紫色の全域
いや、正確には違う、全く違う
紫色のそれは全てぎょろぎょろ動く目玉だ
視界の全ては目玉に埋まっていた、気持ち悪い
気を休めたいというのにこれでは休まらん――
「わけねーだろバーカー俺は寝るわ、寝る、寝るってったら寝るわ」
俺は視線を全部無視して横になる
もう、本当に鬱陶しい視線どもである、死ね
眠ったくでしょうがない…
「…なぁ、目は口ほどに物を言うとは言うがよ、そんな見られた流石に気にするんだよ
あぁ?俺がそんなの気にするってか?するわ!するに決まってるだろうがよ!」
俺は怒号をあげる
しかし、この目玉達は嘲笑うように目を細めたり開くだけで閉じることは無い
…もう刺した方が早いんじゃねぇかなぁ。
「…鬱陶しい」
「あらあら、そう言わずに」
「…!?!?!?あぁぅあたあたたただだだ!?」
俺はすぐさま腰に張り付く奴から抜け出す
あまりの恐怖に人語を話せなくなっていた
…こいつ…コノヤロウ…ッッ!!!
「お前…!あの時のクソ野郎…!」
「あらあら、レディに使うことじゃないわね」
「うるせぇ死ね!」
直ぐに銃を取り出し、引き金を引く
しかと命中したはずの弾丸は彼女に当たることは無かった
命中する部分にあの忌々しい裂け目が生まれ、弾丸を吸い込んで行った
「大人しく死ねよ」
「まだまだ死ねないわ、それに殺したら貴方の母親の居場所は一生わからないわよ?」
「…ッッ!お前が母さんを語るなァァッッ!!!」
大剣を握ろうとするが、そんなものはどこにも無い
ブーツの横にある鞘から短刀を抜き取り、奴に突き刺す
…が、弾丸と同じように彼女には当たらない
何ともインチキな、ふざけた能力だ
「この腐れアマ野郎が!」
ならば肉弾戦だ
短刀を仕舞い、拳を握り込む
そのまま腹部に向けて短いストレートを叩き込んだ
「遅いわよ」
「早ッ…!?」
しかしそれは捕まれ、いつの間にか俺は"上下反転"していた
何を言っているか分からないと思うが、俺も分からない
現状はまるで映画の【E.T.】の様だ…こんなのと指を当てるとか嫌でしかない
「今の貴方じゃ私に指一本触れられない…逆に触れてあげる」
「…ああっあぅああっ!さ、触るなぁ!」
彼女の指先が、腕が、体に絡まってくる
ツタのように複雑に…かつ、早く絡まってくるのだ
「これ以上触るな!殺すぞ!」
「…殺せるのは、どちらかしらね?」
「…――はッ」
いつの間にか、喉元に傘の先端がさされていた
目玉だけを動かして見てみると、いつの間にか現れた裂け目の先から傘が伸びてきている
「…この裂け目はスキマ、スキマっていうの
移動にも、攻撃にも便利なのよ」
「…攻撃なんてそのスキマとやらからものを出す程度だろ?
その程度で何ができるって――」
「左腕をご覧なさいな」
「急に――ああぁぁったううっあだっあああッッ!、あああああああああああ!!??」
俺は何故気付かなかった
俺の左腕はいつ間にか存在していなかった
あるのはいつのまにか切り離された左腕の上腕二頭筋から上のみ
そこから下はどこを見渡しても存在は確認できなかった
「あああっあああ――俺のぉぉ…腕がぁぁああああああ!ー、!
いたい!いたぃぃっああああああッッ!!!」
鎮痛剤なんて無い
痛みがモロに精神に直撃し、ズタボロに引き裂いていく
何かの手違い拷問かと勘違いしてしまう
何も聞かれてもいないし、何も言ってもいない
「ああっ、あああっあああいいいっィィィイっ!!!」
「ほらほら、まだ、終わらないわ…」
「はなれろぉぉオォ!来るなァ…!来るなぁ!!!」
「黙って」
凛とした声が辺りを支配した
俺は口がまるで塞がれたように声が出せなくなった
声を出そうとしても、何も出ない、舌も動かない
出来るのは呼吸しかできなかった
「ここは、夢の中
あなたの考えはよく分かるし、なんでも出来る
でも、今この夢を支配しているのは私、私が
あなたはただの駒、登場人物でしかない」
彼女は俺の胸板に頭を置いた
本来、俺ならこの頭を叩き割る手段を豊富に持っている
しかし、銃も、ナイフも、大剣も無い
拳は通用する訳が無い
デッドエンド、詰みだ
…救いは、これが現実では無いこと
いつしか晴れる夢である事が、救いだろうか
「えぇ、もう時期この夢は晴れる
しかしねぇ、夢の中でもこんな調子じゃあねぇ?」
彼女は体をずっと動かしてくる
胸板に彼女の胸にある柔らかさが押し付けられる
人間とは思えない白魚のような腕が頭を包み込む…
彼女の金髪が蜘蛛の巣のように覆いかぶさってくる
傍から見ればまるで俺は金のクモの巣にかかった蛾なのだろう
生暖かい吐息が耳元にかかる
興奮というよりは、寒気が体を支配していた
彼女の気分次第で俺の精神はズタボロにされる
そもそも、夢は精神世界だ
この俺の体は精神そのものに過ぎない
殺されれば、死んだも同然
そういう夢なら、悪夢で済ませられるんだけども
「次の責め、耐えられないわよ」
〇
「…――」
意識が浮上する
恐ろしい悪夢を見ていた気分だ、吐き気がする
未だに何かが俺の体に張り付いている気がするのだ
気持ち悪い、汚い、不潔、妖怪…死ね
「…動けねぇ」
体が壊れすぎて動けないのでは無い
何かに拘束されていて動くことが出来ない
それが恐らく植物のツタなのは分かる、ツタの花が咲いている
霊力は半分程回復している
どうも誰かさんが普通の介護をしてくれたらしい
…普通?ツタで縛り付けるのは普通か?
まぁ、そこは個人の感性によるか…
霊力を消費して燃やすのも可能だ
ただまぁ、それだと花を燃やしてしまう…
「だから"容易に脱出は出来ない"、でしょう」
「…心を読むのが得意のようだな」
頭の横から声がした
見てみればツタをクルクルと回している風見の姿が見えた
彼女は俺の言ったことに関して首を振った
「いいえ、貴方の身体にツタを入れ込んでいるから分かるのよ
…なんでそんなことをする必要がある…ですって?」
凄まじく恐ろしいことを言われた
ツタを注入された感覚はないのだが、どうもやられたらしい
意識を失っているうちだろうな…その時にツタを巻き付けたのだろう
「正解、お前の回復を早めるのと…監視をするため」
「…気持ち悪いな」
それは風見に対しての言葉ではなかった
ツタの一部が俺の中に寄生し、根を生やした感覚についての言葉だった
寄生って言うのは大体宿主にろくなことは無い
共生ならいいんだけれど
「あぁ、そんなこと」
風見は俺の言葉に対して面白そうなものを見る目だった
彼女は俺から視線を外して外の景色を見始めた
そのまま、どこかを見ながら会話を続ける
「その種は成長する
しかし完全に成長しても大きさは1mmにもならない
…えぇ?mmが分からないですってェ?」
彼女は大きくため息をついた
どうも初歩的なことを知らなくて呆れているらしい
いやだってこちとら幻想郷の僻地やねん、人里から離れてんねん
「そういう訳じゃなくてねぇ…まぁいいわ
もう面倒だからあなたの記憶、少しいじるわ」
何かの怒号をあげようとしたが、その前にツタが頭にぶっ刺さる
不思議なことに意識がすっ飛ぶことは無く、新たな知識が植え付けられる
まるで何も無い花壇に予め咲いている花を植えていくような感覚だ
いきなり知識が追加されるというのは心理的なダメージを与える
しかしまぁ、俺はあらゆることに直面したせいかそれほど問題にとめなかった
「…はい、これで大体の基礎知識は入ったはずよ
それじゃぁ、とりあえず会話の続きをしていくわね」
彼女はそう、続けて行った
ただ、その視線はずっと、窓の外に向いていた
まるで何かが外でこちらを見ているかのような、睨みつける目だった
「完全に成長しても1mmなら今はもう一マイクロレベルよ
あなたには一切の害はない、本当よ、私がお前を操り人形にすることは出来ない」
…いやツタをやれば行けるだろうこれ
「私に何本ものツタを行使しろと?疲れるわよそんなの
…兎も角ね、栄養は皮膚から投下してきた太陽光を頼る
水分は空気を水蒸気化する特殊な品種だから考えなくて合い」
まぁ、あまり深く考えるなということだろう
俺は心の中で納得のいかない納得をし、あることにため息をついた
それは俺にとって嫌なことでもあったからだ
「"いつ、ここから出れる"…かしら」
そうねぇ、と彼女が顎に手を触れながら、考えた
少しだけ体に巻きついたツタが蠢く
「軽く見積って2日、多く見積って7日かしらねぇ
お前、異常に治りが早いのよ」
幽香はそれだけを言うと
「私は花達に水を与えないとね、お前は大人しくしときなさい」
ジョウロを持って、この家屋から出ていった
俺は、こんな所で燻っていて意味が無いのでさっさと出ようとする
が、思いのほかこのツタの力が強い
俺から起きた時はそれ程の力だったはずだ
…風見め、逃がさないつもりか
「…仕方ないか」
俺はそう思いながら目を瞑る
悪夢を見るのはコリゴリだが、目を開けているよりかは良い
現実も現実で汚いものばっかりであるからなぁ
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