千束の元相棒が自殺しかけた   作:曇らせピエロ

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 9時に寝て3時に起きれたから暇つぶしに二話いっきまーす!
 ※一部訂正いたしました。


二話

 

 

 診断の結果は記憶喪失。

 撃ち抜かれた場所からの出血多量、及び心機能の一時的な停止による脳のダメージ、そして何より本人が想像を絶する苦しみから逃げたいと思うほどの地獄からあり得ない話ではないと山岸先生の見解だった。

 

 それでも異常な程回復が早いのはどうにも担当の人が神がかった手術を行なってくれた事と脳のダメージが少なく収まっていたらしい

 

 楠木司令官はショック療法で記憶を元に戻す事を提案したが、自殺しかけたのに直ぐに記憶を呼び覚ませば何が起こるか分からないという千束の言葉を否定出来ず、時間をかけて生きたいと思わせながら記憶をゆっくりと取り戻す事を提案した。

 

 

「確かに真菜には必要な事だ。だがお前に出来るのか?真菜を見ていなかったお前に」

「私が、絶対に死なせないしちゃんと見てる」

「……まあいいだろう。どちらにせよ今の真菜は使い物にならん。処分するにも有能過ぎる、実績も含めて半除隊の許可を出す」

 

 

 今の真菜は確かに使い物にならない。

 時間をかけてメンタルやストレスを取り除き、生きたいと思える為の休息は必要だ。記憶喪失と言っても、忘却したのはエピソード記憶。思い出も苦痛な記憶も失われたがそれは手続き記憶ではない。技術は身体に染み付いている筈だ。

 

 そう言った意味でもミカが居る喫茶店リコリコに真菜を配属させるのは悪い選択肢ではないだろう。半除隊といえ真菜の戦歴や技術の高さを見てもまた直ぐに死のうとするのは避けたいのは本音でもあった。

 

 

「記憶が完全に戻り次第、真菜は此方に戻す」

「っ、まだ真菜を使い潰す気?」

「今度はしくじらない。それだけだ」

 

 

 楠木司令官はまだ真菜に戦わせる気がある。

 その言葉を聞いて千束は睨んだ。千束にも非があるが、当然追い詰めたのはDAだ。これ以上傷付くなら関わりを遮断してでも生きていてほしいと千束は思っていた。

 

 

「絶対ダメ、真菜は」

「意見も聞かないで貴様の願望を押し付けるな」

「っっ……!」

 

 

 その一言が突き刺さり、千束は僅かに俯いた。

 真菜は死にたいから死のうとした。きっと記憶が戻ったらまた死に場所を求める筈だ。故に戦えという発言をする楠木の言葉は正しい。処分するよりも死んでもらうのなら、戦って死んでもらったほうがまだ真菜にとってもDAにとっても()()()()()()()。生きてほしいというのはきっと千束の願望と罪悪感も含まれている。

 

 

「真菜の記憶が戻ったら伝えておけ。死に場所を求めているなら、いつか死ねるための場所を用意すると」

 

 

 楠木司令官はそういうと病室を後にした。

 取り残された千束だけが拳を痛いほど握りしめていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 三週間が経った。

 真菜の傷もすっかり治り、リハビリで定期検診と同じ事をやらせた結果、全盛期の四割低下。自分が持っている技量と記憶の擦り合わせが出来ていない以上、もっと下だと思っていたらしいが。それでも今のまま真菜に再教育するのは過去の技術を捨てるのと同義だった。独学というより、真菜の技術は癖が強過ぎて下手に教えたらそれこそ戦力の低下も考えた。

 

 楠木司令官は全盛期を取り戻すまでは真菜を半除隊、喫茶店リコリコの配属とさせた。そして今日、退院の許可も出た事により千束が真菜を迎えに来た。

 

「すみません、わざわざ迎えに来てくれて」

「いいっていいって、そんな他人行儀みたいな口調は抜きで、私の事は千束って呼んで」

 

 

 真菜の口調も何処か他人行儀だった。

 無理もない。誰が味方で誰が敵かも分からない。思い出に残っていた人も大切な人も分からず一人ぼっちな思いは今の真菜にしか分からない恐怖もあるのだろう。

 

 

「その、ありがと。来てくれて」

「……うん。遅れてごめんね」

「……?時間よりちょっと早いけど」

 

 

 千束は真菜の手を握る。

 銃を使い過ぎてボロボロとなった右手を握って、どうして今まで気づかなかったのか、後悔から僅かに涙ぐんだ。

 

 

「えっと、千束?」

「ああ、ごめん…ちょっと、ね」

 

 

 握る手は何処か優しくて、それが千束にとって苦しくも思えた。ずっと彼女に甘えていた事実を知って、それがとても辛い。こんな小さな手に頼り続けていたのだと誰かが囁いている気がした。

 

 もしも、自分が人を殺せていたら……

 ありもしない過程を考えていると、駐車場の近くで赤い制服を着た目付きの悪い女の子がいた。同じファーストのリコリスの春川フキがそこに居た。

 

 

「よお、久しぶりだな」

「フキ……お見舞い?」

「まあそんなとこだ。久しぶり…って言っても覚えてねえんだよな」

「その…ごめんなさい」

「謝んな。私が悪かった」

 

 

 記憶喪失の人間に久しぶりなんて意味がない。覚えていなければ初対面と同じだ。どうも、と返した真菜を見て本当に記憶を失っているんだなと実感する。他人行儀で、距離を置こうとする。以前の真菜とは変わらないが、圧倒的に距離感が出来ていた事を理解していた。

 

 

「……お前に言っても、多分分かんねえと思うから適当に聞き流せ」

「?」

「私はお前が嫌いだ」

「えっ」

「ちょっと、フキ……!?」

 

 

 唐突に告げられた言葉に唖然とした。

 千束も記憶喪失の真菜に何言ってんだと掴み掛かろうとするが、真菜は手を握ってそれを止めた。

 

 

「私よりも強い事、それを謙虚して大した事ないって思い込んでる事、他人には分かんねえって理解を求めない事」

「やめてよフキ!」

「待って千束」

 

 

 今の真菜に分かるはずがないフキの心情を告げられるが、困惑はしなかった。フキの握り締めた右手は震えていた。

 

 

「辛い時、相談してくれなかった事、苦しい時に無理に笑って誤魔化す事」

 

 

 俯きながら睨んでいた。

 唇を噛み締めて、溢れてしまいそうな涙を抑えて、今にも掴みかかりそうな程に。

 

 

「勝手に置いていって死のうとした事」

 

 

 フキはそれだけが許せなかった。

 自罰と思い、自虐しては苦しい事が正しいと思い込んで幸せを手放す真菜が許せなかった。寂しさも苦痛も、それを抱え込んで助けを求めなかった。見下していたわけではないのは理解してる。真菜は優しい性格だって理解している。

 

 けれど……

 

 

「お前から見て、私はそんなに頼りなかったか……?」

「フキ……」

 

 

 その優しさを捨てて頼ってくれなかったのか。言ってくれなきゃ分からない程、気付けないほど愚鈍でもない。いつも大丈夫と言っていた裏では傷だらけになっていた真菜が居た。

 

 気付かなかった訳じゃない。

 気付いて尚、真菜の言葉を信用した自分の落ち度だって分かっている。

 

 それでも、友達なら言って欲しかった。 

 千束のような犬猿の仲でもなく、お互いに背中を預けられる強さを持った友達なら……

 

 

「悪い、忘れてくれ」

 

 

 それも今となっては遅い話だ。

 記憶が戻らなければ会う事もなくなるだろう。その方がいい、リコリスと関わるのは真菜を苦しめるならきっともう会わない方がいい。

 

 言いたい事も言えてフキは立ち去ろうとしたその時だった。

 

 真菜がフキの手を掴んだのは。

 

 

「おい、何を」

「貴女、ですよね?」

 

 

 真菜はその手を覚えていた。

 フキの手を掴んで、その疑問も確信に変わった。

 

 

「私をよく連れ出してくれたのは」

「お前、記憶……」

「無くても、覚えてます。誰かが手を引いて私を連れ出してくれて、その手の温かさなら覚えてる」

 

 

 エピソード記憶が無くても、経験や刺激を覚えている事はある。フキが手を握って外に連れ出した時のあの強引な手を記憶を失っても忘れる事がなかった。

 

 自分の手は冷たく感じていた以前の真菜にとってそれは忘れられない思い出でもあった。

 

 

「私は死にたかったらしい。今はそれが分からないけど、多分貴女が居なかったら私はもっと早く自殺してたと思う」

「……!」

「ずっと、道を見失ってた私を支えてくれて、以前の私は貴女を信頼して、背を預けられたんだと思う」

 

 

 信頼していたけど、頼れなかった。

 追い詰められて打ち明けてもきっと重荷を増やしてしまうと思っていたはずだ。性格も相俟ってきっと信頼していたから話せなかった。以前の真菜はそういう人間だって千束達を見れば分かる。

 

 きっと彼女が居なければ、もっと早く死のうとしたと思う。フキは生きたいと思えるだけの僅かな希望だった。

 

 

 

「──ありがとう。私は貴女が居てくれたから今日まで生きていたいって思えた」

 

 

 

 今は忘れて何も分からないけど、大切だったという事だけは忘れなかった。だから感謝を伝えた。死にたいと願った真菜にとって繋ぎ止めてくれた親友を真菜は忘れない。掴んだ手は震わせ、流れる涙も気にせずにフキは笑った。

 

 

「……そこは責めろよ。ったく」

 

 

 真菜の手を引き、優しく抱き寄せた。

 きっと最後だ。文句を盛大に言おうとしたのに全然言葉が出ない。だから今思ってる事だけをフキは口にした。

 

 

「帰ってくんな、そのまま忘れて幸せになってろ」

「うん」

「もう死にたいと思えないくらい、生きろ」

「うん」

 

 

 そう言ってフキは千束に真菜を預け立ち去っていく。

 

 

「じゃあな、真菜」

「じゃあね、フキ」

 

 

 二人は手を振って別れていく。今生の別れというわけでもない、また会える日が来る。だから今はさよならを告げた。

 

 いつかまた会えるように二人はお互いの道を歩き始めた。

 

 





 フキはなんか盛大に曇らせられるだけの親密度が足りなかったからこれが限界だった。チクセウ‼︎
 曇らせが足りねえ!曇らせをくれ!!って人、感想、評価お願いします。モチベ次第で曇らせます。
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