待ち合わせ場所の周囲は思いの外騒がしく、随分と男女のペアが多いようば気がした。
……いや気じゃないな。多いわ。いくらイブとはいえ、これはちょっと予想の斜め上だったわぁ。
これが平日ならば可笑しくもないが、生憎まだ平日のど真ん中。
仕事納めはまだちょい先の社会人は仕事しているはずだし、実はほとんど学生だったりする……いや、明らかに社会人的な見た目してるやつも結構いるからそんなことはねえか。
まあともあれ、これが二十四日の熱気ってやつなのだろう。
基本学校か家でゴロゴロな人間で、クリスマスってものとは一ミリ程度しか関わってこなかった人生だったし、正直街の雰囲気だけでめちゃくちゃ圧倒されちゃってるよ。ま、俺含め多くの人間の本番は夜なんだろうけどな!
「……あっ、みっけ」
そんな人混みをうろちょろ歩いていると、待ち合わせ場所の広場に可愛らしいお姿で本を読んでいる一人の少女のお姿が。
一瞬遅刻したのでは体を緊張が突き抜けてしまい、つい確認したスマホに映る時間は十時二十三分。
ふーセーフだ。でも待たせちゃったのはしくったなぁ、もう少し早く出てくれば良かったぜ。
「ごめんね
「──いえいえ。
俺の声に顔を上げ、花咲くように笑顔を見せてくれた少女──
ふわふわとした白いマフラーに落ち着きある黒を基調とした衣類。
小学生だと知っている俺ですらそうと思えないほど大人びた雰囲気だというのに、一つ笑顔を咲かせてみれば年相応のギャップにキュンときてしまいそうになる。
危ない危ない。そんな魅力を見せつけられちゃあ周りの男なんてイチコロよ? もし同じクラスだったら一生残り続ける初恋になること間違いなしだね。
「……どうですか? 何か感想はおありで?」
「あ、うん。綺麗だよ。まるで夜空の一番星だぜ?」
「……ふふっ、何ですのその例え。
何が面白いのかくすくすと、あんまり上手くもなかった俺の例えに微笑する
果たして今のどこにツボへはまる要素があったのか。
こちらとしては正直さっぱりだが、まあ本人が楽しそうならそれでいいか。奏ちゃん、大人びすぎて若干一般的な感性からズレている部分がなくはないし。
「では行きましょうか。時間は限られているのですから」
「ああうん。……ところでいつもの三人衆は?」
「今日は暇を与えましたわ。ですので精一杯守ってくださいませ、私の王子様?」
そう言いつつ、ぎゅっと腕に抱きついて歩き出した
王子様ねえ? そいつは随分な大役を任されちゃったことで。こちとらただの民間人だってのにさ。
ま、任されたのなら仕方ない。あの忠犬共──特に属ちゃんにお説教されないよう、全力で仕えさせていただこうかな。
「ではお嬢様、恐縮ですがこの王子めを導いてくださいませ。貴女様の向かう先へと」
「──ええ、ええっ!
それはもう上機嫌なご様子で俺を引っ張っていく
そんな少女の年相応な可愛らしさを微笑ましく思いつつ、歩幅に合わせ付いていく。
さあて果たしてどこに連れて行かれるのやら。基本はどこでも楽しむつもりだけど、ファンシーな書誌向けテーマパークなんかは止めてほしいところだぜ。
そもそもの話、このお出かけは割と突発的な誘いから始まったものだった。
『そういえば
はい。それはもう、まさしく光の如き瞬殺でした。
借りってのは先日の件でそれはもう積み上げてしまった、まこと勝手な単独行動についてだ。
後から
……ま、まあ確かにぃ? 小学校忍び込んだり、街中で人目も憚らずに戦闘おっ始めたり、挙げ句の果てに退魔師狩りしてたシルラさんの味方になってたり? したけどねぇ??
それでも極刑なんてことは流石に……せ、せや! あのクソイルカに脅されてやっただけなんです許してお侍様ぁ!!
……はい。まあそんな言い訳なんか出来るわけもなく。
そもそもね。あっち的にはイルカの存在なんて認知のにの文字すらないからね。実質
──だーがーしーかーしー? 何と何とー? それら大体のことが不問に終わったのだー!
やったね俺! 流石だね
まあ残念ながらシルラさんの罪は消えず、未だ退魔師に追われているらしいけど仕方ないね。五人殺したのは変えようがない事実だからね。
「みてみて
「はえー驚き。こいつらって本当に足一本で立ってるんだぁ」
そんなわけで、こうして埋め合わせで遊ぶことになったわけで。
連れてこられた先はなんと動物園。こんな日でも通常運営な獣臭溢れるアニマルパラダイスだった。
まあ大人な俺にはちょいと物足りないかなと最初こそ思ったわけなのだが。
何と案外楽しめてしまっている。というのもよくよく考えてみれば、まともに動物園に来たのは第一暗黒時代な小学校低学年の頃だったので、こうして前向きな気持ちで訪れるのは中々に新鮮なのだ。
人の視線などお構いなしに、澄ました顔で片足立ちな真っ赤なフラミンゴ。
何でもパンフによると、名前の由来はスペイン語の「炎」という単語らしい。フッフッフー。
しっかしあんな細足一本で体幹強いんだなぁ。その脚力ならビル間に設置された鉄骨だって簡単に渡れちゃいそうだなぁ。
「次! 次はペンギンですわ! ほらあっち!」
「へいへい……って意外と近え。というかペンギンって動物園にもいるんだなぁ」
引っ張られながらちょっと歩けば、すぐさま大量の黒白ペンペンが視界の中に。
へー、こいつら思ったより可愛くねえ。実物以外だとデフォルメばっかりな現代がペンギンという生き物に負のギャップを生んでしまったのかもしれないね。
というかこいつらって動物園にもいるんだな。鳥のくせに水族館だけの生き物だと思ってたわ。
「はー丸まるとして愛らしい。ほらっ、魚食べますわ! きゃー♡」
だが隣には大盛況。俺の感性がちょっとズレてるのか、はたまたその逆なのか。
きっと、というか間違いなく前者だろうな。いつだったか、
「
「いえ別に? 飼うなら犬猫の方が好みですわよ? 維持費とか馬鹿になりませんし」
「はえー」
よほど好きなのだろうかと、ふと尋ねてみればまったくもって正反対な冷めた答えが返ってくる。
き、切り替えが早すぎる。はっ、これが男子の見えない女子の陰ってやつ……!?
「現実的だなぁ。お金持ちならその辺気にならないんじゃないの?」
「お金持ちだからこそ、飼うべき動物の面倒を見きれるかをはっきりさせませんと。それに、
「……確かに。あのレトロさにペンギンはファンシーすぎるかもね」
俺が納得しながら頷いていると、
なんていうか、
波長が合ってるっていうのかな。吐いた言葉に思った通りの反応が返ってくるからすらすらと会話出来る。
……ちなみに何だけど、
あの人は小動物といても大して表情緩まない気がしてならない。珍しい生き物なんて、それこそ異世界二つでしこたま慣れきってそうだしね。
「……今、他の女のことを考えませんでしたか?」
おやっ、勘が良いことで。流石は国の裏を担う一家の女ですこと。
「いや? 何か見たいのいるかなーって……お、カピパラいるじゃん。ちょっと見たいわ」
「……むー。何か誤魔化された気がしてなりませんわ」
「してないしてない。日が落ちるまでは姫に夢中だよ。ああでも、動物には浮気しちゃうかもね」
「……そうですか。なら、良いですわ!」
その場凌ぎでしかない俺の返しに、
何故そんな顔をしたのか俺には測りかねたが、それでも彼女の力強さには何かしらの想いが込められているのだけは理解出来た。
……ま、いつもは頑張りすぎて気を張ってる
借りなんてもの以外に日頃の感謝だってあるわけだし、歳上男子としてパイセンの代わりをしかと務めあげてやろうではないか。……もちろん、皆には内緒でね?
「では姫。そろそろ次へ向かいましょうか。俺、そろそろ陸上生物が見たいです」
「では、次はあちらのペリカンですわ! それと、姫呼びはこれで最後にして名前で呼んでくださいな♡」
「りょーかい。……って、りく……じょう……?」
俺からバッと離れ、陸なのか海なのか微妙な鳥の名前を呼びながら歩き出した
ペリカンかぁ。あれも実物見たことないんだよなぁ。あんまし日本に生息しているイメージとかないんだけど、オーストラリアの海とかには普通にいたりするのかなぁ。
「ほらっ、
「……言ったなぁ? むしろ俺が先に着いちゃっても泣かないでよー? きっひひっ!」
楽しげに笑みを浮かべながら、蠱惑的にこちらを誘う
そこまで熱烈に誘われちゃあ仕方ない。さしもの俺も乗らずにはいられないってわけ。
マナー違反なのを自覚しつつも緩く走り出し、先を行く奏ちゃんの後ろを付いていく。
その背中は実に小さく、俺が追いかけるべきあの人とはあまりに異なった少女だなと、らしくもない不誠実な感傷を抱いてしまいながら。