ウマ娘プリティーダービー Instinct of humanoid   作:ポンドアップル

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受け止めきれるか、その想い――


第9R 動き出す記憶

―― 第9R 動き出す記憶 ――

オークスの後。控室で待っていた淳仁は和生を快く出迎えた。

「和生! すごい末脚だった、本当に頑張ったね!」

彼は口角を上げて頷く。

「作戦を立ててくれた淳仁のお陰でもある。だが、何より......」

そう言いかけると、彼は自分が抱えていた豪脚を見る。その関節からは透き通った赤色の液体がぽつぽつと流れ出ていた。

「うわっ、酷い燃料漏れ......何があったの?」

聞かれた彼は彼女にレース中に起こった事を話す。まるで豪脚が彼の気持ちに応えるよう動作する事と、そのシステムの事を。

奇妙な話を聞いた彼女は、顎を擦りながら言う。

「......確かに、一説ではウマムスコンドリアは人間の感情を動力にしているって聞きますけど――」

「入っているのか?」

淳仁は眼鏡をかけて頷く。

「BCN液......正式名称『BCN-コンドリア液』。その主成分の中にはウマムスコンドリアも入っています。この人工筋肉の栄養源として採用されているものですけど......正直、開発者である私にも分からない事が多くて」

なぜかと和生が聞くと、彼女は机に頬杖をついてこう答えた。

「実のところ......人工筋肉とBCN液、中央制御装置は私が開発した物ではなく、博士が作ったものなのです。ですから......取り合えず動く事以外、私にもよく......」

「そうか。ではそのシステムとやらも博士が組み込んだものなのか」

自信なさげに彼女が頷くと、彼は少し安心した様子でドレッサーの中へと入っていった。

「ウイニングライブまでは時間があるから、それまで休んでおいて。私は豪脚の様子を見るよ」

淳仁は言い残し、豪脚を抱えてその場から去った。

――――――

数日後の朝......淳仁はトレーナー室でいつも通りタブレットをいじっている。

彼女はニュースを見ている。そしてその中には和生の事に関する記事もあった。

『オークスを勝利したのは強化人間 ――ヒトとウマ娘の境界について――』

その記事ではウマ娘に詳しい専門家と記者の二人が、人がウマ娘とどれ程離れている存在であるかなどの話をしていた。

......あまり和生の事は話題に上がっていなかったが、それを見た彼女はどこか嬉しそうな表情をしていた。

彼の活躍により、その問題に関心が向けられているのだから。

「きっとこの記事見たら喜ぶだろうなー、彼。......ん」

彼女は不意に見た窓の外から聞こえてくる蝉の鳴き声を聞いた。

(そうか.....もう6月も終わってそろそろ夏になるなぁ)

彼女は数週間前、たづなさんに言われた事を思い出す。

『そろそろ夏合宿の季節ですね! 淳仁さんと和生さんも参加が可能なので、是非ご検討を!』

今や彼と淳仁もトレセン学園に通う人間の一人だ。この機会に行っておいて損はないだろう。

(和生はあんまり興味なさげだったけどね......博士も凄い勧めてきたし、結局行く事にした)

ベッドから跳ね起きて部屋の隅に置かれたトランクを見る。そして窓の外を見ると、雲一つない晴天が広がっていた。

大きな声で鳴くセミが、彼女を夏へと呼んでいる。

「よし......」

勢いよく布団を吹き飛ばして起き上がった。

――――――

どこか遠くの町。さんさんと降り注ぐ日差しの中、宿の前に和生と淳仁は立っている。

「準備は終わったか、淳仁」

「全部運び終わったよ」

少しフランクにそう返す。彼も少し笑って頷き、その直後にいつも通りキリッとして言った。

「ではトレーニングの指導を頼む。これ程の炎天下、鍛錬には申し分ない!」

「元気だね......私も負けてらんないや!」

遠くに見える砂浜に向かって二人は元気に駆け出す。その先では、既にたくさんのウマ娘達がトレーニングに励んでいた。

和生はそこへたどり着くと、海には目もくれず体操服のまま準備運動を始める。

「今日はタイヤ引きをしてみようか」

タブレットを抱えた彼女に、和生は不思議そうに言う。

「タイヤ引き......それはどういうものだ」

「昔あったトレーニング方法だよ。2021年には一般的だったけど、専用の重りが普及してからはあまり行われなくなったね」

そう語りながら近くにあるトレーニング機器貸出所から、無茶苦茶に大きなタイヤを横倒しのまま引っ張ってきた。

「な......な!?」

目の前に聳え立つゴムの壁。ほのかに科学の香りも漂ってくる。

見たこともないその巨大な物体に彼は畏怖した。

「大きめのしか無かったけど......大丈夫そう?」

彼の表情を見て淳仁は心配する。

「......いや、ウマ娘がこれを引けるのならば、私だって簡単にやれるはずだッ!」

恐怖を振り切って、タイヤから伸びるチェーンをカラビナで豪脚と繋げた。そして脇から見ていた彼女が指示を出す。

「あっちの旗の方まで走って。じゃあいくよ......始め!」

「ぐおおおおぉぉぉぉ!!」

彼が力を入れると、豪脚もそれに応じてパワーをどんどん上げていく。しかし......巨大タイヤはなかなか動かない。

靴を砂に埋める勢いで彼は踏み込む。

「ああ゛ああああああぁ! まだまだぁ゛!!」

踏ん張る彼を応援しながら彼女は豪脚の稼働状況を見守る。

(すごい......基準値の数倍ものパワーが出てる!)

ぐんぐんと上がっていく数値を見て、淳仁は喜ぶと共に少し疑問に思う。

(――これだけのパワー......一体どこから? あれだけの量のBCN液からこんなにパワーが出せるとは思えないし......)

その時だった。

「う゛ううううぐっぁ、あ゛ああああぁぁあああ!!」

その叫び声と共に、タイヤが土埃を上げて勢いよく動き出す。そのままズルズルと速度を上げていった。

「わぁ!? すごい、すごいよ和生!」

彼を追いかけると同時にまたタブレットを見る。

(やっぱりこの数値......鍛えているだけじゃない、もしかして彼が......)

彼は旗のポールに掴まって休むと、汗を拭いながら彼女にはっきりと言う。

「はぁ......はぁ......もう一回だ、淳仁!」

どこまでも先を目指す彼に、淳仁はそっと頷いて応えた。

――――――

昼下がり。二人はブルーシートを敷いてランチを取ると共に、博士と通話を行っていた。

久しぶりに彼の姿を見れて博士も嬉しそうな様子だ。

『ふぅン......走る者の目つきになってきたじゃないか』

彼はサンドイッチを飲み込んでから返す。

「まだまだこれからだ。この後もトレーニングを続ける」

『......ンン、まぁ元気そうで何よりだ。豪脚の様子はどうかねぇ?』

淳仁はその質問に答えて、前回のレースで発動した『システム』について話す。

すると......意外な事に、彼女は驚いていた。

『”残存している全てのBCN液が注入されて莫大な加速力を得る”......? 私はそんなシステムを仕組んだ覚えはないねぇ。まぁ思いついていたら搭載していたとは思うが』

確かに博士ではないようだ。淳仁は頭を抱える。

「じゃあ中央制御装置内で勝手にそのシステムが構築されたって事ですか?」

『あれを作ったのは私だし、それ以外に誰かが触れたはずもない。そうとしか考えられないねぇ』

和生は黙ったまま腕を組んで、彼女らの話を聞いている。

「そんなオカルト......あるんですか?」

淳仁がそう呟くと、博士は少し考えるような素振りを見せた。

『まぁ......そういう事もあるって事だよ。この現象を”フルインジェクション”と命名し、研究ノートに専用の項目を設けたまえ』

「はい」

黙々と記録をする淳仁の傍らで、和生は目を閉じたまま博士に聞く。

「......本当に豪脚の制御装置を作ったのは貴様なのか」

すると彼女は画面に背を向けて、少しためてから答える。

『――もちろんだよ。なにせ私は希代の天才科学者だからね』

自慢げだった。

「さすが博士! あなたにしかそんな名乗り許されませんよ!」

『はっはっは! ......さぁ、早くトレーニングを始めたらどうだい?』

そう言われ、和生は立ち上がって彼女をじっと見る。

「和生......うん! 行こうか!」

走っていく彼女を見送って博士は通信を切る。そして――俯きながら微かに呟いた。

「......君の想い......望みは叶っているよ」

消灯した部屋で、袖を垂れながら一人佇んでいる。

――――――

夕方。今日のトレーニングメニューを終え、和生はこれから宿で瞑想をする。

「じゃあ、また明日!」

去る彼の背に手を振ると、見えなくなった所で彼女はタブレットを見る。

蓄積された大量のデータを見て、そっと呟いた。

「......彼、随分遠い所まで来ちゃったな......私......もう追いつけないや」

海に太陽が身を隠し、砂浜は橙色の輝きを放つ。そんな時だった。

『今日はもう休め! ブルボン!』

どこかから声が聞こえる。彼女の耳にそれが届く。

きょろきょろと淳仁は周りを見た。すると誰もいない砂の上で、一人であの大きなタイヤを2つも引いているウマ娘が居た。

「ミホノブルボンさん!?」

タイヤを引いている彼女の足は震えていた。相当疲れているのだろう。

そこに髭を生やした大柄な男が一人やってくる。彼女のトレーナーのようだ。

「ブルボン......無理をするな」

「マスター、脚部にダメージは見られていません。私はまだ......」

彼はブルボンの頭を撫でて、なだめるようにして言う。

「......明日また続ければいい。後は俺に任せろ」

そうして彼女を見送ると、彼はその様子をじっと見ていた淳仁の存在に気付いた。

「えっ、あ! 私は何も見てません!」

サーフボードの陰に隠れた彼女に、彼はそっと声をかけた。

――――――

波打ち際。淳仁は砂の上に座って彼と話していた。

「――あなたはミホノブルボンさんのトレーナーなんですね」

淳仁は少し緊張しながら聞く。

「ああ。俺の自慢のウマ娘だ」

彼は真っすぐ太陽を見てそう言っていた。無表情だったが、どこか誇らしげにも見える。

「彼女が引いていたタイヤって一番大きいのですよね? それを二つも引けるなんて凄いです」

「お前んとこの和生に負けてからずっとあんな感じだ」

その言葉に淳仁は胸を痛めた。

「......あいつは真っすぐなウマ娘だ。驚くほど無機質な奴だが......その中身は、俺以上に人間らしかった」

「どこまでも目標を追い続けるその気持ち......俺には今まで、そんな物は無かったな」

どこか遠くを見て語る。その視線の先に、何かを思い浮かべていたのか。

「だから俺はブルボンのトレーナーになった。夢追い人の背中を少しでも押してやれればな。......例えお前に負けたって、まだ進む」

 

「......あの、すごいです」

淳仁は俯き、涙ぐんでいた。彼がどうして泣くかと聞くと、彼女は半泣きで語る。

「そこまで担当の事を真剣に思えて、心から理解していて......背中を押そうって、なんかもう......申し訳ないです......うぅ」

そんなサマの彼女に、彼は真剣な表情で言った。

「――お前はそうじゃないのか」

「......私は......彼を支えて......支え切れて......」

彼はそっと喝を入れる。

「弱気になるな。俺達は俺達、お前らはお前らだ。彼のトレーナーとして生きろ」

その大きな手で淳仁の背中をポンと叩く。そして小さな声で、こう続けた。

「お前の担当は絶対に諦めたりしない。行くところまで行って、加速し続けるだろうな......そうなっても、支え続けてやれ」

彼女が顔を上げたその時、彼の足元にある紙袋に気が付いた。

「それは......?」

「これか。理じ――いや、同僚から貰ったアイスクリームだ」

彼はそれを持ち上げる。中にはもう何も入っていないようだった。

「美味しそうに食べていたな......とても」

思い出すようにしてそう語る。その表情は優しかった。

淳仁は少しだけ笑みを浮かべ立ち上がる。

「――ありがとうございました! 今度絶対にお礼します!」

そして勢いよく去っていった彼女に、彼はそっと笑んだ。

――――――

その頃......暗い部屋の中、和生は一人瞑想をしている。

和室の中だからか一層気合いが入っているようだった。

(まだ極は見えない......足を止めるな、私はまだ......)

その時。彼の頭に、何かが語りかけた。

『――やめて』

「なッ!?」

驚いて思わず飛び退く。周りを見渡すが......生き物の気配はない。

(くっ......またか)

精神を集中させ、再び目を閉じる。しかしまた声が聞こえた。

『やめて、そんな事望んでない! 私はただ――』

彼の頭の中に少女の声が響く。何度も......何度も。叫ぶように、内側から。

「......物の怪がッ!!」

そして遂には耐えかねて、怒鳴りながら座布団を床に叩きつける。

頭を抱えて立ちながら、彼はまたこう呟く。

「私は......超えると......そう言っているだろう!!」

彼がそう叫ぶと、その声は静まった。

(あぁ......クソッ)

結局その話は、怪談のネタとしてしか話される事は無かった。

 




本作品はpixivにも投稿されています。ご了承ください。

最近あまり作品の投稿ができず、申し訳ございませんでした。私も私生活の方が忙しく中々執筆する時間が取れず......悩みも増えて、キーボードが遠のいていくばかりです。
私は書きます。この物語の作者として、完全な状態で終わらせたいのです。
ですのでこれからも引き続き、遠くから彼らを見守っていて下さい。

感想や良点悪点などございましたら、ぜひコメントお願いします。
参考にさせて頂き、本作品の改善に努めて参ります。

私の小説が、あなたの日常に少しでも彩を加えられたのなら幸いです。
ここまで読んでくれたあなたに幸のあらんことを。
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