男三人でも姦しく
文化祭も終わり、それからしばらく経って現在は十二月。
いろんな欲を煽る紅葉も落ちきり、白い息と暖かい装いで人々が浮かれ始める今日この頃。
けれど俺はそんな気分になれず。というか、余計に辟易してしまう状況に陥ってしまっていた。
「おいおいおい~!? 聞いてんのかぁ~!? この俺、
「…………はあっ」
ゴリラかよ。名前も体格も何もかも。
無駄にでかい、それこそ熊が制服着てるみたいだと揶揄したくなる男にため息しか漏れてくれない。
逃げられないように周囲を囲うのは、この令和の世で存在してんのかってくらい如何にもなチンピラ共。ご丁寧に釘バットやらモヒカンまで装着済みだ。
状況を整理しつつ、またしても心の底から湧き出たため息が漏れてしまう。
どうしてこんなことになってしまったのか。そもそもの話、なんでこんな連中に絡まれることになってしまったのか。
遡ること一億光ね……いや、これじゃ距離だ。そもそも億とか秒数単位でも必要ねえわ。
けふけふっ、ごほごほん! ……心の中でこんな仕切り直しに意味はないのだが、それでも一応改めて。
遡ることおおよそ十分前。俺が料理部の帰りに友人と雑談しながら帰宅していた、ちょうどその時のことであった。
料理部の活動も終わり、今日も今日とてお家までの道のりの最中。
ただし今日は珍しく、普段は部室でさくっとバイバイする二人とコンビニ前でたむろしていた。
「なんか新鮮だねぇ?
「……まあ確かに。
「そうだよ。高田君はともかく」
「あーうっせぇぞリア充共!! 高田高田呼びすぎだわ! ファンクラブか! 野郎であっても照れちゃうわ!」
てへぺろ。すまんな
お前のツッコミ、若干おセンチな心へ無駄に響くからちょっと欲しかったんだ。
「リア充って酷くない? 確かに俺はこの学生ライフをしこたまエンジョイしてるけど、こん中で学生的カラフル青春ボーイって部長堕としてる
「あーほ抜かせぇ! お前
ほえー。良かったな親友。お前やらかして孤高ぶってたけど、それでも意外と人気だったらしいって今度墓の前で優しく囁いてやろっと。
「てか待って?
「流石に泣くぞ変人野郎!? 仮にも一回クラスメイトになってたんだぜ!?」
陰キャに記憶されてないのがショックだったのか、ちょっとばかし瞳を濡らす
うーんいたかなぁ。……やっぱ出てこねえなぁ。正直中学は
「そういえば、なんで
「あー、そういえば確かになりを潜めてるな。……ってか、中学でも誰が呼び始めたんだ?」
「さあ? 俺が知るわけないじゃん。どうでもいいしね」
溢れ出る肉汁が舌を脅かしながら、喉から食堂を伝って冷えた身体に染みこみ俺を暖めてくれる。
あー美味え。やっぱり買い食いは最高の娯楽、まさに期間限定の至高ってね?
「つーか、そこは肝心じゃねえ! お前が
「……正直で結構だけど、そんなんだから作れねえんじゃねえの? 彼女」
「うっせえ! 俺は料理系男子になって彼女を作るために料理部入ったんだい! だからいくらでも吠えてやらぁ!」
人前だというのに、いっそやけくそとばかりに不満を声高らかに叫んでいる
そんなんだから高田は高田なんだ。実は俺のクラスにお前を気になってるやつはいるというのにさ。
「そういえば、今日は
「ご家庭の事情だってさ。まあ年末近いしね。いろいろあるんでしょうよ」
「ほらそういうとこぉ!! ナチュラルに一緒に帰ってるとことかぁ!! 部活の八割くらいはペアで料理しちゃってるところとかぁ!! もーやだぁ!!」
うるせえぞこの悲しきモンスター。ここコンビニの前なんだよ。
せめて生み出してしまった責任をと、軽い拳骨を落として沈黙させる。無論、痛いで済む程度だ。
「むぎゅう……」
「天誅。……で、お前はいいのかよ。部長お前がいないとヘラるんだぞ?」
「平気だよ。帰ったらびっくりさせるんだって……あっ、え、えへへ?」
つい口走ってしまったと、焦りながら誤魔化そうと苦笑いし出す違法ショタ野郎。
……聞かなかったことにしよう。通い妻にしろ同棲にしろ、これは俺には手に余る案件だ。
「しくしくっ。羨ましいよぉ……。恨めしいよぉ……。我が校の誇る四大美女の半分が手つきとかよぉ。しくしくっ」
「四大美女とか一年通ってて初めて聞いたんだけど。……っていうか、誤解が酷いな。そもそも俺、別に
「うっそだぁ! ……え、まじ? 割と周知の事実……ってか、だから上がきな臭いんだけどマジで勘違いなの!?」
そこに転がるおぶ……
なんだこいつと思いながら、ちらっと隣に助けを求めてみれば、何と
「こいつは別として、
「あー、確かに言ってたね。なんか数段大げさになってる気がするけど。けどあれ、照れ隠しかなぁって思ってたんだよ。だってもう雰囲気が……ねえ?」
首をきょとんと傾げながら、困ったように苦笑いを見せてくる
そのあざとい仕草と言動にちょっとむかついたので、阿呆を無理矢理退け、素早くショタ野郎の後ろに回ってからこめかみをぐりぐりしてやる。
なーにが付き合ってるだ、この邪念の亡者よりも煩悩塗れのピンク脳め。
んな奇跡、それこそ天地がひっくり返ってもありえねえっつーの。自分がリア充だからって世界の半分がカップルで構成されてると思ってんじゃねえぞこら。
「痛い痛い、いたいよぉ。あー脳が軋んじゃうぅ……」
「まったく、二度と吹くなよそんなほら。友達やれてる今ってのが、俺の人生で最高潮の幸運期間だってのにさ」
かき氷でも食べた後みたいに悶える
そうだ。あの人と一緒に過ごせているのは俺の幸運であって、あって当たり前なんかじゃないのだ。
こんな奇跡の日々、高校を卒業すれば途絶えてしまう可能生の方が高い。
……いや、そんなのを待たずしても、学年が変わりクラス替えになれば。
…………いやいや、そもそも席替えで彼女の隣から離れてしまえばそれまでかもしれない。偶然にも二回連続で隣同士になれてるから話せているだけかもしれないわけだし。
……あれ、これって本当に友達やれてる? 俺って本当にあの人の友達名乗っていいのこれ?もしかして、今まで勘違いしていただけで俺の圧倒的絶対的妄執バリバリな片思い?
い、いやいや。でも
「ったく、どいつもこいつも。クリスマスが近いからって目が曇ってんじゃねえの?」
恋愛でしか物事を判断できない馬鹿共に白いため息を零しつつ、ホットなお茶に口をつける。
んー適度な温かさ。絶妙に身体を温め、なおかつ気分を落ち着けてくれる匠の調整だぜ。
しかし変だ。せっかく好きな日本茶だというに、そこまで安らぎが訪れない。
これは……あれか? くだらない冗談が思いの外ぶっ刺さったというやつじゃないか?
「クリスマスかぁ。……もう今年も終わりなんだねぇ」
「……そうだな。あっという間だ。本当に、いろいろあったよ」
閲覧魔法なるものとの出会い。お茶の間を騒がした殺人鬼との遭遇。千年ものの大怪異やらもう会えなかったかもしれない親友の本音、そして二パターンの復讐者と偽物のあの人。
……うーん我ながらすっげえ濃い。それはもう砂糖に一年漬けた果実みたいに濃厚。
っていうか俺、一体何回死んだんだろ。……駄目だ、まともに考えたら発狂しそうだわ。
「とは言うが、お前結構さぼってたけどな。補習してたし」
「うーん返す言葉もない。ま、青春って学び舎内だけじゃないし仕方ないね」
「あ、はははっ……」
うーん辛辣。フレンドリーファイアが痛すぎて、これには
「来年も楽しく過ごせたらいいね」
「そうだなぁ。……そういやお前見てたら思い出したけど、部長って大学受験どうなってんの?」
「お前知らねえの? 有名私大の推薦取れたって結構前にどや顔で吹聴してたぜ。だからあんのあ部活に──」
くだらない雑談をしつつ、二人が残りを食べるのを待つ。
基本一人か
こういうのも悪くない。たまにはいいかもなとちょっぴり新鮮に感じていた、ちょうどその時だった。どこからともなく現れた柄の悪い集団が、何故か普通の学生である俺達を取り囲んできたのは。
「おうおうおうそこのおめえ! お前が
「……はっ?」
威圧するように囲んでくるチンピラ共に名指しされて、くそほど困惑してしまう。
怯える
二人への罪悪感をを抱きながら、いきなり湧いて出てきた面倒事の予感に嫌気が差してしまう。
しょーじき荒事やりたいって気分じゃねえんだけど。……ところでこれ、後ろのコンビニの方に通報されたりしちゃわないかなぁ?