ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid   作:ポンドアップル

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一心不乱に突き進むその背を超えたくて――


第5R 驀進の道

―― 第5R 驀進の道 ――

彼が勝利への第一歩を踏み出したその日の夜。淳仁はタブレットをいじりながら、転送機を通じて博士とビデオ通話していた。

『未勝利戦に勝ったとは。素晴らしい活躍じゃないか』

興味深そうにそう語る彼女に、淳仁は落ち着いた声で話した。

「まぁ......ほぼ彼の力ですけどね」

『とんでもない! 君だって彼と同じくらいに努力していたはずさ』

博士からお褒めを頂いて、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめる。

「――そうですかね、えへへ」

『......ふぅン。送られてきた映像を見させてもらったよ。彼も君も、相当熱狂していたみたいだね』

顎を撫でながら隣のモニターを見る彼女。冷静な表情の中に、どこかその瞳が輝いて見えた。

「博士も、昔はこんな風に走っていたんですか?」

その質問に彼女は耳をぴくつかせる。そして何かを懐かしむようにして、まぶたを閉じて言った。

「ふふ、そうだねぇ......そう思いたいものさ」

そして流し目でデスクの周りに積み上げられた、彼女が書いてきた幾千もの資料を見る。

中には......あの頃の日付が書かれたものもあった。

『きっととても速かったんでしょうね~、なにせ『音速の貴公子』ですもん!』

「褒めてもスピードは出ないねぇ。......でもまたいつか、ああやって走れたらいいかもしれない」

一瞬どこか遠くを見つめた博士に、彼女は画面の向こうから笑顔で答えた。

『私の技術で! ......きっとまた、走れますよ』

「......期待しているよ。その時は光速だって超えて見せるさ」

首を縦に振りながらそう呟いた後、またいつものように画面を向いて言った。

「彼を見守ってくれたまえよ。放っておくと何をしでかすか分からないからねぇ」

ニヤっとしてそう言った博士に、淳仁はクスリと笑って返す。

『はは、まったくです。......退屈はしませんけどね』

「それと――今後の生活費や学費、BCN液代などはもちろん我々が負担するよ。転送した私の責任だからねぇ」

『ありがとうございます、博士! ......あ、もう遅いので通話切りますね』

「ああ。更なる活躍と安全を願っているよ」

彼女がそう言うと、博士は机の上に置かれた装置の電源を切った。

コンセントからコードを引き抜きながら、博士は何かを懐かしむようにこう言う。

「......信じてあげてくれたまえよ。あの時の彼のように」

机に置かれたコーヒーを一杯ちびっと飲むと、渋い顔をして大声で誰かを呼んだ。

――――――

次の日。淳仁が彼との待ち合わせ場所であるグラウンドに出向くと、そこには二人のウマ娘に囲まれた彼の姿があった。

「昨日のレース凄かったです! うりゃーって叫んでて、なんかこっちまで走りたくなっちゃいました!」

「私はいつも本気だ。彼女がそれに応えてくれただけの事......だが、そう言ってもらえた事には感謝しよう」

素直じゃない返しをする彼に、もう一人のウマ娘が続けて言った。

「ウイニングライブも凄かった!。まさかあんなに上手だとはね~、見かけによらず」

そう聞いてやはり彼は嬉しそうにしたが、どこか寂しげに呟く。

「......結局のところ、私と競い合った彼女はそこにはいなかったがな」

顔を上げた所で、彼は淳仁の姿に気づいた。

「淳仁! 待ちかねていたぞ!」

「ごめん、寝坊して遅くなっちゃった」

そう言って校庭への階段を駆け下りる彼女に、和生はそっと頷く。

「再びトレーニングと行こう。指示をくれ」

判断を委ねた彼に、淳仁はちょっと考えて導き出す。

「そうだね~......今月は短距離を中心に出走したいって言ったから、スピードを......」

その刹那。

『は~っはっは!』

どこまでも聞こえるようなその高笑いが、彼らの下へ響く。

そして目の前が土埃でいっぱいになった次の瞬間。その中から、一人のウマ娘が目を輝かせ走り出てきた。

「この私をお呼びでしょうか! スピードと聞いて、遠くからはるばる駆け付けてまいりました!!」

「え......ふぇえ!?」

淳仁の文字通りの目と鼻の先にいた彼女に、思わず腰を抜かしてしまう。

「おっと! 危なかったですね、足元にはお気をつけて!」

そうして倒れかけた彼女を支えると、真顔でその様子を見つめていた和生を見て彼女は言った。

「ややっ、あなたは一体?」

「葉紅 和生だと言わせてもらおう」

いつもの表情でそう言った彼を、彼女は顎を撫でながらじ~っと見つめる。

「ふ~む。昨日レースに出ていたあの人に似ていますね。別人か本人か......」

「恐らくは後者だ。それよりお前は名乗らないのか」

言われて初めて気づいた彼女は、胸を張って自らの名を答えた。

「私、サクラバクシンオーと申しますッ!!」

その名を聞き、淳仁は何か考えるようなしぐさをする。

「バクシン......オー? あ、教科書に載ってた?」

「ちょわっ、教科書!?」

図らずもそう言ってしまいあわあわする淳仁をよそに、和生は仁王立ちして言う。

「スピードと言ったな......つまり貴様は足が速いのだな?」

そう試すように聞いた彼に屈託もなくこう答える。

「ええ! それはもうバクシンです!」

腰に手を当てて大きくぶんぶんと頷いたバクシンオーへ、ならばと和生は続けた。

「私と勝負だ、バクシンオー!」

「ええーっ! いきなりですかぁ!?」

彼女以上のスピード感で申し込んだ彼に、彼女はたいそう驚く。

「私は我慢弱い。自分の上がいるとなれば、正々堂々と超えてみせようと思うのが本能だ」

真剣な眼差しでその桜色の瞳を見つめた彼に、バクシンオーも元気満々に答えた。

「受けて立ちます! 委員長として、バクシンオーとして!」

「面白いぞ! さぁ来い!!」

そうしてトラックへ駆け出す二人の背中を、彼女はじっと見つめている。

(サクラバクシンオーさん......短距離を中心に晴れ晴れしい成果を挙げたウマ娘......彼の相手として申し分ないですね)

「うおおおお!! まだまだッ!」

「このバクシンに付いてこれますかぁっ!? バクシンバクシーンッ!」

叫びながら一心不乱に駆け回る彼らを、淳仁は遠くから見守っていた。

――――――

夕焼け時。赤く染まる校庭の隅で佇む彼らの耳に、楽しそうな彼女の笑い声が聞こえた。

「はぁ......はぁ......フッ」

息を整えながら静かに笑った彼の隣で、淳仁はコップにスポーツドリンクを注ぐ。

「二人とも楽しそうでしたね」

「ああ......明日は勝ってみせるさ」

彼女からコップを受け取り飲み干した彼に、彼女は少しだけ笑んだ。

「2週間後が待ち遠しいぞ、バクシンオー」

その言葉に疑問符を浮かべた淳仁に、和生は何気なく言った。

「彼女の次のレース......『葵ステークス』に私も出走する。セッティングは頼んだぞ、淳仁」

「え......へ?」

混乱する彼女を後目に、和生は校舎へと歩き出した。

「――さすがだなぁ......追いつけないよ。まったく」

その後少しその夕日を眺めて、彼女も控えめにスキップしながらトレーナー室へと帰っていった。

部屋に着くなり彼女はベッドに飛び込む。そしてタブレットの電源を点け、いつも通り作業を始めようとするが......

(そう言えば......サクラバクシンオーさんが出走するレースってどんなのだろ)

気になり調べてみると......彼女はその結果に驚嘆した。

「え゛ぇええーーっ! 『葵ステークス』ってこれ!? 嘘でしょ、GIIIじゃん! GIIIって事はすごいやつで重賞で重要なレースで強敵がぁ! ............これいけるの!?」

思わず枕に顔を埋めてしまうが、その直後すぐにこう思う。

(......でも彼はここで彼女と競い合いたいと思ってる、それに......彼の中にあるその可能性を、信じずにはいられない)

例えどんな状況でも切り抜けてしまいそうな。彼女は二度のレースで、彼にそんな小さな感情を持ち始めていた。

「――信じてみよう」

一度そう思えば、彼女が仕事をこなすまでは早かった。

――――――

時は過ぎ......葵ステークス、その前日。

淳仁が彼の様子を心配して歩いていると、何やらバクシンオーと和生が二人で将棋をしているのを見た......それも、噴水の目の前で。

「ちょわ~っ、最後の香車が......」

しょんぼりしているバクシンオーに、彼は飛車に指を置いて不敵に笑う。

「ふはははは! 最強の駒であるこの飛車に死角は――何とォ!?」

しかしその直後、バクシンオーの操る桂マが颯爽と飛び上がり彼の飛車を引き裂いた。

「ふっ。委員長たる私が備えを怠っていたとでも......?」

「ぐぬぬ......まだだッ! 私は諦めんぞォ、ウマ娘!!」

その後も盤がめちゃくちゃになる程の勢いで手を打つ彼らに、淳仁は何かを感じた。

(仲がいい......のかな? )

和生もバクシンオーも本当の事は分かっていないが、ここ数週間で彼らは明確な友情を結んでいるようだった。

(私も頑張らなきゃ......そうだ、お弁当を作ってみよう)

駆け出した彼女の背中は、まだ誰も見ていない。

そして――夜を経て再び太陽は巡り、晴天の中大空から京都レース場の芝生を照らす。

また二人は作戦会議を進める。しかし今回の彼は、淳仁の目を見て真剣に彼女の話を聞いていた。

「京都レース場はゲートから出てすぐに大きな坂があります。傾斜に押し流されないよう程ほどに力を使いつつ、その後の下り坂で好位置を目指しましょう。もし位置取り争いになっても、あまり体力を使いすぎないように。冷静なレース運びをしつつ、最後の直線へ全てを賭けましょう」

タブレットでスライドを見せながら説明する彼女に、和生も真剣にこう返す。

「最終直線の一閃......その瞬間に、彼女の先へ行けと」

「うん。1200mならBCN液も少し余るから、多少パワーを出しても大丈夫なはず」

「確認した。和生、行って参るぞ!」

そうして見送られた彼は、連絡路で何やら落ち着かない様子の彼女と再び会う。

「和生さん! 今私は、最っ高に張り切っていますッ! 絶対に負けませんよ~!」

すたすたと歩く彼の周りを、どたばたと駆け回る。

「フッ。真剣なる勝負を期待しているぞ、『驀進の王』」

そう呼ばれた彼女はより一層嬉しそうに、その先へと足を速めた。

――――――

『美しい青空、爽やかな空気が彩る京都レース場。一番速く駆けるのは誰か、緊張が走ります』

実況がそう告げたように、心なしか彼の周りには涼し気なオーラが漂っているように見えた。

(彼女は内枠、私は外枠......しかし。枠順の内か外かの差が、勝敗を分かつ絶対条件ではないさ)

そうして天を一瞬仰ぎ、右手を脇に構えた。

『スタートしました、先頭に躍り出たのは2番サクラバクシンオー! それに1番ガスト、6番ロングテールが続きます』

(先行か......私も少しは勉強してきているのだぞッ!)

そうして身構えると、間もなく『淀の坂』へと突入した。

「ぐぬおぉ! くっ、予想より負荷が......ッ!」

走りながらコントローラのダイヤルを回し、BCN液のインジェクション量を細かく調整する。

(くっ、あと少し左に回して......はっ!)

その時。彼の真横を颯爽とウマ娘が通り抜ける。そしてまた、その背が彼の視界に入った。

「......ッ! まだだ!!」

焦る気持ちを冷静にコントロールし、険しい坂を何とか乗り越えた。脇には6と書かれたハロン棒が見える。

(残り55%......ここからが勝敗の分け目だ)

下り坂に入る。そこで腰のベルトに留められているダイヤルに手を当てつつ、早過ぎず遅過ぎずの速度で好位置を狙う。

その調節はもう......勘頼りだ。それか自分の感覚を信じるしかない。タップダンスのような繊細な足さばきで、舞い散る芝の中駆け引きをした。

(冷静になれ......和生)

過ぎ行く景色と周りを走るウマ娘の中で、追い越さまいと掛かろうとする自分を必死に抑えた。

次第に彼は、自分の吐息の音と地を蹴った時足に走る衝撃のみを感じるようになっていた。

それまでの判断の甲斐あってか内側の好位置をキープし、そのまま最終直線へと差し掛かる。

自分のずっと前を走るバクシンオーの背が、幾多ものウマ娘の間をすり抜けてきた彼の目に届く。

その瞬間、眠っていた彼の感覚が目を覚ます。

(残り46%、この瞬間にィ......全てを賭けろッ!!)

ダイヤルをフル回転させ出力を限界まで引き上げ、強く地面を踏み込んだ。

「うお゛おおぉぉああああああ!!」

それと同時に彼の体に凄まじいほどの加速がかかり、周りを囲む相手を置き去りにして前へと躍り出た。

『10番ゴウキャク、凄まじい末脚でバクシンオーを捉える! 冷静な位置取りが功を奏したか!』

「追ってきましたか......でも、まだ!!」

彼女も負けじと加速しようとするが、スタミナが切れてしまったのかあまり速度が出し切れずにいる。

「あれ、これは!」

「ぐおおおあ゛っ、があああああぁぁああ!!」

それまで抑え込んできた全てを開放し、貪欲にその景色を奪い取らんとする。

その形相、猛る獣と見たり。

『10番ゴウキャク、とんでもないスピード! 暴れるようにして大地を駆け、ゴール版を堂々と抜けたぁー!!』

『2着はサクラバクシンオー、3着にはセラヴィセラフィム』

珍しくウイニングランをする彼に、『NO FUEL』の表示が全てが終わった事を知らせる。

「はぁ......はぁ......バクシンオーッ!!」

空に向け叫んで後ろを振り返ると、そこには走り疲れて前屈みになりながらも満面の笑みで彼を祝うサクラバクシンオーの姿があった。

「――私はッ......お前を......超えたあ゛!!」

そう叫んだ直後、彼は疲労に膝から崩れ落ちた。

「和生さん......いい走り......でしたよぉ゛......」

それに続くようにして彼女もバタリと倒れ、二人して仰向けになり空を見上げる。

お互いブッ倒れながらも、最高の喜びと達成感に包まれて今日の勝負は終わった。

 




本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。

なんとか5000文字を超える話を投稿できました。限られた時間の中でそれだけの文量を辛かったですが、同時にとても楽しかったです。

私ポンドアップルはサクラバクシンオーさんの初めての育成で偶然温泉旅行券を手にし初めてURAファイナルズを優勝したので、彼女に対しとても思い入れがありました。
そのまっすぐな性格と自分の信念を曲げない強い意志が心に響き、彼女のように強くありたいと思えた育成でした。この場を借りて申し上げます。命を燃やして頑張って走ってくれたサクラバクシンオーさん、そして我々に最高の体験を届けてくれているサイゲームスさん、ありがとうございました!!

感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。

私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。
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