一般男子生徒のキヴォトス生活事情   作:ささみの照り焼き

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一般男子生徒のキヴォトス生活事情その2

 いくつか問題があった。

 

 1つ目。ゲヘナ学園での生活。

 簡易的な生徒情報は入手できたが、人間関係が分からなさすぎた。

 イオリ、チナツの距離が近いのを始めとして、何やらやけに頼ってくる風紀委員(モブ)たち。たまたま鉢合わせた万魔殿(マコト、イブキ、イロハ)からお見舞いと称したお菓子を貰い、街ですれ違った美食研究会が気軽に挨拶してくる。

 前2つはまあ分かる。俺風紀委員だし。だが後者2つはどうなってるんだ? 俺風紀委員だぞ? ゲヘナ学園風紀委員会の2大敵対組織(全部身内)だぞ?

 

 2つ目。寮での生活。

 特にお風呂。シャワーは自室にあるが、浴槽に浸かるとなると共用の大浴場しかない。今のところシャワーだけで何とかなってはいるが、純日本人としてはお風呂に入りたくなるもので……。

 今のところ、誰もいない時間帯を調べている最中だ。

 

 3つ目。……これが一番の問題。シャーレでの生活だ。

 アプリではホーム画面に好きな生徒を配置するだけだった『当番』。これがなんと、日替り、もしくは一定期間事に先生の業務を補助する、という立派なお仕事として存在する。その業務も様々で、書類仕事から暴動鎮圧などの実務、地域住民のお悩み解決など、本当に様々だ。

 例えば今日も、街のパトロールを終えてシャーレに戻ってきた──わけなのだが。

 

「ふう。お疲れ様、ルナ。だいぶ汚れちゃったし、先にシャワー浴びてきたら?」

 

 シャーレに着く直前にゲリラ豪雨に降られ、びしょびしょになった先生と俺。

 エレベーター前で待っていた俺に先生がタオルを手渡し、シャワールームを指さす。

 しっとりと濡れた髪。水分を含んで肌に張り付き、白の制服が透けて下着がうっすらと──

 

「ふんっ」

「えっ!?」

 

 ゴッ、と自分の顎を自分でぶん殴って視線を頭ごと上にかち上げた。

 

「……お言葉に甘えて、シャワーいただきます」

「う、うん。……え、大丈夫?」

「大丈夫です」

 

 贅沢な悩みだ、と前世の俺なら血涙を流したに違いない。

 年上のきれいなお姉さんと2人きり。雨に降られ濡れた肌と肌を合わせぐふぐふゲフンゲフン。そんな妄想を垂れ流しながら。

 

「…………女子の距離感えげつないって」

 

 先日のイオリ、チナツしかり。今の無防備な姿の先生しかり。

 男なら誰もが勘違いするような距離感でスキンシップされると、その、ものすごーーーーーく、困る。

 

「…………バレたらどうなるんだろ」

 

 シャワーの音にかき消されるほど小さな声で独りごちる。

 この世界は美少女×銃がテーマの、学園青春RPGだ。そこに先生(主人公)以外の男性は存在しない。……いやまあ、作中において先生が男性であると明言されたわけではないが、アロナの似顔絵や便利屋漫画は男性の先生だ。

 

 ……そもそも。

 何故俺はこの世界に、しかも男子生徒(女装)として存在しているのか。

 

「………………はぁ。わからん」

 

 考察は好きだけど苦手だ。もとよりそれほど頭の出来がいい方じゃない。シャーレの仕事だって、書類仕事を任された時は1枚の書類を処理するのに1時間かかった。それも先生に教えてもらいながら。

 

「考えられるとすれば────色彩、か」

 

 外より来たもの。神秘を恐怖へと反転させるモノ。

 そしてこの作品(ブルーアーカイブ)において、おそらく最終的に打倒すべき存在であるモノ。

 ……それがどうたらこーたらで、俺に息子が生えたとか、そんな感じのやつ。

 俺にはそれぐらいしか想像できない。こんなことになるなら、考察まとめでも読み漁っておくんだった。

 

 

 

 

 

「先生、上がりました。……あ」

「……あ」

 

 濡れた髪を乾かすのもそこそこに、シャワー室を出て事務室に来てみれば。

 ラフな格好に着替えた先生がしゃがみこみ、小型の冷蔵庫から缶をひとつ、取り出そうとしているところだった。

 

「え、えっとその、これはね」

「……セリナさんとフウカさんに、お酒は止められてましたよね?」

「うぐ」

 

 カラフルかつキュートなデザインのそれは、前世でよく見なれたチューハイ缶──に告示したキヴォトス独自のメーカーが販売している缶チューハイだった。

 

「……そもそも、今からシャワーを浴びる人がお酒を飲まないでください。倒れられたら、僕が怒られます」

「うぅ……ひ、ひと口だけ……」

「……ダメです。とにかく先にシャワー浴びてください」

 

 あぁ〜、とチューハイに未練タラタラな先生をシャワー室に押し込む。

 

「そういえば帰りに寄りたいとこがある、とか言って買い物してたっけ。……キヴォトスでもお酒売ってるんだな」

 

 ここキヴォトスは学園都市であり、当然ながら街を歩けば未成年がウロウロしている。そんな場所でアルコール飲料が売られているとは意外だ。

 

 ……考えてみれば、コンビニやスーパーではアルコール飲料を見かけていなかった気がする。先生が寄り道したのも入り組んだ路地にある小さな自販機だったし。免許証か何か、身分証が必要なタイプのやつだったのだろうか。

 それに不良学生たちがよく略奪しているのを見掛けるが、アルコールの類を欲しがっているところを見た事がないのも意外といえば意外だった。普通、不良と言えば未成年飲酒、なんてイメージもありそうなのだが。

 

「……ま、流石にソシャゲでそれはまずいか」

 

 呟き、俺は今日の報告書の作成を始めるのだった。

 

 

 

 

 

「トリニティに出張、ですか」

「うん、明後日からね。しばらくはシャーレを離れて、トリニティに居ることになるかな」

 

 俺の作った報告書に目を通しながら、先生が直近の予定を教えてくれた。

 ……ちなみにテーブルには、チューハイ缶の代わりに俺が用意したカフェラテがある。シャーレの休憩室は思いの外設備が充実していて、コーヒーの類であれば簡単に用意できた。

 

「今回はティーパーティー……えっと、ゲヘナで言うところの万魔殿からの依頼でね」

「あぁ……」

 

 なるほど、と声には出さず納得する。

 シャーレの仕事をしながら色々と情報収集をしていた感じ、まだエデン条約編が始まっていないのは知っていたが、まさか明後日からとは。

 

「……エデン条約絡みですかね」

「エデン条約?」

「……………………(まじかこの人、という目)」

「……いやその、最近はシャーレの業務で忙しくて」

 

 シャーレの発足前どころか連邦生徒会長がいた頃から計画されていた条約ですが、と詰めても良かったが、とりあえず簡易的な資料を出して説明することにする。

 

「……ゲヘナとトリニティの関係が最悪なのは、先生もご存知だと思いますが」

「ああうん。アコとハスミにシャーレのサポートを頼んだ時は……まあ、凄かったよ」

 

 トリニティ嫌いとゲヘナ嫌いの筆頭じゃん。よくその2人合わせようとした……というかよく会ってくれたな。晄輪大祭の実行委員になった時でさえ、喧嘩の絶えなかった2人なのに。

 

「……端的に説明すると、エデン条約はゲヘナとトリニティの不可侵条約です。仲良くしましょう、というよりは殴り合うのをやめましょう、くらいですが」

 

 ちなみに、ゲヘナ側の生徒会である万魔殿はこの条約にあまり好意的ではない。どちらかと言うと風紀委員──ヒナの方が賛成派だ。

 トリニティではそれほど強い反発はないだろうが、この条約に納得のいっていない生徒なんてごまんといるだろう。

 例えるならばまさに水と油。交わることの無いふたつの学園が拳を収めて話し合いの席に着く。……そんな感じの条約だ。もちろん、内訳はもっとしっかりとした不可侵条約だが。

 

「…………こんなものを結んだところで、ゲヘナもトリニティも争いを辞めるとは思えませんが」

「……ルナ」

 

 ──だって美食研(テロリスト)とか温泉開発部(テロリスト)とか便利屋(半テロリスト)とかいるし。

 

「これは私の考えだけれど、まずは形から入ることが重要なんじゃないかな」

 

 と、そんなことを考えている俺を諦観していると見たのか、先生が資料から目を上げて語り出した。

 

「ただの口約束じゃなくて、キチンと条約を結ぶことで──相手を信じる。その切っ掛けを作るためにも、ね」

「……形から」

 

 …………まあ俺も女装(形から)入っているので、言いたい気とはわかる。

 例えこの先、エデン条約が色んな要因で結ばれない未来が確約されているとしても。この条約があったことで、救われた生徒は数え切れないほど居るのだから。

 

「……先生」

「うん?」

「頑張ってきてください、ね」

 

 この先。

 ティーパーティーの思惑に揺さぶられ、補習授業部の成績の悪さにぶっ倒れ、ミサイルの直撃に巻き込まれ、腹を銃弾でぶち抜かれて、1人のお姫様を救うことになるでしょうけど。

 

 

「──もちろん!」

 

 

 ……まじでこの人、主人公じゃなきゃ死んでるよな。

 

 

 

 

 

「ルナ。ちょっといい?」

 

 数日後、放課後。

 風紀委員の活動を終えてさて帰宅しようかと荷物をまとめているところに、ヒナ委員長から呼び止められた。

 

「……はい。なんでしょう」

「ついさっき先生から連絡があって……トリニティで美食研究会を捕まえたらしくて。引取りに行くから、貴女にも着いてきて欲しいの」

「……美食研究会」

 

 数日前にたまたま街中で鉢合わせた時のことを思い出す。

 

 

「あら、ルナさんではありませんか。ごきげんよう」

「えっ」

「あっ! ルナだ! この前言ってたパクチーすき焼きチョコ、あげるね!」

「えっ要らない」

「はいこれ、この間借りたヘアピン。ありがとね」

「あ、うす」

「うふふ。ではまた、お会いしましょうね? はいた〜っち」

「は、はいた〜っち?」

 

 

 ハルナには気さくな挨拶をされ、イズミにはゲテモノチョコを押し付けられ、ジュンコからヘアピンを返却され、アカリからハイタッチされた。

 ……マジでなんだったんだろな、アレ。

 

「貴女は比較的美食研究会からは好かれているし、居てくれると助かるのだけど」

「……はい。分かりました」

 

 えっ好かれてるの俺──と声に出さなかった俺に拍手喝采を送りたかった。

 

 

 

 

 

 

 テロリスト──もとい美食研究会の引き渡しはトリニティとの境界付近で、先生を通して行われることになった。

 ゲヘナ側からの回収は政治との関わりが比較的薄い救急医学部の氷室セナが担当することになる。口を開けば死体死体と物騒な彼女だが、ゲヘナの中では比較的まともな方だ。……トリニティの救護と比べれば、ゲヘナ所属である利点とも言えるくらいには。

 

「ヒナ、それにルナ、久しぶりだね」

「ええ。久しぶり、先生」

「……お久しぶりです」

 

 美食研究会(+給食部のフウカ)がセナにドナドナされた後、ヒナ委員長と2人で先生に挨拶する。

 すれ違いざまに美食研究会から気さくな挨拶をされたが、やらかしたあとなので冷たい視線を返せば、ヤレヤレと呆れた感じで返された。何言ってんだよこのテロリスト共。

 

「……では、挨拶もしたので僕はこれで」

「え? もう?」

「……はい。僕は特に話したいことは無いので。ヒナ委員長に譲ります」

「……ありがとう、ルナ」

 

 いえいえ、と軽く会釈して車に戻る。

 

「おや。もうお話は済んだのですか? ルナさん」

「……元々、僕は付き添いだから」

 

 車に戻ると美食研究会に絡まれて鬱陶しいが──委員長と先生の会話は邪魔しちゃダメだからね。

 

「……というか。僕、美食研究会にそんなに親しくされる様なこと、した覚えがないんだけど」

 

 何人かに聞いてみたけど、みんなも理由は知らなかった。何故か俺に対する態度が友好的なのは皆知っていて、それを活用されたりはしていたようだが。

 こうして話している間もハルナは大人しい様子だし、他のメンバーも大人しく縛られている。ヒナ委員長みたいな実力者相手ならともかく、ただの執行委員に対する態度とは思えない。

 

「そうですわね。貴女は風紀委員の執行委員で、私たちは美食を追い求める者。互いの正義をぶつけ合うこともありますが──ええまあ、その理由を秘密にしておくのも“美食の一つ”ということで」

「……訳が分からない」

 

 その後も何度か尋ねてみたが、のらりくらりと躱され──結局時間切れとなり、その理由は分からずじまいであった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで数日が過ぎ。

 一旦落ち着いたらしい先生がシャーレに戻ってきてから、はや数日。

 今日は放課後の風紀委員活動の前にミーティングがあるとの事で、ミーティングルームに俺、イオリ、チナツ、アコの4人が集まっていた。

 

 ……うん? なんでミーティングなのにこんな少人数? それにヒナ委員長の姿が見えない。

 

 キョロキョロとしていると、アコがギロリとこちらを睨みつけてきたので大人しく座り直す。

 ……なんだか今日の、というかココ最近のアコは凄く気がたっている。

 

「──今日は皆さんに大切なお話があります」

 

 何故だろう、と考えようとする間もなく、アコが手元のタブレットを操作して電子ボードに画像を映す。

 そこには────

 

 

「議題は、『今年の夏季訓練』についてです」

 

 

 ……夏季訓練。

 そういえばそんな時期か、と納得する。時系列的にはエデン条約編の2章と3章の間くらいのお話で、お疲れ気味のヒナ委員長のために風紀委員が総力を上げて水着(・・)バカンスを用意するというお話で────

 

 

 

 水着?

 

 

 

 

 終わったわ。

 




次回、女装男子の水着回。(更新日未定)
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