一般男子生徒のキヴォトス生活事情   作:ささみの照り焼き

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一般男子生徒(女装)の日常の始まりです。




一般男子生徒のキヴォトス生活事情

 トラックに轢かれたら女子生徒しかいないはずのキヴォトスに一般男子生徒として転生した。

 

「…………?」

 

 どうしてこうなった? と、頭の上でふわふわ浮かぶヘイローを見て首を傾げる。

 

 トラックに轢かれる直前にブルアカをプレイしていたからだろうか。

 それとも、聖園ミカが実装される夢を見て、目覚めてから夢だと気づき枕を涙で濡らしたせいだろうか。

 初詣行った時にたまたま足元に転がってきた百円玉で甘酒を買った罰だろうか。……多分これな気がする。

 

「月見里 ルナ……16歳……」

 

 足元に転がっていた生徒手帳を手に取り、自分の名前と年齢を確かめる。

 月見里と書いて“やまなし”。ブルアカ名物、読み方が分からん苗字のお手本みたいな苗字である。ふりがなが無けりゃ分かんなかったね。

 ルナ。女みたいな名前だ。名前に二個も月があるのはなにか意味があるのか?

 そして16歳。所属は────

 

「げ。よりによってゲヘナかよ……」

 

 問題児の巣窟。もしくはキヴォトス一の無法地帯。

 自由と混沌が校風の、おそらく作中一トラブルが多発している学校だ。公式(アロナ)がそう紹介してたから間違いない。

 一番の理想はトリニティだったんだけどな。エデン条約のゴタゴタがなければ、つまり所属するだけなら一番安牌なとこだと思う。

 次点でミレニアム。妥協で百鬼夜行。難易度ハードモードなのがアビドスで、ナイトメアなのがゲヘナとレッドウィンター。山海経はどんなとこかまだあやふやなので除外することとする。

 

「他には……」

 

 とにかく今は情報を得るために、とっ散らかりまくった部屋を漁る。ことにした。

 目が覚めていきなり姿見の前に棒立ちだったから、とにかく情報が少なすぎる。そもそもここがキヴォトスだと考えたのは、明らかに頭の上の物がヘイローだったからだ。それ以外に確証足り得る要素はさっきの学生証位のものである。

 

 部屋の中はとにかくもので溢れかえっていた。

 脱ぎ散らかされた制服。床に無造作に置かれたサブマシンガンっぽいものと、ベッド横のテーブルに転がっているハンドガンっぽいもの。

 あと一番ひどいのはコンビニの弁当ゴミで埋まった袋の山だ。一応洗って詰めてあるみたいだから虫は湧いてないが、パンパンに膨れたゴミ袋が山になっている光景は衛生的に悪すぎる。

 

「……ん」

 

 部屋を物色していると、ベッドの枕横に端末が転がっているのに気づく。

 手に取ってしばし眺めてみる。使い方がわからん。

 

「わっ」

 

 10秒ほどそうしていると手に持った端末が振動し始めた。画面らしき部分には『行政官』とだけ表示されていて、その少し下に受話器っぽいマークが出ている。

 これは、電話か? 電話だろう。…………出なきゃダメかな。出たくないなあ。

 

「…………もしもし」

 

 嫌な予感がビシバシしたが、出ない訳にもいかなそうなので通話状態にする。どうやらデフォルトでスピーカーモードになっているようで、直ぐに通話相手の声が聞こえた。

 

『──ようやく通信に出ましたね、ルナ執行委員。今何時だと思っているんですか?』

 

 聞こえたのは聞き覚えのありまくる声だった。主に総力戦で。

 いよいよ額を濡らし始めた冷や汗を拭い、枕元に置かれていた時計に目をやる。

 

「…………10時です」

『会議は9時からだと、昨日伝えましたよね?』

 

 いや知らんがな。こちとらさっき色んな意味で目ェ覚ましたばっかりなんですよ。

 

「……すいません。その、今朝から体調が悪く」

『体調が? ……言われてみれば何時もより声も低いですね。分かりました、今日は特に急務もありませんし、一先ず家で療養してください』

 

 それではお大事に、と。

 こちらがなにか答える前に通話が終わる。終わり際に小さく慌てたような声が聞こえたので、体調不良者の相手をしている暇もなくなったのだろう。

 

「ゲヘナ学園、風紀委員所属の2年生、ね……」

 

 全くもって厄介事に巻き込まれないわけが無い肩書きだ。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「なんで制服が女子生徒のものなんですか……?」

 

 聞いたところで答えてくれる存在はいない。

 姿見の向こうで呆然とした表情の、女装趣味に走った男子生徒がいるだけだ。

 

 思えば最初に鏡を見た時、疑問に思うべきだったのだ。

 男子生徒にしては華奢な体つきに。

 腰まで伸びた艶のある黒髪に。

 産毛ひとつない綺麗な手足に。

 それでも自分が男だと確信できたのは、前世では出番がなく最期を共にした我が息子のおかげであった。

 

 改めて、鏡を見る。

 中性的どころか一見すると女子にしか見えない顔立ちの俺が、ゲヘナ学園の制服を着て顔を引き攣らせいてた。

 その立ち姿は、喉仏を除けば完全に女子生徒にしか見えなかった。

 

「こいつ……女装して学校通ってやがった……ッ!」

 

 とんでもない変態がとんでもないことしてやがった! 身分詐称とか高校生で女装は無理があるだろとかファンタジーじゃねえんだぞとかそういえばここゲームの世界だったわとか、色々言いたいことがあるが。

 

「……とりあえず情報収集するしかないか」

 

 幸い、学校の方は欠席扱いになっているみたいだし。

 とにかく今は情報が足りないのだ。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「……案外バレないんだな」

 

 部屋を物色(いや俺の部屋だけどたぶん)して見つけたハーフパンツをスカートの下に装備し、喉仏を隠すためのチョーカーもあったので装備。

 いよいよ一見女子生徒にしか見えなくなった自分の姿にドン引きしつつ、自宅らしきマンションから外へと繰り出した。

 

 最初の方は結構おっかなびっくり、通行人(一部人外を含む)が通る度に視界から外れるように歩いていたのだが、誰も俺を見てないのに気づいてからは大通りのあるらしき方向に足を進めていた。

 端末の使い方が全く分からなかったので部屋に何故かあったローカルマップを参考にしつつ、一先ず新聞が置いてあるだろう公共図書館へと向かう。新聞は時事ネタの宝庫、情報収集の定番だからね。

 

「ってかこれ、持ってきても良かったのかな」

 

 腰のホルスター(これも部屋にあった)に収められたハンドガンを触る。弾は最初から装填されていたし、よくメンテナンスもされているようで汚れひとつ無かった。

 銃刀法もクソもないキヴォトスではもちろん所持すること自体に問題は無いし、むしろ持っていないと危険な目にあった時に対処出来ない。……とはいえ、小心者の純日本人としてはきらら版GTAの世界観は刺激が強すぎるのもある。

 

「どこかで見たことあるんだよなあ」

 

 ハンドガンをホルスターから取り出して目の前まで持ってくる。

 リボルバー方式のそれを眺めると強烈な既視感に襲われるが、その正体は依然はっきりとしない。

 

「見たことないはずなのに見たことあるような気がするし、手には馴染むし。不思議極まりない」

 

 右手で持ってリロードの動作を行う。銃刀法に守られた一般ピーポーであった自分はもちろん銃の扱いなんて知る由もないはずなのに、体が勝手に滑らかに動いてくれる。

 ……まあ、そのうち分かるでしょ、と銃をホルスターにしまい、

 

 

 

 チュドォオオオオオオン!!

 

 

 

「──うっそだろ」

 

 大通りに出た瞬間、目の前のビルに迫撃砲がぶち込まれる光景を目撃した。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「──えっ」

 

 その日、その大通りを通っていたのは全くの偶然であった。

 

 呼ばれていた会議に寝坊して、通信で叩き起されて小言を言われ。

 大慌てで支度して電車に乗ろうとしたら線路で爆発があったとかで運休で。

 タクシーを拾って近くまで来たは良いものの、そのタクシーが渋滞にひっかかり。

 仕方なく途中で降り歩いていくことにして道の分かりやすい大通りに出て。

 

 

 目的に向かって歩き出した途端、頭上で爆発が起きた。

 

 

「えっ、ちょっ、ちょっと──!?」

 

 飛び散るガラス片から顔を守るために頭を庇いながら走り出し、しかし日々の運動不足が祟ったのか脚がもつれて盛大に転んでしまう。

 痛む体を引き摺るようにして頭上を見上げれば、バス程の大きさはあろうかというビルの看板が軋んだ音を立て今にも落ちそうに揺れていた。

 

「────ッ」

 

 ガゴン、と辛うじて看板をつなぎ止めていた金具が外れる音が聞こえた。

 立とうとするがもつれて転んだ状態からではとても間に合わない。

 せめて少しでも前に行こうと手を伸ばし、

 

 

 

 

「ナイス生存意識」

 

 

 

 

 その手を掴んだ生徒は、私を軽々と持ち上げて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 まさに間一髪、といったところだ。

 

 ビルに直撃した迫撃砲によって看板が崩れ落ち、その真下には爆発のせいか転んだ女性が居た。

 間に合うかどうか分からなかったが見殺しにするわけにもいかないのでマジダッシュをかまし、初対面の女性には失礼かなと思いつつお姫様抱っこで抱え速攻離脱。

 

 なんとまあ、我ながら無謀なことをしたものである。

 やっぱりキヴォトス人は基本スペックが根本的に人外だ。五十メートルはあった距離が文字通り秒で詰められし、人一人抱えても全く重みを感じなかった。そりゃミニガンくらい片手で持てるわな。

 

「……えと、大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫……ありがとう」

「……どういたしまして」

 

 抱えたままなのもあれなので、花壇の縁に女性を座らせる形で降ろす。

 見たところ怪我もなさそうだし、放っておいても大丈夫だらう。

 問題は……

 

「なんだオラー!」

「すっぞオラー!」

 

 爆撃されたビルの向かい側でドンパチやってるゲヘナ(うち)の生徒だろう。

 車道挟んで10メートルも空いてないのにその距離で迫撃砲を撃つ理由が全く分からないが、キヴォトスで常識は通用しないので考えるだけ無駄だ。

 

 腰のホルスターに手を当てる。装填はしてあるし、背中のカバンに予備の弾もある。制圧に乗り出すのは可能だ。

 ……問題は当てられるか、だけど。

 まあ見て見ぬふりも出来なさそうだ。まさに今流れ弾が近くの電灯を割った。このまま放っておけば被害は拡大する一方だ。

 

「……それじゃあ、お──僕はアレの鎮圧をしてくるので。貴女は隠れていてください」

「ま、まって!」

 

 女性に一言かけてハンドガンを構えるが何故か制止される。

 不安なのか、それとも実力を疑われているのか。まあ後者だろうな。

 

「……えと。僕、ゲヘナの風紀委員なので、お気になさらず」

「そうじゃなくて! ────私も、手伝うよ」

「…………はい?」

 

 手伝う?

 失礼とは思いつつ、マジマジと女性の顔を見る。どうみたって戦えるようには見えない。銃も持っていないし、なんなら先程まで地面に突っ伏してもがいていたのを見ているのだけれど。

 

「……失礼ですが、とても戦えるようには見えないのですが」

「うん、私には戦闘力なんて皆無だよ。でも指揮には自信があるんだ」

「……指揮、ですか?」

 

 一人で集団に突っ込むのに指揮も何も無くないだろうか。そう思ったのが顔に出たのか、女性が苦笑する。

 

「まあまあ、とりあえず騙されたと思って聞いてみてよ。まずはね────」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 歩道を占拠するようにして銃撃戦を繰り広げる集団が2つ。

 双方とも、ゲヘナの生徒たちのようだ。4人1組で計8人、激しく銃を乱射しまくっている。

 

「限定どら焼はウチらのもんじゃオラー!」

「最後の一個は絶対に譲らんぞオラー!」

 

「オラオラうるさいぞオラー!」

「こちとら3時間前から並んどったんじゃオラー!」

 

 ……喧嘩の原因はどら焼きか。たかが甘味で銃撃戦に発展してあまつさえ迫撃砲まで出してくるとは、なんともキヴォトスらしい。

 

「さて……」

 

 女性からの指示は3つ。

 まず1つ目は『敵の混乱を誘う』こと。既にだいぶ混乱してるように思うが、これとは違う混乱を誘うらしい。

 

「────それっ」

 

 近くのコンビニで売っていたスモークグレネードを2つ、それぞれの集団に1個ずつ放り投げる。

 

「な、なんだこの煙はオラー!?」

「な、何も見えないぞオラー!」

 

 一つ目の指示は完了。

 次は『周りを巻き込まない場所に誘導』する、と。

 

「……ヤツらは隣のビルに逃げ込んだぞ……お、おらーっ」

 

「なんだとオラー!?」

「追いかけるぞオラー!」

 

 2つ目の指示、完了。

 流れ弾を防ぐと共に、2つの集団を1箇所にまとめて対処しやすくする、らしい。

 戦闘の繰り広げられていた真横のビルは今はテナント募集中のもので、中には廃材くらいしかない。しかもその廃材はバリケード宜しくバラけて配置されているから隠れやすい。誘導するにはいい場所だ。

 そして最後は3つ目の指示。『地形を活かして各個撃破』だ。

 

「どこだオラー!」

「出てこいオラー!」

 

 はぐれたらしき2人が大声を上げながら銃を構えて進んでいる。

 その背後の廃材から様子を伺いつつ、懐から出したコインを2人の頭上を超えていくようにして投げた。

 

「っ!? お、オラー!」

 

 コインが床に落ちた音に反応した1人が銃を乱射する。その背後から近づいた俺はもう1人の背後に忍び寄り、

 

「まず1人」

 

 引き金を引くと思ったよりも軽い衝撃と共に銃弾が放たれる。手に伝わった衝撃とは反対に、銃撃を受けた生徒がもう1人を巻き込むようにして吹き飛んだ。

 もみくちゃにされて地面に突っ伏したもう1人の背中に向けて、もう一度引き金を引く。

 

「2人」

 

 ヘイローが消えたのを確認してから急いで元の場所に戻る。もちろんコインも回収して、だ。

 

「っ、どうした!? 誰にやられた!?」

「お、オラー!」

 

 5秒経過し、さらに2人銃声を聞きつけたのか仲間らしき2人組が倒れる2人に駆け寄った。あまりの慌てぶりに1人は語尾が抜けているし、もう1人は語尾しか発せていない。

 再度コインを放り投げ、同じ要領で2人を気絶させる。

 

「4人」

 

 これで片方の集団は片付けた。残りはあと4人だ。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「……終わりました」

 

 まったく同じ要領で残りの集団を片付け、廃材のロープで縛り上げてからビルを出る。

 別の集団のはずなのに反応もやられ方も全く同じなのはどういうあれなのか。キヴォトス人は不思議だ。

 

「お疲れ様。……えっと」

「…………?」

 

 出迎えてくれた女性が言葉を続けようとして、もごもごと口ごもる。

 何かあったのかな、と首を傾げてから、名乗っていないことに気づいた。

 

「……月見里です。月見里ルナ」

「あ、ありがと。改めてお疲れ様、ルナちゃん」

 

 初対面で名前呼びだと……!? こ、この人めちゃくちゃコミュ強なタイプかよ。俺の苦手なタイプだ……。

 

「……失礼ですが、貴女のお名前は?」

「おっと、ごめんね。私は──こういうものです」

 

 ついでだし名前聞いとくか、と尋ねると、なんと名刺を差し出された。

 出来る大人感満載の対応に感動しつつ名刺を受け取り、

 

 

 

『シャーレ所属 �����先生』

 

 

 

「…………わーお」

 

 予想外の展開に頭を抱えたくなる衝動を抑えながら、推しの名言を拝借することでギリギリ自分を保つことに成功するのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「……状況を説明して貰えますか、ルナ執行委員」

 

 その後。

 ゲヘナ学園に向かう途中だったという先生が、ぜひお礼をさせて欲しいと言うのでとりあえずゲヘナに着いていくことにして。

 用事というのがまさかの風紀委員関連だったらしく、道が分からないので着いていくしか無かった俺はまさに飛んで火に入る夏の虫状態。

 顔を合わせるなり青筋を浮かべた風紀委員行政官──天雨アコに正座を支持され拒否権なく座らされていた。

 

「あ、あのね、アコ。彼女は私を助けてくれて──」

「先生は黙っていてください」

「あ、ハイ」

 

 助けを求めて先生を見るが、速攻で負けていた。どうしたんだ先生、賭けに勝ってこの行政官に首輪つけて散歩した時の貴女はどこに行ったんだ。いや同一人物かは知らんけど。

 

「…………体調が悪かったのは、ホントです」

「それは疑っていません。現に声が出しにくそうですし、元より休んでいいと言ったのは私です」

 

 いや声が出しにくいのは高めの声出すために調声してるからです。通話してる時に声が低いって言われたの気にして高めに出すよう意識してるだけです。

 

「問題は────何故非番になったはずの貴女が。シャーレの先生と。暴動を鎮圧していたのか、ということです」

「…………な、なりゆきで」

「成り行きで煙幕張ってサバゲー会場に乱入して8人仕留める馬鹿が何処にいますか!」

「ひぇっ」

 

 そうなのだ。あのテナント募集中だと思っていたビル、なんとサバゲー真っ最中だったらしいのだ。

 そんな中外で煙幕張って乱入したのだから、即ゲヘナ学園に苦情が行き、気絶して縛られていた生徒たちから事情を聞いたり目撃情報確認したりで、俺の仕業だとバレたのである。

 

「ま、まあまあアコちゃん。ルナは何も悪いことはしてないんだから……」

「そうですよ、行政官。むしろ彼女は暴動を鎮圧した訳ですから、褒めてあげても良いのではありませんか?」

「ぐっ……2人ともルナに甘すぎるんです。というかそもそも、先生が遅刻しなければ起こりえなかった話で……!」

「あ、あれ? 私に飛び火した!?」

 

 飛び火も何もあんたしっかり遅刻しとるぞ。いや俺もだけど。

 

「ほら、とりあえず座りなよ、ルナ」

「……ありがとう」

 

 ターゲットが先生に移ったのを見て、銀髪褐色の女の子──銀鏡イオリが椅子を引いてくれたので大人しく座ることにする。どうやらブルアカ難読苗字ランキング上位の彼女とも顔見知りらしい。

 というか風紀委員所属なのだから当たり前の話か。もう1人、火宮チナツとも顔見知りのようだし。

 

「体調が悪いと聞きましたが、出歩いて大丈夫だったんですか?」

「……外の空気吸ったら治った」

「なんじゃそりゃ。……本当に体調悪かったの?」

 

 まあそこそこ、と適当に頷く。実際のところ、混乱ここに極まれりといった感じでとにかくてんやわんやしていたし。

 今に至っては先生が女性だわ俺が風紀委員と結構親しげな間柄っぽいはで情報過多になっちゃって、一周まわって落ち着いてきたまである。人間不思議だよね。

 

「では、行政官のお説教が終わるまで、我々は少し休憩といきましょうか」

「賛成。朝から会議だったし、今日は結構疲れてるからね」

「…………」

 

 え? なんで2人とも自然な感じで俺の両隣に落ち着いてるの? え? 近くない? あっ何かナチュラルに髪触られ始めてる!

 

「そういえばルナ、今日は髪結んでないんだね。いつもはポニーテールにしてるのに」

「いつものポニーテールもいいですが、今日みたいに降ろしているのも似合いますね。髪ツヤもいいですし」

「……そ、そそ、そうかな。そうかも」

 

 そうして、先生のお説教が終わるまでの約10分間、俺は2人に好き放題髪をいじられ続ける事となった。

 

 

 


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