ある森、ある広場
そこは地獄絵図だった
血が舞い散り、肉片が吹っ飛ぶ
人ならざる者の叫び声が辺りに木霊する
一人の人間が犠牲者を大量に生み出していた
ただ、男は敵を叩き切っていた
サビサビの刃はろくに斬撃の傷も残すことは出来ない
しかしそのガタガタの刃は妙な模様を敵に刻む
人間なら裂傷であるため血が止まらず、酷い傷になるだろう
妖怪も変わらず、人間より軽い怪我程度になる
ただ酷い傷であるのは変わらないことだ
醜い奇声をずっと敵は上げている
何故か?それは奴らが死ねていないからだ
こんなボロっちい刀で死ねるわけがない
というか、死なす気もない
苦しんで死ねばいい
こいつら全員、苦しんで死ねばいいんだ
妖怪なんて生きていい訳が無い、生きる意味もない
倒れたヤツの脳天に刀を突き刺す
錆びた刃故に絶命することは無く、ただ、もがき苦しむ
苦しめ、どうせ生き返るんだろう?
その化け物らしい生命力で生き長らえるのだろう?
だったら苦しめ
苦しんでしまえ
どすり、どすりと刃を突き立てる
「わ、凄いね」
ふと、そんな声が聞こえた
俺はそんな今にも忘れそうな声に目をくれず敵を裂く
腕を、足を、角を、目玉を
死にそうに無いものは全部斬り、引き摺り、心臓らしき物を砕く
あの妖怪はどいつだ
こいつか、それともあいつか
あぁどいつもこいつも同じ顔に見える
「その報復心、いや、奪われた怒りかな?凄まじい炎だね」
その言葉に少しだけ意識が向いた
しかし、直ぐに意識は妖怪に向く
彼女の言葉が数個聞こえた気がするが、もう聞こえなくなる
ただ錆びた刃を妖怪に入れるだけ
気付けば己の体は赤色だった
赤色以外の場所は無く、全身が血に塗れていた
「あなたのその怒りがアイツに届くのかな?多分無理じゃないかな」
俺はその声がする方にサビサビの刀を向けていた
そろそろ、その声がうざったくて仕方ない
そこには1人の少女が居た、意識しなければ今にも消えそうな少女が
つばに目が隠れてよく見えないが、姿はよく見える
オレンジっぽい服に緑のスカート
彼女から伸びたコードには1つの目があった
しかし固く閉じられた上、糸で縫われてしまっている
亡き母が言ってた妖怪の特徴で一致するやつは…
覚か
しかし、まぁ
「…自らのアイデンティティを無くしている奴よりマシだ」
「そう?私達結構似てると思うけど」
似てるだと?
「気の所為だろ、おまえの親だか兄弟だかは生きてるだろ
俺は死んだ、どっかに連れ去られて死んだんだよ」
「どうして分かるの?」
俺は刃をそいつの首に這わせる
ガタガタの刃が少し、数回引っかかる
「神隠しってんので帰ってきたヤツを知らないからだ」
「…そう」
彼女は悲しそうに笑うとすっと後ろに下がる
かと思えば視界の端に彼女の姿が映る
あはは、あははと森の四方八方から笑い声がする
「人間と妖怪って不思議、相互依存なのにお互いを殺しあってる」
「それなのに共存を願った馬鹿がいるらしい」
「らしいね、本当に馬鹿だと私は思うよ」
それっきり、同じ声がすることは無かった
俺は辺りを見渡す
なんの音もしない、小枝をふむ音、枯葉をふむ音もしない
森はいつの間にか森らしい虫のメロディを奏でていた
恐らく妖怪は殺し尽くしたのだろう
サビサビの刀を俺は眺める
血に濡れたそれはさらに錆びていつしか折れるのは目に見えた
そろそろ交換しなければな
俺はそう思いながら川に向かった
交換をしにいくのも、この血を洗い流さなければ
行く場所はもう決まってる
明日の夜、あの場所に行って刀を拝借しよう
なんせ社会的な妖怪の住処だ、いい刀の一本はある
〇
「最近は妖怪がかなり少なくなっているんだ」
「人間にとっていいことじゃないか?それ」
「それはそれでも困るんだよ、色々な…」
2人の人物が会話をしていた
片方は美しい青髪を持つ、先生のような女性。
帽子を被り青を基調とした服を着ている
片方は落ち着いた雰囲気の女性。
紅白の和服を綺麗に着ている
青髪の女性の名は上白沢慧音、この人里で寺子屋を営んでいる
また、この里の守護者のような人物で人里の人間から信頼されている人物だ
黒髪の女性は今第博麗の巫女
最近博麗の巫女となったもので、先代の後を継いでいる
その詳細は不明でその過去を知るものは少ない
知っているのは彼女を連れてきた妖怪の賢者
それに、彼女の過去は彼女しか知らないことだろう
「何にせよ、原因が分からないんだ」
「それを私に依頼するってことか?他の奴らでいいんじゃないか?」
「…他の奴らに任せられない」
「どうしてだ?」
彼女がそう聞くと、慧音は目を逸らした
何か言いたくない事情が彼女にはあるらしい
「…深く聞かれたくない事か?」
「いや、些細なことだ」
慧音は顔に反してそんなことを言った
女性は些細なことでも聞いた方がいいと思った
後々それが役に立つこともあるのだ
「なんなんた?その些細なことって」
「…嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
それはかなり些細なことだった
もっと深刻なことかと思えば、本当に些細なことだった
でも、何故それが他の奴らを呼ばない理由になるのだろうか
「他の奴らを呼べない理由ってそれか」
「いや、軒並み怪我をしてるのもある」
「…そうか、取り敢えず行ってくるよ」
「あぁ、気を付けてな」
慧音に手を振られながら魔理沙は慧音の家を飛び出す
そのまま人里の外を目指す
長髪が風に揺らめく
そのまま、彼女は森に向かった
妖怪が多そうな場所と言えば森くらいしか無かったからだった
〇
「…はぁ――」
チャプンと己の体から落ちた水滴が川に落ちる
あらかた体に付いた血は流し終えた
流れがあるおかげか、血は留まることなく下流に流れていく
服を流すのが早かったからか、血は全て流すことが出来た
サビサビの刀も申し訳程度に綺麗になる
所々錆びてないところもあるが、もうそろ使い物にならなくなる
早めに離脱しよう、血の匂いに引かれて妖怪共が集まる
流石にこの刀じゃ長くやってられない
「…ん?」
俺は視界の隅に何かあるのに気づいた
そこを見ると、そこには1つの死体があった
なるほど、ここで力尽きた奴がいるらしい
俺はそいつに近付いていく
仰向けの死体だ
顔は苦しそうな顔でもなく、至って普通の死に顔だった
ぱっと見た感じ損傷した部位は特にない
「…腹を割かれた訳でもないか…ん?」
そこで気づいた
頭に綺麗に1つの穴が空いている
俺が頭の後ろを確認すると、そこはぐちゃぐちゃに砕けていた
どうやら何か玉のような物が貫通したらしい
「…妖怪が?」
俺はそう呟きながら持ち物を確認する
そいつの装備はなんとも見たことの無いものばかりだ
古いものでは無いので恐らく外の世界のもの
胸や腰やらに四角いものが着いている
俺はそれらを漁りに漁る
そして数分後
「これくらいか…このナイフ以外はよぅわからんものばかりだ」
鋭利な紋章付きナイフを仕舞い、並べた装備品を見る
長細い箱の様なものに黄金色の筒が詰まったものが多数
そしてL字型の鉄の物体がひとつある
他は四角い…言うならポーチの様なものばかりだ
「問題はこいつか…」
L字型の物体を手に取る
結構重い、鉄製の物質だ
横に「M1911」の文字が彫られている
色々いじって分かったことだがあの細長い箱のようなものがこれに入る
「…この引き金を引けばいいのか?」
説明書は無い
だから色々いじって確かめなくてはならない
だから軽々と引き金を引くことが出来た
後悔した
「うわっ!?」
いきなりの爆音
そして現れる火炎
俺は反動で思わずそれを取りこぼす
その音には少しだけ聞き覚えがあった
「これって、最近使われてる火薬を使う飛び道具か?」
多分、合ってる
最近の狩人…特に元外の世界の人間はそのようなものを使うらしい
木の持ち手に鉄の筒が付いていると…亡き母は言っていた
カチカチとそれを弄り、大体の使い方を覚えようとする
どうも撃てるときと撃てないときがあるらしい
その時はスライドを引いてしまえば撃てるようになった
「…うん、うん、大丈夫そうだ」
太ももに入れ物らしいポーチを付け、銃を入れる
その後に身体中に死体と同じように装備を装着する
水面を見てみると、そこには和服に現代の装備という似合わない格好の男がいた
「…こんなの、ただの不審者だな」
俺はそう思ってしまう、そう思うともう頭から離れない
俺は放置された死体を見た、まだ服は汚れていない
草っぽい色合い、迷彩柄で遠目からではよく分からない
「…死人に口なし」
俺はそう言って、そいつの服を剥ぎ始めた
元はと言えばこんなところで死んでしまったお前が悪い
肩にある紋章…「E.E.F.」、なんだろう意味がわからない
にしても、この死に顔…どこかで見たような
記憶にない訳ではなく、記憶の端に…どこだっけ…
顔には1つのホクロ、でもホクロ付きなんて普通に居る
でもまぁ、いいか
俺はそう思いながらこの場所を後にする
その川にはただ1つ、十字の墓標が立っているだけだった
そこには「名も無き者、ここに眠る」とだけ刻まれていた
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