがあり、中にはテーマを感じる一定の命名規則を持つものもある。

 私は特に、家臣たちに場を整えさせてから現れる帝王たちのカードが気に入った。

 帝王たちは場に出るのに準備を必要とするが、それは貴族にとってはあまりに当たり前のことであり、振るう力も強力の一言。

 それに、これほど強力な帝王たちを私が使役しているという優越感が感じられるのも良い。

 カードを買い集めるために少なくない財貨を使うことになったが、このデッキの完成に比べれば些細なものだ。

 

 出入りの商人からの話では、あの街……最近は”決闘の街(デュエル・シティ)”などと呼ばれているらしいが、冬の祭礼に合わせて決闘(デュエル)大会が開かれるらしい。

 優勝賞品は、優勝者のエースの特別製カード。

 …………別に欲しいというわけではないが、私の領地で行われる決闘(デュエル)大会を私が関知していないというのは問題だろう。

 名を明かして参加して委縮した相手に勝ちを拾うのも本意ではない。

 ここは一つ、領民たちに真の帝王の強さというものを見せねばなるまいて。

 

 

*1
風帝、雷帝などアドバンス召喚時に効果を使う上級モンスター主体のデッキ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。