脳筋、きさらぎ駅に行く   作:草原山木

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死。

濃密な殺気。

 

崩壊した八咫烏。

 

全てが最悪な状況。

 

ついに日本は終わる。

と落胆するのも束の間だった。

 

 

「…ふぅ、セーーフ」

 

「でもこれで、もう効力は無くなったね」

 

タイに伝わる魔除のタトゥー サクヤン。寺院の僧侶によって彫られる紋章のようなそのタトゥーは、そもそも魔除けの意味を持つ刺青の中でもとりわけ効力の強いことで知られている。

 

特に海外のシャーマンや霊媒師等、幅広い人脈を形成するケンジは、鼃の目の一件以前から自身らの背中にこのサクヤンを施す計画を立てていた。

数週間に及ぶ祈祷、厳選された墨、施す紋章の内容。一から作り上げる最強の魔除け。

タイにおいても高僧と名高い数名の僧侶と共に練り上げたそれは、魔除としては最強と言っても過言では無い、アストラル体と肉体との強力な結び付きを可能とした。

 

つまるところ、分かりやすく言えば『残機』をたった一つだけ増やすことが出来るという、とんでも仕様だった。当然、彫るのにもかなりの労力と金がかかる。

 

そもそも死者蘇生とは可能なものなのか…と言われれば、それは不可能である。

 

しかし死後からわずかしか時間が経っていないこと、遺体の損壊が極めて軽微であること、あと運。これらの要素が交われば蘇生は可能である。その運要素を補正するのがこの度のサクヤンの役割。

 

説明が長くなったものの、つまるところこう言いたい

 

 

 

平井夫妻、復活!!

 

 

 

「さてと…逃げも待ったなし」

 

「はぁ…これが人生最大の仕事になりそう」

 

「じゃあ、祓おうか…茜ちゃん」

 

「うん」

 

起き上がった2人は静かに銃器を構えた。

もはやその様、百戦錬磨の傭兵そのもの、会敵するは日本三大怨霊が一人。勇猛とも無謀とも言える祓いにいざ挑まんと、一度深呼吸をする。

 

 

静寂から一転。

 

1発の銃声を皮切りにマズルフラッシュが地下を明るく照らした。

 

 

しかしいくら銃弾が当たれど、怯むことは無い。それどころか、徐々にゆったりとした足取りで近づいてくる。身体中に穴を開け、衝撃に身体を震わせながら、

 

ヒタリヒタリとゆっくり、ゆったり、細長く爪の伸びきった腕を前に突き出し、喉仏を掻き切らんと着実に歩みを進めていた。

 

後退しながら銃を撃ち続ける夫妻。

一瞬でも途絶えればそれが最後。

 

闇に包まれた瞬間、待ち受けるのは明確な『死』

 

ついにマシンガンの弾が尽きかけたことを察した茜は、すっかり錆きった童子切安綱を手に持ち、駆けた。すかさずケンジが聖水の入った瓶を怨霊に向かって投げつける。

1発の弾丸が、ガラスを粉砕すると同時に降り注ぐ聖水。隙に命を刈り取らんと、目に止まらぬ速さでケンジの首元に牙を立てる崇徳天皇。ゆらゆらと長い髪を浮かし、充血した真っ黒な瞳で食いちぎろうと、(あぎと)を大きく開けた。

 

「…ッ」

 

寸。

 

動きが止まった。

獣のような荒い息で肩を揺らしながら、汗を流す。聖水に濡れた全身から煙が立ち上った。

 

古くより、吸血鬼…つまるところ鬼に対して絶大な効果を見せる聖水。ただの水と侮ることなかれ、その効能は凄まじくそれこそ触れるだけで死に至らしめる穢れをも無効にする力がある。

 

それを怨霊にかければどうなるか。

 

 

その場に膝をつき、鈍い動きでケンジの脚を掴む崇徳天皇は、息切れ切れになりながらも鋭い爪を皮膚に突き立てた。血が流れる。

僅かではあるが、聖水を浴びればどんな怪異でも弱体化する。それはもちろん、平将門と同等に恐れられる怨霊にも有効であった。

 

祓うのであれば今しかない。

錆びた宝刀を構えた茜は、それを怨霊の首に突き立てた。

 

喉仏を切り裂くことも無く途中で止まる刃。

墨のような血を垂れ流しながら、ゆっくりと立ち上がる崇徳天皇。首に突き刺さった刀を抜き地面に放り投げた。

 

そして自らの腕で、切れかけた首をもぎ取る。瞬間、着ていた装束が地面に無気力に落ち。胴体は霧となって消え去った。生首は、まるで風船のように浮かび上がり闇の中に消える。

 

「…はぁ、はぁ」

 

「傷、大丈夫?」

 

「…聖水かければ」

 

「そうだね、とりあえず穢れだけ洗い流そう」

 

穢れや邪気から身を守るサクヤンでも、さすがに傷から侵入してきたものから身を守ることは出来ない。深く刻まれた4本の爪痕。治癒こそ出来ないが、こびり付いた濃密な穢れを洗い流すだけでも治りが違う。

 

茜は、聖水を取り出してそれをかけた。

万能故に値段は高い。一本120万するそれは、ポルトガルはファティマにて湧き出たとされる水を採取したもので、現代では汲むことが不可能ゆえに、珍重されている。

 

「…取り逃した」

 

傷の手当を受けながら、ケンジは悔しげに唇を噛んだ。眉間に皺を寄せ、悔やみから、ため息が漏れる。

 

「とりあえず、病院行こ」

 

「うん…」

 

2人はゆっくりとした足取りで、地上へ出るための階段を登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずこの章は終わりです。
次から新章…。
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