脳筋、きさらぎ駅に行く   作:草原山木

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眼前に倒れふす、身の丈3mの老人をみて、私は額に手を当てた。先程の攻防は非常にあっけなく、怪物のような見た目をした枯れ木のような片足の老人が私を見て襲いかかろうとした矢先、剛さんが持っていた鉄パイプで膝を殴打した結果、見るも無惨に悲鳴をあげながら倒れてしまった。

 

「見た目だけで弱っちいな!」

 

大きさが3mほどある怪物を1発のクリティカルヒットで倒してしまう剛さんが、あまりにも恐ろしい。先程から、倒れ込む怪物を煽り散らかすように、パイプの先っちょでえいえいと、つついているが今にも再起しそうで気が気じゃないのでやめて欲しい。

 

「んで、片足の老人はペケと」

 

「そうですね…なんかすいませんホント」

 

「気にすんなって、何かあれば俺が殴るだけだ」

 

物騒すぎる人だけど、この混沌とした世界だと非常に頼もしく見える。

とりあえず、老人が手がかりでないと分かった私たちは途方に暮れるしか無かった。

 

「荷物とかまさぐってみるか」

 

「そうですね」

 

怪物のポケットを色々と物色してみるが依然として手がかりはなかった。そんな中、頭に被っていたテンガロンハットを剛さんが開けるとそこには古めかしい鍵のようなものが入っていた。

 

「ドロップアイテムゲット」

 

「どこの鍵なんでしょうねそれ」

 

「駅とか?」

 

「きさらぎ駅ですか?うーん」

 

体感5日前のことなのでよく覚えている。きさらぎ駅はいわゆる簡単な駅のホームといった感じで、特段鍵を使って開けるような建物や扉はなかったはずだ。それに帽子から出てきた鍵は、古めかしい南京錠に使うような簡易的なもので、現代の溝の入った複雑なそれとは違っていた。

 

「これが合う鍵穴がどこかにあるってことですよね」

 

「とりあえずトンネル行ってみるか」

 

「どうしてです?」

 

「駅以外に建物らしいものと言えば、そこしかないし」

 

「そういえばそうでした」

 

トンネルに扉なんて果たしてあるのだろうか。

 

という心配も杞憂に終わった。

トンネルに扉は"あった"。いわゆる横穴に通ずる鉄製の古めかしいもので、加えて南京錠の着いたまさに探し求めていたものを体現したような代物だった。見つけるやいなや私共々、飛び跳ねるほど喜んだが、剛さんがあまりにも躊躇なく開けようとするので、私は思わず彼を制止した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください…開けて中からとんでもないものが出てきたら…」

 

「殴るでしょ」

 

「あ、いやそうじゃなくて…ほら今までは物理攻撃も効きましたけど…なんて言えばいいんですかね、怨霊のような、おどろおどろしいものが出てきたら流石の剛さんでも」

 

「ちょっと待ってて」

 

「え、あ、はい」

 

私の懸念もやまやまに、剛さんは持っていたバッグをゴソゴソと漁り「あった」といいながら、小さな袋を取りだした。

 

「なんですかそれ」

 

「これ?ほら、葬式の後とかに塩貰うだろ…それ」

 

「え、お清めの塩ですか?」

 

「そう、これを鉄パイプに満遍なくふりかけて…完成」

 

「ちょ、料理作るみたいなノリでなにしてるんですか」

 

「対特攻怨霊用鉄パイプ、塩塗りゃ幽霊もぶっ殺せるだろ」

 

「いやいやいや…」

 

さすがにそれは無理がありすぎると思う。塩にそんな海楼石のような効果は無いはずだ。それに幽霊もぶっ殺せると言っているが、既に幽霊は死んでいるので効くとは思えない。

 

「じゃあ、開けるぞ」

 

「あ、ちょっと」

 

私の制止を無視して、剛さんは鍵を南京錠に差し込んだ。しかし、あまりにも古くさびているのか上手く回る気配は無い。

 

「…あぁ、めんどくせぇ!」

 

鍵を投げ捨てた剛さんは、扉から一定の距離をとると、そのままダッシュして飛び蹴りして扉を開けた。

 

「えーーーーー…」

 

「っぱ、蹴りとショットガンは最強のマスターキーよ」

 

もはや錠の意味も成してない、ひしゃげた南京錠。無惨に開いた扉の奥は闇に包まれ、まるで私たちを吸い込むような錯覚さえ感じさせた。

 

「よし行こう、離れるなよー」

 

「は、はい」

 

とにかく今はこの人について行くしかないと、大笑いする膝を何とか抑えて、私は剛さんの服の裾を掴み、必死に着いていくことにした。

剛さんは、トンネルの中を照らしていたスマホのライトをより一層強くして、辺り一帯を照らした。何もかもを吸い込むような闇には、申し訳程度の微弱な光だけれど、これがどこか心の落ち着きを促してくれる。やっぱり、光があると安心する。

 

「あ、やっぱこういう場所はゲジゲジがいっぱいいるなぁ」

 

「え」

 

思わず天井を見上げると、そこには埋め尽くさんばかりのゲジゲジがうじゃうじゃといた。悲鳴をあげそうになるのを唇を噛んで我慢する。音を立てると落ちてくる可能性が高い。

 

「虫苦手なのか…まぁ、ゲジは見た目で損してるけど家に一匹入ればゴキブリを駆逐してくれる益虫だからなぁ」

 

「…家にいる時点でゴキブリだろうがゲジゲジだろうが扱いは一緒ですけど」

 

「まぁ、最強はアシダカ軍曹だけどな」

 

「なんですかそれ」

 

「足の長いでっかい蜘蛛」

 

「やだ気持ち悪い」

 

くだらない会話をしながら進んでいると、奥に光があることに気がついた。まさか出口があるのかと思い、2人して歩みを早めるも、そこには横穴をライトで照らしながら点検のようなことをしているおじさんがいるだけだった。

 

「…」

 

「…」

 

「あ、こら、ダメだろ!こんなとこ来ちゃ!元の世界に帰りなさい!」

 

「おっさん誰だ?」

 

少年漫画の主人公のような問いかけをする剛さんに、思わず笑ってしまう。対しておじさんは眉間に皺を寄せながら腰に手を着いた。

 

「業務上名前は明かせない」

 

「じゃあ何者?」

 

「時空を管理する者だ」

 

「ホントか?怪しいなぁ」

 

「嘘じゃない!」

 

疑われて更に苛立つおじさん。一方、そんな感情に流されることも無く疑いを辞めない剛さん、傍観する私。暗闇の中でカオスな状況が生まれているけれど、ついに帰れるかもしれないという安心感をどことなく悟り始めていた。

 

「お前ら、(きさらぎ)駅から来たんだろ」

 

「おう」

 

「たく…だからあの駅は早く取り壊ししろとあれほど言ったのに…」

 

「そんなことよりおっさん、元の世界に返してくれよ…あ、時間とかも正確にな」

 

「難しいこと言ってくれるなお前は」

 

「なんで?時空を管理してるんでしょ?出来るっしょ」

 

「あのな、お前はいいとして、そこの女に関しては10年以上時を遡る必要がある、そうなりゃ脳に障害が出ちまう…タイムスリップは簡単じゃねぇんだよ」

 

「時空を管理してるのに?」

 

「無理なの!」

 

苛立つような口調で声を荒らげるおじさんであったが、その後冷静になったように持っていたカバンの中から説明書の書かれたバインダーを取りだした。

 

「10年以上前になると、タイムラグが凄すぎて記憶が破壊される…つまり脳に傷ができる。元いた世界とこの世界じゃ時間の経過はかなり違うが、それはあくまで体感ってだけで実際には長い時間を過ごしていることになる」

 

「じゃあ、元の世界に戻るとおじいちゃんおばあちゃんになるの?」

 

「それは違う、肉体の老化は起こらないが精神年齢はグンと上がる…魂だけは固定できないからな」

 

「でもなぁ、10年も遡れないってなったら、はすみが元の世界に帰れないし」

 

「2022年でいいなら帰せるけどな」

 

「そっか…どう?2022年」

 

私は剛さんの問いかけに、深く頷いた。今更贅沢は言ってられない。

 

「2022年でいいです」

 

「わかった、じゃあお前ら元の世界に戻すから…ちょっと待ってくれ」

 

おじさんは再びカバンをまさぐると、中から小さな時計を取り出した。

 

「時間は2022年8月10日、戻すぞ」

 

「了解」

 

「はい」

 

次の瞬間、私たちは電車の中にいた。

 

 

 

 

 

 

 

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