異世界で広まる遊戯王   作:決闘者

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鋭い考察をされている方もいますが、この世界はふわふわです。


モンスターではない、神だ!

 ストラクチャーデッキ発売の報で、街は激震に包まれました。

 融合サポートカードを収録した『究極の力』、儀式サポートを収録した『禁忌の力』、そしてアドバンス召喚サポートを収録した『王者の力』。

 パックより若干お高めではあるものの、欲しいカードが収録されていれば確定で手に入ることもあり前評判は上々です。

 自由になるお金の少ない小さな子はどれか一つ買うだけで一応決闘(デュエル)の体裁を整えることができますし、経済力のある大人の中には既に3箱買い*1を決めている人もいるようです。

 ……なんか院長先生の思惑通りみたいで気に食いませんね。まあ私一人では販売の段取りとかできませんし、収益も私の取り分はしっかり分けて孤児院の運営とかに回していただけるようなので問題は無いのですが。

 一体どこまで考えての行動なのでしょうか? 最近は孤児院の子供たちも揉め事が起きたら『なら決闘(デュエル)で決着をつけよう!』とか言い出したり、頭決闘者(デュエリスト)かよという言動が目立ちます。

 子供でも決闘者(デュエリスト)ではあるので間違ってないとも言えますが……この世界に広めるには時代が早すぎたのでしょうか。

 ファンタジーと遊戯王で、私の中の世界観が揺れてきている気がします……

 

 

 

 

 

 

 新しいカードを作るにあたっては、元のカードへのリスペクトを重んじつつ、この世界でのNGワードに配慮するために販売前に院長先生や同僚たちにアドバイスをもらうようにしています。

 なのですが……NGをもらったことが無いのが逆に不気味です。

『逆転の女神』とか『千眼の邪教神』とか、大丈夫か怪しい部類のカード名は割とあるのですが、一切止められたことがありません。

 主に崇められている創造神である女神さまは子だくさんで聖典は多神教の流れにありますが、記載されているのは性別と役割……権能についてであって詳しい姿の描写は無いそうです。

 中には女神さまの子ですが反逆を始めようとした邪神・悪神の類もいたそうなので、そこらあたりは『そういう神様もいたかもねぇ』で済まされてしまうのだとか。

 もちろん有名な神様、創造の女神様とか冥界と天界の管理者、太陽や大地の神などは大体どんな姿で描写されるのか慣例のようなものはあれど、それから外れていても余りに冒涜的でない限り『斬新な解釈』と捉えられるようですね。

 まあ私としては元の絵に手を加える必要が少なくて助かります。元の世界での絵の肌面積についての修正みたいなのも必要ないですし。

 というか、露出の高い踊り子さんとか妖艶な娼婦さんとかが実際に居るのにカードの肌面積に血眼になる人は相当な希少種でしょうね、この世界では。

 だからと言って、居ないとも限らないのが業の深いところですが……

 女性キャラクター系のカードの人気は圧倒的に男性より女性、特に女児人気の方が高いです。いわゆるプ●キュア的人気ですね。

 綺麗な同性が屈強そうなモンスターなどを倒したり攻撃を耐えきる姿というのはやはりインパクトが強いのでしょう。

 男性側でも屈強な戦士が敵を倒すのに同じことを思っていそうですし、こういうのは男女共通なのかもしれません。

 ならば、女性陣は露出度の高い女性モンスターをどう思っているのかというと、割と好意的な意見が多くて驚きました。

 考えてみれば、露出の多い踊り子さんや高級娼婦の方々は社会的身分はともかく、世間のファッションリーダー的な立ち位置に居るのですから、そういう点には耐性があるのかも。

 結局のところ、男女ともに同性のキャラクター絵のカードに特に肯定的なんですよね。健全と言えば健全。

 

 他に問題になりそうなのを挙げるとすれば『王座の侵略者』とか【帝】関連とか権力者的にどうなのかと思うものがありますが、院長先生いわく『むしろ好評』とのことです。

 ……反面教師とかにしているのでしょうか。権力者の方々は知識層で富裕層ですから、そういうこともある、のでしょうか……

 この世界の人が寛容すぎて、いつか豹変するほど怒られないかちょっと怖いです。

 

 

 

 

 

 

 うららかな春の陽気に思わず気が緩みそうな季節になったころ、突然院長先生に呼び出されて遠出することになりました。

 目的地は隣国にある女神さまを崇拝する教会の総本山。

 滅多に使われない教会据え付けの緊急連絡用魔法道具で召喚状……もとい招待状が届いたとのこと。

 やっぱりカードについて怒られるんじゃないですかー! ヤダー! と思ったら、むしろ丁重に来ていただきたい旨が書かれていたそうで、近くの大都市からは教会の僧兵が護衛にも付くそうです。

 連行では? と疑ってしまう私に院長先生は『それならこんな逃げる時間を与えるようなことはせんよ』と殺伐とした安心のさせ方をしました。

 でも、なんでまた教会本部まで? これまでにやった変わったことはカードの生成くらいしかないので、やっぱりそれ関連で何か言われる気しかしないのですが。

 疑問符が浮かび続ける私をさておいて、院長先生はすっかり物見遊山の準備に忙しいようです。

 もう! 他人事だと思って! よくそんな気楽に旅支度ができるものですね! 

 

 旅立ちの日、孤児院の子供たちがワラワラと引っ付いてきて別れを惜しんでいますが、私は分かってますよ。不在の間、お手伝いの報酬カードが無いのが不満なだけでしょう。

『不在の間のお手伝い報酬は同僚に保管してもらっていますよ』と告げると、子供たちはバラバラと離れていきます。現金な……! 

 まあいいです。湿っぽい別れも嫌ですしね。

 観光気分の院長先生と私、護衛の自由戦士の方々と共に、一路教会の僧兵の方たちの待つ大都市へ向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

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 教会本部、大神殿。

 女神様は最低限の体裁を整えた祭壇と真摯に祈る心があればどのような場所でも祈りを聞き届けてくださるが、やはり創世の時代に天界へとつながる”光の階梯”が置かれたこの地が聖地として信仰を束ねる場所に選ばれるのは必然だった。

 ”光の階梯”はこの地上界から供物を天界へ捧げるための装置。しかし、世界を創造した女神様とそれを管理する神々の興味をひく品は少なく、前回供物が昇天したのは遠く先々代の教皇猊下の代であると伝え聞く。

 今代の教皇猊下の代になっても供物を捧げる”昇天の儀”は形式上の物であり、感謝を捧げる”ポーズ”である……はずだった。

 

「おお……」「まさか!」「これは……本当に……!」

 

 隣国においてにわかに流行し始めている札遊び、その題材の一部に神を斬新な形で登場させていると聞き、数多の供物と共に”光の階梯”に掲げ置いた。

 はたして、光の階梯は起動し、数多の供物の中から遊戯の札だけが昇天したことを受けて教皇猊下は震える声でお言葉を発した。

 

「この遊戯の作者をお招きするのです。丁重に、丁重にです」

 

 供物を選定した司祭も詳細について知らず、神官たちは四方八方に散って情報を集めた。

 結果、隣国のとある街の教会孤児院に所属していることが分かり、すぐさま緊急連絡という名の招待状が送られる。

 教会本部が誇る僧兵団が護衛に回りたいところではあるが、あまり大きな動きは護衛対象に合流する前に小者に悪心を抱かせかねない。

 不安ではあるが、現地の者を動かす方が安全であろう。

 教皇以下教会本部の神官たちは祈る、どうかその旅路に幸あれかしと。

 

 

*1
ストラクチャーに一枚収録のカードを三枚集めるために三つ買うこと。


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