ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid 作:ポンドアップル
―― 第4R 絶えない渇き ――
勝者が自分の隣で凱旋をしているのを後目に、和生は一人通路をのし歩いていた。
しかし......その表情は喜びと次の勝負への渇望で満ちている。
「面白い......面白いぞ、ウマ娘!」
するとその時。
「君のレース、拝見させてもらったぞ」
彼の前に立ちふさがったのはシンボリルドルフだった。笑う彼の面に緊張が走る。
彼女は仁王立ちして彼を睨みつける。
「私は全身全霊で走った。後は貴様次第だ......ルドルフ生徒会長」
強気に彼女へ判断を委ねた和生に、彼女は組んだ両腕を解いた。
「――君のレース、そしてウマ娘に対する姿勢。しかと受け取った。......精進し、次のレースに備えよ」
厳しく、それでいてどこか喜んでいるような雰囲気である。
そうとだけ言って帰ったルドルフに、和生は不敵に笑う。
「ありがとうと。そうとだけ言っておこう」
無いはずの襟を整えるような動作をすると、またその先へと歩き出した。
敗北のその先へ。負けようが勝とうが、挑戦し続ける者に未来は訪れるのだ。
――――――
二人が学園へ帰った後。やがて夜になり、会場にこもるレースの熱気を月夜がゆっくりと冷ます。
そんな中で、あの男の魂は未だ冷めずにいた。
「ええっと......いや、大丈夫?」
心配する淳仁に、和生は胸を張って答える。
「私は我慢弱いのだ。だからこそ、早急に次の戦い......未勝利戦への果たし状を所望するッ!」
静かなトレーナー室に、彼の情熱が響き渡った。
「まぁでも......いや、あれだけのスピードならもしかしたら......それに......」
一瞬なだめようとした彼女だったが、その勝利に飢えた眼差しを見過ごせはしなかった。
彼の中にある可能性を。未来への可能性を。
(やってくれるかもしれない、本当に超えてくれるかもしれない......)
そう思えば彼女はベッドから重い腰を上げて、彼の目の前に立っていた。
「分かった、じゃあ来週にレースをセッティングしておくよ。それでいい?」
「感謝する。それでは、豪脚の調整を頼んだぞ」
そうとだけ言って部屋から出ていく彼の横顔に、淳仁は微かな希望を見出した。
(......多分大丈夫)
タブレットの電源を入れると、画面に食らいつくように作業をし始めたのだった。
その一方。和生は自分が割り当てられた寮へと向かっている。
「美穂寮――同居人はなしか。......気遣いに感謝しておくとしよう」
寮長に挨拶をしてから部屋に上がり込むと、床にマットを敷きそこに座った。
そして静かに目を閉じ、考えを巡らす。
(そうだ......ああ、これが始まりではないさ。勝利への道はいつも気が遠くなる程長いものだ。今日この日の結果など、永遠から切り取られた刹那に過ぎぬ)
だからこそ......彼は先へ進むのだろう。
そうしてできる限りのトレーニングをし、数日後。再び東京レース場へとやってきたのだった。
入口近くで二人は最後の打ち合わせをする。
「作戦は前回から少し変えて追込にしました。最終局面でスパートをかけ、できる限りの全力で走ってください」
「了解した。それまでは後方で待機する」
彼は目を閉じて腕を組みながら受け答えする。
「それと......トレーニングやレースで蓄積されたデータから、豪脚のサーボ制御率と筋出力、歩行モーションなどを調整しました。これでもう少し走りやすくなるはず」
「感謝させて頂く。では......行ってくるぞ」
その場を後にしようとする彼の背中に、彼女は一声かけた。
「和生さん! ......勝ってきて」
その声は少し小さかった。だが、それに和生は全力で答える。
「勿論だと言わせてもらおう。淳仁」
また彼女に背を向けて、彼は歩き出した。
落ち着いた様子でゲートへ入る彼をよそに、実況が場の状態を告げる。
『天気はなんとか持ちこたえ晴れの発表です。怪しい天気ですが、出走者はみな張り切っています』
『1番人気の4番ノルベッテ、2番人気は4番サーガブラック、そして三番人気に推されたのは8番ゴウキャクです』
三番人気......その言葉に、和生は何か深いものを感じた。
(そう、私は勝つのだ。彼らのその選択に狂いはないと証明してみせよう)
胸に深く刻みこんで、時を見つめるように地平線の彼方へと視線を向けた。
『今、スタートを切りました。6番アスカーロ少し出遅れたか』
(真剣なる勝負に遅れるなどと......はっ!)
目を離した隙にどんどん離れていった彼女らの背中に彼は気づく。
(いや、ここは加速して......待て、待つんだ。今はその時ではない)
はやる気持ちを抑え、位置だけ取って走り続けた。
「それにしてもこの安定感、走りに機体が追いつくこの操作性......やはり流石の腕だ、淳仁!」
そうして走る彼の姿に、淳仁はくぎ付けになっていた。
「大丈夫、作戦通りに動いてくれてる......そう、大丈夫......」
そう言いながらも、彼女の足は不安と緊張にガタガタと震えていた。
(ああ......他人事じゃないみたいだよ、まったくもう!)
『コーナーに差し掛かりました。もう一度先頭から見ていきましょう』
冷静にそう読み上げる実況に対して、ターフに駆ける彼らの心は熱く燃えていた。
(くっ、相手も生半可ではないな......この位置は譲らんぞッ!)
自分の場所を渡さまいとする和生に、彼女は加速で猛攻撃をかける。
(こんなヘンテコなのに負けてたまるかっ! 私だって勝ちたい!)
『ここで8番ゴウキャクと6番アスカーロが激しい位置取り争いを始めました、どちらがその椅子を我が物とするのか』
なんとか冷静に突き放そうとする和生だったが、ウマ娘の執念にはそう敵わない。
「貴様ッ! 私を超えて見せる気かぁ!」
「譲らない......譲らない! ここで負けたら......私は!!」
魂を燃やして駆ける彼女の姿に、ついに和生も我慢の限界がきた。
(この覚悟......応えずにはいられない! すまない......淳仁ッ!)
そう言うと彼はコーナーの中程であるにも関わらず、地面を強く踏み込んで見せる。
その時。彼は彼女に向けてこう言った。
「超えられるものなら......超えて見せろォ!!」
「......! お前......うぉぉおお!!」
彼の感情に呼応するかのように、アスカーロも外を抜けて強く駆け出した。
『8番と6番競り合ったまま前へずんずん来ている! 猛る本能は垣根を越えて伝わったのか!?』
猛烈な競り合いに負けじと、最終コーナーに差し掛かった所で全てのウマ娘が本気で地面を蹴り上げる。
舞い上がった草や土が舞い上がる戦場。先頭で競り合う二人に、背後から猛スピードで迫りくるウマの壁。
「あ゛あああああえ゛ぁああ!!」
「はぁああああああっ!!」
『アスカーロとゴウキャク競り合う! 後ろから迫りくる! 誰が勝つか、誰も譲らぬこの戦いッ!!』
強烈な戦いの熱波に、淳仁も心を焼かれ火が付いた。
「負けるなぁぁっ! 粉砕せよぉぉおお!!」
その時。彼女は自分の大声に、こうではないはずと困惑した。
(あれ......私、彼を応援してる? 連れてこられただけなのに......そうじゃないの?)
しかしその直後すぐに、本心が理性を引きちぎって彼女は空へ手を振り上げた。
まるで生死を分かつ戦いのような、そんな感情が観客席から彼らに向けられている。
ある意味では、本当の事だろう。
『ゴウキャク競り合う、アスカーロも激しい! レースを制するのは一人しかいない!!』
「私はァ......貴様らを超えるッ!!」
「私も......人間なんかに負けないっ!!」
二人の執念が激しくぶつかり合ったその時。観客席から、淳仁の声が和生に届いた。
「和生ィ!! ......勝てぇぇえ!! お前はその程度かぁぁああああ!!」
「淳仁!? ......今更何を言うか、私はウマ娘を超える男だと言ったはずだぁああああ!!」
そうして踏み出した一歩が、彼を先頭へと導きだした。
『わずかに出て8番ゴウキャクがゴールッ! あと一寸の所で届かずアスカーロは二着! 三番目にはノルベッテが彼らの足跡を乗り越えてゴールインッ!!』
『ゴウキャク、迫りくるウマ娘を突き放し1着となりました!』
和生はその余韻をしかと噛みしめると、自分が今まで走ってきた道を見た。
「私は......」
そして前へと向き直って、広がる大空へと叫んだ。
「ウマ娘を超える、その為に生きる者だッッ!!」
大歓声が巻き起こる観客席。その時、彼の足にしがみつく人影があった。
「お前......なんで、どうして......ッ! 人間に私が......ウマ娘が!!」
そこには彼と競った彼女......アスカーロの姿があった。しかし今や、彼女は地べたを這いずり彼の足を掴んでいる。
そんな体たらくの彼女を、和生は叱咤した。
「一度超えられなかっただけで何を言う! なら二度も三度も挑戦してみろッ!! 貴様のその心には、今までそうしてきたと思える確かなものがある!」
「くっ......わかったよ、わかったよもう!!」
彼女はその足から手を離し、力強く地面を叩いて立ち上がった。そして睨みつけながら言う。
「――待っていろよ! 次ターフの上で会った時まで、お前も挑戦し続けろ!」
混沌とした感情が入り混じった顔で、彼女はそう言い残して去る。
しかし......彼はその中にあった確かな挑戦を、その胸に刻んだ。
「私も譲らないさ......この道だけは!」
敢えてそう言い、彼もその場所から立ち去った。
――――――
そして控室。そこに来た和生に、淳仁は興奮気味に話しかけた。
「すごい、すごいよ! 中央のウマ娘から逃げて一着を取るなんて......やっぱり、君なら大丈夫だった」
安心したのか、彼女は息をつく。
「ふっ......まだ勝負は終わっていない」
どういう意味かと淳仁が聞くと、彼は目を開いて大きな声で言い放った。
「ウイニングライブ! 私はそこで、もう一度勝負に勝つッ!!」
「ええ! 出るの!?」
目を丸くして大驚きする淳仁に、和生は真剣な様子で続ける。
「私はウマ娘を超える......それは走りだけではない。歌も踊りも、私は彼女らよりも上手くあればならないッ!!」
「でも......できるの?」
また心配する彼女に鼻で笑いながら、彼は部屋から出ていった。
そして......
「響けファンファーレ 届けゴールまで 輝く未来を君と見たいから~♪」
今までのその姿と声からは想像もできない程の美声で、彼は舞台の上で踊って見せる。
練習もしていなかったはずなのにその振り付けも一切間違う事が無かった。
観客も最初は大いに戸惑ったが......次第にその熱のこもった踊りに魅せられて盛り上がっていく。
「......まったく、ほんと信じらんない」
薄っすら笑みを浮かべながら、彼女も一心不乱にペンライトを振った。
本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。
近頃、ノルマである5000文字を超える事が少なく申し訳ありません。
ただ......彼らの熱い戦いを書けた事に、私は満足しています。
ちなみに彼がどんな美声で歌ったのか、私にも想像がついていません。
感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。
私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。