闇の帝王ヴォルデモート卿。魔法界を恐怖に陥れ、魔法族は彼の名前を呼ぶことすら避けた。
だが同時にヴォルデモート本人もまた、自分の名前をできれば呼んでほしくないと願っていた。
※時系列は1993年夏。『アズカバンの囚人』の物語序盤の頃です


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名前を呼んでほしくない例のあの人

「ああ。また誰か俺様の名前を呼んでいるな」

アルバニアの森でヴォルデモートは唸った。

約1年前、人生で2度目の肉体喪失を経験し、再起を誓いこの森に潜伏中のヴォルデモート。

今、最も彼を悩ませているもの。それは『言霊の呪い』。

誰あろう自分でかけた呪いである。

 

かつてヴォルデモートが闇の帝王として君臨した暗黒時代。魔法族の誰もが彼の名を呼ぶことを恐れた。

ヴォルデモートの名を口にしただけで死喰い人に襲われるからだ。

それは言霊の呪いによるもの。「ヴォルデモート」という名を口にした瞬間、その者の居場所はヴォルデモートに感知され、転移魔法により死喰い人が差し向けられる。

彼の名を口にする行為。そこには恐ろしい苦しみと死が待っている。

よって誰もがその名を呼ぶことを避け、「名前を呼んではいけない例のあの人」と名を伏せて呼ぶようにしていた。

 

「ああ。こんな呪い、使うんじゃなかった」

震えあがる魔法界とは裏腹にヴォルデモートは当時から後悔していた。

元々この呪いは敵の居場所を特定するためにかけたもの。自分を恐れない勇気と反逆心を持つ者を見つけ出して確実に殺すために。

確実に。

「確実性、求めすぎた」

例えば電話の着信音量を設定する時、その者は何を基準に設定するだろう? 周りの迷惑を考えるなら低めに設定。ある程度でよければ真ん中くらいだろう。

なら確実に電話に出たい時はどうする?

最大音量にするだろう。

言霊の呪いも同じだ。

当初、ヴォルデモートは確実に敵を殺せるようにしたいと考えていた。

確実に感知できるように。何か他事をしていても、漏らすことなく知覚できるように。

「マグルの迷信に『くしゃみが出た時には誰かに噂をされている』というものがあるようだが。くしゃみでも嫌だな」

どこかで誰かに呼ばれるたびに脳に響く呪いの報せ。しかも御丁寧に所在地の情報まで頭に流れ込んでくる。

これが苦痛。

さあ今からディナーを食べよう、という時にも通知が入る。

トイレで踏ん張っている時にも。今から寝ようかな。もうすぐウトウト眠りに入れるなぁ、という時にも。

基本、これら全てが呼ぶ側の都合とタイミングに依存して発動するシステム。こちらから一切コントロールできないのがツラい。

しかもヴォルデモートの恐ろしさを誇示するために一回一回すぐに対応しなければならない。

通知が来るたびに近くにいる死喰い人に指示を出して殺しに行かせる手間。だから死喰い人はヴォルデモートの近くで常駐。シフト制で。

「それでも当時はなるべく惨たらしく殺したりして頑張ったから、しばらくして誰も俺様の名前を呼ばなくなった。そういう社会の暗黙のルールが生まれた。『名前を呼んではいけない例のあの人』なんて言い方が生まれてくれた」

ヴォルデモートにとって好都合だった新呼称制度。だがそれは単純に呪いの対処法が確立してしまっただけなのだが、負けん気の強い彼は認めようとしなかった。

こうしてヴォルデモートは安寧と闇の時代を手に入れた。

そして12年前、ゴドリックの谷でポッター家を襲撃し破滅。

10年をかけてどうにかクィレルの肉体に憑依するに至った。

 

「そう。あの日から悪夢が蘇った」

忘れもしない2年前。賢者の石を盗みにグリンゴッツ銀行に侵入しようとした日。漏れ鍋でクィレルがハリーポッターと接触しようとする奇行に走った日。

蘇った。あの通知が。言霊の呪いのビリッとくる感覚が。しかも2回!

ヴォルデモートにはすぐに分かった。何故なら名前を呼んだ者の所在地が漏れ鍋だったからだ。

「あれ絶対ハグリッドだろ。でもってハリーに教えたんだろ俺様の名前!」

ヴォルデモートには容易に想像できた。ハリーが『例のあの人って何?』と聞いて、ハグリッドが一度だけビビリながら答えて、何も知らないハリーがつい名前を普通に言ってしまう。そんな光景が。

その日以来。言霊の呪いの通知がたびたびヴォルデモートに届くようになった。

ほとんどがグリフィンドール寮から。ということは絶対にこれハリーポッターが犯人。

 

だがそれもヴォルデモートが賢者の石を手に入れ損ねて撤退するまでの話。ハリーもヴォルデモートの脅威が去ったと安心したのだろう。それからは名前を呼ばれる頻度が一気に減った。

再び訪れた安寧の日々。

それでもついこの間、ホグワーツの地下当たりからが発信源の謎の通知が来た時にはヴォルデモートも首を傾げた。

「はて、あの辺りは・・・秘密の部屋のはずだ。サラザール・スリザリンの後継者しか入れぬ場所。誰も入れぬはず。まさかバジリスクが蛇語で?」

だとしたらヴォルデモートの想定外。蛇語にも言霊の呪いが適用されるということ。

「へ、蛇界隈に俺様の名前、轟かせなくてよかったぁ」

魔法族に恐怖を浸透させるのにも苦労したのに、全ての蛇に同じことをしようものならもっと苦労しただろう。我ながら幸運だとヴォルデモートは思った。

 

そして今日。再び呼ばれたマイネーム。

不意に飛んでくるものだからうんざり。しかもまた漏れ鍋から。

「この時期ホグワーツから飛んでくるならダンブルドアが犯人。漏れ鍋ならほぼ確でハリーだな。なんとなく分かるようになってきた」

今はまだ復活できない歯痒い状態。手も足も出ないから、ハリーの凶行を止めることはできない。

「ああ、早く元の体に戻りたい。戻って友を集めて、早くハリーとダンブルドアの口を封じたい」

ヴォルデモートの胃が痛くなる日々は続く。続くったら続く。

何故なら今年、ホグワーツに着任する男もまた「ヴォルデモート」の名を口にすることを恐れない男。ハリーとヴォルデモート談義に花を咲かせる男。

リーマス・ルーピン 闇の魔術に対する防衛術担任に決定!

 

この後のヴォルデモートの気持ちに一番近いものがどれか答えよ

  • 最初に来たのがワームテールなのは正直嫌
  • そもそも昔のニックネームで呼ばせるな
  • いや俺様も昔のペンネームだったわ
  • クラウチJr優秀すぎて不在がツラい
  • ルシウスほんま何しとんねん
  • ナギニまじ癒し

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