「全く、餓死か?」
白髪の女性に近寄り、体を調べる
かなり体が痩せ細り腹はかなり凹んでいる
顔も頬が痩せて骨がくっきりと見えるくらいだった
かなり若い女だ、死ぬには惜しいくらい、若い
「こんなところで死ぬなんてついてないな、お前」
死人に口なし、死ねば誰もおなじ
そんな理論に元ずいて俺は彼女を調べることにした
胸から鼠径部にあたるまで調べたが気になるものは無い
強いて言うならば持ち物は着ているものと煙草、それくらいだった
なんで煙草一本なんだろうか
火をつける道具を持ってなかったのか
最後の一服でもさせてやるか
「ほらよ」
ZIPPOで火をつけ、煙草に着火する
それだけで煙草特有の匂いが辺りに広まった
「うぅ、やっぱり嫌いだぜ、コレ」
自身の顔に漂ってくる煙を手ではらいながら彼女の口に煙草を咥えさせる
瞳孔に瞳が戻ることなく、煙草が吸われた様な形跡は無い
それでも、何処か"さま"になっているような気がした
「これで救われるだろう――」
そう思って、立ち上がった時だった
ふと、辺りが明るくなった
日が照ってきたのかとも思ったが、今は真夜中だ
そうして、後ろを見た
「何――!?」
女が、岩のようになっていた
岩の間にオレンジ色の線が走り、脈動している
まるで、女が溶岩になったかのようだ
不思議と恐怖は感じず、逆に畏敬の念のような物が芽生えてくる
それに不安を感じながら、大剣を構える
オレンジ色が広がり、あたりの気温がどんどんと高まっていく
あまりの熱気に目を瞑りそうだが、何とか耐え切る
こちらの意志を汲み取るかのように、熱くなる
火山の火口にいるかのような暑さ
瞳の乾燥がさらに加速していく
そうこうしているとパリッとヒビが入った
それと同時に、急速冷凍されていくかのようにオレンジ色がしぼんで行く
何か、生命の誕生を見ているような気分だ
そんな気高く、恐ろしいものが目の前で起こっている
大剣を構える裏で、なぜだかそう思った
そんな中、彼女は"生まれた"
セミが羽化する様に彼女は岩肌から現れる
四肢が出てくる度にガラガラと岩が崩れ、消えていく
生まれたような彼女は何故か服を着ており、燃えてもいなかった
その神々しさすら感じる光景を、美しいとも思った
「あーっ…また腹のすきすぎで死ぬかと思った…いや死んだか」
彼女はくーっと背伸びをしてそんなことを言った
まるで何度も死んだような言い草だ、気持ち悪い
若干不快感を隠せずに居ると、彼女は俺に気づいたらしい
「あー…見たか?」
「逆にどう思うか?」
質問に質問で返す
分かりきったことを聞くなということだ、察せ
どんな言い逃れも出来ないと思った彼女は言葉を続ける
「まぁ…なんだ、忘れてくれよ」
「忘れられるかあんなもん」
どうやって忘れろと言うんだあんな光景
少なくとも死にかけるレベルじゃないと忘れはしない
まぁ、ポックリ忘れてしまっていることもあるかもしれないが
「…ともかく、"ソレ"を下ろしてくれよ」
彼女ははにかみながら大剣を指さす
先程から向けられている大剣を下ろしてくれ、ということか?
「嫌だろう、そんなこと」
俺はほぼ、即答した
というか元より下ろす気が無かった
目の前の危険人物、生き返った化け物の正体を知らないと話にならない
「…その目、そういう事かい?」
どうやら彼女は俺の目で察したらしい
生き返るということは同じような目で見られたことは何度もあるはずだ
だから、それで分かったはず…憶測だが
そんなことを思っていると、彼女はため息をついて囲炉裏の周りに座る
「ほら、座んな…立って話すのも趣がないだろ」
「死人が趣を言うか」
大剣を何時でも振れる感じで置き、座る
彼女は指先から炎を出すと、それで囲炉裏に火をつけた
霊力か何かか分からない、多分霊力とは思う
「そうだなぁ、何を最初に言えばいいか…」
囲炉裏に火をつけ、彼女を俺に向き直る
とはいえ、どうも言うことが多いらしく首を傾ける
ならばこちらから質問させてもらおう
月光が窓や板のスキマから入ってくるのに少し高揚を感じながら質問する
「何故蘇った」
1番の疑問だった、そして一番の警戒点だった
人が蘇るなんて聞いたことがない
"大陸"と呼ばれる場所ではキョンシーと呼ばれる死人がいるらしい
とはいえ、そのキョンシーも頭に札を貼らないといけないらしい
その上両腕はずっと突き出している、不便過ぎんかソレ
「わたしゃ死ねないんだよ、昔から」
蘇ったかの答えはコレだった
原理とか、そういうのでは無い…別の答えだった
少しだけ求めているものと違ったがいつからとかの追求はやめた
「どうして死ねない」
一種の不快感を向けながら俺は言う
構造、もとい特異な体をしていればそりゃ不快感も出てしまう
死ねないなんて人間の人生を台無しにしているようなものだ
永遠の命を得る機会なんてありゃ、捨ててしまうだろうな
そんなもの得ても何も得をしない
「とある薬を飲んでねぇ、経緯は省くがそれで死ねなくなってるんだ」
「薬ねぇ、何とも愚かな選択をしたんじゃないか?」
俺は少しの嘲笑を混ぜながらそんなことを言った
相手次第では今から殺し合いが始まってもおかしくないレベルの嘲笑だ
だがまぁ、相手にも理性はあるらしい
「面向かって言われると来るものがあるな…」
「今まで言われてこなかったのか?面向かって」
彼女がまるで陰口を叩かれていたかの様な口に対して疑問を唱える
そんなのまるで昔のやつらは根性が無いみてぇだ
まぁ、昔のやつらは今と同じくらい…
「怖いんだよ、周りと違うだろ?」
彼女は己の髪を指さした
確かに、あの頃にこんな銀髪は居ないことだろう
そりゃハブられても何もおかしくなかったという訳か
「あぁ、そうだ
それで?面向かい合わせて言われた感想は?」
「…悲しくもないな、なんとも疲れる気持ちだ」
彼女はため息をついた
顔を合わせて言われると少なくとも傷つくだろうな
まぁ、俺にとってはどうでもいいが…
「陰口を言われるのが嫌でここにいるのか?」
「いんや?ただ生きる目的がないからここでぼぅっとしてるのさ」
彼女はそう答えた
そう言われてみれば生きることに必要なものに手がつけられてなかった
食事なんて、食器が埃を被っていたくらいだ
「他になんか聞きたいことはあるかい?」
「そうだな…」
彼女は質問をしてきた
俺は近くの棒で囲炉裏を続きながら考える
幻想郷の立地を知りたいが、この引きこもりが知っているとも思えない
生きる希望を無くして毎回餓死して蘇る毎日とか糞でしかない
…だったら
「この竹林にはなんかあるか?」
「あー…あぁ、この中かぁ…」
彼女は竹林の方向を見た
どうも彼女の様子からして何かあるらしい
それがやべー封印とかなら俺は見るだけとして、建造物とかなら行くしかない
割と問い詰めるような目をしていたからだろう
「まぁ、アイツにならいい迷惑か…」
「何か言ったか?」
「いやなんでもない…それで、何があるかだったか」
「ああそうだ」
俺が頷くと、彼女は消えかけた囲炉裏に炎を付け足す
何か燃料がある訳でもないのに囲炉裏は火力を取り戻した
小さな火花の向こうで彼女の紅い瞳が光る
「永遠亭っていう…あー、薬屋?取り敢えず病院みたいなんがあるんだ」
「なんでそれがこんな竹林にあるんだよ」
己の口からもっともな疑問が出てきた
んな人に役立つ仕事なら人里の方でやればいいのに
こんな不便なところにいるなんて損してやがる、バカかな?
「なんか月に追い回されて隠れているらしい」
「月に追い回されるって…なんともまぁ…」
スケールがデカすぎる
あまりに大きすぎてはっきりいって関わりたくない
月の技術は恐ろしいと母から聞いたが、それから逃げ回っている連中なんて相当の強さだ
敵対するとかしたら痛い目を見そうだ…
そんなことを思っていると、彼女はなにかに気づいた
「…?アンタタバコ吸うのか?」
「吸わねぇ、あんな煙たいもん…」
「じゃあ吸わせてもらうわ」
そう言って彼女は転がっていた煙草を持ち上げる
"誰か"が踏んづけたのか少し歪んでいた
いや、それに言えば少しだけ燃えかけていた
彼女は口に咥え、直ぐに吸い始める
「…ふぅー…いいねぇ、この味」
「苦いだけだろ、そんなの」
「分かってないなぁ…あー、あー?」
彼女は口に煙草を咥えながら指さし…止まる
何かに悩んでいるようだった
「なんだ?人様指差して」
「いやなぁ…あんたの名前を聞いてなかったからさ」
「…あぁ」
そういえば双方名前を名乗ってすらいなかった
今の今まで名前を言う質問も無かった
とてもどうでもよかったんでな、名前なんて
「名乗る必要は無い、あんただけ言えばいい」
「つれないなぁ…妹紅だ、藤原妹紅」
割といい氏名をしているものだ
いつしかの貴族の名前をしているとは…
――氏名を言う時、口を歪めている
何か、苗字を言うのが嫌なことでもあるのか
ここに関しては何も聞かないことにしよう…
「なぁ、本当に名前を教えてくれないのか?」
「そんなに聞きたいのか?」
「ああ、教えてくれよ」
「無貌の神とでも言おうか?」
「嘘こけ、彼女とは違うだろ」
…その後、割と名前で言い争ったのは別の話
本日一番平和な時とでも言おうか
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