脳筋、きさらぎ駅に行く   作:草原山木

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『聴取』▶︎閑話。

「そうですか」

 

すっかり傷も癒えかけたころ、私は友人が入信していたカルト教団『鼃の目』が、"複数”の霊媒師によって壊滅した報せを受けた。その時初めて、依頼を出した平井夫妻がカルト教団によって、危篤な状況であったことを知った。

 

病室にやってきた警察関係者から事のあらましを聞くと、私の友人は無事らしい。主神である、教団の黒幕が敗れたことによって、それまでかけられていた信者の洗脳が解けたのだという。

 

ただ、教団は殺人などの重い犯罪を繰り返していたため、今は信者の全員が拘置所に収容され、事情聴取を受けているという。もちろん、友人のカナミも例外では無い。

当然洗脳状態だったせいか、当時の状況を覚えている人間が一切おらず、取り調べは停滞しているという。

 

壊滅後の本拠地があった、O町の山は現在、お清めを行っているらしく、近隣住民が祭りと見紛うほど規模も大きく荘厳らしい。山に灯篭をともし、鈴の音と舞を踊り山神の怒りを沈める…お清めと言うからてっきりお酒と塩をスプリンクラーかなんかで振りまく、現代的なものかと思ったけれど、広大な土地を清めるとなれば、それなりの金と労力が必要だという。

 

私はすっかり退院出来る体調に戻っていたので、無理を言って同じ病院で療養している平井夫妻の元へ陳謝しに行くことにした。

 

「本当にこの度は、申し訳ありません」

 

「いえいえ、実は元から鼃の目の壊滅は私たちが関わっている組織(八咫烏)も、目下の課題としていまして、タイミングがちょうどあっていたんですよ」

 

「でも、こんな…怪我をされて」

 

「この仕事に怪我は付き物ですし、なにより手足の欠損はこれが最初では無いですから」

 

手首から先のない腕を振りながら笑う、平井ケンジさん。とても笑い事じゃない気がすると私は顔が強ばった。

 

「まぁ、これを機に少しはフィリピンで療養しろって言う…神からの啓示でしょう」

 

「フィリピンに、高名な医師でも…?」

 

「えぇ、フィリピンのバナハオ山にいる友人が優秀な心霊治療師でして…あぁ、安心してくださいしっかり、"医師免許を持った"治療師兼医師ですから」

 

昔から流行病に対して祈祷を行う文化は、ここ日本でも根強い。ただそれは医学的進歩がまだまだ未発達であったため、神頼みをしていたに過ぎない。科学が発展した現代において、心霊治療というものがどれほど通用するのかは、私でも疑問に思うところだけれど、ケンジさんの口ぶりからして、一度欠損した四肢を元通りに治していると伺える。

 

そんなこと現代の医療技術に可能なのだろうか…疑問を感じ問いたいと思ったが、そもそも不可能を可能にしてしまうのがオカルト的な力なので、喉から出る寸のところで私は声を押し殺した。

 

「由紀子さんも一度フィリピンに行ってみてください、私の知り合いと言えば喜んで治療していただけますよ…まぁ、今の貴女には必要なさそうですが」

 

平井夫妻は既に完治していた私を見て苦笑いをうかべた。

私の身に降りかかった悲劇は、体内に寄生していた穢れを払うことにより、幾分改善することが出来たというが、いくら穢れを払ったとて人体の自然治癒でここまで早く完治するのは医師の見解からしてみても、異常だという。

 

お祓いの方法が良かったのだと思う。

 

多分。

 

それから数日、私は無事退院することになった。

今回の騒動がまさかここまで大きくなるなんて思ってもいなかったけれど、万事解決して本当に良かったと思う。ただ、少しだけ疑問が残る。

 

私がカナミと再会したあの日、彼女の口から聞き覚えのない名前が出ていたことを私は忘れない。

 

里崎くん

 

一体どこの誰なのか。

警察関係者の方に、教団の中に里崎という人物が居ないかと問うてみたけれど、如何せんしっくりくる返答がなかった。つまり、そんな人物はいなかった。

 

カナミの口ぶりでは、私も知っているほどの旧知の人物だと言うけれど…はたして、真相は分からない。

 

 

 

 

 

閑話。

 

 

 

 

 

通帳に振り込まれた6000万円は、あまりにも使い道が無さすぎてもはやタンスの肥やしになりつつあった。

カエル愛好会を叩き潰してから数日が経ち、再びいつもの生活に戻ることとなった矢先、Ms.岩井から急な仕事があると電話を受けた。

 

暇なので受けてみることにした。

 

指定された永田町のよく分からん建物に行くと、そこには黒塗りの車数台と、警察車両、見るからに権力持ってそうな髭を生やした老人がいた。

 

「どうもー」

 

「初めまして、私は梅辻(うめつじ)と申します。武部 剛さんの武勇はかねがね聞いております」

 

「へぇ、俺のこと知ってるの」

 

「えぇ、今や貴殿は我々が目の上のたんこぶとしていた、鼃の目を壊滅させた張本人。この度のような事態には是非とも、貴殿のような人物を宛てがいたく思っております、ささ…早速車に」

 

促されたので後部座席に乗り込む。

身体が大きすぎて、ドアの部分で詰まりかけたけど、何とか入れた。

 

「本当はご自宅にお伺いしたいのですが、岩井殿からご本人が嫌がられたら事だ、と厳しく言われたものでして…ここに来るまでの交通費は是非ともこちらの負担にさせていただきます故、悪しからずご了承ください」

 

「別に、来てくれてもいいのにー。電車の中で俺がいると、狭く感じて嫌がられるんだよ?」

 

「左様でしたか、でしたら次回からは是非ともお迎えにあがらせて頂きます」

 

「そういえば今日はどこに行くの」

 

「首相公邸です」

 

車で進むこと数分。

 

見えてきたのは古めかしい建物。

 

首相公邸。いわゆる総理大臣のお家だ。

大量の警察に囲まれながら、一般人は入れないであろう重厚な門を潜る。

 

塀の奥にはこれまた多くの政府関係者や官僚がずらりと揃っていた。日は高く、公邸の中に植わった木々がざわめく。冬なのに少し暖かい。

 

建物の前に横付けされると、ドアが開かれたので、苦しくなりながら車から降りた。今度から車をよこしてくれる時はミニバンでお願いするとしよう。セダンはどうも好かん。

 

車から降りると、その場にいたスーツを着た大人が、これはこれはと言いながら一礼をした。中央にはよく見知った顔がある。

 

「ようこそおいで下さいました。内閣総理大臣の橋ヶ谷と申します…いやはや、噂にはお聞きしている通りやはり大きいですね」

 

握手をしている初老の男性、何を隠そう現内閣総理大臣 橋ヶ谷(はしがや)一郎その人である。まさか総理大臣がいるとは思わなんだ。

 

「今日は、よろしくお願いしますよ…ほんとに…あ、これは梅辻様…いやすいません気づかず」

 

「はは、気にせんで良い楽にしてくれ」

 

梅辻とかいう老人を見た瞬間、総理大臣の腰がめちゃくちゃ低くなった。

この爺さん、ゴマをスられる側の人間だったか。よく分からない関係性にボケっとしつつ、目の前の建物を見やる。

 

確実にここには何かがいると確信した。

 

「気になりますかな」

 

じっと見つめていると、梅辻おじいちゃんが肩に手を置きながら説明してきた。

 

「まぁね」

 

「ここは日本の中心地。古くから政治の礎を築いてきた由緒ある土地な訳でして、当然そうなれば様々な事件が起こるわけですよ。226事件など」

 

そういえば、そんなクーデターを学校で習ったような気がしなくもない。

人が何人も死んでいると言われれば建物から溢れ出るドロっとしたどす黒い何かがあるのも納得だ。

 

「それに加え、やはり政治家というものは国民からの期待と恨みを受けやすい。特に税や法制定に関することは強い罵声を誰しも抱くのが当たり前となりつつある。そういった負の感情が溜まると、濃密な穢れの起点となっているここ首相公邸に磁石のように引き寄せられる…ですからこうして定期的にお祓いをして穢れを祓ってやらねばならんのですよ」

 

「一気に潰せないの?」

 

「それは無理ですとも、なにせここの穢れは膨大…それに、ここに穢れの起点を作ることで幾分永田町全体に立ちこめる負の感情も一気に祓いやすくなる…首相公邸とは名ばかりに、実態は恨み辛みをかき集める集積所と言ってもいいでしょう」

 

「じゃあ、全部祓ったらダメってわけね」

 

「はい、程よく残してくださるとこちらとしてもありがたいです」

 

「なんか、山菜採りのマナーみたいだな」

 

首相公邸にはお化けが出る。

昔から言われているこの都市伝説じみた逸話は、実際に首相公邸に住んだ総理大臣がかなり少ないのも信用たる材料になっている。

 

「では、お願い致しますよ」

 

「おーけい」

 

俺は着ていたジャケットを脱ぎ、シャツの袖を捲り上げると、そのまま公邸の中に足を踏み入れた。

 

 

 

 

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