ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid 作:ポンドアップル
――第10R 決意の帰還――
数週間後......夏合宿も終了し、彼らは再びトレセン学園の正門前に立っている。
目を輝かせて和生は言った。
「立ち向かう準備はできている。淳仁、早くこの先へ行こうではないか」
彼女も視線を向けて応え彼に同意する。
「合宿の中で和生も大きく成長しているからね。......次のレースも全霊で挑もう」
「ああ......『ダート』、走るぞ」
二人は深く頷き合い、共に踏み出した。
――――――
グラウンドの中。淳仁は新たな戦いに備え、豪脚に改修を施す。
脇で彼が仁王立ちして見守る中、淡々と作業をしながら説明した。
「学園に提示した豪脚の仕様の中には、ダート走行用の改修モデルも含まれているの。そんなに大したものじゃないけどね」
彼女が手をどけると、豪脚の脹脛部や大腿に大きなシールドが装備されているのが見えた。
「それは?」
「泥除けだよ。これ以外にもサーボのギアボックスを交換したり歩行動作プリセットを変更したから、よりパワーが出やすくなってるはず」
工具をケースの中に収納し、指さし確認をして異常がないか丁寧に探す。
「――よし。和生、使ってみて」
待っていたと言わんばかりの表情で彼はスケルトンを装備する。足を動かしたその瞬間に、彼は違いを感じ取った。
「ほう......確かに違うな。重みがある」
そっと呟いてほくそ笑む。そして彼はダートの上に立った。
「先ずはダートを走って慣れてもらって、次にパワー中心のトレーニング。昼食は20分で済ませて、直ぐにジム行くよ」
「容赦ないな」
口角を上げた和生。淳仁は試すような口調で言った。
「そんな程度の人間とは思ってないよ」
彼は空を見上げた後、高らかにこう叫ぶ。
「面白いぞ!! お前のその心意気、しかと受け取った!」
振り返った彼に、淳仁も頷いて応えた。
そして彼は繰り返し地を駆ける。砂が乾いているせいで、踏み込むにも滑ってなかなか難しい。
(やはり違う! これがダート......)
靴の裏からソールを通して、彼の足にさらざらとした感触が伝わる。蹴る度に舞い上がる砂が靴に入り込んだ。
今までとは違う大地。未知の世界に足を踏み入れる。
「しかし――極めればどうという事はない!」
意気揚々と走り込む彼を見守りながら、淳仁も各数値の変動を計測してダートの特徴を掴もうとする。
「滑ってるなぁ、じゃあ次は姿勢制御を強めにして......そうしたら人工筋肉の入力感度も上げていかないと」
お互いに手探りで探していく。やり方こそ違えど、目指しているものは同じであった。
和生が全力で挑み、淳仁はその背中を押す。そうして切磋琢磨していく彼らの関係は『トレーナーとウマ娘』......そのものに近かった。
――――――
昼食を終わらせて食休みを取ると、和生は彼女が待つジムへと小走りで向かう。
「時間通りだね」
嬉しそうに彼女は彼を出迎えた。
「非生産的な時間ほど我慢ならぬものはないさ。始めるぞ」
彼はダンベルが置かれたラックをじっと見ている――するとその中で一番大きな物を指さした。ウマ娘用のそれは約150kgもの重量がある。
「よし。じゃあいくよ!」
ストップウォッチを構えると、和生もマットの上に置かれたダンベルに手を添える。
そして淳仁の掛け声で和生もそれを持ち上げた。
「ぐっ......あ゛あっ! ああああああ!!」
着々とダンベルを持ち上げる彼を淳仁は必死に応援する。
「がんばれ! いけるいける、ほらもっと!」
「あああい゛っ――ふんな゛っぁああああああ!!」
彼は頭の上にそれを掲げて、満足気な表情を浮かべる。
するとその直後に突然豪脚の力が抜け、和生は地に膝をつく。
「何だ? 壊れたのか!?」
淳仁はすかさず駆け寄り彼に膝の膝を見て点検する。
「大丈夫。すぐ直すよ」
冷静に工具箱を開いて修理を進める。何らかのパーツを取り替えると、再び豪脚は動作するようになった。
「サーボの異常を検知して停止したみたい。もう大丈夫」
「そうか。恩に着るぞ」
和生は立ち上がると、また同じようにダンベルに向き合う。
「壊れたら何度でも直す。だから何回でも限界に立ち向かって」
彼に拳を握って見せて言った。
「ありがとう」
はっきりとした大きな声で礼を言う。淳仁も彼に向かって笑みを浮かべた。
一時間ほどして再びダートを走りにグラウンドへと向かう。するとそこには先客の姿が。
「もしかして!」
淳仁は何かに気付くと、足を止めた彼女に声をかけた。
「もしかしてハルウララさんですか!?」
「ん? そうだよ?」
「私あなたのファンなんです! もし良ければサインくれますか!!?」
興奮気味に淳仁はペンと色紙を取り出し、彼女に詰め寄る。
「ほんと!? わーい! お姉さんありがとっ!」
にぱーっと笑って彼女はその色紙に拙い文字で『はるうらら』と書いた。
淳仁は深く彼女にお辞儀をすると、嬉しそうに和生の元へ走って行く。
「当時ウララちゃんのサイン人気すぎて手に入んなかったからなー、まさかここでチャンスが訪れるなんて! はっ、デスクに飾っておこう......」
和生も淳仁から色紙の中身を見せてもらい、納得したように微笑んだ。
すると淳仁は和生に言う。
「そうだ! ウララちゃんはダートが得意だから、何か極意を聞いてみよう!」
「ほう......いい提案だ」
そうして二人は彼女にレースの作法を聞きこんでいた。
「とにかく頑張って走るの! 応援してくれてるみんなの事を思って、そしたらどんなコースでも走れるよ!」
「成程。気持ちが大事という事か」
彼らは微笑みながら話を聞いていた。そして何回か併せで走って、二人とも何か得るものがあったようだった。
――――――
そしてその日の夜。彼女は寮の部屋で思考にふけっていた。
デスクに飾られたサインを見るたびに彼女の言葉を思い出す。
(気持ちが大事......科学的じゃないけど、とてもいい考え)
タブレットの画面に向き合うと、ふと何かを考え付いた。
「まって......あのコンドリアの性質、もしかしたら......」
机の上に置かれた論文を必死に漁って、博士にも通話を繋いで何かを訴え始めた。
『おやおや、そんなに急いでどうしたんだい?』
「少し調べものに付き合って貰えますか!?」
普通ではない様子で訴えた彼女に、博士もニヤリとして答えた。
そして翌日。トレーニングをしにやって来た和生に、いつもと違う荷物を持って彼女は現れる。
「その箱は何だ、淳仁」
彼女が背負っていたものを指して聞く。
「この前、『ウマムスコンドリアは人間の感情を動力にしている』って説があると言ったよね」
彼は「それがどうした?」と不思議そうに聞き返す。
「学会でも全く信じられてない話だけど......なんか今までの話を見てると、嘘じゃないように思えてきて」
「――私もそう思う。確かにそう思う」
その話に頷くと、彼は淳仁の元に歩み寄る。彼女は箱の封を切ると中からヘッドギアを取り出した。
「博士が昔作った『3D型脳電位測定器』――これで感情の変動と豪脚の出力の関係を調べよう」
和生はそれを手に取って頭に装着した。
「検証にはたくさんのデータが必要になる。集められるよね?」
「ふっ......勿論の事だと言わせてもらおう!」
彼女の言葉に、和生ははっきりとそう答えた。
――――――
そうしてトレーニングを重ね、彼らが向かったのは新潟レース場。その門前で話し合っていた。
神妙な表情で淳仁は言う。
「レパードステークス......GIIIのレースだけど、油断はできないよ」
そして彼も鋭いまなざしでこう返す。
「覚悟はできている。戦うぞ、淳仁」
お互いに頷き合って、その先へと駆け出した。
二人は控室で着々と準備を進める。彼女は豪脚の点検を行いながら、彼に再確認した。
「作戦はダート戦で有利な逃げで行こう。堅実に走って、最後は逃げ切って勝つ」
ストレッチを終わらせた和生に、淳仁がヘルメットを渡す。
「脳電位測定器搭載型のヘルメット。頭部を保護すると同時に測定もできる優れものです」
彼はそれを受け取って頭に被った。前面のバイザーが電灯の光を反射して輝く。
「通気性も高いな......見事な設計だ、淳仁」
彼女は満足そうににこっと笑った後、彼の背中を押すようにして言った。
「ダートだろうと芝だろうと! ......必ず勝ってきて」
和生は深く頷いた。
――――――
『本日の天気は晴れの発表、さんさんと輝く日差しと涼し気な秋風が心地よい日となりました。まもなく出走時刻となります』
(確かにいい風だ......そうだろうな)
和生は観客席をちらっと見た後、すんなりとゲートに入っていった。
そして数秒の沈黙の後、彼らは駆け出す。
『スタートしました、先頭は3番ゴウキャク。続いて6番メテオスガストが迫っています』
その言葉通り。和生を追いかけるようにして走るウマ娘がいた。観客席からそれを見ていた淳仁は呟く。
「マーク戦法――!」
そのウマ娘は彼の後ろにぴったりとくっついてプレッシャーを与え続ける。
和生も持ち前のスピードとパワーで突き放そうとするが、彼女も生半可ではない。コーナーに差し掛かってもそのままぴったりと追い続けた。
「待っていた......さぁ、楽しませろ!」
不敵に笑いながら慣れた足運びでダートを駆ける。
彼女はタブレットに送信されてくる脳電位の数値を見て驚いた。
(まずい、和生が掛かってる)
必要以上にペースを上げてしまい、まだ始まったばかりだというのに燃料を使いすぎてしまっている。
「60%......くっ、このままでは最終直線まで持たん!」
しかし緊張は続く。彼女は追い越すか追い越さないかスレスレの所を突いて圧力をかけていく。
繊細かつスピードの要るその業。ダートに踏み入った彼を待ち構えていたのは、砂の上を走る歴戦のウマ娘であった。
『3番ゴウキャク掛かっています、メテオスガストの作戦が効いているのか!』
(かなり分が悪いけど――和生なら!)
和生は覚悟を決めて、スケルトンの全出力を開放する。
「くゥッ、え゛ああああぁああ!!」
『さあここで和生が仕掛けてきた、速い速い!』
圧倒的なスピードで突き放す。それを待っていたと言わんばかりに彼女もスパートをかけた。
最終コーナー前から始まる猛烈な狩り。逃げる者、そして追う者。
その時。レース場に吹いた北風が、ダートの砂を巻き上げ砂嵐を作った。
「何ッ!? どうした豪脚!」
スケルトンの動作がおかしい。関節部に砂が入ってしまい、動かす度にガリガリと音を立てる。
「来てくれたか......私の友よ」
そんな中で彼女は塵をものともせず、和生に向かって走り続けた。
『6番メテオスガスト上がってきた、しかし3番ゴウキャクは何やら苦しそうな様子』
燃料もカツカツ、和生自身もスタミナが擦り切れてこれ以上の攻勢はかけられない。
その時だった。
「――!」
吹き荒れる風が過ぎ去って、晴れた視界に映し出されたのは掲げられた横断幕。
『ゴウキャク、全推力をこの瞬間に賭けろ!』
派手な色彩とグラデーションで描かれたその文字。彼の目に入らない訳もなく。
「はぁっ――! ぁああああぁぁああ!!」
観客に背中を押されて、彼は追い越される寸前で息を吹き返した。
「ふっ......相手と見込んだ甲斐があったねぇ!」
彼女も負けじと追いかける。しかし和生はそれを突き放してぐんぐんと伸びていく。
応援をしていた彼女は膝の上に置いていたタブレットの画面を見て驚いた。
「がんば――!? この数値......やっぱり!」
『3番ゴウキャク、起死回生の加速でメテオスガストを突き放し堂々の一着! 砂の上でもその力を見せつけました!』
ゴールラインを超えた後、彼はヘルメットを脱いで観客席を見る。
「はぁ......――ふっ」
小さく笑うと、彼らの期待に応えた事を全力の「ありがとう」で示した。
彼に向かって歓声が響き渡るその中で、敗れた彼女はかつての戦場に背を向けて涼し気に去る。
「今時の子は速いね......若さ、っていうやつかな」
そんな彼女の元にも、その奮闘を称えるたくさんの人が集まって来たのだった。
本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。
久しぶりのレース描写、やっぱり書いていてとても楽しかったです。
これからはレースが中心となって進んでいくので、彼らの熱い戦いをどうか見守っていて下さい。
昨日よりTwitterの方にポンドアップルのアカウントを作成しました。
執筆の状況などを配信していくので、気になる点がありましたらそちらの方をご覧下さい。
URLを置いておきます- https://twitter.com/GWkBwaD4KU95047
感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。
私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。