脳筋、きさらぎ駅に行く   作:草原山木

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回顧

『まもなく大宮、大宮、お出口は左側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が空いているところがありますので、足元にはご注意ください。』

 

電車内のアナウンスに目を覚ます。周りを見渡すと私以外も多くの人が席に座っているのが確認できた。人がいる…。

元の世界に帰ってきたんだという実感とともに、時の流れを感じざるを得ない。知っている有名人の広告を見ると、妙に歳をとっていたり、みなガラケーの代わりにスマホをいじっている。

 

隣に座っている剛さんは、何事もなく平然としているけれど、私は内心落ち着きがなかった。

次の駅、大宮で降りると剛さんから5000円札が渡された。

 

「新渡戸稲造じゃない…」

 

紙幣の人物が和服を着た女性に変わっていることに、またもや時代の変化を感じざるを得ない。

 

「あれ、5000円札が樋口一葉に変わったのって、きさらぎ駅に行ったあと?」

 

「分からないですけど…多分、あとこれ樋口一葉なんですね『たけくらべ』の」

 

何気に樋口一葉を初めて見た。名前だけは知っていたが、こんな顔だったとは。

 

「改めてだけど、これ交通費…場所は」

 

「静岡です」

 

「足りないかぁ」

 

「あ、いえ…財布に2万程入ってるので大丈夫です」

 

親切にも交通費を渡してくれた剛さんには本当に感謝しかない。

とりあえず私は浜松に行くために新幹線の切符を買うことにした。大宮駅の構内が分からないということもあって、剛さんも着いてきてくれることになった。

 

とりあえずみどりの窓口に向かい、浜松に行きたい旨を伝えると、当たり前だがもう終電を過ぎてしまったと言われた。早速途方に暮れていると、急に肩を叩かれた。

振り返ると、そこには赤い革製のコートを着た黒髪の女性が立っていた。端正な顔立ちで、赤い口紅と切りそろえられた長い髪が印象的だった。

 

女性は生気のない、透き通った声で言った。

 

「ご帰宅の足が無いようですね。宜しければ私がお送り致しましょうか?」

 

怪しい。ものすごく。

 

「私は岩井なつ、と申します。訳あってあなた方に接触を図りに来た次第です…長浜葉純(はすみ)さんですね?」

 

「はい…そうですけど」

 

「長い間、きさらぎ駅に行かれていたようで…つい先程怪異を感じ来てみれば、あなたがいらっしゃったようなので、肩をたたかせていただきました。」

 

怪異を感じ取るなんて、そんなオカルト的なことを言われると益々怪しい。しかしながら、先程あのおぞましい世界から帰ってきたという事実を言い当てたとなれば、若干ながら信用に値すると私は感じた。

 

「オカルト的と思われても仕方ないとは思いますが、この日本において怨霊や悪霊のような怪異は古来より存在する脅威です。人間がそのような脅威に対抗せず現在まで至れば、この国はとっくに滅びているはずです」

 

「そうなんですか…」

 

「つまるところ、我々のような霊媒師は紛い物も居ますが…確かに存在しているということを知っておいてください。それで本題なのですが、一霊媒師としてあなた方に着いた邪気を祓う必要があります…葉純さんだけでなく、そこの武部(たけべ)(つよし)さんもです」

 

「俺も?」

 

「はい」

 

私たちは大人しく、岩井なつという女性の後をついて行くことにした。彼女が何やら重厚な証明書を駅員に見せると、駅員は納得したように首を縦に降り改札をすり抜け、その先に待っていた白い制服を着た、恐らく駅長と思われる人物の先導のもと、駅のロータリーへと降り立った。

 

「警察?」

 

「この国にとって怨霊は兵器による武力に相当する脅威ですから、私たち霊媒師は治安維持機関と協力、もとい特例の権限を持って指揮することが出来ます」

 

そんなこと初めて聞いた。色々な都市伝説が世の中に蔓延り、陰謀論もまん延する現代において、霊媒師と警察が密接に関わっているなんて聞いたことがない。火のないところに煙は立たないというが、この事実は煙すら立っていない。

 

「特段、秘匿されるものでもありませんが…マスコミ関係者もこのことについては取り上げることが固く禁じられています。下手すれば怪異が自分たちに牙を剥くかもしれませんからね」

 

「え、じゃあ私たちは」

 

「あなた達は大丈夫です。私がいますから…それに霊媒師と警察の関係を知ったから怪異に…という訳でなく、その噂から更に深く踏み込んだ調査をするのがマスコミですから、必然的に調査の過程で怪異そのものの情報をつかみ餌食になりうるというだけです」

 

要は、怪異と関係のあるこの霊媒師、警察の繋がりを調べると間接的に怪異そのものについて踏み込む可能性が往々にしてありうるため、触らぬ神に祟りなしで必要以上に追いかけないということだろう。

 

「えぇ、かねがね理解が早くて助かります」

 

「どうも…ていうかさっきから心の中読んでますよね」

 

「はい」

 

岩井さんは悪びれる様子もなく、パトランプの光るベンツに乗り込んだ。

私達も乗るように促され、私が後部座席、剛さんが助手席に座る。

 

「これからどこに行くんですか」

 

出発した車内で私は岩井さんに問いかけた。

 

「東京にある大國魂神社です」

 

「神社?」

 

「えぇ、あなた達には今、異次元から持ち込んだ穢れが着いています。この穢れは現世の霊を怯えさせると同時に、強い怨霊を招き寄せる源になります。正確には穢れ(けがれ)が転換し、気枯れ(けがれ)になることでそのような現象が起こります」

 

「穢れを払うために神社に行くと」

 

「えぇ…とくにあなた方に着いているものは強く、濃く、異質です。通常の穢れであれば、私が触れるだけで祓うことができますが、今回は神通力の起点となる神社が媒介とならなければ消し去ることはできません」

 

「でも剛さんなら大丈夫そうですけどね」

 

「おう、怨霊ごときドンと来い」

 

私の発言に剛さんはサムズアップすると同時に、岩井さんは目を点にしていた。

 

「怨霊は周りの人間にも被害を及ぼします…楽観的になるのは行けませんよ」

 

「でもあれだろ…ぇえと、岩井なつ?とか言ったか」

 

「えぇ」

 

「ぶん殴れば、怨霊は倒せんだろ?」

 

「…えぇと、殴るというのは、怨霊をですか?」

 

「もちろん」

 

驚いた顔をしながらも、眉を顰める岩井さんに私は補足した。

 

「きさらぎ駅には身長が3メートルもある怪物がいたんです」

 

「怪物…どのような見た目ですか?」

 

「目を紅く光らせて、鋭い牙で襲ってくるような」

 

「それは、鬼ですね。怨霊とは質が違いつつも、怨霊よりも厄介な存在です」

 

「えぇと、剛さんはその鬼を鉄パイプで…倒してたんですけど」

 

「ありえません。鬼は怨霊よりも厄介です、鉄パイプだけで倒せるとは…」

 

「でも証拠にほら」

 

剛さんはスマホをいじると、倒れ伏す鬼の写った写真を岩井さんに見せつけた。岩井さんはスマホを少し拝借し、興味深そうに見つめる。しばし5分ぐらい経ったところで、ようやくスマホを返し、窓を開けてタバコに火をつけた。

 

一口吸い、紫煙をくゆらせるとポケットから携帯を取り出しどこかへと電話をかけた。

 

「ひとつ頼みたいことがあります。えぇ、対象者Bの身柄の調査をお願い致します。はい…いえ、家系や血統について知りたいだけです、えぇ…よろしくお願いします」

 

「どこにかけたんですか」

 

「総務省です」

 

「またすごい組織が出てきましたね」

 

「えぇ…ところで剛さん」

 

「おう、なんだ」

 

岩井さんに呼ばれた剛さんが振り返る。

 

「霊媒師、やりませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

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