「妖怪ってのはとても耐久がある」
彼はそんなところから話を切り出してきた
よく分からない顔をしていると最初見た時から思う
何を考えているか読みにくいし、表情も固い
先程のわんわんおの時といい、恐らく"普通"の人間らしい感情はあるのだろう
冗談を交えたりするくらいはあるのだろう…まさかそれを"楽しみ"にしてる訳が無い
「実を言えばお前にやったのは人間なら1ヶ月くらい昏倒する奴だ…
全くもって憎たらしいね」
あの時眠らされた時の話だろうか
嗅覚が発達してる故に速攻性があり、直ぐに眠らされた
――と言ってもあと数秒あればどうにか出来たのだが
あとほんの数秒さえあれば肘打ちを食らわすことが出来た
何のあの体たらくである、おのれ嗅覚、お前を呪う
「お前達の耐久力が全くもって羨ましい――妬ましい
あぁ、どうしてまぁ、神は何故人間にもっと耐久を持たせなかったんだか…」
とても大きなため息を彼はついた
そこら辺の匙加減は神次第だろう…
そうは言っても人間の中には大概な奴もいるが
見た中でもやばいのは鬼を殺したあの少数のヤツらと…博麗巫女
前者は酒に毒を入れるという卑怯な(鬼目線)手を使う
だが、後者は違う
博麗巫女の強さは舐めれたものでは無い
基本攻撃か全て妖怪特攻、どこまでも追ってくる持久力
人間とは思えない耐久性、頭脳明晰etc…
基本的に人間卒業した方々が大量に居る
今代はどうも遠距離とかいうみみっちい事は嫌いらしい
噂に聞く話では山ほどあるムカデを拳一つで殺したとか…
「…まぁそげな事どうでもいいんだわ
お前はここで大人しくしとけばいいからな」
彼がそんなことを言ってきた
ここで大人しくしておけばいいって…
「するとでも…?私が――」
「「遠吠えをすれば仲間が来る」…だろ?」
私は絶句した
考えを完全に読まれていた
遠吠えをされて不味いのなら…次にされることは――
「だろうな、そう言うと思った」
金属の擦れる音がする
ナイフだ、ナイフの刃と鞘が擦り合う音だ
音のする方から顔を背ける、できるだけ彼から離れようとする
枷があるから、それ程離れることは出来なかった
「そんなに怖いことでは無い」
きつく目を閉じる
見たくない、感じたくも無い
妖怪なら喉を切られても死ぬ事は無い――死ぬ程苦しむだけだ
それが、嫌だった
本能的に体は痛みから逃げていた
「――"お前は目を開ける"」
そう言われると、不思議と目が開く
抵抗する気は起きず、その言葉通りにする
見上げる天井は知らないもの
そこにある顔も知らない顔だった
「よく見ておけよ、今からお前の喉を――」
『大尉、居るか?いるんだったら鍵を開けてくれ』
喉に向けられたナイフがぴたりと制止する
彼は睨みつけるような視線を鍵のかかった扉に向けた
「八重の野郎…」
ナイフを鞘に戻すと、彼は扉の前に歩いていく
そして天井だけが見える視界の中で響く声が一つだけある
「"お前は喋れない"」
〇
「…何の用だ」
「野暮用だ、邪魔だったか?」
「死ぬ程」
彼は乾いた笑いを漏らしながら俺の椅子に座った、勝手に座るな
「そんな目をしなくていいじゃないか、な?」
くるくると注射器を回す彼を見てため息をつく
目がキラキラと輝いている、こいつ"も"狂人の類だ…
「誰かに言ったら一生サンプルはやらん」
「私の人生に関わるんだ、しないに決まっている」
何度目かのため息を付きながら
椛に指を指した、淡々と説明を挟む
「取引に使う用だ、白狼天狗、障害等は無い…ハズだ」
「白狼天狗!丁度欲しかったんだ」
「バカ声抑えろ!声ェ!」
いきなり大声を出すものだから反射的に大声を出してしまった…
もしかしたら誰か来るか…?鍵を閉めてこよう…
彼は俺の心配をよそに八重はウッキウキでサンプルを採取していく
…そこまでするん?
「サンプルってそこまで無いのか?」
「君が来る前から切れている、僥倖だよこれは!」
あれ聞いた話じゃ満々にあるって聞いたんだが…
え?大本営発表?あ、ふーん(察し)
もしこれが全てに言えることなら弾薬ももう無いのでは…?
「ふむふむ、色的に…型だな、カップ数は…デッッッッッ
着痩せするタイプか、成程…髪は…ほほぅ」
…所々ブツブツと言っていて聞こえなかった
ただ、俺とはまた違った狂人だと思わされた…
小一時間が過ぎたくらいだろうか、満面の笑みをして俺の手を握りしめる
万力のような力だ、お前衛生兵だろ前線行け
「ありがとう!ありがとう!おかげで天狗の貴重ョーなサンプルが手に入った!」
「例は背後を警戒しなかったこの駄犬に言ってくれ」
椛の睨みつけるような視線が刺さる
捕虜がそんなに屈辱か?人間はそれ以下に扱っているらしいがね、天狗は
これでも丁寧に扱っているんだ、感謝してくれ
「これで攻撃力が幾分かマシになるだろうな」
「恐らくな、君が来てくれて助かることが多いな、ありがとう」
彼は笑顔で部屋を出ていった
八重の本当の笑顔は初めて見た気がする
愛想笑いくらいしか見た事がないからな…
「さて」
俺は椛の方を見た
…何もかもが終わったかのような目をしている
ひっでぇ目だ、基地内に何人か居るな、こんな目の奴
傷心している所悪いが仕事なんでな…悪く思わないでくれ
椛を死体袋の中に突っ込む
基本的にこの黒い袋が使われることは少ない
基地外に放り投げるか、戦死者はドックタグ以外放置だ
いちいち死人を連れてくる余裕は無い、必要も無いのだ
今の所これが"生かした上四肢欠損無しで"こいつを運べる方法だ
他の方法だと四肢欠損は免れられない
感謝して欲しいぜこいつには、"あっちから"の要求が無ければダルマにして渡していた
「行くか」
中に椛が入った袋を運ぶ
ささっと出て渡してしまおう
等価交換程度にはなる、有利になるとは思えんがね…
そう思いながら扉を開けたのだった
〇
「全く彼も面倒なことをしますねぇ」
私の鴉…もとい"天城"を毛ずくろいを助けてやる
しかし何か気に入らないのかめっちゃつついてきた
前まで従順なカワイイヤツだったのに…あの野郎何教えたんだか
「まさか椛が取られるとは、思いのほかドジなんですかね」
彼女がやられるとは思わなかった
こちらが想定しているよりも相手はかなり実力はあるのかもしれない
前々から天狗二三人で制圧出来るという噂はうせやろと思っていたが…
最近の彼らは技術力が進歩している
精鋭に至っては河童とほぼ変わりない装備だ…光学迷彩持ちも居るらしい
なんという恐怖、人間はいつの間にそんなに進歩したのか
「…侮れなくなってきたわね」
パタンと手帳を閉じる
そろそろ日の入りだ
彼との約束の時間は日の入り後、その上でとある"滝の裏"…
「裏がある滝はひとつしかありませんね」
窓から飛び出す
彼がいるであろう場所に翼を広げる
風が彼への道を開けてくれる
光が消えたこの新月の夜…密会にはちょうどいい時期だ
あるのはポツポツとある館の光だけ
その他に光は存在しない
〇
「…」
焚き木の前で腰を落ち着け、目を閉じる
この閉じた時間がいつまで続いたかなんて覚えていない
感じるのは秋の冷たい風が滝の隙間からすり抜けてくる
ただ、体は温かった
何かの感触が体にまとわりついていた
「――ゆ」
「早いですねぇ!いつの間にここに?」
ばしゃあ、と滝を突き破りながら文が現れる
俺は目を静かに開けて、立ち上がった
彼女の髪から雫が落ちるのが見える
踵で後ろに置いてある椛を軽く蹴った
「――密告者について教えてもらおうか」
ポタリ、と透明な粒がまた落ちた
三月11…?位まで投稿が止まります
ヘマしたら永遠に投稿しないかもしれませんね
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