異世界で広まる遊戯王 作:決闘者
「ほわあぁ~~」
目の前にそびえ立つ立派な建造物に、思わず間の抜けた声がこぼれてしまいます。
ここが創造の女神様を崇拝する教会の本部大神殿! 現代のビル群に比べれば低いのでしょうが、周りに大きな建築物が無いからかえって大きく見えますね。
重機など無い中、これが全部人力で建てられたと思うと圧倒されてしまいます。
「任務ご苦労様です。よく無事に送り届けてくれました」
「もったいなきお言葉……」
ここまで護衛してくれた隊長さんが本部の偉い神官さんに達成報告をしたら、一旦お別れです。
帰りもお世話になりますが、ここでは本部の僧兵さんたちが護衛に付くそうなので。
院長先生と共に神官さんに案内され、綺麗な客室でこれからの予定を説明されました。
まず私たちは教皇さまとの謁見前に旅塵を落としておくこと。
その間に本部の神官さんたちが献上品である
それが終われば教皇様と謁見。
旅塵を落とす、つまりお風呂は大満足の一言でした。
住んでいた街にも公衆浴場はありましたが、追い焚きは魔法道具を起動しないといけないので、私は誰かに頼まないと熱い湯に入れなかったんですよね。
ここのお風呂はお湯を頼めば担当の人が温めた湯を蛇口に送り出してくれる千と●尋の湯屋方式なので、気兼ねなく浸かれました。
湯上りでホコホコの間は気持ちも緩んでいたのですが、体が冷めてくると緊張も戻ってきてしまいます。
院長先生は湯上りに酒を頼んで神官さんに苦言を呈されていましたが……なんでしょう、心臓に毛でも生えてます?
話を聞くと、院長先生は元々この本部大神殿で学んでいたことがあり、現在の教皇さまとは先輩後輩の間柄なのだとか。
なんでそんな経歴の人が小さな街の教会孤児院の院長なんてしてるんですか……
『世界中の信徒を導くほど器が大きくなかったからね』って……院長先生って、本当に院長先生ですよね(諦め)
教皇さまとの謁見は……ガチガチに緊張していてどんな受け答えをしたのかまるで覚えていません。
本当に気づいたら部屋で夕食を食べていました。
何かマズイことを言ってしまっていないか青くなって院長先生に確認すると、教皇さまに頼まれて神に捧げる特別なカードを作るのを了承したとのこと。
……マジですか? 謁見室の扉が開いたあたりから頭が真っ白で何も覚えていないんですが。
神様に捧げるカード……そりゃあすごい特別なカードじゃないとだめですよね……
いや、これは逆手に取って考えましょう。神様に捧げちゃうならゲームバランスなんて気にしなくていいですよね、流通しませんし。
なら神のカードにしちゃいましょう。原作効果……はちょっと曖昧なのでそちらに寄せた効果にしておきましょう。
ふふふ、これならライフちゅっちゅギガントとか呼ばれませんね……
翌日、制作した四つのカードを神官さんに託しました。
赤いカード、天空の神『オシリスの天空竜』。青いカード、大地の破壊神『オベリスクの巨神兵』。黄色いカード、最高位の太陽神『ラーの翼神竜』。
そしてそれらの神を束ねた時、全てを倒す光の神『光の創造神 ホルアクティ』。
神のカードと言えばやっぱりこれですよね。
もし流通させる時が来たらOCG効果にするつもりなので、文字通り捧げることを前提とした一品ものです。
受け取った神官さんがすごく驚いていましたが、やはり『神のカード』の持つインパクトによるものでしょうか。
満足げに運ぶのを見送った私に、微妙そうな顔をした院長先生が耳打ちしました。
「たぶん、地母神として描かれる大地の神がゴリゴリのムキムキだったから驚いたんだと思うよ……」
まあ大地の神は地震で荒ぶる側面もあるから変わった解釈だと思われるだけだろうけど、とも言われ、私は赤面するしかないのでした。
めちゃくちゃ緊張してアワアワしたことを除いて、本部大神殿を訪れる旅は無事に終わりをつげ、帰路に就くため出発する日になりました。
お渡ししたカードが無事に捧げられたおかげかは知りませんが、教皇さまご本人がお見送りに出席されています。
……あの人は院長先生の後輩、あの人は院長先生の後輩、あの人は院長先生の後輩。
自己暗示でもかけないとやってられません。威圧感というか、威厳がすごいんですよ……
再び合流した隊長さんに教皇さまが護衛の任命をしている最中、空から光が一筋、私を照らすように射し込みました。
え、今日ふつうに雲一つない快晴ですよね? スポットライト?
周りにきらめく光に困惑する私をよそに騒めく神官さんたち。それを一喝するように手を打ち鳴らした教皇さまが朗々と宣言しました。
「新たな使徒様がここに生まれた! 祝福せよ!」
いやあの、いきなりそういうこと言われても分からないんですが!? 祝福されても訳が分からないんですが!
院長先生に視線で助けを求めると、ため息をついて小声で教えてくれます。
「使徒っていうのは、創造の女神様が特にお気に召した地上の民のことさ。異能は強くなるし、いろいろ得することも多い」
「えっと、具体的には?」
「すべての刃はその者を傷つけず、あらゆる病毒はその者を冒さない」
「簡単にお願いします」
「まあ、死ににくくなるね」
「しににくくなる」
思わずオウム返しに言葉を繰り返してしまいます。
つまりは、女神さまが見込んだ民を死なないようにして世界をもっとよくしてもらおう、そういうことらしいです。
喜ばしい事のようですが、これ、帰れなくなったりしませんか……?
ここで偉い人に囲まれていたらそのうち心臓が爆発してしまいます!
本部の神官さんたちの中からは、やっぱり私に本部に残ってもらおうという意見が出たようですが、教皇さまがその意見を抑えてくれました。
教皇さまと院長先生が視線でなにがしか通じていたようですけど、私としては家(教会孤児院)に帰れるだけで十分です!
小市民な私としては、あの小さな街で骨を埋めるくらいでちょうどいいんですよ……
ですが、一応異能がどういう風に強くなったのか確認させてほしいと言われました。
試しにカードを出してみますが……うーん、まったく何の変哲もないモリンフェン*1ですよね。
強度が鉄のようになって撃鉄を止めたりカード手裏剣出来そうなわけでもないですし、何か変わりましたか?
『
いわく『
つまりは相手を打ち負かすことで周囲から”澱んだ魔力”を減らすことができるわけですね。……うーん、地味過ぎませんか?
派手な能力が欲しかったとは言いませんが、立体幻影を実体化させられたりしてもよかったんじゃないですか女神さま……*2
一方で教会としては、恒常的に行えば集落を襲撃する魔物を減らせる可能性があると、教皇様直々に”手軽にできる神事”として認定すると宣言。ここまでいくと
一層の普及のために教会も尽力してくれるそうで……私、忙しくて死んじゃいません? あ、死ににくくなったんでした。
まあ教会が後援してくれるなら、公式戦とかのジャッジとかやってもらえばいいんじゃないですかね。裁定するのが私じゃ体がいくつあっても足りませんし、なにより一応神事になったわけですから。
ああ、もう色々ありすぎてお腹いっぱいです……はやくおうちかえりたい……
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「もう一度聞く。探られた形跡はなかったのだな?」
「はっ、防諜は抜かりなく。情報が漏れた形跡はありませんでした」
「しかしこれは……」
西の果て、砂の国。
国土の大半を広大な砂漠が占める生きるに厳しいこの国では、代々強い指導者が必要であり、それが国を治める王家であった。
王家は特別でなくてはならない。そうでなければ民は導けない。
王族の死後に墓を暴かれぬよう、影の一族のみがその墓所を知り、守り続けていた。
しかしそこに外つ国から頭がおかしくなりそうな情報がもたらされる。
いわく、『我ら影の一族が札遊びの題材にされている』と……
実際にその札遊び『デュエルモンスターズ』を取り寄せてみて、影の一族の重鎮は頭を抱える。
浅黒い肌、熱砂の国特有の砂塵を避ける装束、そして一連のカードの枕詞『墓守』。
しかも『墓守』に力を与える
防諜体制の一斉点検と情報漏れの確認が行われたが、情報が外部に漏れた形跡は全くなかった。
結果を信じるなら、作者は全くの空想で偶然にも影の一族の使命と題材を一致させたことになる。
そんなバカなことがあるものか、とはだれが口走った言葉だったろうか。
流行しつつあるその遊戯を、せめて一部の流行にとどめる裏工作ができないか話し合われていたところに持ち込まれた報告は、その遊戯の普及を教会が強力に後援する
あんまりにもあんまりな仕打ちに崩れ落ちる影の一族の重鎮たち。
王墓を守る一族の明日はどっちだ。