ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid 作:ポンドアップル
―― 第6R どこまでも同じように ――
その後、自分の全てを出し切って嬉しそうに凱旋する二人を淳仁が出迎えた。
「和生さん、一着おめでとう! バクシンオーさんも素晴らしいレースでした!!」
惜しくも一位を逃した彼女であったが、そう言われてまた元気に笑う。
「スタミナを鍛えて次こそ勝ちます!」
「むっ、ならば私も鍛錬を重ね貴様を迎え撃つ!」
負けじとそう返して、和生もより一層勝負欲が増したみたいだった。
「でも和生さん、今週はもう休んだ方がいいですよ」
なぜだと強く聞き返した彼に、淳仁は頭を搔きながらタブレットを見せて答える。
「......豪脚の人工筋肉のデータから、筋肉痛などの原因となる数値の増加が見られています。和生さんは大丈夫でも、先ずは豪脚の方を休めなければなりません」
「そうか......残念だ」
若干寂しそうな目をした後、彼はそう呟いた。
「まぁバクシンも程ほどにです! さぁ、ここで待ってていても進めませんよ?」
屈託もなく背中を押す彼女に、二人は笑顔で礼を言ってから歩き出す。
――――――
久しぶりの休日。熱い勝負ができて満足だったのか、和生も心なしか落ち着いた様子だった。
トレーナー室の中で茶を嗜みながら窓の外を眺める彼に、淳仁は言う。
「遊んだりしないの?」
「そうした事はない」
特に考えたり気にする事もなく答えた。
「もし特にやる事が無かったら、どこかお出かけした方がいいよ」
湯呑を机に置くと、彼は背中を向けたまま少し上を向いた。
「......そうだな。羽を伸ばす事も大切だ」
そう言って彼の横に畳まれて置いてあった上着を着ると、淳仁もバッグをかけて彼にこう言った。
「私もついてくよ」
「分かった」
そうとだけ言って飛び出していった彼に続き、淳仁も追って部屋を出た。
――
今日もまた、雲一つない快晴の青空が広がっていた。
「相変わらず綺麗な青空だ」
「こういう日こそ出かけたくなるものですね」
そんな風に会話を交わしつつ、ゆっくりと目的地へと歩いていく。
淳仁は彼を置き去りにしないように。和生は周りの景色を楽しむように。
そうしながら川沿いに進んでいくと、ビルの立ち並ぶ街へ出た。
「ここなら何か見つかるだろうか」
静かに胸を高鳴らせ、和生が一歩踏み出したその時。
「おい、あの人ってゴウキャクじゃない?」
「え、ホント? すご~い!!」
二人の女子学生がこちらを見て騒いでいる。
和生は淳仁にアイコンタクトを取ると、彼女らの元へ歩いた。
「初めましてだな。私はゴウキャク......もとい、葉紅 和生だ」
そういつもの表情で自己紹介すると、二人に囲まれてこう言われる。
「写真撮ってもいい~?」
「許可する」
ピースした二人の真ん中で彼はただ真顔で立っている。
......でも、その写真に満足してもらえたようだ。
手を振って去る二人を彼が見届けると、淳仁は心の中で思った。
(ファンサービスも仕事だから、もう少し愛想良くした方が......)
そう言いかけるが、敢えて彼女は言わないで置いた。
着飾るよりも素でいいと。その方が、彼はいいのかもしれない。
――――――
そのまま二人は目的地もなく漂っている。お互いにどこで何をしたらいいか分からないようだった。
(どうしよう、お店が多すぎてどうにも......)
戸惑っている彼女の目に何かが映る。よーく見てみると、ゲームセンターの前に人だかりができていた。
気になって駆け寄ると、その中心ではウマ娘がダンスのゲームをしている。
「おおーっ! さすが無敗の帝王、ゲームでもその実力が発揮されている!」
歓声が上がる中、彼女は一回もミスすること無く踊りきって見せた。
汗を拭うような素振りもせず、涼し気な表情で観客達に手を振って返した。
「にっししー! 見たか、これが無敵のテイオーステップだーっ!」
満面の笑みでそう言い放ったその時。和生は彼女に向かって歩き出す。
「『無敵』......今そう言ったか」
観客の海を割りながら彼は俯きのし歩く。
「えっと......キミは誰?」
当然困惑した彼女に、顔を上げて大きな声で言った。
「葉紅 和生ッ! 私は貴様に勝負を申し出る!」
『はぁ?』
一斉に観客達は困惑する。同じく、淳仁も彼の行動に大きく戸惑っていた。
「え......ちょっと、やめ......えぇと......」
大勢の人間に囲まれ、あまりのプレッシャーに言い出せずにいた彼女を後目に、和生は相変わらずそのウマ娘を見つめていた。
「......分かった、いいよ」
しかし彼女はその申し出に応じた。その目に......迷いはない。
(でも和生がゲームやってるの見た事ないし......めちゃくちゃだよ)
心配してオロオロしている淳仁の横で、和生は小銭を機械に入れる。
(私は超えなければ......何であろうと。どんな事であろうと)
画面の指示に従って操作を始めた。隣で機械に乗り既に準備を終わらせた彼女は、不思議そうに彼をじっと見ている。
「大丈夫? タッチパネルで選択するんだよ?」
「......よし。準備はできたぞ」
そうして構えた彼の瞳は、どこか曇って見えた。
――――――
「ああっ......惜しかったね~」
「まだ! 何度も挑戦してみせるッ!!」
結果は惨敗。彼は何度もプレイしたが、やはりどこまで行っても結果は同じだった。
彼女もさすがに疲れてきて、その息にも乱れが見える。
「和生、もうやめなよ!」
彼女はそう彼を制止した。が、その表情は変わらない。
「私は彼女らよりも強く在らなければならないのだ! その道を阻むな!!」
しかし。彼の背後から彼女はその肩をポンと叩いて言う。
「分かった、キミの勝ちでいいよ」
そう冷静に言う。その外見に反して、彼に促した時の姿はどこか大人びていた。
「そうか......」
どこか残念そうに和生は言った。
そんな姿を眺めて、淳仁は頭の中でこう思っている。
(――どうしてだろう。彼女は彼よりも若いのに、和生がまるで子供みたいな......)
その直後。あんなに疲れさせられたはずの彼女は、彼に向かって微笑む。
「必死だね。まるでいつかのボクみたい」
その言葉に、彼も何かを感じたようだった。
「――すまない」
頭を下げて謝る彼に、彼女は顔を上げるよう言った。
「気にしてないよ! こんなにやったのも久しぶりだし、そこまで挑んでくれたのも初めて!」
そう励ます彼女の姿を、淳仁は知っていた。
(無敗の三冠馬、『トウカイテイオー』......あれがその雄姿)
――――――
その後。暗くなった公園のベンチで、和生はお詫びとして彼女にはちみーを渡す。
「大丈夫って言ったのに、どうして?」
「気が済まなかったのだ。許してくれ」
そう彼は俯いて呟く。真っすぐな故に人に迷惑をかけてしまった、その事を後悔していたのだろう。
「ねぇ、なんでそんなに『ウマ娘』を超えたがるの? まるでボクがカイチョーを超えたかったみたいにさ」
屈託もなくそう聞く。しかし......彼にとってそれは禁句のはずだった。
「......忘れられないのだ」
たった一言だけ。でも、彼は初めてその質問に答えた。
「あの背中が、あの姿が。生まれた時からそうだったのだ。私はウマ娘を超えなくてはならない......そう、そのはずなのだ」
彼は迷っている。今までそんな素振り、誰にも見せた事は無かったはず。
自分の素行を自覚した事で彼にも何か別の考えが生まれたのか。
陰から見守る淳仁は、そんな事を考えていた。
「......なら、進んでみなよ」
立ち上がって彼女は小さく言う。
「何があったかは分かんないけどさ、きっと進んだ先には楽しい事があると思うよ! ボクもカイチョーと同じ所まで来れた時すごい嬉しかったし!」
「そうか......ありがとう」
はにかむ彼女を見て、彼も少し笑う事ができた。
――――――
学園までの帰り道。珍しく落ち込む彼に、淳仁は心配していた。
(大丈夫かな......ああ、私が付いていながら......)
お互い自責の念に駆られたまま、各々の場所へ帰る。
和生は自室でいつも通り座禅を組む。しかし、その表情は違っていた。
(和生......今更何を悩んでいる、私は超えると誓ったはずだろう!)
(たとえ矛盾してでも進むと、そう思ったはずだ!)
まるで言い聞かせるように、頭の中で何度もそう繰り返す。
「私は......」
何回かそう呟くと、知らぬ間に眠ってしまっていた。
そして次の日......トレーナー室にいる彼女に、いつも通りの表情で彼は語り掛ける。
「淳仁。豪脚の様子はどうだ」
「大丈夫だけど......昨日、ちゃんと眠れた?」
特に彼は考える事もなく頷く。
「そう、ならいいんだけど......トレーニングする?」
「勿論だ。指導を頼む」
豪脚を付けて外へ急ぐ彼に、また彼女は思う。
(何だったんだろう......まるで昨日の事を夢みたいに忘れて)
あくまでそう、割り切っていたのかもしれない。
本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。
申し訳ありません、今回の話はかなり短いものとなります。次回はもっとしっかりした物にしますので、引き続きこの作品を見守っていて下さい。
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参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。
私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。