スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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あれから数日が経過した

体の傷はほとんど回復し、霊力もほとんど戻った

体を覆うツタの感覚には慣れたものだ

 

…慣れたものだが

 

「あまりいいもんじゃない」

 

悪態をつきながらツタを引きちぎる

体に異物をいれられるほど嫌なものは無いだろう…

足を床に着け、改めて部屋の中を見渡す

見た限り小綺麗な部屋…という印象を受ける

ものが散らかっているわけでもないし、必要以上に物がある訳でもない

 

家具であるのはタンスと机と椅子、そしてこのベッドくらいだ

殺風景とも言えるのだろうか、これほどものがないとそうとも言うのだろうか

 

「もう少し眠ってても良かったと思うわよ」

「そんな時間は無い」

 

入ってきた幽香に俺はそう言う

俺に残された時間は少ない

寿命だとか、命の危機だとかそういうのでは無い

 

ただ時間が無いのだ

 

「そんなの言って、何をするのよ」

「ただ帰る、それだけだ」

 

外を見てみれば夕焼けが綺麗である

俺が時間が少ないと言ったのはこの為である

わざわざ妖怪が跋扈する夜中に来る訳にはいかないのだ

 

なぜなら現在装備が銃しかないからである

ナイフは勿論あるが基本奴さんは複数で来ることが多い

超近距離戦では妖怪に分がある、俺達には無い

 

「そう、気をつける事ね」

「世話になった」

 

俺はそう言うと、幽香の家から踏み出した

久しぶりの外の空気というのはなんとも美味い

こんなに美味しかったか?外に出れていないからだろうか

 

赤い夕焼けに向けて走り出す

こんな時でも、人間というのは余裕綽々だ

太陽の畑が太陽の光を受けて、もはや神々しいまである風景を生み出す

人がどれだけ頑張ろうとも生まれることの無い景色に感動は…しない

 

そんなことより、早く帰ろう

俺はそう思いながら花を踏まないように駆け足でこの畑から抜けて行った

 

途中、何回か踏みそうになったが寸前で回避をすることが出来た

踏んでしまえば、今度こそ殺されてしまうだろう

ミンチにされて花の栄養にされてしまう

 

…余程の花好きでない限り、そんなそんなことは無いのだが

 

 

 

博麗の巫女の朝は早い

先日終わらせた妖怪退治の疲れを癒しきれて無い体に鞭を打って起き上がる

昨日は妖怪が思いの外抵抗をして傷を受けてしまった

 

最近の妖怪は骨が無いやつが多い…直球に言うなら弱い奴しか居ない

 

数年前くらいにはかなり骨のある奴らが多かった記憶がある

天狗の奴らも柔らかくなったし、下手くそになった。なんとも酷い

 

「さて」

 

私はぐいと背中を伸ばしながら境内に躍り出る

ピッチリとしたインナーはかなり動きやすくて良い

前まではただの和服を使っていたのだが、紫が支給しやがった

渋々着てみると思いの外使いやすかったので好んで使っている

 

…今見て見ても巫女が着る服じゃない

なんで太ももの一部が見えるんだよ、なんで腋が丸出しなんだよ

防御面とかなんも考えてないでしょうよ、コレ

このデザインを考えた奴は相当変態なのだろう、巫女さんにこんな服をして欲しいなど

 

私なら笑顔で殴る

 

「…やるか」

 

まず、体を起こす為の運動である

何もせずに妖怪退治に行くのとやってからでは結果が違う

やらないで後悔するよりやって死ぬ方がいい

 

――

 

「ふぅ…」

 

辺りがまるで灼熱のように熱い

鳥居の根元にある鉄が真っ赤になっている

夏だというのもあるが、私はどれだけ発熱しているのだろうか

 

人体というのは不思議な物で霊力で保護してないのにも関わらず全く支障は無かった

不思議なものである、やはり非常識

 

「相変わらずね、――」

「そっちも相変わらず神出鬼没だな、八雲」

 

いきなり現れた紫を気にする様子もなく装備を整える

あまりの熱気に紫は臭いを払うように手を振る

 

「よくもここまで体をイジメ抜けるわ

 しかも毎日、鬼でもしないわよこんなの」

「だからこそ人間は強いんだ、お前達暇人とは違う」

 

流れる汗を吹き払い、大幣を持ち上げる

気のせいか熱に大幣の紙がやられている気がした

クルクルと器用に回して境内から飛ぼうとする

 

 

 

「何処に?」

 

 

彼女は巫女の背中にそう言った

巫女はぴたりと止まった

振り向かずにその場に静止する

 

「…いつも通りだ」

「また"あの"調査に?」

 

彼女が言う'あの"は妖怪が無差別に殺されていることである

あれから回数は減ったもののそれでも犠牲は出ている

そこらの雑魚妖怪ではあるのだが、居なくなれば幻想郷に歪みが生じる

 

妖怪が少ない幻想郷など人間の住処に過ぎない

 

「答えは思いの外近くにあるかもしれませんわよ?」

「そうだといいな」

 

無理矢理話を止める為かのように彼女は飛翔した

空に紅一点というのは悪目立ちするものである

 

扇子をバサリと広げる

暑苦しい熱気はいつの間にか風に吹かれ、消えていた

 

 

「…親子そろって、似た者同士ね

 いや、親子だから似るのは当然かしら?」

 

少しのおかしさにからからと笑い声がもれてしまう

数十秒、笑っているとどこからともなく針が飛んできた

 

「あらまぁ、耳がとてもいい事で」

 

針を人差し指と中指で挟み込む

これといった術式は組み込まれていないようだ

ポイとそれを境内に投げ捨てる

 

この腕ほどの長さがあるのは博麗の巫女の武器だ

基本的にこれを妖怪にぶん投げて弱らせた所を殺すというのを基本戦術にしている

 

ただ、彼女はこういう精密なことは嫌いなのか肉弾戦を好んでいる

だから携行している針の数も少ないし、長さもあまり無い

基本的に拳で終わるのだから、持っていても意味が無いのだ

…大幣も型式なだけのものだ…なんで持っていくのだろう

 

「…後釜が心配ですわ、あんなゴリラが師匠なんて」

 

次の博麗巫女が可哀想である

博麗巫女の継ぎ方は代々教えていくという方式なので彼女が後釜に教えていくという感じだ

 

…霊力操作はほぼ拳やら脚やらに行ったり防御や攻撃に行っている

回復も…まぁ、人並みの術士くらいにはできる

基礎は確実に教えているのでどうにかしてくれるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふ、可哀想に」

 

空から消える紅に嘲笑が出てしまう

当たり前とも言えるかもしれなかった

彼女を傍から見れば、愚者でしかないのに

 

「息子を失ったとどこかで信じているのに…それを信じきれない

 息子は生きていると信じて…今日も虐殺をする」

 

どこかで咆哮が聞こえた

恐らく、調査中に中級妖怪に出会ってしまったのだろう

 

だとしたら、その妖怪は運が悪かったとしか言いようがない

 

 

「…本当に、可哀想」

 

右腕を閃かせる

すると、横に空間が切れるとそこからスキマが発生する

そこでは博麗巫女と中級妖怪が戦いあっている姿だった

 

しかし、それは戦いと言うには惨すぎるものだった

 

中級妖怪に片腕は無く、顔面らしきものは半分が抉れている

脇腹もぽっかりと空いておりそこから内蔵が零れ出ている

見てわかる通り、中級妖怪は怯えていた

 

目の前の圧倒的暴力の化身に

 

その化身と言えば体を真っ赤にして、幽鬼のように近付いている

瞳に光が無く、動きもどこか機械的に感じる

妖怪が投げる大岩を軽く弾き飛ばし、一瞬で妖怪に近づく

 

妖怪が気付けば、上半身と下半身は分断されていた

巫女は拳を振った状態で動いていない

 

拳を振った瞬間は私にも見えなかった

 

…どれだけ早かったのだろうか

 

そう思いながらスキマを閉じる

スキマから妖怪の叫び声が聞こえるが、特に気にしなかった

ああいう犠牲も付き物だろう、というよりあそこに居た妖怪が悪い

 

 

私はそう思いながら、布団の中に戻ることにした

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