高嶺の勇者を殺したい!   作:ゴマ醤油

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聖剣解放

 金槌の一撃にてひび割れ、崩壊した屋上。

 そのまま廊下へと着地した俺は、高嶺(たかね)さんが構えるよりも早く魔力を床に影を敷く。

 

「まずは小手調べ。黒棘(くろいばら)

 

 影に通す魔力を荒ぶらせ、床の黒から突き出される無数の棘。

 一本一本が鉄の硬度。それらを着地を許さないとばかりに、彼女へと迫まらせるが──。

 

「……ま、当然だわな」

 

 その硬度を以てしても無傷。落とされたはずの彼女は、空から舞い降りるように降りてきた。

 顔色一つ、唇一つ動かさずか。……ったく、ちょっとは反応してくれても良いじゃんかよ。

 

「……どういう、つもりですか」

「こういうつもりだったよ、最初から」

 

 困惑する高嶺(たかね)さんへと、間髪入れずに指へと魔力を集約させ射出する。

 魔力の弾丸。実弾の威力など知らないが、あの殺人鬼に撃たれた物よりは速いと確信できる連射。

 けれど彼女に当たることはなく。彼女と世界を隔てる透明な何かによって、それは阻まれ霧散してしまう。

 

 ──それでも確かに視えた。その揺らぎを。彼女を守る、最初にして絶対の壁の正体を。

 

「透明な魔力壁……いや、壁というより膜かな? 君が何かを行使せずとも発している最低限の防御。……すごいね。今日攻撃してみて初めて認識できた。日常じゃまったく気付かなかったよ」

 

 なるべく軽薄に笑みを浮かべながら、その厄介さに強く奥歯を噛み締める。

 相対して初めて分かる、真に脅威と感じるべきはその自然さに他ならない。

 俺が全身全霊を掛けて発動出来る防御を上回る防御を、彼女は何ら労力を費やすことなく使用しているという点だ。

 

 たった一手、この数瞬だけで脳から本能までの全てが理解してしまう。

 俺と彼女では土台が違う。俺がどんな手を尽くそうが、そもそも戦闘すら成り立たない。

 もしも彼女がほんの塵粒一つでも構えてしまえば、それだけでこの戦いは終結するであろうと。

 

「……ま、諦める理由にはならないよねッ!!」

 

 分かりきった絶望的な事実から気持ちを切り替え、金槌を空へ投げ、影の輪を回して生んだチャクラム二枚。

 それっぽい形のそれらを指で回し、十分な回転を与えてから彼女へ向けて投擲する。

 まあこんなものが通るわけがない。こんなのは正直、小粒の魔力弾にすら劣る代物でしかない。

 だが、こんな辺鄙な物なら一瞬くらいは目は引けるはず。

 それで良い。その一瞬で充分。この一手こそ、すなわち次の一手なのだから。

 

「そら広がれよッ!! 黒壁(くろかべ)ッ!!」

 

 チャクラムは彼女へ届く前に、俺の声へ呼応するかのよう瞬く間に形を変えていく。

 黒は薄く広がり、下の棘も脈動しながら融合し巨大な壁へ。

 これは攻撃用なんかじゃない。あくまで俺を目視させないために張った、一枚の敷居だ。

 

「さあ次だッ!! 捕まえてみな勇者様ッ!!」

 

 こんな無価値な戦いに呆れ、帰られないよう吠えながら影へと潜り、金槌を掴み直して下へ降りる。

 近接戦に意味はない。最初の一撃が通らなかったのだから、近づいたとて勝ち目を減らすだけ。

 だから作る。俺の全霊を込めた一撃を繰り出せる、その隙をどうにか作り出して其れで決める。それ以外、俺に出来ることはない。

 一撃、一撃で良いんだ。それで駄目なら何もかも足りなかったで終われる。俺はやっと、全てに蹴りをつけられるはずだ。

 

 魔力で追えないように強化なしで廊下を駆け、彼女の背後辺りで跳躍して上へと戻る。

 影を通れるのは知らないはず。急に背後に出れば、まだ可能生だって……!!

 

「くろや──」

「知っていますよ。いつかのカラオケで見ましたから」

 

 背後に回り、黒い槍を展開しようとしたのだが。

 飛び出してから目に入ったのは、既にこちらへ振り向いて悲しそうな顔を見せる高嶺(たかね)さん。

 何故そんな顔をする? どうしてそんな顔を出来る?

 不意打ちには戸惑っただろうが、そんな程度で動じる君じゃないだろう? 戦いなんてしたくはないだろうけど、そんな目で見つめてこなくても良いだろう?

 

「見下してんじゃねえぞ……!! 黒箱(くろばこ)ッ!! ()せッ!!」

 

 弾かれた槍と、何より彼女の瞳。

 その両方にひたすら苛立ちを強めながら、影で高嶺(たかね)さんを囲んで閉じ、押し潰す。

 中は俺以外には完全密閉。酸素一つすらない暗黒の部屋。いくら彼女とて息一つくらいは──。

 

「……駄目かよ、くそがッ」

 

 ──結果は無駄。俺が込めた魔力が力を失い、黒い箱は直ぐさま霧散してしまう。

 彼女が何かした形跡はない。やはりあれは、あの透明な自動防御によって生み出された結果。

 恐らくだが、あれは酸欠や圧力にでさえ対応している。

 深海でも宇宙でも生存可能な潜行服。こんな青い星なんぞよりも遙かに過酷な異世界を生きるために彼女に生み出された防衛本能、それがあの膜の正体だ。

 

「……何故、こんなことをするんですか。私は、貴方に何かしてしまったのですか……?」

「……何もしてないよ。強いて言えば、何も出来なかったからこんなことをしてるんだ」

「意味が分かりません! なら尚更、こんなことに意味なんて──!!」

 

 彼女の訴えに耳を貸すことなく、今度は再度影の槍を地らせながら隣の教室へと転がり込む。

 ……意味なんてない、か。

 そうだよ、その通りだよ。君にとってはそうだからこうしてるんだ。こんなことに意味なんてあったのなら、俺だってこんなことしてないだろうさ。

 

 電気一つ点いていない無人の教室。僅かな音でさえ響く、普段の活気が嘘のような静けさ。

 そんな静寂を俺が巻き込んだことに少しの罪悪感を抱きながらも、影を教室全域に伸ばして数多ある机と椅子を絡め取り、すぐにあるはずの彼女の来訪に構える。

 

 乱れる呼吸。頬を滴る緊張の汗。ずっと無意味だと叫んで止まない、弱々しい奥底の本能。

 このやけくそを否定する全てから目を背け、ひたすらに入り口を見つめる。

 そしてついに来た。隠す気のない足音と共に、声色とは異なる悠然とした態度で彼女は入室してきた。

 

「ぁぁぁあアアッ!!!」

 

 この(けだもの)が如き咆哮に、果たして意味なんてないのだろう。

 それでも抑えることな出来ない情の荒ぶりのまま、ひたすらに投げつけながら影を圧縮した黒い球を数個作り出す。

 

|黒(くろ)、跳《はね》ッ!!」

 

 金槌で弾かれた黒い球は、教室中の影を無尽に跳ね速度を増していく。

 ただの跳弾なら曲芸でしかないが、これは俺の影に反発されることで加速する意味ある跳弾。

 加速してから当たれば俺とて致命傷は必至。この威力なら、少しくらいは──。

 

「……くそがッ」

「もう、止めましょうよ。分かっているでしょう? 貴方がどうしようと、私には届かないと」

 

 無傷。それどころか、やはり届くことなく、影球は彼女の肌へ到達する直前に消失してしまう。

 未だ欠片も構えることなく、無抵抗でしかない彼女にすら俺の試行錯誤は意味を為さない。

 威力も、戦法も、工夫も。その一切を無に帰す絶対の守り。

 超える手立てがない。ひたすら攻めているのはこっちなのに、着々と蝕まれているのもまた俺の方。

 どうする? どうすればあれを、あの限りなく薄い壁を突破できる……?

 

「気に障ったのなら謝ります。私を嫌いと言うのなら二度と近づきません。だから、だからこんなことはもう──」

「こんなこと? ……ははっ、そうだよね。力を振り絞ろうと、どこまでいってもこんなこと。君にとっては、そうなんだろうね」

 

 答えはこれだと告げるように、高嶺(たかね)さんへ余った机を投げ飛ばす。

 彼女からすれば当然の言葉なのだろうが、それでも今の俺には随分と琴線に触れる一言でしかない。

 こんなこと……そうだ、そうだとも。俺がやっていることなんて、彼女にとってはこんなことだ。

 俺の全力なんて、赤子にじゃれつかれるのと大差ない……いや、下手すれば無垢な子よりも遙かに容易にあしらえてしまうものなのだろう。

 

 ──分かっている。そんなこと、分かっては、いるんだ。

 

「けどね、それじゃ終われないんだよ。それだけじゃ、終わりたくねえんだよッ……!!」

 

 足で思いっきり床を踏み叩き、教室中の影を掛けた屋上へと伝わせ黒へ染め上げていく。

 

「堕ちろッ!! 黒滝(くろたき)……ッ」

 

 大量の魔力を滾らせ、四肢から胴に悲鳴を上げさせながら、上の影から大量の黒を放出する。

 影は扉。俺の意志のみで繋がり開き、黒を垂れ流すだけの門と化す。

 不意打ちも駄目。鋭さも駄目。圧も駄目。──ならば次は、質量の波に晒してやるまで。

 

「はあ、はあっ、はあーっ。……けほッ」

 

 黒に呑まれた教室から脱出した俺は、着地もままならずに床へと落下する。

 すぐに立ち上がろうとするが力が入らず、次への思考の代わりに口から飛び出してきたのは赤黒い粘ついた液体。

 あア目が霞む。足に力が入らねえ。気をつけてねえとふらついて仕方ねえ。

 短期間で一気に魔力を使いすぎた。過剰なダッシュの繰り返しと一緒で、身体に必要な要素が巡りきってねえんだ。

 

「どうせ死なねえンだろ……? こんなの、屁でもねえんだろ……?」

 

 過剰な魔力使用を魔力量で強引に誤魔化しながら、きりきりと首を動かし上を向く。

 直後、軋みを上げ、重量に耐えきれずに天井が抜け落ち、そして大量の黒が零れ出してくる。

 けれどもその中にはやはりというべきか、黒のみを犯す不可侵の彼女がいて、重力にすら縛られずゆっくりと舞い降りてきた。

 

上野(うえの)くん」

「……ッ、影糸(かげいと)……うぷッ」

 

 更に血反吐を吐きながら、こちらへゆっくりと歩く彼女を阻むように大量の糸を展開する。

 極細にて阻む黒の檻。だがそれも変わらず無意味だと、彼女がまるで意に介さず歩を進めてくる。

 

「……上野(うえの)くん」

「くそっ、くそッ……」

 

 腕から血が噴き出し、持っていた金槌が地に落ちる。

 足の力が入らなくなり、代わりに水溜まりへ足を入れてしまったときみたいに浸った感触に包まれる。

 そんな無様を前にし、窘めるというよりは、泣いている子を慰めるみたいに俺の名を呼んでくる高嶺(たかね)さん。

 だから何なんだその()は。俺の方が辛いはずなのに、どうして君が俺なんぞにそんな顔を向けてくる?

 

上野(うえの)くん。もう終わりにしましょ──」

「るせェ……!! 同情なんかしてんじゃねえェ……。哀れんでんじゃねえよッ……。お前が俺を高嶺(たかね)、アリスッ!!」

 

 俺の頬へと差し出された手を弾き、背一杯後ろに跳んで距離を取る。

 けれど最早、その程度の後退にすら足は耐えきれず、着地に失敗し後ろへと倒れ込んでしまう。

 

 ……ざまあねえ。ざまあねえなァ俺は。

 相手のことなんて考えずに好きな人を殺そうとして、何も出来ずにこうして力尽きて、その上殺そうとした相手に同情なんてされてやがる。

 嗚呼、或いはこれが罰なのか。分不相応な恋心を抱いて、それでも我を貫こうとした罰なのか。

 それなら納得だ。だって天井が開いても、空は一向に晴れず雪を落としてくる。俺の行いに、光なんざ指してくれねえもんなぁ……。

 

「……恨み言なら後で聞きます。今は、すぐに治療を──」

「きひ、きひひヒッ……。来るんじゃねえよ……。俺ァ今最高なんだ、絶頂なンだ。だから、だから終わらせてくれるんじゃねえよ……」

 

 血でべたつく手で床をまさぐり、倒れた際落とした金槌を握り直し、ゆっくりと立ち上がっていく。

 もう、脳はそこまで回っていない。俺の目はもう、この色も景色も映していない。

 理解している。結果がどうであれ俺はもう死ぬ。次の一撃を全てを出し切って、それで終わりを迎える。

 

 全身に残っている魔力をかき集める。全てを絞り、その上で残った機能している部位すら対価として力に変えていく。

 長く永く、永劫に感じる間。果たして何秒か、それとも秒すら経たない意識の狭間なのか。

 

 ──どうでも良い。だってこんなにも心地好くて、挑むべき彼女はこんなにも綺麗だから。

 

「だから、最後まで俺を見ていろッ……。俺を刻んで、敵として殺し合えよッ……! なあッ!? 高嶺(たかね)、アリスゥゥ……!!」

 

 怒号に呼応するかのように、俺の背中から噴出して吹き荒れる黒。

 それらは急速に人の形を成し、俺を埋め、影人形の行進(ドッペルマーチ)として高嶺アリスへと迫まっていく。

 その最中、黒い軍勢に紛れながら強く強く、残った握力を全部費やして()()()を握り、真っ直ぐに地面を蹴り出し彼女へと踏み込む。

 

(メタモル)(フォーゼ)……」

 

 弾かれる影人形(ドッペル)に紛れ、振りかざされたのは俺ではない(おれ)の腕。

 だがそれは、やはり透明な膜に阻まれ──そして少女の体は爆散する。

 

「──なっ」

 

 小さく、ほんの僅かに発されただけの驚嘆。

 だがそれでも、確かに彼女は──高嶺(たかね)アリスは驚いた。彼女の認識を上回った。

 最後の最後に出したのは色付きの影。より正確に表すのなら、影が生んだ可能性の具現。

 あのイルカは言っていた。俺の変身(メタモルフォーゼ)は別の可能生を受肉させ別物へと変えるものだと。

 色を付けようが偽物では簡単に見抜かれる。けれど()()()()()なら、一瞬だけは欺けるはず。

 ならば出来るはずだと信じ、それに賭けた。そしそれは見事に叶い、高嶺(たかね)アリスを出し抜いた。これはつまり、それだけのことなのだ。

 

 ぐっと身を低くし偽物(フェイク)をくぐり抜け、そのまま金槌を構え力を込める。

 隙は出来た。彼女の懐へと踏み込めた。舞台はようやく整った。

 けれどまだだ。まだ足りない。最後の一撃を繰り出すためには、まだ一手だけ足りない。

 

 実に情けなく、弱者の乞い願いでしかないけれど。それが通るかは賭けるしかない。

 高嶺(たかね)アリスが、今なお俺など眼中にないと。俺が恋した翡翠の瞳をした彼女は、どうしようもなく凄くて遠い人なのだと。

 

(かげ)収納(しゅうのう)……」

 

 ぐにゃりと揺らぐのは彼女の足場──正しくは彼女の足裏にある、一面に敷かれた黒。

 俺の推測が正しければ、あれは障壁であって浮遊する支えではない。

 だから片足だけなら間違いなく呑み込める。敵意の混じった攻撃ではなく、許容であるが故に彼女の壁は意味を持てないはず。

 

 ──そしてその見立ては正しく。彼女は案の定、片足を沈ませほんの僅かだが姿勢を崩したのだ。

 

 最後の一閃。残る力の全てを振り絞り、高嶺アリスの右頬目掛けて放たれた一振り。

 だがその決死の一撃も高嶺(たかね)アリスの肌には届かない。

 未だ健在である白い膜に阻まれ、紙一重で辿り着くことなく徒労に終わり命が潰えるだけ。

 

 ──ただしその一振りだけが、本当に本命であればの話だが。

 

「──ッ!!」

 

 そうしてついに、高嶺(たかね)アリスは本当の意味で驚愕する。

 それは金槌と、幽鬼が如き形相をした思い人にではなく。

 自らの頬を掠った小さな弾丸。上野進(うえのすすむ)によって打ち出された小さな黒い粒が、本当に些細ながら傷を付けたことを認識したのだから。

 

「きひッ、あぁ、通った……」

 

 声にならない声で喜ぶ。像を映さない瞳で見つめる。何も掴めない手が、その感覚を放さない。

 ついに、ついに一撃入れた。あの高嶺(たかね)アリスに、レベル1000に、最強無敵に一矢報えたのだ。

 嗚呼、これでもう満足だ。俺はやりきった。これで死ねるのであれば、最高の終わり方だ……。

 

「……貴方の覚悟は分かりました。貴方がそれを望むのならば、私も応えましょう」

 

 次の瞬間、高嶺(たかね)アリスは声を震わすのを止め、教室を壊す勢いで飛び上がる。

 どこまでもどこまでも。学校を容易く越え、空高くへと飛翔する一人の少女。

 

 そうして雲の壁の一歩手前で制止した彼女は一拍。

 自身もまた上野進(うえのすすむ)との一年を振り返り、ゆっくりと覚悟を決めて手を伸ばした。

 

 

「──聖剣解放。段階制御、一段階解除」

 

 

 刹那、世界の色が塗り潰される。平常たる数多色から、高嶺(たかね)アリスの魔力へと。

 千妖行(せんようこう)の際も、屍鬼(かばねおに)の時も解くことのなかった十三の段階制御。

 それは高嶺アリスが日常を送るための枷。一つでも外せば、

 それどこの一度、この瞬間だけは微塵も躊躇わず。彼女は一人の男を想いながら、ゆっくりとその身を勇者という規格外へと戻していく。

 

 そうして空を捻らせ、彼女の手へと顕現したそれは一振りの剣。

 水晶の刀身に歪みはなく、柄は何にも染まらぬ汚れのない潔白を保ち、溢れ出る光は太陽を想起させる熱量を秘めたもの。

 これこそが高嶺(たかね)アリスが担う聖剣。燻る妖星一つを材とし、起源の霊によって一振り変えられ楕円の箱庭(エルダガンド)に託された運命を断ち切る一振りに他ならず。

 

 その真髄をこの脆く青い星で示すことは、未来永劫存在する機会など訪れることはないと。

 二度の異世界を経て強く誓ったはずの高嶺アリスは、この一度だけはと絶対の禁を犯して軽く振るった。

 

「……ははっ。綺麗、何て綺麗な光……」

 

 それを見上げる骸同然の男は、限界を迎えた己にはあり得ないくらいに鮮明なほど知覚する。

 黒の一切を散らし、背後の月すら淡くさせ、それでもなお爛々と存在する極光。

 色を失った瞳は焼き付かせる。全部なくして空になった心へと、確かにそれは染み渡った。

 

 嗚呼、あれこそが光。あれこそが俺が求めたもの。俺が全てを費やしても何かを刻みたかった、彼方に咲いた一輪の華なのだと。

 

 その熱く眩く、けれどもどうしようもなく安らかな光に呑まれながら瞼を閉じる。

 ほんの一瞬、刹那よりも短いに駆け巡る、この一年で数えられないくらい見てきた彼女の笑顔。

 もしもその横を歩けたのならと、虚しい後悔をしてしまうがそれは蛇足。

 じゃあさようなら愛しき人。殺そうとした身で勝手ながら、どうか幸せにって願ってるよ──。

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