千束の元相棒が自殺しかけた   作:曇らせピエロ

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 今日は愉快に酒飲んで書いてほろ酔い気分で書きました。
 今回は少し曇らせ足りない気がする。


三話

 

 千束が車を運転している様子を助手席に座る真菜は軽く見ていた。DAは特殊な組織でリコリスである以上、あらゆる許可証は17歳以下で発行出来る。免許の偽造登録も許されている。流石に国外に飛ぶパスポートなどは無理だが、普通車の免許ならリコリスなら持っている。

 

 真菜は自分が持っていた免許の数々を見てギョッとしていた。中には大型車、二輪大型、17歳の自分がどうしてそんなもの持っているのか、DAの説明がされるまでは困惑していた。

 

 

「そういえばDAから引き取るって話、まだ全然聞かされてないけど、身元引受人って誰なの?」

「先生。住む場所は私の家」

「えっ」

 

 

 三週間後の今に聞く話ではなかったが、先生なら真菜も知っていた。お見舞いの時に尋ねてくれた黒肌のダンディな男の人、ミカという人だ。身元引受人となってくれるのは真菜も知らなかった。

 

 そもそもリコリス達の殆どが孤児。親元が居ない中、引き取ってくれる人なんてDAの実態を知っている関係者に限られた話だ。適当な場所に預けられると思っていたようだが、そうも出来ないらしい。

 

 

「千束って一軒家に住んでるの?」

「あー違う違う、私の家ちょっとしたセーフハウスでさ、真菜は特にそういう場所が必要だから」

「記憶喪失前の私は何を…いやDAにいた事は分かってるけど」

「………」

 

 

 人めっちゃ殺してました、なんて言える訳もなく沈黙する。対して真菜は口籠る千束を見て、ああなんかやらかしたんだな、と覚えていない過去の自分に呆れ果てている。やらかした方向が別次元でのヤバさである。

 

 今の真菜は知らないが、二千以上も殺戮し続けた最強のファーストはDAの情報操作でも隠し切れない程の噂が裏の世界で流れている。ある意味犯罪に対する抑止力でもあったが、それが弱体化したなんて知られたらあらゆる方面で狙われやすい。隔離出来て、今の真菜を護れる存在といえば千束や隠れ家としては喫茶店リコリコが適任であるのだ。

 

 

「同居って…大丈夫なの?私、千束に迷惑かけそうだけど」

「いいって、むしろドンと来い」

「いやでも」

「いいの」

 

 

 千束は言葉を遮って真菜に告げる。

 

 

「真菜にはちゃんと迷惑かけてほしいの」

 

 

 キョトンとした顔で真菜は聞き返した。

 

 

「何で?」

「そりゃあ、今の真菜に自覚ないだろうけど……」

 

 

 真菜の日記を見て、千束の我儘が許されていた理由が分かってしまった。未だ救世主は見つけられずに浪費していく時間の中、千束が自由であったのは真菜の活躍があったから。

 

 だから今日まで千束は……

 

 

「私、真菜にずっと助けられてきたから」

 

 

 今度は自分が返さなきゃいけない。

 時間は戻らない、人生はゲームのように簡単にリセット出来ない。千束には責任があった。これまで自分が我儘を通して真菜の人生を奪っていた分の責任が。だから今度こそ幸せになれるように、千束は少しずつ真菜に生きててほしいって思えるような人生を歩めるように。

 

 

「千束……」

 

 

 真菜の右手を優しく掴む。今度は自分が返せるようにと千束は手を握ると真菜は震えた様子で口元を抑えた。千束の言葉を聞いて感動したのか顔を俯かせながら、呟いた。

 

 

「ごめん…酔った……何処かで止まれない…?」

「うおおいっ!?ちょっとぉ!?」

 

 

 震えた様子だったのは感動ではなくただの車酔いだった。色々台無しとなったその状況に顔を真っ赤にしながら千束は車内で叫んだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 それから一週間が経った。

 真菜は服や生活必需品などを揃え終えて、いよいよ『喫茶店リコリコ』で働く事になった。千束と元DA情報部のミズキの二人に和服の着付けを教わり、青白磁の和風に二人は素直に称讃した。容姿は整っていて、何処かの令嬢のような雰囲気を出していた。

 

 新しいメンバー、真菜を加えて『喫茶店リコリコ』が始まったのだが……

 

 

「ご注文お待たせ致しました。白玉ぜんざいパフェとなります」

「あっ、はい…ありがとうございます」

 

 

「お会計1980円となります」

「えっと、2000円からで」

「20円とレシートのお渡しになります。ありがとうございましたまたお越しくださいませ」

 

 

「ご注文お伺いいたします」

「ああ、えっとブレンドコーヒーと最中で」 

「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です」

 

 

 真菜は千束が思ってた以上に有能だった。

 新しい事を始める為、色々教える事が多いと思ったのだが最低限の説明で理解して実践しては普通に働いているミズキと遜色ない働きっぷりを見せている。

 

 優秀で行動も早く、テキパキと動いてくれる。同じ場所で働くホールスタッフとしては心強い。

 

 だが……

 

 

「笑顔がないわね」

「と言うより無表情だな。感情が顔に出てない」

「こー見るとゾッとするくらいクソポーカーフェイスなんだけど。そういう訓練だと思い込んでる?」

 

 

 まるで機械を思わせるほどの無表情。

 もはや此処まで来ると氷の女王を思わせる程だ。接客では常連客の対応だったからクレームこそ来ていないが、このままじゃいつかクレームが来る。笑顔もなければ喜怒哀楽の感情が欠如しているその顔に赤ん坊が泣き出すほどに冷たさを感じていた。

 

 お客様が居なくなった事で少しの休憩時間に入ると、千束は真菜に近づいて両手で頬を挟んだ。

 

 

「もー真菜!スマイル!ほらスマイル!」

「えっと……こう?」

「ちょっと口角上がっただけじゃん!?ほらほらー、リラックス…ってめっちゃ表情筋が硬い!?」

「ひはいよひはほ(痛いよ千束)」

 

 

 真菜の頬を抓ってグニグニしようとした千束は絶句するくらい伸びない真菜の頬に目を向いた。少し強めに引っ張っても綱引きをしているみたいで硬すぎる。スマイルと言われて努力して顔を変えてみても、僅かにほくそ笑んでいるようにしか見えない

 

 

「此処まで固いといつか接客にクレームが出るわね」

「私が言うのも何ですけど仕方ない話だと思いますよ?自殺しかけたし、長年こうなら笑顔が作れないのも無理はないんじゃ」

 

 

 店の空気が一瞬にして静まり返った。

 千束は俯き、ミズキとミカの二人も言葉を発さず、コポコポとお湯が沸く音だけが店に聞こえていた。他人事のように話していたが、自分の話である事は間違いない。不謹慎だった発言でこの静まり返った空気に耐えきれず右手をおずおずと上げて真菜は謝罪を口にした。

 

 

「……失言でした。すみません」

「あー、あはは、うん……これから笑えるように練習しよっか?」

「笑顔の練習ってあるの?」

「表情筋動かせば自然と何とかなる、多分!」

「適当じゃん」

 

 

 千束は頬を掴んだままゆっくりと動かし続けているのを真菜は止める事なくされるがままになっている。みょんみょんと頬を動かそうとしてるのに固くて動かない表情筋に千束が悪戦苦闘しているのを、カウンター席の前で珈琲を淹れているミカとミズキは見ていた。

 

 

「よかったの?」

「何がだ」

「あの子引き取った事。だってあの子、()()()()()()いつかまた死ぬでしょ」

「……ミズキもそう思うか」

 

 

 真菜の様子を見たらわかる。

 僅かだけど、真菜は記憶を持っている。殺した人間や任務の事、殉職したリコリスの事は覚えていないけれど、染みついた経験は消えない、ふとしたキッカケからいつ記憶が戻るか分からない。

 

 普通の精神力では二千人以上殺す事はできない。感情が狂っているか壊れているか、そうでなければ耐えきれない。壊れていても耐えられなかった真菜が普通になろうとしているのはいい。それはいいのだが、問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、真菜がどうなるか。

 

 絶望に浸るか、或いは自分がそういう人間だった事を耐え切れずまた自殺を図るか。ある種の爆弾に近い状態だ。キッカケとなる導火線にいつ火がつくかわからない。

 

 

「罪悪感に押し潰されて自殺を図ったって聞いたけど、あの状態で思い出したら耐えれないでしょ。いつ『発作』となって起きるか分かんないのに」

「千束が決めた事だ。あの子が泣きながら私に頼んだ」

「ほんっと、DAってロクでもないわね」

 

 

 孤児を集めて殺し屋を作る組織に嫌気が差してDAを辞めたミズキにとって、あの場所は余りにも非人道的だった。最強のリコリスとして育て上げられて、死のうとした真菜を見てミカは目を細めた。

 

 

「千束次第だ。私も、あの子には色々と負い目がある」

「はっ?店長あの子となんかあんの?」

「………」

 

 

 ミカはあの言葉を思い出す。

 千束を生かした、救世主のその言葉を。

 

『さよならだ。約束だぞ。才能を世界に届けてくれ。類い稀なる、殺しの才能をね』

 

 運命の悪戯か、類い稀なる殺しの才能を持った子が二人も存在していた。殺しの最適なルートを可視化する真菜と弾丸を読み切る洞察力を持った千束、関わりが大きかったのは千束の方だ。ミカは千束を育てる事を選んだ。

 

 千束の夢は尊いものだった。

 救世主のように人を助けたいという思いに、殺しの才能として育て上げる事にミカは躊躇した。育てて、気持ちが膨れ上がると同時に、言い訳の道を作ってしまった。

 

 もしも同じ殺しの才能が二人もいるなら、千束が居なくても……

 

 その結果は同じ殺しの才能を持った真菜が自殺しかけたのだ。ミカがそう望んだわけではなくてもない。千束に殺す力を教えなかったもの後悔をしているわけではない。

 

 けど、その選択で傷付いた人間が目の前にいる。

 ミカは真菜を救う事は出来ない。千束をDAから遠い場所で育て上げたのはミカだ。間接的でもミカは真菜に殺させる事を押し付けるキッカケを作った。

 

 

「……あるにはある。だが、あの子を救えるのは私ではない」

 

 

 頬をさっきより強く弄っている千束と弄られてる真菜の二人を見る。同じような才能を持ちながら歩んできた道は全く別の二人が、今度は同じ道を歩こうとしている。

   

 

「ひさほ、ほろほろやめへ」

「あっ、さっきよりちょっと伸びてきた」

「ふぁ、いふぁい痛い顔攣った!!」

「うえぇ!?ご、ごめん!?」

 

 

 選択肢は変えられない。

 過去には戻れない。だけど、選んだ答えは間違えてないと証明出来るのは千束のこれから次第だ。殺しの才能を救う才能として磨いた千束と、殺しの才能に自分が殺されそうになった真菜、救えるか救えないかは、きっと今日までミカが育て上げた答え(ちさと)次第だ。

 

 

「千束に任せてみようと思う。私が選択したあの子の生き方を」

 

 

 






 日刊三位ありがとう!
 興が乗って三連なので私は寝ます。曇らせが見てぇ……!足りない!もっと曇らせを寄越せ!!という方、感想評価お願いします。モチベ次第で曇らせます。
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