高嶺の勇者を殺したい!   作:ゴマ醤油

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おもしろくもない弱い者いじめ

 というわけで、だから俺はこんなぼろ倉庫に連れ込まれてしまったわけですよ。

 ……え、まったくわからない? そうでしょうね。実は俺もよくわからずに付いてきたわけだし。

 

「まずはお礼申し上げますよ、あの二人を帰らせてくれて。……で? 改めてお尋ねしますが、果たして如何な用件でしょうか? あー、そのー……ゴリラゴリラ先輩?」

「ゴリラゴリラじゃねえ!! 剛力強羅(ごうりきごうら)様だ!! 舐めてんな年下の猿がよォ!? うほォ!?」

 

 いやうほぉ~って言っちゃってるじゃねえか。それネタでやってんのかよ?

 けどお生憎様。どんだけすごまれたって、その(けだもの)同然の威嚇は欠片も刺さらない。

 だってこいつ、明らかに弱いもん。ステータスなんか見るまでもない、ただ知能を引き替えに体格で一般人を勝っているだけのチンピラだもん。

 

「総長、どうぞこの高級バナナでも食べて落ち着きを。その間に説明はしておきますので」

「うほぉ!! バナナぁ!! 高級!! では頼むぞメガネ!! うほぉ!!」

「どうぞごゆっくり。……さて、お待たせしましたね。くいっ」

 

 無駄にでかいゴリラにバナナを渡し、横から躍り出てきた丸眼鏡のマッチョ。

 ……頭良さそうに眼鏡をくいっとあげるのは別に良いんだけどさ。その擬音を自分でくいっと声に出しちゃうのは知能キャラとしてどうなんよ?

 

「……一応聞きたいんだけど、あんたら本当に同じ学校の方? 世紀末気取った馬鹿が入れるほど偏差値低くはなかったはずだけどさ」

「青いですね少年。人間、いつ道を踏み違えるかなど定かではないのです。これを機に、人生の苦痛を学ぶと良いですよ。くいくいっ」

「見かけによらない説法どうも。けどそんな含蓄に満ちた言葉を贈るには、ちっとばかり物騒な気がするけ──」

 

 心底鬱陶しく思いながらも、言葉を選んで返している最中だった。

 唐突に後ろから何か固い物をぶつけられ、そのまま地面に倒れこんでしまったのは。

 

「おやおや、これは失敬。饒舌な後輩につい場が暖められてしまったようで。……では義理堅く、説明を続けましょうかね。とはいっても、最早意味があるかはわかりませんが」

 

 周囲から、特に背後であった場所から聞こえてくる耳に障るにやけ声。

 素手ではないのは明白。さては釘バットかなんかで思いっきり殴ってきたな?

 

 まあ正直ダメージはない。ぶっちゃけ来るのもわかっていたし、流石に根本のスペック差がダメージを通してくれない。念のため、頭はちょっとだけ守ってはいるけれど。

 けれども連中のがち加減に若干どん引きしながら、馬鹿正直に話してくれそうな頭脳ぶったゴミクズの話に耳を傾けてみる。

 

「私達はある御方に依頼を受けたのです。くいっ。上野進(うえのすすむ)という調子に乗った後輩を学校に来れなくなるくらいまで痛めつけて身の程を弁えさせろと。くいくいっ。いやはや、何とも心苦しいものです。私達剛羅(ごうら)連合といえど、罪のない一般人に牙を向けなければならないとは。くいくいくいっ」

 

 優位を確信しているのか、俺よりも遙かに饒舌に眼鏡をいじりながら語ってくれる。

 なるほどねえ。どうやらこいつらは使われ(パシリ)で、今頃黒幕さんは俺がぼこされる様子でも思い浮かべながら裏でほくそ笑んでいるらしい。

 周辺にいないのは気配を調べたから分かる。こんなカス共を差し向けるような真性のカスが俺に悟られぬレベルなわけないだろうしね。

 

「というわけで誠に申し訳ありませんが、我々の単位の犠牲になってください。私達も全員揃って卒業したいのです。まあもちろん、こんな些事で恨まれても困りますがね」

 

 眼鏡が語り終えてから合図でも出たのか、周囲のお猿共が待機を止めてこちらへ近づいてくる。

 どうしよう、想像以上にしょうもない。犯罪まがいの契約とか裏バイトか何かかよ。

 

 どうでもいい相手のどうでもいい動機に、心身共に起き上がる気にもならず。

 かといってこのままリンチされるがままなのも制服汚れそうで嫌だなぁとか、この場の雰囲気にそぐわないであろう適当なことを考えながらちょっとだけ魔力を流す。

 

 ……ま、いいや。

 相手にするのも馬鹿らしいし、適当にサンドバッグになって一区切りした感じになったら許しでも乞おうっと。

 

「ま、これを機に学ぶんですね。高嶺(たかね)アリスに近づくなんて不遜、改めて分不相応に──」

「──あ゛っ?」

 

 終わるまで目を閉じていようとした瞬間、眼鏡の発した名前に意識が覚醒してしまう。

 こいつ、今何て言った? ゴミクズ風情が誰の名前を出して、誰に近づくななんて大言吐きやがった?

 

「ヒャッハー!! 俺が一番乗り、ぶべらッ!!」

「邪魔だカス。話の邪魔すんな」

 

 立ち上がって一番近かったカスを掴んでゴリラに放り投げ、苛立ちのままに眼鏡を睨みつける。

 

「何です? 世の中も知らぬ後輩が、生意気にも先輩のしごきに抵抗するのですか?」

「知らねえよ。それより誰が誰に近づくなって?」

「おやおや、怖い怖い。この状況でよくもまあ、そのような態度を取れるものですね」

 

 今なお勝ちを確信しているのであろうメガネザルは、随分とまあ余裕綽々な態度で眼鏡を弄ってくる。

 この余裕は後ろにゴリラがいるからか。虎の威を借る狐……いや、ゴリラの威を借る猿ってわけね。なにこいつ、なっさけなっ。

 

「ですがその余裕もここまでです。まさか無傷でこの場を切り抜けられると?」

「んなことどうでもいいんだよ。とっとと答えろ、誰が誰に近づくなって?」

 

 相手が雑魚なのは明白。同じ学校といえど、こいつらは所詮そこいらのチンピラでしかない連中だ。

 けれど、そんなことはどうでもいい。こいつらは今、俺の地雷を踏もうとしている。悪意ありきのその行為に、相手の強さ弱さなんて欠片も関係なかった。

 

 俺だけならどうでもよかった。よほど面倒でなければ流してやるし、今みたいに自尊心を満たさせてもやった。

 けれど駄目だ。こいつらはあの人に、高嶺(たかね)アリスに迷惑を掛けようとしている。この行為にどんな思惑が絡んでいようと、その愚行を許容する気になるわけがない。

 

 いいぜ。血まみれの喧嘩がご所望なら受けてやるよゴミクズ共。普通に生きている人様に、あの人に迷惑しかかけない汚物はどっかの殺人鬼よりも命の価値がねえもんな。

 その代わり目には目を、暴力には暴力を、だ。卒業を待たずとも、今日で全員卒業させてやるよ。

 なーに心配なんて必要ない。今は乱世でもねんだし、その汚らしいだけの首なんて晒したりしねえからさァ?

 

 影と金槌を使わないのは慈悲ではなく、ただこんな奴らで相棒達を汚したくはないために。

 されど不良との戦いには必要のない、役不足の魔力量の強化で蹂躙を始めようとした──まさにその瞬間だった。

 

 

「後輩いじめはそこまでだぜ青少年共! 何故って、俺様が登場したからなッ! とうっ!」

 

 

 俺の始動に水を差す、倉庫内に響く大きく聞き覚えのある声。

 次の瞬間、この倉庫唯一の入り口らへんから跳躍し、この敵の渦中である中心へと華麗に着地しながら決めポーズまでこなしてしまった謎の乱入者。

 逆立った金の髪。背が高く、チンピラ共なんぞの見せかけの筋肉よりも遙かに引き締まった肉体。

そしてこの場においてまったくもって緊張のない、自然そのものな仕草。

 

 獅子原司(ししはらつかさ)。この世紀末系よりも次世代なチンピラ風貌のパイセン。

 (かなで)ちゃんの兄であり、屍鬼(かばねおに)の一件では共闘までした男が、何故かこの場に参戦してきたのだ。

 

獅子原(ししはら)ァ!! てめえ首突っ込む気かァ!?」

「ごめんなゴリ。こいつ俺の友達だからさ。今回は邪魔させてもらうよ」

 

 バナナを食べ終え、皮を眼鏡へと渡したゴリラ先輩が野太い声で吠えてくる。

 そのなりで皮をポイ捨てしないんだ。意外とお約束から外してくるね、カスの分際で。

 

「ねえ先輩。助けに来てくれたのは嬉しいけど邪魔なんだよね。今からこいつら黙らせるからさ」

「そうはいかないかな。君がいらぬ罪を背負うのは妹が悲しむし、何より颯爽と登場した俺の面子が丸潰れになっちゃうからね」

 

 近場の一人を軽く蹴り飛ばしたパイセンは、俺の腕を取拳を抑えるように掌で包み込んでくる。

 ……わかったよ。血祭りは勘弁してやるよ。その代わり、普通にぼこすからな。

 

「うんうん。じゃあ半分は俺がやろう。とはいっても、すぐに片付くけどね?」

「それはどういう──」

 

 頭まで昇った血を引かせ、込めていた魔力の大体を消す。

 矛を収めた俺にパイセンは満足げに頷くと手を放し、ゆっくりとしゃがんで地面に片方の手を付く。

 

 刹那、地面を奔る僅かな魔力。

 それは雷の如く速度で突き進み、丁度この倉庫の端から端まで進んだ辺りで綺麗に消失した。

 

「がっ、何、体が……!?」

「これで終わり。ま、ちょっと強い静電気だよ。三分もあれば復活するさ」

 

 チンピラ共の動きが停止する。まるでしゃべる石像にでもなったかのように。

 パイセンはそんな彼らを一瞥し、掃除でも終えたみたいな気軽さで手の汚れを払いながら立ち上がる。

 

「……半分どころか八割ほどじゃん。ってかいいんすか? 仮にも十三家ってやつが雑魚にそんなズルしちゃって」

「いやー正当防衛だよ。後輩を守るために最善を尽くしたと言ってくれたまえ」

 

 俺の冷たい視線など何処吹く風と、むかつくほど楽しげに笑うパイセン。

 さてはこれ、最初からそういうつもりだったな? 次世代のチンピラは殴り合いの青春すら億劫に感じるもんなんだね。びっくり。

 

「じゃ、後はお好きにどうぞ。あ、でもそこの眼鏡だけは話聞くから軽くで頼むよ」

「えーそいつが一番むかつくのに。……はいはい、わかりましたよ。その代わり、何か一本くらいは奢ってくださいよ」

「りょーかい。あっ、こら逃げんなよー」

 

 この唐突すぎる形勢逆転に、仲間を置き去りに逃げ出そうとする不届者。

 そんな薄情な連中にパイセンは再度跳躍し、先頭の男を椅子にして出入り口を塞ぐように着席する。

 時代遅れの不良って仲間意識は高いと思ったんだけどな。……なんかがっかりだわ。

 

「ひぃ……!!」

「そんなに怯えんなよ。まだ数の利はあるだろうに」

 

 まるで化け物でも見るかのように、さっきまでとは一転して萎縮し出すカス共。

 そんな哀れな様に、挑んできたのはそっちなのに、まるで弱い者いじめをしているような気分に陥ってしまう。

 それはまるであの日のよう。今なお脳裏で引き摺り続ける、褐色肌のあの人との最後の戦い。

 

「あーめんどっ。……なんなんだよ、くそがっ」

 

 そんなもやもやを払うべく、残ったチンピラ達の元へ歩き出す。

 別に殴ったところでストレス発散にも現実逃避にもなりはしないのに。意味なんて、微塵もありはしないのに。

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