ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid   作:ポンドアップル

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子供の頃抱いていた夢はもう壊した。歪んだ想いで上書きしてしまった。


第11R 夢を塗りつぶして

――第11R 夢を塗りつぶして――

オークスで勝利したその日の夜。

またいつものようにマットの上に座り、瞑想を始める。

「そろそろ重賞レースも増えてくる時期だな......ああ、何度でも勝つさ」

目を閉じてそう呟く。すると......再び彼に何かが語りかけた。とても小さな声で。

『和生......』

今にも消えかかりそうなその声を、彼は大声でかき消した。

「私の道を阻むなぁ!!」

『和生、もう私やだ!』

「うるさいッ! これは私が決めた人生だ、貴様にはもう決める権利はない!」

すすり泣く彼女を無視して和生はマットから立ってテーブルへとのし歩く。

水を一杯飲むと、彼は自分に言い聞かせるようにこう言った。

「私は超える......私は超えられる......その為に、勝利を掴み取る為に生まれてきた」

夜空を見上げ、また呟く。

「生まれた日から......私は憎んでいるのだ、そう。憎んでいる」

またあの声が彼の頭に響く。

『違う......違うの』

「何がだ......何が違うと言うんだ!!」

『こんなの私は望んでない!』

彼は自分の頭を一発殴るとこう吐き捨てた。

「これが私の生きる道だ!」

部屋の方を向くとすぐさまベッドへ飛び込み、布団を被ると彼はしばらくしない間に寝てしまった。

――――――

翌日。和生がダートで勝てた事に淳仁は浮かれていた。スキップしながら歩いている。

「――それにしてもあんなにファンが居るとは......今まで必死過ぎて目に入んなかったけど、いざ見てみると......やっぱり今までやってきて良かった」

小さくガッツポーズをして、彼と待ち合わせている広場へ向かう。

しかし......彼の姿が見当たらない。

(いつもならこの辺でベンチに座りながら腕を組んで瞑想してるけど......あれ?)

キョロキョロと辺りを見回す。するとバクシンオーが淳仁の元に駆け寄ってきた。

「サクラバクシンオーさん! どうしたんですか?」

彼女は残念そうに耳を垂れて答える。

「和生さんがいないのです......昨日の対局の続きをしたい所なのですが......」

「ごめんなさい、私にも分からなくて」

淳仁が謝ると彼女は小さくお辞儀をし、もやもやとした様子で去っていった。

(もしかして――まだ寮にいる?)

そう思い立った彼女は、すぐさま美穂寮の寮長であるヒシアマゾンに聞いてみる事にした。

「あいつかー、確かに今日の所姿見てないな......多分まだ部屋の中にいると思うぞ」

淳仁は俯きながら両手を膝の上に置く。

「電話にも出なくて......心配です」

「しゃーない。部屋に入っていいから、連れ戻してきな」

彼女はそう言って淳仁に鍵を渡した。

「あ、ありがとうございます! では!」

足早にそこを去ると、急いで彼のいる部屋へと向かった。

そして扉の前へと立ち、小さくノックをして言う。

「和生......? いる?」

小さな声で言う。すると彼が扉を開けて出てきた。

「淳仁か。どうした」

「どうしたって......お出かけは大丈夫なの?」

和生は特に気にする様子もなく即答する。

「すまない、取り消してもいいか」

淳仁も「大丈夫だよ」と優しく答えた。すると彼は部屋から出て彼女に頼み事を言う。

「トレーニングの指導を頼む」

脈略もない突然の言葉に、彼女は当然戸惑う。

「え、ちょっと! 今週は休んでいいって......言った......の......に」

しかし淳仁は感じ取った。何か和生に変化があった事を。

「......うん、行こっか」

彼女は少し心配しながらも、彼の頼みを受け入れた。

――――――

そうして再びトレーニングに励む和生。前よりも明らかに速く――強くなり、より良いタイムを叩き出している。

「すごい――めちゃくちゃ速くなってる」

淳仁はぽかんとしながらストップウォッチを眺める。ダートで鍛えたからか、または別に何かあるのか。

1セット走り終わった彼にゼリーと水筒、タオルを渡す。

「ありがとう」

無機質にそう返事をする。淳仁は心配してこう言った。

「えっと......何かあったの?」

「どうしてそう思った」

淳仁は彼に言おうとするも、その答えが見つからずにいる。

「......淳仁」

「はいぃ!?」

そう驚いた彼女に騒ぐ事もなく、彼女の肩を叩いてまた言う。

「次のトレーニングだ。早く行こう」

そう言って一人去っていく彼に、淳仁も待ってくれと駆け出していった。

それから......それからというもの、彼は見境なしにレースへ出走しとにかく勝った。

勝って、また勝って、それでも飽き足らず。グレードの低いレースでも関係なく走る。

火蓋を切ったのは札幌記念、次に新潟記念とどちらも一番人気で勝利。

それからセントウルステークス、十数日ほど挟んでオールカマー。

この頃から和生に対する世界の見方も変わっていった。

『どうしちまったんだ和生。こんなにレースを勝って何がしたい』

『ウマが競るのを見るのが好きな俺達の身にもなってくれ』

『圧勝だの無敵だの......俺は嫌だね』

 

「......そしてシリウスSも圧勝して、昨日はGI......スプリンターズステークスまで勝った。応援するのがおかしく思えるくらいだった」

そうして回転いすに腰掛ける淳仁。暗い表情をしていた。

『君が酒に溺れるなんて珍しいねぇ......思いもよらなかったよ』

そう言ってグラスにワインを注ぐ彼女。

「だって......彼、なんかもう人間じゃないみたいで......怖いんです」

淳仁は缶を飲み干すと、俯きながら呟いた。

「休みさえも殆ど取らなくなったし......もうあれからトレーニングしてる姿しか見てないのに、それでもタイムはどんどん伸びてくし......」

『効率的なトレーニングには休息が不可欠。しかし......彼、本当に疲れているのかい?」

半信半疑で博士は聞く。すると彼女は必死にこう訴えた。

「明らかに元気ないんです! それなのに動いてるんですよ!? あんなの和生じゃないです!」

彼女は確実に彼の心を感じ取っていた。しかし、それでもなぜそうなのかは理解していない。

ただ分からないばかり......理解できないばかり。

「どうして......どうしてぇ......」

『......』

ただ机に伏せる彼女を、博士は心配そうに見ていた。

同時刻――市街地内の公園にて。和生は校舎を抜け出し、またトレーニングをしていた。

伸びきった草の茂みを、明滅する電灯のみが照らす。

「くっ......まだまだ」

鉄棒で何度も懸垂をしている。吐息がヘルメットを曇らせ、それをふき取る事もなくまた続ける。

『......おい』

誰かが彼に語りかける。

「くっ、貴様いつまで――」

また『彼女』だと思ったその直後。彼はその手によって鉄棒から引きずり降ろされ、地面に叩きつけられた。

「ぐあっ! はぁ......――!?」

そこに立っていたのは一人のウマ娘だった。電灯の逆光に照らされ彼の前に立つ。

「誰だ! 貴様は誰なんだ!」

すると彼女は拳を握り、彼に示すようにして低い声で言う。

「あの日の未勝利戦......忘れたとは言わせないぞ、おい!」

そう言った彼女の顔を、彼は見た事があった。

「......アスカーロ」

「遅せぇんだよ!!」

拳を振りかざし、彼の腹に一発殴りを入れる。

「あ゛っ......なぜ、なぜここにいる!?」

「お前こそ、何だよあのレース! 聞きてぇ事沢山あンだよ!!」

お互いにそうやって押し問答を繰り返す。

「私はウマ娘を超える! その為に私は......!」

彼はそう言って立ち上がると、再び鉄棒を掴んで懸垂をしようとする。

「だから何だってんだよ!! お前の思想なんてどうでもいい!」

そう叫ぶと同時に、彼女は彼の腹を殴る。

「う゛っ! ......貴様ぁああああ!!」

突っ込んで反撃しようとするが、あっさりと躱され後ろへと投げられた。

「あ゛あ!!」

「あのマシンがなきゃその程度か、おいぃ!!」

彼の胸倉を掴んで持ち上げる。

「そんなんじゃ先輩に合わせる顔がねぇよ! お前に負けたんだぞぉおおおお!!」

そう言った彼女の目には涙が浮かんでいた。

「ガストさんだって......アイン姐さんだって......お前にぃ!」

彼女はそう言って膝から崩れ落ち、そのまま泣き始める。

「負けたのが悪い! 彼女らは私に超えられた!」

「偉そうに言いやがって! お前だってあの機械が無きゃ何もできないくせによぉ!!」

再び立ち上がろうとするが、そのまま地面にうつ伏せになって倒れた。

「ああ......お前さえいなければ......みんな勝てたのに」

そう呟いた彼女に和生は聞く。

「彼女らが勝てば何ができたと言うのだ」

「勝てば......みんなそのまま次のグレードに進めた、でもお前のせいで......お前は何がしたいんだよ」

彼女は彼に問う。それに迷う事もなく彼は即答した。

「ウマ娘を超えると言っているだろう!!」

「超えてどこへ行けるってんだよぉおおおお!!」

初めて喰らったその強い返しに、彼はただ立ちすくんでいた。

「お前は自分で食って暮らせるだろ! 普通に生きていけるだろ! 子供の夢を荒らしてまでどうしたいんだ!!」

アスカーロはまくし立てて彼に詰め寄る。絆創膏だらけの腕で涙を拭い、和生を睨む。

「それでもなのか? それでもまだ戦うのかよ? なぁ、人間って諦めが悪いんだろ!?」

「貴様らだって同じだぁああああああ!!」

彼が手を上げると、それを見切ったかのように彼女はひらりと避ける。

「ウマ娘に敵うかよ!!」

しかし彼は再び向き直って、拳を握り彼女に返す。

「はあ゛あああああ!!」

「何ッ!?」

ガードが間に合い防いだものの、和生の拳は彼女に響いた。

「ぐっ......お前、何でそこまでやるんだよ」

「勝つ事が私の意味だからだ!!」

彼がそう返すと、彼女は諦めたようにして笑った。

「もう好きにしろよ......はは、どうにもならねぇや」

握った拳を開き、肩の力を抜いてふらっと立つ。

そしてそのままへなへなと歩いて公園から去っていく。その時見えた横顔は、どこかの空を見上げていた。

「......」

彼は無表情な様子で鉄棒へ向かおうとする。しかし......どうにも腑に落ちない。

その時だった。

『まだ戦うの?』

まただ。また彼女がささやく。子供が大人に聞くように、そうしてまた呟く。

「私は......そう在らなければならないと」

『......』

そうして懸垂をしようとしたその時。

「和生!!」

公園に続く階段の向こうから声が聞こえる。現れたのは......淳仁だった。

「淳仁......」

「こんな遅くまで何やってるの! 体壊すよ!?」

そうして彼を叱咤する。彼はそれに応え、鉄棒から手を離した。

「はぁ......無事で良かった」

淳仁はひとまず胸を撫でおろす。

「すまなかった。これから帰る」

そう言って帰ろうとする彼。しかし淳仁は......彼を引き留めた。

「――何でそんなに頑張るの」

「淳仁?」

彼女は和生の目の前に立って、真剣なまなざしで聞く。

「ウマ娘を超えようとする理由って何!?」

そう言って彼に詰め寄った。

「ウマ娘を超える事は私の使命なのだ。それが生きる意味だからだ!」

「どうして!......いい加減に言ってよ!」

淳仁は彼の前から退かない。屈する事無く、目の前に立つ。

「......君には言えない」

「何で......」

「誰にも言えんのだ......言える人間など」

俯いて彼は淳仁の横を通り過ぎる。彼女はただ、彼を見つめることしか出来ない。

「和生......私はあなたを......」

お互いどんどん離れていく。世界から離れていく彼に、淳仁はどうにもできなかった。

 




本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。

物語は終盤に差し掛かります。和生がその"呪い"から自らを解き放ち、夜明けを迎える事は叶うのか。

感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。

私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。
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