高嶺の勇者を殺したい!   作:ゴマ醤油

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食って遊んでジャンプして

 滾るような情熱の夜が明け、除け者にされた(かなで)お嬢さまに正座説教をされた後。

 とりあえずの蟠りが解れた俺は、ようやく目的である呪骸の捜索を開始した。

 ……まあ、とはいってもだ。俺一人が放課後に探した程度で痕跡を見つけられるのなら苦労はなく。

 

「異常なーし」

 

 一日目。特に何かが見つかることはなく、下町の本屋で立ち読みするだけで無事終了。

 

「特に発見なーし」

 

 二日目。ファストフード片手にとりあえず街を散策するも、ラブコメ的な出会いの一つすら碌になく。

 

「なーし。なんにもなーし」

 

 そして三日目。金曜日ということもあり少し頑張ってみたのだが、やっぱり結果は空っ穴。

 つまりは空振り。地道な探偵業の成果の甲斐もなく、あっという間に週末になってしまったのである。

 

「見つかんねー。そもそもプロが探して見つからない物を俺が探すなんて無理もいいとこだろうよー。……ねえ(つく)ちゃーん。実はもうどっかに消えちまったんじゃねえの?」

「それはない。まったく、いちいち愚痴をこぼすな上野進(うえのすすむ)

 

 安寧荘の一室にて、テーブルにぐでーんとへばりつく俺を叱責してくる(つく)さん。

 この三日間は学校、探索、そしてストレス発散と言う名の戦闘訓練の繰り返し。

 あまりの激務に正直疲れが溜まってきたので今日はお休みをいただきたかったのだが、残念ながらお嬢さまは許しちゃくれず。朝っぱらから(つく)さんを迎えに来させてきたのだ。それもわざわざタクシーで。

 

「そもそもこの近くにあるって何でわかんのさー。別にGPS付けてるわけでもないんでしょー?」

「……まあ、確かに確証はない。だが屍鬼(かばねおに)の復活が目的である以上、残された一つを回収に来るため潜伏するのは当然だと思うが」

「……うーん、まあそうだねぇ。そりゃそうだよなー」

 

 至極真っ当な論理をぶちかまされ、ただでさえ五月病テンションだったのが更に加速してしまう。

 最早心はスライム同然。このままだらけていたらスライム化の固有なんて覚えちゃったりしそうだわ。

 

「ま、地道に探すっきゃねーわけかぁ。猶予とかどれくらいなのか見当も付かんけど」

「そう、皆目見当も付かないのです。だからこそ、(わたくし)たちは悠長に構えていてはいけないのですわ」

「あ、(かなで)ちゃん。もう終わったの?」

「ええ。どうぞこちらを召し上がれ、(わたくし)特製ふわとろオムライスですわ♡」

 

 花柄のエプロンを着け、髪を一つに纏めた少女が笑顔でテーブルにお皿を置いてくる。

 それはざらつきのない黄色の絨毯を乗せ、褐色のソースが彩りに添えられた大小判。

 少女が手に持つナイフで中心を割いていけば、そこからとろっとろの黄白の河が皿へと流れていく。

 メイドに萌え萌えを注入されるよりも視覚に訴え、ぐらぐらと心を揺らしてくるそれは芸術の域。それほどまでに、この一品は食欲をそそって止まない代物であった。

 

「いただきます、はむっ。……っ!! こ、これはっ!!」

 

 汚れ一つ無い銀のスプーンで掬い、躊躇いなく口の中へと飛び込ませる。

 刹那、口内へ、そしてそこから伴い体中に伝わる美味。舌で楽しみ、喉で楽しみ、終いには食したという実感で心と脳みそが満たされる。

 美味い。こんなに美味しいオムライスは生まれて初めて。うちの母親じゃあこんな絶品どう頑張っても生み出せそうにない、まさしく至高の一皿だ。

 

 一口食べてしまえば後は止まらない。無言のまま、ただひたすらに食を堪能するのみ。

 

「ぷはあっ!! ごっちそうさま!! めちゃんこ美味かったぜ!」

「ふふっ。お粗末さまですわ。そうまで喜んで貰えたのなら、(わたくし)も光栄ですの」

 

 水を飲みながら彼女へ満足を伝えれば、いつものように柔らかな笑顔で返される。

 あーまじで美味かった。もしもこれが食いたいときに食えるようになるなら、結構いろんなことを譲歩できちゃう気がするわ。

 

「ふぅ……。あ、そういえば香雲(かくも)さんと(なぎ)くんは?」

香雲(かくも)は車の点検、(なぎ)は買い出しですわ。今日はそれでお休みですの」

 

 俺とは違って優雅でお上品に食していた(かなで)ちゃんは、一度手を止めて答えてくれる。

 

「え、お休みでいいの? 急を要するんじゃない?」

「そうは言っても張り詰めすぎは逆に身体に毒。回収の際に盗人(ぬすっと)との戦闘が予測される以上、万全の状態で当たるべきですの」

「ほーん?」

「それに、何も(わたくし)たちだけが動いているわけじゃありませんわ。いくら内輪揉めの最中と言えど、獅子原(ししはら)もそこまで手薄というわけじゃないですもの」

 

 確かに、捜索に全力を尽くしていざ遭遇時にへろへろでしたじゃ話にならないわな。

 けどそっかー。お休みかー。つまりフリータイムってわけかー。……じゃあなんで俺は呼ばれたん?

 

「お話したかっただけですわ。ご迷惑、でしたか?」

「……んー、いや? ま、どうせ家にいたってごろつくだけだしね」

 

 おいおい。そんなあざとい上目遣いで訴えられちゃあ、こっちも邪険になんて出来ないだろう?

 こんな美味しい昼食もご馳走してもらったんだ。世間話の一つや二つ、いくらでも付き合ってやるさ。だから横からの鋭い視線に負けたわけではないのさ、いいね?

 

「けど報告なんてもう終わっちまったしなー。……後でばば抜きでもやる?」

「えっ」

「いいですわね。(わたくし)、そういうの大好きですの!」

 

 適当に思いついた提案を挙げてみると、二人はそれぞれ違った反応をしてくる。

 まあ(かなで)ちゃんが喜んでくれるのはいいけどさ。なんだい(つく)さん、そんなまじでやるのみたいな驚きと億劫さをごちゃ混ぜにしたような面はさ?

 

「ではとっとと食べて始めましょう! ぱくぱくですわー!」

 

 奮起した(かなで)ちゃんは、勢い任せながらも上品さを損なわないという矛盾に溢れた速度で食べていく。うーむ、こういうところだけ切り取れば小学生だよなぁ。

 年相応……かはちょっと置いておくとして、年下の子供らしさを見せてくれる(かなで)ちゃんにちょっとだけ安心感を覚えていると、(つく)さんが隣へ寄ってくる。

 

「……いいのか、そんな提案をして」

「ん? 何が?」

「お嬢さま、あれで相当な負けず嫌いで執着が強いんだ。多分夜まで帰れないぞ?」

「……まじ?」

 

 美人から耳元で囁かれる衝撃の事実に、俺は思わず問いを返してしまう。

 

「……ちなみにどれくらい?」

「昔お嬢さまが兄上様とゲームをしたとき駄々をこねたことがあるのだが、三回勝負が三時間になったぞ」

「ひえっ……」

 

 まじですの……? 我、ちょっとした暇潰し程度にしか考えていませんでしたよ……?」

 

「ちなみに手は抜かない方が良い。バレたらお嬢さまは更にむきにな──」

(つく)。余計なことは言わないでいいのです。後でお仕置きですわ」

「……はい。申し訳ございません」

 

 流石に食事中とはいえ、真正面での隠し事はバレてしまう。あー、どんまい。

 

「まったく(つく)ったら、あまり昔の話を蒸し返さないでほしいのですけど。(わたくし)とて立派な(よわい)二桁、遊び事の一つや二つで我を忘れたりしませんわ」

 

 (かなで)ちゃんはティッシュで口を拭き、食べ終わったテーブルのお皿を盆に載せながら首をを振る。

 

「ですが手は抜きません。勝負事には本気で取り組むのが礼儀ですもの」

「お、おう」

「ふふっ。せっかくですし見せてあげましょうか。刮目しなさい(すすむ)さん。(わたくし)の完全勝利をいうやつを」

 

 立ち上がった(かなで)ちゃんは、微塵も揺らがずに自信満々にそう言ってのける。

 違う場面で聞いていれば、これ以上無く安心できる宣誓ではあるのだが。

 何だろう、今の流れだとフラグとしか思えないんだよなぁ。……はあっ、やれやれだぜ。

 

 

 

 

 

 案の定、ばば抜きから始まったゲーム大会はヒートアップし、現在夜の八時過ぎ。

 始まったのが確か一時ちょっとの頃だったから、睡眠一回分くらいは続いちまったってわけだ。

 いやーちかれた。まさかレトロなテレビゲームまで出てくるとは思わなかったぜ。

 

「……すまないな上野進(うえのすすむ)。あそこまで長引くのは誤算だった」

「え、いいよ別に。ああいうのもそこそこ好きだし、それになんだかんだ楽しかったからさ」

 

 暗い夜の道をのろのろと歩いていると、いつもは噛みついてくる(つく)さんがまるで別人のように謝ってくる。

 あの夜にぶつかり合ってから、ちょっとだけ棘が取れたような気がする(つく)さん。うん、やっぱりこれくらいの距離感の方が心地好いぜ。

 

「むしろ感謝してるぜ? まさか送ってもらえるなんてさ」

「徒歩を選んだのは貴様だが、流石に未成年を一人で歩かせるわけにはいかないからな。もしも貴様に何かあれば、それは獅子原の名折れも同然だ」

 

 だからか、勘違いしないでよねっ! とでも語尾に付いてそうな声色でそう言ってくる(つく)さん。

 実は現実のツンデレとか本当に存在するんかなって疑ってたけど、部長やこの人を見ていると可能性を捨てなくていいんだと心の底から思えてくるよ。

 

 まあそんな感じでコミュニケーションを取りつつ、俺たちはのろのろと、亀のように自宅までの道のりを歩んでいく。

 涼やかな微風を肌に感じながら、美女と二人で和やかに夜の道を散歩中。うーん言葉にしたら実にアオハルっぽい。純情なDK(男子高校生)の甘いひと時って感じだぜ。

 

「待て。……おい、ローブと仮面はあるか?」

「変装セット? まあ持ってるけど……」

「なら着ろ。今すぐだ」

 

 そんな淡い心地好さに浸りながら、大体家と中間を通り過ぎようとしたときだ。(つく)さんが唐突に足を止め、爽やかで柔らかい空気をぶち壊してきたのは。

 

 ついさっきまでの少し緩んだ彼女と違う、いつもと同じ獅子原(ししはら)の護衛としての目。

 俺にはとんと把握しかねるが、それでも何か起きたことだけは理解し、何故かと問う前に影から変装セットを取り出して身に纏う。

 

「んで何さ? 件の呪骸が空でも飛んでたー?」

「……いや。だが、あれは(つかさ)様……?」

 

 こんなにも夜は更けているというのに、周りの暗さなどお構いなしといった風に遠くを睨む(つく)さん。

 どこ見てるんだろう。というかそもそもよく見えるな。

 

「すまない仕事だ。付いてくるか帰宅するか、好きにしてくれ」

「あ、ちょっとー!」

 

 詳細を聞く前に跳躍し、(つく)さんはこの場から離れていく。

 寂しい道の真ん中でかんっぜんに置いてきぼり。気分はすっかり灰かぶり(シンデレラ)に逃げられた王子様だ。

 

 ……さてさてさーて。俺は果たして、どうするのが正解だろうか。

 (つく)さんは帰っていいと言っていたし、このままやれやれと手を振って別れるのも一興ではある。というか疲れたし、それが最善策と言っていいまである。

 

「……ま、付いていくよね当然さっ!」

 

 けどまあ、当然答えは一択。刹那の間すら悩む気はなく、思いっきり地面を蹴って追いかける。

 確かに面倒とか疲れたとかいくらでも言い訳できる。生まれてこの方十数年、そんな常人めいた当たり前なんて慣れっこだし。

 けど、そんな怠惰極まりない欲望に従ったって何も楽しくない。例え本命でないとしても、せっかく事件が自らひょっこり顔を出してくれるなら突っ込まない道理などどこにだってじゃないか。

 

「待ってよ(つく)ちゃんー。あっしお供いたしやすぜー! ふゥー!!」

 

 一日を終えようとしたマイハートを再点火しながら、夜の街を駆け抜ける。

 例え補導されようが関係ない。休みの夜ってのはこっからが本番だぜ! ふゅー!!

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