ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid   作:ポンドアップル

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世界を止めて、もう一度。


第12R 相対性理論

――第12R 相対性理論の先に――

10月のあるひどく寒い日の夜。水たまりが凍りつく程の寒さの中、淳仁は一人で買い物をしていた。

買い物袋を持って商店街をうろつく。手には買う物のリストが綴られた紙切れが握られていた。

「和生の為にいろいろ買ってかないと......あと、珍しく博士もおねだりしてきたから――」

一時間後。大きな買い物袋を両手にさげて彼女は学園へと帰って来た。そして真っすぐ寮へと向かう。

「ヒシアマゾン寮長さん、これを和生に」

「おっけー、こんな遅い時間にお疲れ」

玄関口で管理人室にいる彼女へ荷物を渡す。その中にはたくさんのお弁当や冷凍食品などが詰まっていた。

「こんなにたくさん......全部彼のかい?」

こくりと頷いて淳仁は答える。

「少しでも栄養とか摂ってもらえたらな~って」

「......ふふ、そうか」

彼女は少しだけ微笑んでそう言い、去る彼女の背を見送る。

そしてトレーナー室。転送機を通じて淳仁は博士に買った物を送っていた。

『いや~助かるよ。最近物価が高くてねぇ......おお、これは懐かしい』

買い物袋を漁りながら、淳仁も笑って言う。

「昔はパッケージもこんな感じでしたよね。2035年のもいいですけど、これも......」

そう言いかけた所で彼女は手を止めた。

『どうしたんだい?』

「......これ大丈夫なんですか? こんなに過去に干渉しちゃって」

すると彼女は笑って答えた。

『それがだめならもうこの次元に私たちは居ないねぇ。――さぁさぁ、どんどん送ってくれたまえ!』

博士がそう言うならと淳仁も同意し、どんどん物資を送っていった。

やがて袋は空っぽになり、全ての物質の転送が終わる。

『ありがとう......そうだ』

彼女は少し考えた後、彼女に向かって頼み込む。

『少し外の風景を見せてくれないか? 少し懐かしみたい気分になってねぇ』

「いいですね。行きましょっか」

彼女は転送機にバッテリーを繋ぐと、タブレットと一緒に担いでトレーナー室の外へと出ていった。

――――――

美しい星空。草っ原の上で天に向けてタブレットを構え、彼女は寝転んでいる。

「博士はいつもここに居たんですか?」

『トレーナーくんが構ってくれない時にはねぇ......懐かしいよ』

そう言って、彼女は目を閉じ思いに耽る。

『――未来じゃ街灯も減って星が良く見えるとは言うけど、結局は場所次第なのかもしれないね』

淳仁は彼女の言葉に深く頷いた。

「ですね~......」

目を閉じて、息を目いっぱい吸う。

涼し気な夜風が肺胞を通じて彼女の五体に行き渡った。

「――おやおや......今日は先客が居たようだねぇ」

「ここには私以外誰も居ませんよ。ほら、空気だってこんなに澄んで......科学の香り?」

勢いよく振り返ると、そこには博士によく似た......しかし若いウマ娘が立っていた。

「うひゃぁ!?」

驚いて淳仁は後ずさりした。すると彼女はその場に置かれていた転送機に目を付ける。

「ふぅン......これは一体?」

杖を投げ捨て、顎を擦りながら装置を見つめる。その仕草に彼女も気づいた。

「その喋り方......まさかアグネスタキオンさん!?」

「その通りだよ! ......それにしてもこれは......実に興味深い!!」

彼女は落ちていたタブレットの方を向いて、そこに映っている彼女の姿を見る。

『――その声、まさか君は......』

「これは私かい!??!? とすると――もしやこの装置は......科学者として見過ごせないねぇ!!?!?」

すると興奮気味に転送機とタブレットを持ち上げ、淳仁に向けて言う。

「少し借りるよ!!」

彼女は小さく引き留めようとするが彼女の耳には届かず。気づいた時にはそこから居なくなっていた。

「――あぁ......行っちゃった」

溜息をついた後、諦めたように星空を見上げた。

――――――

暖房の効いた第二理科室。暖かな空間の中、奇妙な会話が繰り広げられている。

『ほう......この時の私はそんな事を考えていたんだねぇ......なるほど』

画面の向こうで頷く彼女の姿に、タキオンは興味深々な様子だ。

「ふぅン、我ながらいい歳の取り方をしたねぇ。若返り手術でもしたのかい?」

『元々だよ。......それにしても』

博士は椅子に座る彼女の左足に視線を向ける。そこにはぐるぐると包帯が巻かれていた。

「ああ、これかい? ......4月からだよ」

そう語る彼女は、どこか諦めたような顔をしていた。

「もう治らないさ――私ももう十分走ったのかねぇ。神様はこれ以上私の仕事を増やす気はないようだ」

足を叩いて語る彼女に、博士は優しく語りかける。

『......君』

「?」

疑問符を浮かべるタキオンに、博士はどこかを見ながら語った。

『私は全てのウマ娘を助けたいと思っている。そして今日まで、多くの『脚』を救ってきた』

『そうして走り続けた彼女らと同じように、私は走った先に待つ君の未来にとても興味があるのだ。......どうだい、科学に賭けてみないか?』

彼女は何かを理解したように微笑む。そしてタキオンもその言葉に頷いた。

「とんでもないオファーが来たものだ......運命をも超えるというのなら、我々人類の技術を信じてみるとするよ」

そして博士はにっこりと笑い、一本の注射器を取り出した。

――――――

翌日......第二理科室に足を踏み入れたマンハッタンカフェは、その光景に大きく驚いた。

――昨日まで松葉杖だった彼女が、元気に理科室を走り回る姿に。

「え......タキオンさん」

彼女は耳をぴこぴこさせながら言う。

「やぁやぁカフェくん! 詳しくは言えないが左足が治ったんだよ、早速トレーニングにでも――」

「今までずっと仮病だったんですか......?」

しかしその直後にずっこける。

「断じて違うねぇ!! とても辛かったねぇ!!」

「......嘘ですよ。とにかく治って良かったです......ほら、行くんでしょう?」

外へと彼女を誘うカフェに、タキオンは大喜びでついて行った。

――――――

同日。トレーナー室の中で、和生と淳仁は話し合っていた。

「ねぇ......本当にいいの? 前回のレースからまだ――」

心配する彼女に、和生は強く語りかける。

「無論、問題はない。豪脚も万全だ」

彼は真っすぐ彼女を見つめていた。その目に迷いはないが、同時に自分の意志さえも無いように見える。

淳仁は考えた。そして考えた末、迷いを振り切り決断を下す。

「――分かった。一週間後の毎日王冠に出走登録をしておくよ」

「ありがとう。また明日」

そう言って足早に去っていく。

月明りのみが照らす部屋の中、彼女はタブレットを手に取り登録を行おうとする。しかし......彼女は流れてきたニュースに目を丸くした。

「え!? アグネスタキオンが骨折から復帰......毎日王冠に出走予定――って、まさか!」

そう、そのまさかであった。彼女はそれを机の上に置き、口元を抑える。

(私はあの時止めなかったせいで......!)

また争いが起こる。ここで和生が勝っても負けても、悪い方向に転んでしまう。

和生が負ければ彼は堕ちる。タキオンが負ければまた犠牲者が増える。どちらにしても彼は悪となり、世界から償いを受けるだろう。

「――でも、それでも」

しかし彼女は立ち上がった。

「......何も全て決まった訳じゃない、危険性と共に、可能性だってそこにある」

彼女は信じ続けた。止まらずに進んで、その先にあるものを掴む為に。そして和生が変わってくれる事を確信して。

「私は信じる。例え世界を敵に回そうと、和生の味方であり続ける――想い続けた先に、そうしてきた意味があると信じる!」

確固とした意志と共に、戦いへと臨んだ。

――――――

『東京レース場。バ場状態は重の発表となりました。雨の影響で少し内ラチ側の方が有利かもしれません』

湿った草を踏み倒し、和生はゲートに踏み入ろうとする。

その時......アグネスタキオンが彼に語りかけた。

「ヒトが如何にしてウマ娘に勝つか、見せてもらうよ」

「とくと見るがいいさ......私の全てを」

ぶれない様子で彼はゲートに入った。

タキオンは彼がゲート入りしたのを見て、一歩前へと進みだす。そして昨日博士に言われた事を思い出した。

(『ゴウキャクに会ったら全力で競り合え』――私は科学者である以前にウマ娘であると、知らしめようではないか)

そして彼女は大きく息を吸い込み、ゲートが開くと同時に飛び出した。

『スタートしました。先頭はメジロサキガケ、それに続くようにしてプルトネーとアグネスタキオン』

「すごい、本当に走ってるよ......――やはり私は天才だねぇ!」

ケガからの復帰を物ともせず激しい先頭争いを繰り広げる。そんな中、和生は作戦通りに後方で待機していた。

長い競走歴の中で、彼の走りはより洗練されたものになっている。細かな調整と位置取りで燃料を節約しつつ、好位置をキープした。

『プルトネーとアグネスタキオン争う、おっとここでメジロサキガケ失速! 群れの先頭に立つのはどちらか』

競り合いが続く中、観客席では淳仁がタブレットを掲げて博士にレースを見せていた。

「すごい......先週まで屈腱炎だったのに、もうあんな走りを」

『努力の賜物だねぇ』

彼女は腕を組み、安らかな表情で地を駆ける彼女を見守っている。

「和生......」

淳仁も走る彼の姿を見つめていた。

『先頭争いを制したのはアグネスタキオン、バ群に先行しレースを作っていきます』

「東京レース場では瞬発力が決め手......しかし、彼女......」

和生は走りながら何かを考える。しかし直後に雑念を振り払って、またいつもの表情に戻った。

「やはりレースはいいものだねぇ......これ程の熱気、他では味わえない!」

再び芝の上を走れる喜びに、彼女も喜々とした様相で駆けていく。

それからは東京芝1800とは思わせない程のスピードでレースが進んでいった。彼女に導かれ、瞬く間にコーナーを曲がり切る。

『先頭アグネスタキオンのまま最終コーナーに差し掛かりました! ......ここでゴウキャク、後方から猛スピードで上がってきます』

持ち前の加速力で一気に追い上げる。並ぶウマ娘を通り抜け前方へと出た。

タキオンは二番手から大きく差をつけて先頭を走る。しかし......

『ゴウキャクぐんぐん伸びる、今アグネスタキオンを数センチ超え先頭に立ちました』

「ああ......また」

淳仁は一瞬目を背けた。しかし、その直後に博士に言われる。

『まだだね......まだ終わっちゃいないよ』

その時。タキオンの心に火が灯った。

「光速を超える物体は――この世に存在しないんだよ!!」

「何ッ!?」

彼女は速度を上げて過ぎ去ろうとする和生に追いつき、ぴったり隣に食いつく。

「はああああああ!!」

「ぐっ......あ゛ああぁああああ!!」

雄たけびを上げながら必死の形相で競り合う。そしてゴールまで200mの所で、フルインジェクションが作動する。

「豪脚......私を勝利へと導け!!」

しかし。それと同時に、タキオンの目から光が噴き出す。――領域だ。

『何やらとんでもない状況になっています! 二人の意志が共鳴し、この現象を起こしているとでもいうのか!』

「せっかく走りたくて今日まで生きてきたのにねぇ......負けていては名が廃るのだよ!!」

そしてお互い一歩も譲らず二人は加速し続ける。遂にはゴール板の手前、二人は猛烈な叫び声を上げながら走った。

『両者並んだ! ゴウキャクがまた勝利を手にするか、アグネスタキオンがゴウキャクを打ち破るのか!』

白熱する実況の中、淳仁はタブレットに送られてくるデータを見て驚愕する。

「BCN液が沸騰! タンク内圧力急激に上昇しています、このままじゃ.....!!」

『まずい、臨界だっ!!』

その瞬間。閃光がレース場を包み込み、やがて意識は薄れていく――

......そして気づけば、彼は真っ白な空間の中にいた。

「ここは......私は遂に涅槃へとたどり着いたというのか?」

上も下も見当たらない。ただ、余白のみが続いていく。

その時だった。

「どうやら......私にも理解できない程の現象が今、起こってしまっているようだねぇ」

「アグネスタキオン!? 何故貴様がここに......本当にそこにいるというのか」

タキオンはクスリと笑うと、袖を揺らしながらどこかへと消えていった。

「待て! ......くっ、これは一体――」

そして再び辺りを見回す。すると彼から少し離れた所に彼女の姿が見えた。

二人は近づき、お互いの存在を確かめる。

「え、和生? 本当に和生なの?」

「そうだ。だとすればここは――」

その時。彼女は突然頭を抱え込み、何かに苦しむ。

「淳仁! どうした、淳仁!?」

彼女の頭に何かが流れ込んでくる。彼の顔を見るたび、その向こうから何かが。

その先に吸い込まれ――彼女は暗闇に包まれる。

『あなたは――和生のトレーナーさん?』

一人の少女が彼女に語りかけた。

「そうよ! 私は和生のトレーナーよ!」

『ならお願い......和生を――彼を助けて』

淳仁はそれに応じるようにして目を開けた。その先には金色の髪をした少女の姿が見える。

彼女は両手を広げると――自分の中へと彼女を誘う。

「ぐっ、ああああああ!! ああ、......あぁ!!」

無限の時を写したような情報の奔流の末、彼女は何かにたどり着いた。

『ママ......ママ! 今日ね、お遊戯のお手伝いをしてみんなに褒められたんだ!』

栗毛のウマ娘にそう語りかける。彼女の姿は、先ほどの少女にとても似ていた。

『あら~、和生ちゃんは優しいのね』

『うん! だって私は――』

そう少女が言いかけた所で、さらに時は進んでいく。

――暗い家の中。玄関の前にあのウマ娘が立っていた。

『私は......私はただ』

大きな荷物を持って立っている。彼女の視線の先には、誰もいない。

『ごめんね、和生――』

そして扉は開かれ、そのウマ娘は家から出て行ってしまった。

再び日が昇り、階段から少女は降りてくる。

『あれ......ママ?』

また時が進んだ。次は子供部屋の中、壁にもたれかかる少女の姿が見えた。

『ちくしょう......見捨てられたんだ、私は見捨てられた!』

何度も壁を叩き、そう繰り返す。

(もしかしてこれ――)

遂に彼女は叩き疲れて、地に崩れ落ちる。

『――どうして何も言ってくれないの』

床に彼女の涙が落ちた。何度も、何度も。

『何も分からないじゃないか。何も......何もッ!!』

床を殴って勢いよく立ち上がる。そして戸棚を開けた後、そこからハサミを取り出す。

そして――その伸びた長い髪を切り捨てた。

『......シュペンダーァァアアアア!!』

すると視界は闇に包まれる。そして再び彼女が現れて、淳仁にささやく。

『あなたに――託す』

「え......ちょっと! 待って――」

彼女に手を伸ばそうとした次の瞬間、目の前が真っ白になった。

――――――

『――......はっ! ゴ、ゴウキャクが一着でゴールインしました! えーっと、アグネスタキオンはハナ差で惜しくも二着となりました』

再び現実に引き戻される。隣に座っている観客も、その場にいたみんなが混乱している。

「あれは......幻じゃない」

彼女はそう確信し、あの時見た光景を胸に刻みこんだ。

「いやぁ......とても凄いものを見てしまった」

博士はデスクの上で頭を抱えている。しかしその表情はどこか嬉しそうだった。

(『君が私であるなら、私はそのようになれるという事だろう......なら、私も誰かを救う事ができるようになるさ』――なんてさ)

あの空間の中で聞いた彼女の言葉を思い出す。そしてニヤリと笑い、顔を上げた。

「......もしかして、こういう事だったのかもねぇ」

そう言って彼女は、自分の左足をポンと軽く叩いた。

 




本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。

この現象は豪脚が起こしたのか、和生が起こしたのか。
それが分かるまでは――ただ、信じるのみ。
そして二人はわかり合う事ができるのか。ご期待ください。

感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。

私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。
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