ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid 作:ポンドアップル
――第14R 革新のゲート――
その日の夜。淳仁は和生を寮まで送っていった後、トレーナー室で博士に話を聞く。
彼女は和生が『ケンタウロス種』であった事を信頼できる人――博士に言う。すると彼女は目を丸くして驚いた。
『そんな事があったのかい!? もはや私も伝説と思っていたものだが.......そうか』
神妙な表情で考えている。そして淳仁は続けてこう聞いた。
「......『ケンタウロス種』とはどういうものなのですか?」
すると彼女は紅茶を一杯飲んでから語りだす。
『ヒトのオスがウマムスコンドリアに寄生された事により生まれる人間――しかし、言ってしまえば奇形のようなものだ』
『何らかの理由でヒトのオスに寄生したウマムスコンドリアは、ウマ娘が発生する時と同じように、筋骨格や尾てい骨などの部位に集まろうとする。しかし――ウマムスコンドリアはオスの染色体がある細胞を避けようとする性質があるんだ。その結果ウマムスコンドリアは居場所を求めて彷徨い続け、挙句の果てに無理やりにでも自分の居場所を作ろうとする』
『その結果......『ケンタウロス』のように変化してしまう、という事だ』
唖然とする淳仁を前に、彼女はワンテンポおいた後言う。
『普通ならまずそんな事は起きない。それに......例え寄生できたとしても、生まれる事すらままならなかったりすぐ死んでしまったりしてしまう。ケンタウロス種のヒトが生まれる確率というのは天文学的なものだ』
「つまり......和生ってすごく奇跡的な人なんですか?」
博士は複雑な表情で言う。
『嬉しい事ではないがねぇ......恐らくとてもいい状態で発生できたのか、高い医療技術により生還できたのか......』
『そのような子供は大抵障害を患ってしまうものだが......彼の身体は健康そのものに見える。――少々性格に問題はあるがねぇ』
博士はそう語ると、彼女に向かって微笑んだ。
『――しかし。彼が君にそのことを打ち明けてくれたという事は、彼が君を信頼しているからとも取れる。君の想いは彼にも通じているのだろう』
その言葉を聞いて彼女は笑みを浮かべた。自分が一番信頼している人にそう言われたのだから。
「じゃあ! ――私、このまま貫き通します! 和生を信じて、変わる事を信じて!」
『きっと彼もそう思っているはずさ。彼もまた、変わろうとしている』
博士は強く決心した彼女を見て、満足気な表情を浮かべたのだった。
――――――
翌日の早朝。和生は朝早くに呼び出されグラウンドで待ち合わせる。
何かと思いその場に立っていると、淳仁が彼に歩み寄って来た。
「和生」
「淳仁......どうかしたのか」
彼女は涼し気な表情をして、彼へと語る。
「次の戦い――菊花賞。サイレンススズカも出走するこのレースに、私たちも臨むことになる。だから――」
大きく息を吸うと、拳を前に掲げてはっきり言い放った。
「......本気で行くよ! 和生も、私も。持てる全ての力を出し切って、彼女に絶対に勝ってみせよう!」
「――! 淳仁......ふっ、了解だ!」
そして彼女はトレーニングメニューを読み上げる。途方もなく長いその羅列をはきはきと読んでいくたび、彼は口角を上げていった。
「――そしたらダート3000メートル10周、続けてプール200メートル10回、坂路17セット、昼食を挟んで芝3200メートルの持久走を4時間、その後芝2000メートルをフルスピードで2周してからジムに行ってランニングマシンの最高難易度をクリアできるまで90分、300kgの重量挙げ190回してから最後に1200メートルダッシュ31回! 帰ったらリモートでの作戦会議に、博士を呼んで勉強会をするよ」
「......やれるね?」
彼女は不敵な笑みを浮かべながら、彼に向かって究極の愚門を投げかけた。
「私に挑むか......今日の君は本気と見た」
「その程度で諦める人間とは思ってないよ」
二人は笑みを浮かべた後、全力でグータッチを交わす。
「全力で駆け抜けよう!」
「望むところだッ!!」
そして彼らは全力でトラックに向かい走り出す。その瞬間から、彼らの青春は始まった。
全てをその瞬間だけに集中させるかのように、持つもの全てを吐き出していく。その度に自らを鍛え上げ、日に日に彼らは『強く』なっていった。
汗が日焼けした皮膚を伝って地に落ち、血反吐を吐くかのような猛烈なトレーニングを積んでいく。
何度も何度も同じ光景の中で試行を繰り返し、そのたびに最適解を見つけるためのヒントを得ていく。
教わり、学び、そして繰り返す。そうして奇跡は起こるもの、起こすもの。
ただその『力』を信じる――それのみによって。
「何度だって――!」
「勝ってみせるッ!!」
夕焼けの中ひた走る彼らの姿は、これまでその場所で繰り返されてきた歴史の一つに過ぎない。
誰もが挫折し、誰もが祈って、でもその度に起き上がってきたのだろう。
地面を覆う芝が何度交換されようと、母なる大地はいつもそうしてきた彼らの事を覚え続けている。
走る者も、それを導く者も。そしてこの時間の中で、彼らと同じように二人も走り続けた。
誰にも分からないその未来――その先にある何かを掴もうと。
『おっ、見ろよ。またゴウキャク走るんだってな』
『あれだけ走ったのにまた? 諦めが悪いね、ほんと』
『"あの"サイレンススズカに真っ向から立ち向かうと。......私には正気とは思えないが、彼らなら――』
それまでの蛮行に冷めきっていた観客も湧き上がった。彼女に楔を打ち込む者に、彼らがなるというのなら。
「――それでは、菊花賞に向けて一言お願いします」
「......『勝ちます』! たとえ何度負けようと、絶対に勝ってみせます!」
力強いその言葉に、記者団は一斉に我先にと質問を投げかける。
彼らはそのすべてに情熱をもって答え、再び明日へと歩き出した。
「この河川敷も今や見知った場所の一つだ。ここから見える夕日も、そしてこの地面の走り心地も」
橙に染まる道の上で二人はそう語る。ただ前を向いて走る彼に、彼女は優しく微笑みかけた。
(彼は変わりたいと感じてる。心の深いところで、すれ違いに気付いてる。だから......私は――)
すると、川の向こう側に何かが見えた。
――スズカと、そのトレーナーだった。彼らも二人と同じように一生懸命走り続けている。
「......勝とう、和生」
「――もちろんだともッ!」
その道こそ違えど、最後には誰もが同じ場所へと向かっていく。夕日が沈むその向こう、『明日』へと。
何のために生きてきたのか。何のために生まれてきたのか。その答えが、この場所で決まる。
『澄み渡る空の下、京都レース場。これまでの全ての行いが今日、この場で示される時です』
和生が通路を抜けると、トラックの中にそよ風が吹く。
そして彼の前に立っていた彼女の髪が、そっと揺れた。
「サイレンススズカ......私は貴様を凌駕してみせる!」
「そう簡単には譲らない......逃げ切って勝つ!!」
お互いに一歩も譲らず、その意志を見せつける。
――そのまま二人並んで、ゲートへと入った。
淳仁は観客席に座って待つ。その目に迷いはない。ただ両手を膝の上において、その手に旗を握って。
(和生――!)
ファンファーレが鳴り響くその中で、ただ真っすぐ前を向いていた。
『出走準備、整いました』
「葉紅 和生――ゴウキャク、行くぞ!」
その瞬間に、夢へのゲートは開かれた。
『先頭1番サイレンススズカ、それを追うようにして9番ゴウキャク』
(私に逃げで挑むなんて――本気ね)
先頭を走り続ける彼女を、彼はひたすらに追い続ける。
「突き放す!」
「させるものか、ウマ娘ぇええええ!!」
上り坂でもお互いに速度を落とす事なく、後続を離して駆け続けた。
そしてそのまま猛烈な速度でコーナーを曲がっていく。信じられない程のスピードとスタミナで、作戦もなしに殴り合う。
(これが私の究極の作戦――『心に従え』!)
地面を蹴り上げる度に、その靴から観客席にまで響く程の猛烈な音が発せられる。
「燃料バーなど見るものか! 私の力で、あの背中を――ッ!!」
『サイレンススズカとゴウキャク、後続からどんどん離れていきます! 他の追随を許さぬ戦場、天秤はどちらへ傾くか』
しかし他のウマ娘も負けていない、彼女らも背後から着実に迫っている。止まればその波に飲み込まれ消え失せるだろう。
彼女との差は3バ身ほど。
「正確には3バ身と10.5センチと言わせてもらおうか、ウマ娘!」
「まだ追ってきてる? でも、ここから先には――」
再びコーナーを曲がったその先。待ち受けるは4メートルもの高低差がある『淀の坂』。
ここを最高速で上るのは禁忌とも言われ、そうした暁には危険な状態になることは免れないだろう。
彼女は冷静にスピードを落とす、だが――
『9番ゴウキャク、スピードを上げて坂へと向かっていきます! 』
彼は速度を落とさない。そのまま突っ走り、目の前には坂がそびえ立つ。
(彼なら、和生なら――!)
その瞬間。
「う゛おぉおおおおッ!!」
坂に差し掛かる直前で急制動を行い、僅かな距離で無理やりにでも減速する。
そのまま正常な速度で坂に乗り、減速した彼女の隣まで詰め寄った。
「はっ!? ......ふふ」
それを見て彼女は口角を上げる。そして坂を乗り越えたその瞬間に、再び彼女は加速しだした。
「絶対に追いついてみせる......豪脚ッ!」
その心に呼応するようにして、フルインジェクションが作動した。
彼女の影を踏むように、あり得ない程の速度で彼は迫る。
「生半可に走って来た訳ではないみたいね!」
「貴様こそ......これまでの戦果が見えるようだ!」
絶対的な速度で逃げ切る彼女に、また彼も自分の体に無理を通して食い下がる。
「戦って、そして勝つ! 貴様らを超えて......そしてッ!!」
「――うお゛おおおおおおぉぉ!!」
豪脚の関節からは燃料が漏れ、スーツの表面に付着した。
走る彼は真紅に染まり、その瞳はただ前を見ている。
その先に見える――『ウマ娘』へと。
『ここでゴウキャク、サイレンススズカに並んだ! しかしスズカも譲らず走る!』
「この景色は......私だけのもの!!」
「ならばッ! 私にだって、見れる筈だぁああああああ!!」
お互いゴール板の直前まで全力で走る。そして差し掛かったその瞬間。
彼女の影が、僅かに和生を超えた。
(スピードのその先......いつだって、それは私よ!)
『サイレンススズカ、今1着でゴール!! ゴウキャクは惜しくも2着となりましたが、それを感じさせない程の猛烈な競り合いでした』
地面に倒れこむ和生に、いつぶりの歓声が浴びせられる。
強大な相手に立ち向かった彼らを、ただ熱烈に称えていた。
「はぁ......ふっ、ッハッハ!!」
彼は今、負けた。しかし明日はどうだ。
彼らには明日を生きる道がある。その先に待つ未来を理解できる者など、ここにはいない。だから――
「和生さん......楽しかったです」
「私もそう思う。――次こそ貴様に勝ってみせるぞ、スズカ」
微笑む彼女に約束を交わし、その場からすたすたと退いていった。
本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。
生きていればいつか、その意味を掴める。
彼だってそう言っていたはずだ。
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参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。
私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。