千束の元相棒が自殺しかけた   作:曇らせピエロ

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 曇らせ息抜きを書きたかっただけの話。
 時間系列はたきなが来る前の二年前です。


一話

 

 

 少女には見えていた。

 人間に対して最もベストな殺しの道筋を辿る。銃撃戦の中、弾丸は当たらずにナイフが、銃が急所を抉る。悲鳴が、絶望が飛び交う中、血に濡れて死んだ人間を見下ろす少女に誰もが背筋を強張らせた。

 

 冷たくなった手、伽藍堂の瞳、死んでいるのではないかも思わせるほどに覇気も殺気も感じ取れない少女は次の標的を見つけると機械的に銃を撃った。

 

 標的(ターゲット)である男の一人は痙攣起こす暇もなく脳幹を貫かれ、殺された。応戦する弾丸の雨、全員が一斉に撃ち続ける射撃に少女はゆらりと動いていた。

 

 血が飛ばない、撃たれた反応もない、まるで撃った弾がすり抜けているようにも、避けているようにも見えて、気が付けばギチギチと銃から弾を撃ち尽くし、引き鉄を引けなくなっていた。

 

 

「な…んだよ……」

 

 

 迫り来る少女にナイフを構えようとした手が正確に撃ち抜かれた。横を通り過ぎれば既に首が掻き切られ、殴りかかってくる男は合気の要領で放り投げられ、頭を撃ち抜かれた。

 

 正確無比、冷静沈着、そして何より殺す事に躊躇もしない少女。笑う事も顔を顰める事もせず、ただ無を感じさせる恐怖に男は叫んだ。

 

 

「何なんだオマエはァ!?」

 

 

 その叫びも答える間も無く、男の心臓は撃ち抜かれた。

 火薬の匂い、散乱した血と空薬莢、そして返り血を浴びても死んだ男を見下ろす赤制服の少女。

 

 死体の数と標的の数が一致すると耳につけていた通信機のスイッチを入れる。

 

 

「……標的抹殺、完了しました」

『ご苦労。迎えと掃除屋(クリーナー)を寄越す。何か要望はあるか?』

「……何も、要らないです」

『そうか。暫くそこで待機していろ。十分もすれば迎えが来る』

「はい……」

 

 

 簡素な報告も終わり、死んだ男達の懐を探る。

 財布や銃器、情報となるものは全て回収する。冷たくなった死体に嫌悪感はあれど、それはいつもの事だった。偽造されたカードや保険証、パスポートや隠れ家のIDなど様々なものが出てきた。

 

 

「!」

 

 

 男の懐には小さな黒い箱があった。

 中を開いてみると、そこに入っているのはプラチナの高そうな指輪とメッセージカードだった。

 

 ただ一言、綴られていた言葉。

 それは──ただの愛の言葉だった。

 

 

『marry me 静華』

 

 

 それを見て少女は指輪の箱ごと叩きつけていた。

 無表情だった少女は激情に顔を歪ませてポツリと呟いた。

 

 

「ふざけんな……」

 

 

 堪らずに叫んだ。

 冷静だった鉄仮面は容易く崩れ去った。男には幸せが待っていた。誰かを愛するだけの幸せがあった筈だ。指輪は高そうだが、銃の値段ほどではない。こんな犯罪組織の中にいて、それでも待っていた人が居るはずなのに

 

 

「ふざけないでよ……!」

 

 

 少女はそれを奪い去った。

 命を摘み取った。一々気にしては保たないから考えないのが一番だと思っていても、何百何千と殺して忘れる事など出来はしなかった。

 

 恨むように、憎むように、言葉を吐き散らかした。

 

 

「待ってる人がいるならこんな事するなよ……!!幸せを噛み締めて生きられなかったの……!?」

 

 

 こんな事になるなら最初からこの世界に居るな、と言いたかった。でももう手遅れだった。手遅れだから殺した。自分は悪くはない、自業自得だ。なんて言葉で割り切れない。悪意を生まない世界の存続の為にまた殺し続ける。

 

 心はもう──限界だった。

 

 

「ねぇ……私はあと何人殺さなきゃいけないの……?」

 

 

 死体は何も語らない。

 殺した人間は何も答えてくれない。自分を呪うように、自分が作り上げた惨状に声が響くだけ。

 

 惨めに泣いて、辛い心を吐き出しても何も晴れない。返り血がついた手が冷たくて、それはまるで死んでいるようにも思えた。

 

 

「……ああ、そっか」

 

 

 弾を装填した。

 胸に銃を添えて、引き鉄を引いた。

 パァン、と銃声が高らかに響き渡ると、胸から血が溢れ出した。

 

 

「これで、殺さなくて……いいんだ」

 

 

 ぐらりと、ゆっくりと倒れていく。

 何千も殺したのだ。もうこれ以上殺さなければならないなら、自分が居なくなればいい。そうすればもう、誰も殺さなくていい。

 

 殺し続ける才能しかない少女は遂に幸せが見えなくなった。幸せがあるなら、自分が死ぬ事だと信じてしまったのだ。

 

 

「千…束……」

 

 

 ──私は貴女が羨ましいよ

 そう呟いた言葉と共に骸の惨状に倒れ伏した。

 

 

 ★★★★★

 

 

 少女の名前は星野真菜。

 DirectAttack、通称『DA』所属のファーストリコリス。日本における、警察・公安とは異なる独立治安維持組織で、赤制服はDAトップクラスの戦闘力を誇る。

 

 これを着ている人間は三人。

 現在では錦木千束、春川フキ、そして星野真菜の三人だ。

 

 歴代最速で赤服を勝ち取った千束と歴代最高傑作と呼ばれた真菜の二人は旧電波塔事件の英雄とされていた。視界にさえ入れれば銃弾が何処に飛ぶのかを見切り躱す千束と人間が最も殺せる殺人の道筋が見える二人はDAの中でもかなり異端だった。

 

 だが、ある日千束はDAから離れた。

 人を殺したくない、その心情からDAを離れていったのだ。別の支部として喫茶店リコリコで殺人以外の捕縛優先の仕事を請け負っていた。

 

 その一方で真菜は仕事の量が増えた。

 正確には殺人の任務が増えたのだ。千束が居なくなった事で『DA』のリコリスの戦力低下、言わば優秀な人材が直ぐに動けなくなり、その代わりとして真菜は殺人を請け負う事が多かった。

 

 断る事はできなかったのは、真菜が千束と親友であったから。

 

 千束には夢があって、人を殺さない。

 救世主を見つける為に、助けられた命で今度は誰かを助けようと志していた。

 

 眩しかった。尊かった。

 羨ましいと思えるほどにその夢を語る千束に憧れた。

 

 千束がDAから離れてもいい許可を出したのは千束が不殺を貫く事もあってその意見を変えられないと判断した事、そしてもう一つは真菜が居たからだ。最高戦力の中で、殺人を受け入れてる真菜の方が使い勝手が良かった。逆に真菜がそれを断れば喫茶店リコリコを潰してでも戻ってこさせるつもりもあり、断る事は出来なかった。

 

 夢を追い続ける千束とただ機械的に殺す真菜は徐々にすれ違っていった。時間が過ぎていく中で、千束に会う時間もなく、リリベルとリコリス、どちらが有用か上層部が判断するようになってからは殺す人数も単独戦闘も増えた。

 

 不幸だったのは、それでも真菜を殺せるだけの人間がいなかった事、殺す事が出来てしまった事、その才能は磨かれ、遂に真菜はリコリス最強の存在となった。

 

 単独の任務が増えた。

 それでも真菜はやり遂げた。傷一つ負わずに殺し尽くした。

 

 それができてしまう事、そしてそれを聞いた上層部や他のリコリス達の期待、殺す事を止めたいと言える状況になれず、命令に従った。

 

 ただ殺した。殺し続けた。

 心は磨耗した。何度も夢見が悪くて吐いた。体重が減らないように管理されているから栄養失調にはならなかった。眠れない日が多くなった。睡眠薬を使って眠ってもストレスは溜まっていく。

 

 やがて笑わなくなった。

 同僚のフキが「大丈夫か?」と尋ねてきても平気と答えた。疲れていようが、誰にも止められない最強に隔たりが出来ていたのはこの頃だった。

 

 二年前の事だ。久々に千束と模擬戦をやった。

 結果は真菜の圧勝だった。強さが圧倒的に磨き上げられた真菜と喫茶店で不殺を貫く千束。余りにも残酷なほどに強さがかけ離れていた。トリックショット、武術、射程距離、そして身体能力だけではなく千束のように弾丸を見切る洞察力と反射神経。鍛え上げられた最高傑作は千束に蹂躙と呼ぶ程の戦闘能力を見せつけた。

 

 

「ええぇ……でも幾らなんでも強過ぎない?」

「経験の差」

 

 

 淡白に告げる強さの差、千束は真菜の手の拳銃のタコを見てゾッとした。手がボロボロになるまで戦い続け、包帯は巻かれては血が滲んでいる。いつも以上に表情を出さなくなった事を少し不安に思った。

 

 

「真菜、ちゃんと休んでる?」

「……大丈夫だよ」

「本当にぃ?隈出来てるし、なんか痩せたっていうか」

「貴女が太ったんでしょ」

「あぁん!?今乙女に言っちゃいけない言葉が聞こえたんですけどぉ!?」

 

 

 軽く笑って平気そうな顔をしていた。それは余りにも自然過ぎて、千束は気付かなかった。平気そうな顔をしている裏にはとても寂しそうだと千束には気付く事が出来なかった。

 

 相棒の嘘をこの時見抜く事が出来たなら、結末は変わっていたのかもしれない。

 

 

「私は平気だよ。そっちはどう?救世主見つかった?」

「いや全然。手掛かりもないけど楽しくやってるよ」

「……そう」

 

 

 千束は元気にやっている。

 それを聞けただけでよかった。でも、それと同時にこれ以上聞きたくなくて、自然と背を向けて千束から離れていく。憎む事はしない、不平等だと言わない、殺したのも選択したのも自分だから。

 

 

「じゃあね、私これから任務だから」

「あっ、うん……偶にでいいから遊びに来てよ。一杯くらいは奢るよ?」

「……そうだね、ありがとう」

 

 

 それが千束との最後の会話だった。

 それから二年間、真菜は喫茶店リコリコに顔を出すことも無かった。会ってしまえば今までやってきた事を許されなくなってしまいそうだったから。自発的に会いにいく事は出来なかった。

 

 そして殺した人間の数が二千を超えたのはこの頃だった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「真菜……!」

 

 

 病院だというのに走ってガラス張りの病室の前でかつての相棒の名前を叫ぶ千束。病室の外には燻んだ赤い髪の長身でコートを着たリコリス達の上司、楠木司令官がそこにいた。

 

 

「遅かったな千束」

「楠木さん…真菜は!?」

「意識はないが、一命は取り留めた」

 

 

 出血多量で死にかけてはいたが命は繋いだ。幸い急所を外していたらしく、長く苦しんで死にたかったのか勇気が足りなかったのかは不明だが、どちらにせよ迅速な手術のお陰で真菜は死ぬ事はなかった。

 

 

「誰にやられたの?」

「誰にもやられてなどいない、貫かれた弾丸は真菜のものだった。その意味が分かるか?」

「……自殺、しようとしたの?」

「そうだ」

 

 

 信じられない、と言葉を漏らす千束に楠木司令官は真菜を見ながら淡々と答えた。

 

 

「ラジアータの報告で精神的苦痛を感じていたとは報告を受けていた所で休息を与えたが、それでも精神が磨耗し過ぎた。才能と心は一致しない。リコリスの中でもよくある事だ」

「だからって!なんで……こんなになるまで」

 

 

 俯いている千束に楠木は右手に持っていたものを投げ付ける。咄嗟の事だが、避ける事もせずに反射神経でキャッチする。手に取ったものを見るとそれは小さな本だった。タイトルはなく、これがなんなのか尋ねると楠木は口を開いた。

 

 

「それは真菜の日記だ。同室のリコリスから渡されたものだ」

「ちょっ、勝手に!?」

「いいから読め。全て書かれてる」

 

 

 千束は手にした日記を見るのが怖かった。

 どうして真菜はこんな事になったのか、知りたい反面知りたくなかった。震える手でゆっくりとページを巡っていく。

 

 

 ★★★★★

 

○月○日 晴れ

初めて日記を書く。

今日からファースト、友達の千束と一緒だ。なんでも、千束が救世主さんにフクロウのペンダントを渡されたように私もなんか知らないけどそれを渡された。セカンドの時からみんなの視線は異質で私は普通じゃないらしい。殺せるルートを可視化できないらしい。銃口を見切れないらしい。そんな私にも友達が出来た。ちょっと嬉しい。

 

 

○月☆日 雨

千束と模擬戦をした。負けた。

悔しいけど次は勝ちたい。春川さんと話せた。ツンツンしてちょっと怖かったけど、優しい人だった。お昼の中華丼が美味しかった。

 

 

○月♪日 晴れ

任務だった。外国の裏組織のテロリストの捕縛及び抹殺。銃弾が飛び交う中で手加減すれば私が殺される。だから殺した。それに後悔はないけど、千束は誰一人殺さず制圧出来ていた。凄いなぁ。

 

 

○月*日 曇り

セカンドの子に銃の撃ち方の指導をした。

ピンホールショットは真似出来ないと呆れられた。それが普通だと楠木さんに苦笑された。余談だけど千束って思った以上に距離が遠いとセカンドよりちょっと上程度だった。意外。

 

 

○月◎日 曇り

任務で連続殺人犯の抹殺をした。久しぶりにナイフを使ったけど、やっぱり感触が気持ち悪い。銃の方が便利でいいや。

 

 

○月¥日 晴れ

今日は千束の誕生日だ。リコリスの依頼もなかったから寮のキッチンを借りてケーキを作った、余分な糖質は控えろって言われたから豆乳のケーキ、あんまり甘くないっていいながらも食べてくれた。ハッピーバースデー千束。

 

 

○月%日 晴れ

今日、セカンドの子とコンビを組む事になった。名前は南、明るくてファースト志望の元気な女の子、何処となく誰かさんに似てる気もするけど、でも腕前は確かだった。この子ならきっと、直ぐにファーストに上がれると思う。

 

 

○月●日 雨

春川さんと合同任務。

人殺しは楽しいとは思えないけど、それでも凛々しくてカッコいいと思った。なんか私と千束とフキさんは憧れる子が多いらしい。私なんかを目指さない方がいいのに、不思議な話だ。

 

 

○月◇日 晴れ

銃弾を見切れた。シミュレートや模擬戦で試したけど弾道が見切れるようになった。経験もあるけど、嫌な予感からの推測に磨きがかかってるのかもしれない。こんな事が出来るのは千束くらいって楠木司令官が褒めていた。

 

 

○月◆日 曇り

春川さん達が誕生日を祝ってくれた。

楠木司令官から可愛いシュシュをもらった。誰かに祝われるのは千束以来だ。今日だけ特別に好きな物をリクエストしていいって言われたから、ピザとコーラを頼んでみた。黄金の組み合わせだった。幸せ。

 

 

○月#日 晴れ

殺しのルートが何本も見えた。最適な殺しの道から単独で組織を殲滅できた。いよいよ化け物地味てきたって自覚がある。歴代最高傑作、黄金期、セカンドやサードの子達はそんな風に噂してるらしい。

 

 

○月@日 晴れ

セカンドの南が死んだ。任務中に仲間を庇って撃たれて亡くなったらしい。DAならよくある事なのに、心が晴れない。あの笑顔が見れないって思うと、辛くて涙が出る。

ねえ南、貴女は悔い無く死ねた?取り残された私達は悲しいんだよ?私、貴女に生きてて欲しかったよ。

 

 

●月○日 晴れ

任務中にリリベルが襲ってきた。

全員急所は外して撃ち抜いた。楠木司令官がなんか言ってた気がするけど、気持ちが晴れない。ねえ、手を取り合える筈の組織でなんで殺し合わなきゃいけないの?DAの為に戦って、味方まで警戒しなくちゃいけないなら私はどうすればいいの?

 

 

●月●日 曇り

フキさんと模擬戦した。圧勝した。

なんだろう、このズレ。私がおかしいのかな?勝ったはずなのに喜びも湧かない。笑顔になれない。

ああ、なんか本当に怪物になったみたいだ。

 

 

●月◆日 晴れ

最近、何故か任務が多い。聞いた話、有名なテロリスト軍団が裏で日本を場所として取り引きしているのと、リコリスとの全面戦争としてサード達を殴殺、強姦、射殺と様々な方法で挑発してきている。悪党に慈悲はない。殺そう。

 

 

●月◇日 晴れ

126人殺した。無傷で殺せた。殺そうとしてきたテロリスト達の怯えた目が消えない。いつもそんな事気にしなかったはずなのに、今日はなんか身体が重い。

 

 

●月★日 晴れ

休暇を貰った。組織はまだ多く存在するらしいけど、とりあえず近場の一組織は潰せたから心身を休めろって言われた。何すればいいかわからない、フキさんが私を連れ出して映画館に連れてってくれた。大丈夫か?って聞かれた、大丈夫だって返答したのにフキさんはなんか顔を顰めていた。

 

 

●月☆日 晴れ

また任務だった。テロリスト主部隊の一つ。

ラジアータは私を単独投入した方が勝率が一番高いと言っていた。フキさんは反対していたけど、私は大丈夫って答えた。

泣きそうな顔をしてたみたいだ。私なんかの為にそんな顔しなくてもいいのに。

 

 

●月@日 晴れ

殺し尽くした。一人残らず殺して武器も押収。大金星だというのに笑えない。サードの子もセカンドの子も私を見る目に恐怖が映っていた気がする。単独で100人以上の武装した組織を壊滅出来てしまうのが化け物にでも見えたのだろう。

 

 

●月※日 曇り

また、強くなった気がする。

視線が分かる。ライフルを向けられても私を見ているその感覚がなんとなくわかる。本当、怪物みたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●月★日 晴れ

最近、死者が夢に出てきた。

寝不足が続くのは珍しい。先生に頼んで睡眠薬を貰った。

 

 

●月◎日 晴れ

千束と久しぶりに会った。

彼女の前で私は今まで通り過ごせていただろうか。今まで勝てなかった千束に勝てて、嬉しいはずなのに喜べない。

差がついた気がした。不殺の千束と殺戮の私、同じ道を進んでたはずなのにこんなにも離れた。私が人間で無くなったみたいで怖くなった。

 

 

●月♤日 晴れ

殺した数が千を超えた、これは歴代でも類を見ない最強のリコリスだと楠木司令官は言っていた。そんなに殺して、本当に私は生きてていいのかな。私、どうしてDAの為に戦いたいって思ってたんだっけ……

 

 

●月◎日 晴れ

千束に貰った髪留めが壊れた。

あの子、元気にしてるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●月■日 晴れ

2311人、私の殺した数だ。

食事も喉に通らずに吐き続けた。痩せた気がした、苦しいのに今はそれが良かった。

 

 

●月♧日 晴れ

殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した

 

 

●月◎日 晴れ

また、殺して殺して……私、もうなんでこうなっちゃったんだっけ。自分で選んだ道なのに、千束に出来ない事を背負うだけな筈だったのに、才能が無ければ私は何処かで死ねたのかな。手が冷たくて、血が纏わりついてるみたいで怖い、生きるのが辛い、死にたい

 

 

●月/日 晴れ

自分の血が冷たく感じた。久しぶりにみた自分の血に私は怖くなった。そんな訳ないはずなのに、冷たいって感じるの。誰にも言えない、この苦しみは私だけで抑えなきゃいけない。それが私の殺してきた責任だ。

 

 

●月◎日 雨

私の友達だったセカンドの子が死んだ。

私が代わりに全部殺した。涙も出ない、頬に触れても冷たくて何も語ってくれない、生きててほしいって願う資格もないのに、

 

 

●月♧日 雨

殺した。また死ねなかった。

 

 

●月■日 晴れ

誰も私を殺せない。

私の才能は殺戮の才能だから、殺せない。

また殺した。

 

 

●月※日

死ねない、殺されられない

私に生きてる価値なんてないのに

生にしがみつく自分が浅ましい

 

 

●月●日

こんな才能、欲しくなかった。

 

 

●月&日 

だれか、たすけて

 

 

 ★★★★★

 

 

 悲惨だった。

 その日記を破り捨てたいほどに悲痛で、真菜の心の叫びが書かれていた。千束が不殺を貫き続ける為に、真菜がずっと心を痛めて殺し続けていた事実に千束は動揺を隠せなかった。人工心臓だというのに胸が痛くて、呼吸が定まらない。

 

 

「……ご、めんな……さい………ごめん…なさい」

 

 

 千束は無意識のうちに謝罪を繰り返していた。

 ずっと苦しめ続けていたのに気付かなかった、気付かせなかった真菜の心は限界だった。もっと早く、もっと真菜を見ていればこんな早まった手に染めなかったのかもしれない。

 

 いや、早まった手ではなかった。

 とっくに()()()()()()。救世主を探している千束の代わりに真菜は殺しの才能を磨き続けて、そして殺し尽くした。

 

 心を痛めている事も、苦しんでいる事も自責し、自罰だと思い込んで隠し続けた。

 

 そんな15歳の少女は死にたがっていた。

 ずっと辛かったから、ずっと苦しみ続けていたから、自ら死のうとした。

 

 助けて、の一言すら千束は気付けなかった。

 

 

「な、ん……で………」

「そこまでは分からない。だが、内容を見るに真菜は貴様を家族のように、姉のようにも思っていたのだろう」

 

 

 きっと自分も同じ立場ならそうしたかもしれない。千束が殺し、真菜が不殺だったらきっと同じように真菜に隠していた。

 

 真菜が笑った顔はいつ見たのだろう。模擬戦で真菜が勝った時も笑っていなかった。笑う事すら出来なくなるまで追い詰めて自分は『やりたい事優先』なんて言葉を掲げて、真菜を見ていなくて。

 

 

「うっ……あ、あ……」

 

 

 後悔してももう遅かった。

 なんで、なんて言葉を垂れ流した時点で千束には真菜を見ていなかった。命を大切に思う千束でさえ、命を終わらせようとした真菜の気持ちは理解出来た。理解できても真菜が感じていた苦しみは想像を絶していた筈だ。親友なら、相棒なら気付けた筈なのに気付けなかった事実に膝をついた。

 

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!

 

 

 慟哭も涙も全て吐き出した。

 自分の声ではないと錯覚するような絶望に満ちた悲痛な声が喉から吐き出された。大切な友達だった筈なのに、ずっと自分が苦しめ続けて、死を選ばせた自分を殺したいとすら思えてしまった。

 

 そんな時だった。

 ベッドで眠っている彼女の指が僅かに動いた。

 

 

「………ん…ぐ……」

 

 

 心拍数も呼吸値も少し異常になった。

 覚醒が近いのか、瞼がピクピクと動き始めた。その様子を見た千束は真菜の手を握った。人殺しの手だとか、冷たくて怖い手だとかそんなの関係なく強く握った。

 

 

「起きて真菜……」

 

 

 涙は止まらなかった。

 命を投げ出そうとした真菜に生きてほしいと願う自分はきっと残酷だ。それでも真菜に生きててほしいと懇願するように手の温もりを真菜に伝えた。

 

 

「私、まだ真菜に何も謝れてない……」

 

 

 謝った所で自己満足に過ぎないのは理解していた。真菜の苦しみは真菜にしか分からない。謝っても真菜はきっと許そうと、隠そうとして重荷にならないように話すだろう。

 

 そんな言葉より、真菜の本音が欲しかった。

 ずっと苦しかった事を嘆いて、吐き出して欲しかった。自分を責めて欲しかった。全部自分の為で、傲慢で独裁的できっと誰よりも罪深い事を分かっていた。

 

 

「起きて、起きてよぉ……!」

 

 

 それでも、生きててほしかった。

 取り残された自分が苦しくて、きっと一生の傷を残す。大好きだった相棒を失いたくなくて、縋る思いで言葉を漏らしていた。

 

 そして……

 

 

「ん………んん」

 

 

 真菜が目を開けた。

 ぼんやりとした表情で首を横に向けると涙目の千束が目に映った。痛みで動けず、顔を顰めて現状を確認するように右手で痛みの場所に触れる。

 

 

「真菜……!!」

 

 

 千束は怒る事も出来ず、真菜が生きている事に安堵した。涙を流しながらよかった、言葉と繰り返す。その後ろで楠木司令官は黙ったまま真菜を見ているが、真菜はきょとんとした顔で見つめ返した。

 

 

「何故自殺しようとした」

「………?」

「真菜…?」

 

 

 真菜は何も答えずに首を傾げた。

 状況が分かっていないのか、キョロキョロと周りを見渡している。その異変に千束は僅かに違和感を覚えた。死にたいとも言わず、自責の念に押し潰されているようにも見えない。

 

 まるで、そんなもの最初からなかったような表情をしていた。

 

 

「あの……」

 

 

 ぼんやりした真菜はゆっくりと口を開いた。

 握られた自分の手をそのままに千束を見つめ、口を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達は……誰ですか?」

 

 

 

 千束の顔が酷く歪んだ。

 自責に押し潰され、自殺した少女が呟いた言葉の意味は単純な忘却。

 

 星野真菜は全ての記憶を忘れ去っていた。

 

 





 続くかは未定
 曇らせが足りねえ!曇らせをくれ!!って人、感想、評価お願いします。モチベ次第で曇らせます。
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