スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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組織のしがらみ
起きた先


「…」

 

目を開けた

急激に意識が浮上し、現実を俺に叩きつける

本当ならもう一度寝てしまいたいものだが、それは無理というものだ

 

なぜなら自分が横になっていたのは地面ではなくベッドの上だからだ

 

どこかの家屋の中らしい、小綺麗に整頓されている

風見の時よりも物が少ない…なにより花がない

それだけでここが風見の家ではないと確信した

 

体を見てみると、何かの管が腕に刺されそこから何かが注入されていた

その管の先を見てみると外の世界にある点滴のようだった

どうも俺は誰かに助けられたらしい、礼を言うべきなのだろうか

 

「動かない方がいい、下手に動くと怪我をする」

 

横からそんな声がかかった

男の声だ、妖怪の実力者で男というのを聞いたことがない

見てみるとミリタリーな服装をした軍人がいた

見た目だけでなく、太ももに銃の入ったホルスターが見える

赤十字の腕章があり、彼が軍医であることを示している

 

「どのくらい眠っていた」

「軽く一日、凄いことだ、あのガスは妖怪でも二日は寝るというのに」

 

彼は手に持ったカルテから目を離すことも無くそう言った

俺のことはどうでもいいような物言いだ

 

…俺はこの時意識が混濁していたのだろうか

もしくはまだ"この世"に立ってるというのを信じられなかったのか

 

「…ここは天国か?」

 

俺は突拍子も無くそんなことを言った

知らない天井を眺めながら、ぽつりとそんな言葉が出た

 

泣き言だったかもしれない

俺が生きていたくないと思ったのはこれが初めてだった

 

しかし彼はそれを切り捨てた

 

 

「地獄さ、妖怪が跋扈するクソッタレな地獄だ」

「…あぁ」

 

俺はため息をついた

どうしてまだ、俺はたっているのだろう

九尾に殺されたかと思えば、そうでも無い

 

…そういえば

 

「俺はどうやって発見された?」

「君がどうやってここに来たか?

 あの輸送部隊から連絡が一切無くなったから捜索隊を出したんだ

 そうすりゃ睡眠地雷の上で眠りこける似非EEFを見つけたってことだ」

「…お前もそうらしいな」

 

彼の腕章の下にちらりとEEFのワッペンが見えた

どうも俺と違って本物らしいが

 

「…自己紹介がまだだったな

 EEF軍医、メディックの八重月夜だ」

「俺は…村斬双星だ…後、先に言うが名前で呼ばれるのは嫌いだ」

 

俺は名前で呼ばれたくは無い

名前というのは不便なもので、俺という個人を固めてしまうのだ

"俺"という存在は村斬双星として固定され、以降変えるのは難しい

 

だからこそ、俺はこの名前を忘却させたかった

 

彼は軍医らしく、それに反対することは無かった

そして別の提案を俺に持ちかけてきた

 

「…そうだな、大尉と呼ぶことにしよう」

「なぜだ?」

 

彼は俺の肩を指さした

そこにはなるほど、大尉という階級を示す章があった

だから大尉と呼ぶのだろう

 

「…いい響きだな、大尉というのは」

「一応上には伝えておこう、ま、聞かないやつもいるだろうが」

 

彼はそう言うと椅子から立ち上がり、部屋から出ていこうとする

部屋から出る直前、彼は少し立ち止まった

 

「…君の傷は割と深い、たが再生速度も早い

 運が良ければ明日でベッドから降りられる」

「そりゃ吉報だな」

「それはどちらの意味でだ?妖怪を殺せるからか?

 それとも…ただ単に傷が癒えたからか?」

 

…俺はその質問に答えることは無かった

妖怪を全員殺す、それだけの意思でここまで歩いてきた

ただ、あんな九尾の妖力を見ると少し怖気付いてしまうものだ

 

"妖怪を絶滅させる"

 

それだけの言葉がいえなかった

 

「…まぁ、答えは直ぐにとは言わない

 物事を急ぐのは愚者のすることだからな」

 

そう言って彼は部屋から退出した

残された部屋に響くのは、俺の心拍が送る、ピッピッという電子音だけだ

何故か俺の心拍は起きた時よりも安定していた

 

何か、俺は安心できたのだろうか

 

それとも、何か悟ったというのか

 

…どちらでもいいことだろう

 

明日にはそんなことを考えることも無くなるのだから

 

 

 

夢の中の俺はずっと海の中にいるような感覚だった

死にかけた局面は風見以外無いものの、それ以上に戦った気分だ

 

思うように体が動かず、ダル臭い

 

ただ海中の気泡が発するゴボゴボという音だけが無常に響いている

俺の上には水面があるし、下には海底があるはずだ

筈、というのはいくら見てみても海底は見えないからである

永遠の暗闇が下には広がっている、いくら光を灯そうとも何も見えないだろう

 

そうだろう、見えてはいけないのだから

 

 

時折、空薬莢や武器類が降ってくる

その黄金色の表面を煌めかせながら沈んでいく

アサルトライフル、サブマシンガン、ショットガン

あらゆる武器類が落ちてくる、種類を上げればキリがない

 

 

そして、また別の物が堕ちてくる

 

 

ゆっくりと海底に沈んでいく装甲車や家屋

ありとあらゆるものが海面に降り注ぎ、海底に落ちていく

恐らく海底は沈んだ都市のようになっているだろう

 

 

そして、挙句の果てには妖怪の山が降ってきていた

 

 

何故、俺はこんな夢を見ているのか

 

そう思っていると、腹に何かが引っかかる

何かと思う暇もなく海面に向けて引っ張られた

 

俺は、無意識にその海底に手を伸ばしていた

 

 

 

「危ないわ、深淵に助けを求めるなんて」

「助けを求めてたのにそれを邪魔するなんてな」

 

彼女はまるでワルツのような形で俺を支えていた

遠くに分厚い水平線が見える海面上に引っ張り出された

俺は彼女を押し返すように支えから離れた

 

「あら、そんな遠慮するものでもないわよ」

「遠慮しておく、"八雲紫"」

 

俺を引っ張り出したのは他でもない八雲紫本人だった

前の夢が嘘かのように、そして俺が妖怪嫌いなのが嘘のように接していた

 

ポケットに手を突っ込み、水平線を眺める

ここから見てもあまりに分厚く、彼方まで陸がないのを察せられる

 

そもそも、この世界に陸などあるのだろうか

 

「ここはあなたの深層心理、というヤツね」

「俺の心理の中に土足で入ってくんなよ」

「まぁまぁ、減るものじゃないんだから」

 

彼女はくつくつと笑いながらそんなことを言った

そういうことでは無いだろうと闖入者に腹を立てながら辺りを見渡す

海面の世界は透き通った色で囲まれていた

空には雲があまり存在せず、美しいと思えるくらいの数程雲があるくらいだった

太陽が白銀のように輝いている

 

俺の世界は透き通っていた

血で濡れた表とは対照的に中は幻想的で美しい風景が広がっていた

 

「静かな世界ね、私"達"の声が響いて聞こえる」

「俺をお前と同じように数えるなよ、全く持って違うんだから」

 

確かに俺たちの放つ声は響いて聞こえた

まるで洞窟の中にいるように、彼方遠くまで響いていく

 

「どこにいてもお前の声が聞こえるというのは吐き気を覚える」

「あら悲しい」

「そんなもんだからもっと吐き気を催す」

「そんなに言わなくてもいいじゃない?」

 

彼女と"背中合わせの状態"になりながら俺はそう言った

水面が時折俺"達"を中心として波を立てる

 

この美しい世界に紫は必要ない、要らない

 

「…本当にそうかしらね」

 

彼女は背中合わせの状態でそう言った

俺には彼女の顔が見えないから、何を思っているのかも分からない

 

彼女の扇子を開く音が鋭く響く

 

「あなたにとって妖怪って何かしら」

 

説明不要、殺すべき敵である

あの日お前に全てを奪われた時からそれは決まっている

俺は天に"足をつける"、彼女から見れば逆さまの人間がいる

空中に見えない足場を見て、そこに逆さまで立っている

 

「本当に?あなたは本当にそう思っているのかしら」

 

彼女はくるりくるりと傘を回しながらそう問いかけてきた

その扇子で口の隠れた顔は俺に真実を問うてくる

俺はなんのために妖怪を虐殺しているのか

 

それを聞いてきている

 

「本当は分かっているはず」

 

彼女の足元から波紋が広がる

その波紋はあっという間に水平線の向こうに消えていく

 

「貴方は分かっている」

 

それ以上喋るな

俺はそう言いたかった

しかし口はその言葉を放つことが出来なかった

何も言うことは出来なかった

 

まるでそれが真実のように

 

「そう、妖怪を■■ことが出来ない

 その事を貴方は誰よりも分かりきっている――」

「黙れ」

 

俺が"奴"に向けて指を指す

すると水面が鋭い槍となり、彼女を突き刺す

かえしがついた槍が容易に抜けるはずも無かった

 

「あら痛いわ、レディにこんなことするなんて」

「お前みたいなレディがいるかよ」

 

水の槍は奴を俺の顔前まで持ち上げる

俺の顔の前に奴の顔があった

その顔は恍惚な表情に染まっていた

 

「綺麗な顔だ…どこにも不満が無い、いい顔だ

 それに、美しい目をしている、綺麗な紫だ、おまえにピッタリだな」

「あら嬉しい、褒めてくれるのね

 それに、この水の槍は能力かしら」

 

俺は水の槍を消失させる

彼女はすたりと何事も無かったかのように着地する

 

「ここは俺の世界だ、なんだって出来る」

「ああ、そうだったわね、ここは貴方の夢の中だったわ――」

「んだからさっさと退場しろアホ、俺ははよ寝たいんだよ」

「ああぁぁ〜〜〜〜〜〜れえぇぇぇえええ〜〜〜〜〜」

 

指をさしてポーンと俺が呟くと彼女が等直線運動しながら水平線の彼方に消えていく

 

…完璧なTポーズだな、アレ

 

現実ならあのバカはスキマで帰ってくるだろうがさっき言った通りここは「俺の世界」だ

んな事俺が許可しない、当たり前だそんなインチキ能力

 

「はぁ」

 

俺はため息をついた後、その場に座り込んだ

彼女が居なくなった世界はより一層静かになり時折俺を中心として出てくる波紋以外音はなかった

ある意味として俺が望んだ世界だろうか

 

ひとりが落ち着くかもしれない

 

もしくは長い間1人ですごしたからだろうか

 

答えは一向に見えないばかりだった

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