スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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観測

「…うーむ」

 

――はため息をついた

続く後から聞こえる"外来人の悲鳴"

低俗な妖怪が己の腹満たしにしようと"襲ってもいい"人物を襲っているのだ

 

さて、どうしよう

 

このままほうっておけば確実に死ぬ

何も知らない外来人が何も知らないまま死ぬ

 

この世界じゃそれが普通だ――あ、右腕が飛んだ

 

「助けるか」

 

過去の私もそうだったか

何も知らないまま連れ去られて、息子を奪われた

なぜ少しでも悩んだのだろうか…悩む意味などなかった

 

 

サッと木の上から飛び上がり、そのまま勢いを付けて妖怪にダイブした

 

 

「ヒィッ、ひいっ――!ッッ!!」

 

片腕の感覚がない

咄嗟に化け物の攻撃を避けたが片腕は犠牲になった

上腕二頭筋から先が無い、ダラダラと血が溢れ出る

 

…痛い

 

久方ぶりの獲物でも見つけたような荒い息をして化け物がゆっくり近づく

目から涙が止まらない、傍から見たから滑稽な様子で後ろに下がる

 

「来るな!来るなって!――来るなよぉおお!!!」

 

近くにある小石を投げるが、全く気にしていない

それどころか、口が三日月形にぱっくりと割れる

 

まるで、残虐に笑っているかのように

目の前の獲物が苦しんでいるのを楽しんでいるかのように

 

「畜生、畜生…!」

 

どうしてこうなった

俺は…俺はイランに居たはずだ

イラン・イラクで…戦っていたはずだ

 

本国で何も希望が無かったから――戦争に行った

 

家族も、親戚も、皆死んでいた

詐欺やら犯罪者や…不慮の事故に…皆殺された

何をどうして、生きる意味があるのだろうか

 

英語が喋れたから、アメリカ側についた

どっちでも良かった…死ねれば良かった

 

なのに、死ななかった

 

それどころかいつの間にかイラン・イラクには無い"日本"の樹海に来ている

その上…変な化け物もいる

 

…なぜ…

 

「…あぁ」

 

ここで終わりか

俺はここで死ぬんだろうな

 

心が諦めると、体も諦める

意識がどんどんと落ちていくのを感じる

久方ぶりの眠りにつけそうである、有難い

 

「ぐるるるァ…――」

 

獲物が恐怖しなくなったことが面白くなくなったのか、その無駄に大きい口を開ける

ヨダレのような液体がたらりと地面に落ちる

 

そしてその大きな牙が俺の首を突き刺そうと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーらっ!頭がお留守だ!」

「ぐギャアアア――」

「…???」

 

ズガン、と酷い音がした

まるで何か大きいものが肉を貫いたような音だ…

そんな音聞いたことも無いが、そうとしか言いようが無かった

その音が聞こえた途中に俺の全身に大量の液体がかかる

口に少し入ったそれは、鉄の味を俺に教えてくれる…血だ

 

恐怖を全く感じずに、目をゆっくりと開ける

 

「....えぇ....(困惑)」

 

目を開けた俺がまず最初に発したのは、困惑の言葉だった

目の前にはまるでトマトが弾け飛んだかのような光景になっている

 

そして、その真ん中に1人の巫女さんが居た

と言っても黒いインナーやら太ももが見える袴やらで巫女さんには見えないが…

 

「大丈夫か?」

 

全身についた血を気にせず俺に手を差し伸べてくる

死んだ化け物から舞い上がる灰が、何故だか幻想的な雰囲気を醸し出す

 

 

そんな、俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――近づくんじゃねぇ!化け物が!!」

 

我に返って、そう叫んだのだった

今思えば…どれだけ失礼だったんだろうか…

 

 

「…」

「腕の調子は何よりそうだな…おい聞いてるか?」

 

右腕からカチャカチャと金属音が響く

目を開けて、右腕の"動作確認"をする

 

鈍く光る、真紅の義手

――"ギーク"と呼ばれる人物が作ったらしい義手だ

隠密の際にはアホ程目立つのであまり意味は無いが、気にする程でも無い

 

 

何故なら、自分は隠密をしないからだ

 

 

横に立てかけてあるM16バルカン砲を見る

こいつは仲間が"能力"によって外の世界から持ってきた物だ

この場所で改造され、携行品として生まれ変わったが持てる人物は俺だけだった

 

だから、俺が持つことにした

的になりやすいから装備もガチガチにしてもらっている

 

…"大尉"という人物はアンツィオを軽々持つらしい

弾薬込みと考えると相当だから、彼も持てるだろうな…

ただ、適所適材という言葉がある通り、彼の専門は"狙撃"

 

また、俺とは違う仕事なのだ

 

「また腕がおかしくなれば言ってくれ」

「分かっている」

 

バルカン砲を背負い、研究室をあとにする

 

そこから少し歩いたところで右腕が傷んだ

 

「――つ」

 

右腕を掴むが、その腕は金属の腕である

本来ならば全く痛みを感じることは無い

ならば何というべきなのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…幻肢痛だ

 

 

 

本来存在せず、痛みを感じない部位が痛みを感じる

視覚的には無いが、感覚的には存在する

 

体が忘れられてない存在

 

時折そこが、痛むのだ

忘れそうな頃に痛んだり…続いて痛んだり…

鎮痛剤を投与してもその痛みは消えることは無い…"存在しないのだから"

 

仲間の数人にも、同じ症状を持つ奴は居る

あんな痛みで対処法も無いのだから、薬物に手を染める奴もいた

 

 

 

――それでも痛みは襲い来る

かつての仲間達が無い手と足を振るい、俺たちに掴みかかってくる

 

――どうしてお前が生きているのか

――どうして俺は死んでいるのか

――何故、お前が立っているのか

 

ありとあらゆる罵倒が亡者達から飛ばされる

いつであろうと、夢の中であろうとその悪夢は襲い来る

 

毎日血涙を流し、叫びながら飛び上がる

 

 

…そんな毎日だ

 

地獄でしかない

 

「…」

 

バルカン砲を構える

 

「おい?何をしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

――これが、俺の仕事だ

僅かに建物からはみ出た漆黒の翼に向けて、トリガーを引いたのだった

 

 

「…まだ動かんのですか?」

「まだだ、まだ早い」

 

某所にて、玉座に座る"男"はそういった

純白の穢れのない燕尾服を着た紳士のように見える――が、本質は違う

穢れの無いという言葉の真反対を生きる男である、何故なら――吸血鬼であるから

 

手に持ったグラスを傾け、中のワインを軽く飲む

ゆらゆらと赤い液体が揺らいでいる

 

「今攻めたとて、得られるのはただの蹂躙のみ

 そんなの、面白くないであろう」

「それもその通り…」

 

玉座の横に居る男はそんなことを言った

座っている純白の燕尾服を着た男とは真反対の衣装

真っ黒な燕尾服を着た執事はコリコリと骨を鳴らす

 

「その時が楽しみでございますね」

「…うむ、"あの娘"も楽しめることだろうか」

 

夜の帝王は座して待つ

 

いつしか来たる、その時を待って

 

己が待ちわびた、全てを受け入れる地を支配する為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁ、お父様は、ああいう運命なのね」

 

 

 

「大尉、あんたに新しい任務がある」

「拝見しよう」

 

指揮官室にて、大尉は指揮官と面を合わしていた

いや、正確には大尉は全く指揮官の方を見ていなかった

机の上に置いてある資料をじっと頭に叩き込んでいた

 

「君の任務はそこにある通り、マヨヒガ潜入だ」

「…よく分かったな」

 

マヨヒガといえば最強の妖怪、八雲紫の住処だった筈

そんな場所をよく人間ごときが探知できたものである

何か、俺のように裏で繋がっていたりするのだろうか

 

ここは平然とやってのける輩が多いからな

 

「単独か?」

「その通り、そもそも人手がいたところで邪魔なだけだろう?」

「それもそうだ」

 

俺は指先から火を出すと、資料を焼き尽くす

パラパラと灰が空調設備に入っていき、やがて見えなくなった

 

俺は命日は近いな、と独り言を飛ばしながら戦場に出るのだった




※事前情報としてこいつらには「マヨヒガis紫の家!確定!」
 ですが、設定として紫の家は別にあります

 そういうことです

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