ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid   作:ポンドアップル

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彼はその時思いだした――手を伸ばし続けたあの日々を。


第7R その背中に弄ばれ

―― 第7R その背中に弄ばれ ――

その後も定期的に休みを取りつつ、彼らはより強くなるべく鍛錬に励んでいた。

レースでも安定して勝利を挙げる事ができるようになったが、それでもまだ彼らは上を目指すべく奮闘している。

そうして一か月程過ごした......そうして今日この日に至る。

「......なるほど。これはいい記事になりそうです!」

彼女は彼らの話を聞き、それをメモに書き写していく。

「乙名史さん、字綺麗ですね~」

「仕事ですから! ......それでなんですけど、今後の目標などはございますでしょうか?」

手を止めて聞いた彼女に、強い視線で彼は答える。

「勿論、ウマ娘に勝つ為に私は生きる」

明確ながらも不明瞭なその答えに、付け足すよう淳仁は言う。

「えっと......私はこれまで短距離を中心に出走してきたので、より長い距離にも彼を出せるようにしていきたいです」

「淳仁さん、まるでトレーナーみたいな回答ですね!」

そう言われて、彼女は少し照れた。

(トレーナーかぁ......そういうのもいいね)

「......はい、これで取材は終わりです。ありがとうございました」

お辞儀をした彼女に礼を言いつつ、去りゆくその姿を見送った。

「......トレーナー」

「はい――ってええ!?」

当たり前のように彼女をそう呼んだ和生に対し、淳仁は大きく驚いた。

「冗談だ」

その直後に涼し気な表情でそう言った彼に、びっくりしつつも少し安心する。

(和生さんが冗談を言うなんて......まぁでも、それだけ余裕があるって事だよね)

「淳仁。トレーニングの指導は頼んだぞ」

そう言って彼は準備を始める。淳仁もそれを見守りつつ、支度をした。

――――――

いつものように彼は一心不乱にトラックを走り回る。その脇から彼女も見ていた。

しかしタブレットではなく、走る彼を見ている。

「和生さん、もう少し踏み込み強くした方が良いです!」

たまにそう指示を出しつつ、走り終えたら労う。

その姿に、彼女もどこか『トレーナー』として成長を見せていたように思える。

「給水感謝する。淳仁」

「次はもう少し長く緩めに走ってみて下さい」

彼に的確に指示を飛ばしつつそうしてトレーニングは続いた。そんなある時。

「おお、やってるね~」

そう言って一人のウマ娘が歩み寄ってくる。その雰囲気は落ち着いていて、どこか和やかな表情をしていた。

和生もそれに気づき、走るのを止めてこちらへ来て言う。

「誰だ?」

「私はセイウンスカイって言います~。噂に聞いて来ましたよ、淳仁さん。和生さん」

どうやら、彼女は二人に何か用があって来たようだ。

それについて和生が聞くと、彼女はこう言った。

「『ウマ娘のように走る人間』――そう聞いて、一度一緒に走ってみたいなと思ったのですが......お時間よろしいかな?」

「無論、問題はない」

特に迷う事もなく承諾し、それを見て淳仁も頷く。

そうして駆け出していった二人を遠くから見ていた。

(彼女も教科書に載ってたな......かなりの策士と聞いたけど、思ったよりもなんか柔らかい人だなぁ)

ふと思ってタブレットを見る。そうして顔を上げた瞬間、彼女は目を丸くした。

「嘘!? 和生があんなに離されて......燃料切れ? いや違う!」

彼のスピードは確かなもので、実に昨日まで強豪相手にも連勝していたはずだ。なのに、彼女に10メートル近くも離されている。

和生は叫びながら全力で彼女を追っているが、それに対してセイウンスカイはどこか冷涼な表情で走っていた。

「うおおぉおおぉぉあ゛!! ......ぐっ、なぜ追いつけん!?」

それを見たとき、彼女は何か別のものを感じ取った。

(セイウンスカイ......これまでの相手と違う)

拳を握りしめ、淳仁は決意を新たにする。

――――――

その後も突き放され続けた彼は、当然のように彼女へ勝負を挑んだ。

決戦は目黒記念。2500メートルの長距離だが、既に和生はマイルを一回走っている。トレーニングを重ねれば長い距離でも十分に走れるだろう。

しかし。淳仁は申し出に答えた時の彼女の表情を未だに忘れられずにいる。

「くっ......本気で走っていたのになぜ追いつけなかったんだ」

悔しそうにそう言った彼。淳仁もなぜだろうと、頭を抱えていた。

(本当になんでだろう......)

未知なる脅威に、二人はその夜も悩み続けていた。

そうして迎えた翌日。セイウンスカイに勝つべく、二人は新しいトレーニングを始める事とした。

「何ッ! 水泳......!?」

「セイウンスカイは中長距離を得意とするウマ娘なので、スタミナを鍛えた方がいいと思って」

彼女がそう説明しても、彼はどこかしり込みしている。

「他に何か......あるのではないか?」

「でもこれが一番効率がいいし......効果も大きいから、やっておいた方が絶対ためになる」

彼のためと思い淳仁は否定し続けた。そして遂に彼も根負けして、その提案を受け入れた。

トレーナー室を去った彼を、淳仁はどこか変に思う。

(どうしてあんなにプールを避けてたんだろう......? 訳を聞いても言わなかったし、水泳嫌いなのかな?)

そんな事を考えつつプールへ向かう。しかし......そこで彼女が見たのは、衝撃的な光景だった。

「......!!?」

彼の姿を見て大きく驚く。なぜなら......彼の腹に何かパックのようなものが外科的に取りつけられているのが見えた。

「......だから嫌だと言った。私はそう言った!!」

そうして柱の陰に彼は隠れる。淳仁はそれを心配して、しどろもどろしながらも彼に言った。

「ええと......気にしてないから、出てきて?」

「本当にか」

隅から覗く和生に首をぶんぶんと縦に振ると、少し背を低くしながらもそこから出てきた。

「......俗に言う『オストメイト』というやつだ」

少し小さな声でそう言った。

「気にしないで。じゃあ、トレーニング始めよっか」

笑顔で言った淳仁に、和生も安堵の表情を浮かべた。

そうして始まったプールでの特訓。和生も最初は渋々といった様子だったが、いざ始めるとなると真剣に取り組む。

彼の情熱は確かなものだった。やはりその『超えたい』という心は誰よりも強かった。

「ふんっ......ぷはぁ、ぐっ!」

「どうしたの!?」

突然プールサイドに上がって来た彼に聞くと、鼻を抑えて彼は訴える。

「くっ......水が入ったか、喉が熱いッ!!」

苦しそうにしている彼の背中を、淳仁は優しくさすった。

「大丈夫......?」

「......はぁ。もう大丈夫だ......気遣いに感謝する、淳仁」

彼はまたプールに入って、指示された通りに泳ぐ。

まっしぐらにそうした彼を、隅から彼女は見守っていた。

(はは、目が離せないや......)

――――――

プールの他にも坂路やダートでの走行など、さまざまな特訓を経て豪脚にも筋肉がついてきたようだった。

「おお! 骨格筋量が明らかに増えてるよ、ほら! 人工筋肉もぶっとくなってる!」

やや興奮気味に言った彼女に、和生も嬉しそうにして言った。

「走っていても明らかに違いが見えた。本当に鍛えられているようだな」

「機械を鍛えるってなんか変だけど......でも、自分の作品がこうやってちゃんと動いてるのやっぱ面白い!」

そうして彼女は豪脚を舐めるようにまじまじと眺めて、ふぅっと息をつく。

「きっともっとパワーを付ければ、彼女にだって勝てるはず」

その時、淳仁は慢心した。

時は過ぎ......その間も彼らはただひたすら鍛錬を続け、やがてその日を迎える。

控室で淳仁は和生に会う。何やら大荷物を抱えているようだ。

「淳仁、それは?」

そう聞いた彼に、彼女は大きなトランクを開けて中を見せる。

「豪脚の上半身外骨格です。ずっと部品のまま放置しっぱなしだったけど、先週ふと思い出し急いで組み立てました。これでさらにパワーが出せるようになると思います」

「ほう......素晴らしい。感謝する」

嬉しそうな表情で彼は言う。淳仁がそれを豪脚に取り付けると、彼は口角を上げて完成したその姿を見る。

「作戦は簡単です。逃げて速度を出しながら坂を上り、そのまま最後まで維持してゴールしましょう」

あまりにも単純な作戦。しかし、彼の性格には合っているだろう。

(でも相手はセイウンスカイ、これでいいのか......いや、そう信じよう)

一瞬後ろ髪を引かれたが、淳仁は振り切って彼の目を見る。

「勝ってくるぞ。淳仁」

「うん......信じてるよ」

お互いに深く頷いて、淳仁は去り行く彼の背を見守っていた。

(......いや、なんでもない)

そう彼女は自分に言い聞かせた。

――――――

やや雲の多い空。ゲートに向かって彼はのし歩く。

「......む」

その中へ入ろうとしたその時。隣でセイウンスカイがゲート入りを嫌がっているのが見えた。

(セイウンスカイ......ふっ、どうってことない)

彼がそう思ってゲートに入った時。彼女は微かに笑った。

『出走準備、整いました』

赤い旗が振り上げられた時。彼は開眼して、その先にあるものを見つめた。

『スタートしました。先頭に出たのは6番ゴウキャク、続いて4番セイウンスカイ』

(くっ、彼女も同じ作戦か!)

最初の坂を上りながら、和生は食いつくセイウンスカイを引き離すようにして速度を上げる。

鍛えた豪脚のパワーは凄まじく、燃料をほとんど消費せずに登り切る事ができた。

そのまま下り坂。さらに速度を上げて、彼はそのまま先頭をキープする。

背後で遠のいてゆくその姿を見ながら、さらに踏み込んで速度を上げた。

「このまま突き放すッ!!」

『6番ゴウキャク後続を大きく離してまだ加速する、スタミナ切れを恐れない豪快な戦術です」

『彼の脚質......もとい性格には合っているのではないでしょうか』

左回りにコーナーを駆け抜け独走する彼の背後に、再びセイウンスカイが忍び寄る。

「何度来ようが同じだ! 先頭は譲らん、譲らんぞおおぉぉおお!!」

「ふっ、それはどうかな!?」

フルパワーで加速する彼に負けじと彼女もペースを速める。

二人は隣り合い、お互い一歩も譲らぬままコーナーへと入った。

「和生......そのまま突き放せぇー!!」

応援する淳仁を後目に競り合いは続く。その時だった。

さっきまで全力で加速していた彼女は急に減速を始め、後方へと移る。

「何ッ!?」

それに大きく彼は動揺した。スタミナ切れだと思い、そのまま最終コーナーへと向かう。

(セイウンスカイ......口ほどにもッ!!)

『後退するセイウンスカイの前でゴウキャク。加速を続けます、ぐんぐん伸びる!』

燃料は残り45%。これら全てを加速に使えば、さらに後続を離せるだろう。

ダイヤルを回し全てを賭ける、その時。彼の背後に迫る影があった。

「お先に失礼~」

「!!?」

驚いて狂った手元を直したその時に、彼女は彼の真横まで来ている。

『セイウンスカイ再び加速! 独走するゴウキャクに迫る迫る!!』

(何あれ!? どうなってるの!)

観客席で淳仁も口を押えながらその様子を見る。手足は震え、目は見開いたまま。

「貴様、何を!?」

ペースが乱れ始め、それを見て彼女は踏み込み加速する。

「ぐっ......このぉお゛おおおおッ!!!」

感情に任せて、乱暴に芝を踏み潰しながら彼女を追う。

しかし超えられない。目の前で過ぎ行くその背中に、彼は追いつけない。

「っがああああ゛っ、あぁああ゛ああああーーッ!!」

悲痛な叫びともとれるような声を上げて、彼女に向けて手を伸ばす。

(私は超えなくてはならない! 超えなくてはならないのにぃっ!! どうして離れてゆく、そうして私を置いていく!)

その直後にBCN液が切れ、彼は急減速する。後ろから迫るウマ娘の群れに振り返り、彼は歯を食いしばった。

「このォ......上位種めがアァアアアア!!」

そう叫びながら、バ群に飲み込まれても手を伸ばし続けた。ずっと追ってきたその背中に、超えたはずのその背中に。

『セイウンスカイ、ゴウキャクを遠く突き放してゴールへ一直線! 勝利を手にしたのはセイウンスカイだぁー!!』

ゴール板を通り過ぎた後に、セイウンスカイはふぅっと息を吐いて前を向く。

「にゃは、作戦通り!」

全て彼女の手の内だった。一心不乱に走るその姿も、彼女にとっては池の中を泳ぐ魚に過ぎない。

彼は全てを、そう悟った。

「うがぁ......バカなぁ゛ああ......」

涼し気な表情でセイウンスカイは和生を見る。そうしてにいっと笑い、うつ伏せになりながら手を伸ばす彼に背中を向けて歩く。

「待て......待ってくれ......私はまだ......ああ、ああ!!」

彼女の姿は建物の陰に消え、伸ばされていた手は遂に地に落ちる。

彼はそう、まだ知らなかった。自分がまだ小さな存在だという事を。池の中の蛙、そう言われるものだった。

「くっ......私に何度手を伸ばさせれば気が済むのだッ......『ウマ娘』、ウマ娘ぇええエエ゛!!」

彼の号哭が地を揺らすように響き渡る。泣き叫ぶ彼の姿を、淳仁は唖然としながら見ていた。

「嘘......ウソ、よね」

今や彼が地を這いつくばっている事を、信じられなかったのだ。

 




――次話、運命の人と再びウマ娘を超える。

本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。

感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。

私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。
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