スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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行きはよいよい

基地からの出撃にはあまり時間はかからない

何故なら一々時間をとるようなことをしていれば大切なチャンスを逃す可能性があるからだ

そんなことをするくらいなら、ささっと出撃した方が本人的にも楽である

 

 

 

 

――しかし、徒歩である

 

特に潜入任務等の兵士は移動用のバイクや四輪自動車を渡されることは滅多にない

何故なら爆音で潜入する前にバレるから――というのもあるが基地の守りが薄くなるからである

とある人物が定期的に外の世界から持ってきているが、それでも足りない

 

故に、移動手段は貴重である

 

 

「あほしね」

 

 

そのような"ンもったいねぇ…"精神を発動する上層部に悪態をつく

一旦この前線に出て、どんな状況か思い知ればいいのに

 

目の前の壊滅した前線基地がいい例だ

鴉や蛆が集った死体が何体も転がっている

こいつらが倒したであろう天狗の死体は…灰と装備していた物だけになるから風に吹かれたのだろう

 

可哀想にな

 

壊滅した前線基地を横目に指定された位置に移動する

妖怪の山の中腹…の上の方、頂上から下、なんとも言えない位置だ

その位置に行くと、自動的にマヨヒガに転送されるらしい、"潜入者"からの情報だ

 

何やら少し情報を集めようと東奔西走していたらいつの間にかマヨヒガにいたらしい

恐らく、何かしらの術がありそれに引っかかったら迷い込む仕組みなのだろう

 

「…」

 

匍匐で土まみれになりながら進む

時折、水たまりに入り込み泥水を啜ることもあった

土が歯にこびり付き、乾き、唾によって濡れる

 

今回の装備は近接戦を想定…していない

アンツィオ41cm対艦ライフル、マテバ・フルカスタム

んだこのアホ構成、お前潜入任務知らねぇな?(確信)

 

知ったことでは無いが

 

そう思っていると、雨が降り始める

どうも濡れていたのは前振りだったらしい、本降りだ

 

ザーザーと雨粒が体を叩きつける

 

僥倖だ、雨なら匂いや音を嗅ぎつけられない

 

白狼が鼻が良いというのは聞いた

故にこの雨は俺を奴らから隠してくれる

潜入時間は既に日が落ちた後だ…かなり有利だ

妖怪共の夜目がどれほど効くか分からない

しかしこちらはサーマル付きナイトビジョンを装備している

ある程度のアドバンテージはある…

…持ってきたスタングレネードを叩き込む機会が無いことを祈る

 

ただ…俺の心残りとして椛が頭にある

彼女の能力は「千里を見通す程度の能力」…厄介だ

ただ、基地で観察した感じそれ程生真面目では無いだろう

なので確実とは言えないが見逃してくれるかもしれない

 

んまぁ、敵ならどうとでもするが

 

それより、今回の任務はマヨヒガの潜入…では無かった

資料をよく見てみると「もしくは破壊」と書いてあった

 

俺としては個人的な恨みがある

…潜入調査は不可能だったとしておこう

 

だから、今回はC4を三つ持ってきた

数的にはこれが限界だ、多すぎても困るし少なくても困る

 

完全破壊はできなくとも損害を与えることは出来る

 

住処が破壊されたとなれば…奴も黙ってはいまい

 

「…ふぅ-…」

 

額についた雨を拭う

ナイトビジョンは目を覆うタイプだから雨水は入らない

ただ、感覚的に気持ち悪い感覚はあるので拭いとる…

 

そう思った時だった

 

「今日は雨が酷いな」

「あぁ、いつもより降っている」

 

俺は足を止める

声がしたのは前方の方だ

雨が激しくなってきている、雷が降りそうだ

敵が言うように天候は悪くなって行っている

 

良いタイミングだ

 

これなら奴らは俺を見つけられない可能性が高い

隠密性が高まるのは結構だが、こちらも相手を見つけにくい…

 

 

 

 

こういう時のサーマルだ

 

今回は奴らの服装が紅白の派手な天狗衣装だから要らない

ただ、奴らの中には迷彩をしているヤツらもいるかもしれない

面倒な場合はもうサーマルを使ってしまえばいい…

 

相手が体温を同化出来てしまえば話は違うのだが、そんなの聞いたことは無い

そんな能力持ちがいることを聞いたこともない

 

 

 

「…」

 

マテバを構える

頭にぶち込めば数秒は動けないはず

叫び声を上げるなんて以ての外だろう…

 

さて、雷が鳴るか…奴らが散るか

 

アイアンサイトでもこの距離なら十分狙える

殺気に気づけない馬鹿どもで良かった

 

「そろそろ引き上げよう」

「まだ早いだろ?怪しまれるぞ――」

 

片方がそう言い切った時だった

ピカッと辺りが白く包まれる

俺はそれが何なのかをすぐに察知し、引き金に力を込める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒もしないうちに辺りに轟音が響いた

近かったようだ、光から音までがとても早い

凄まじい轟音が辺りを穿つ

 

「…!」

「…!?…!!!」

 

奴らに向けてダブルタップ

放たれた2つの弾丸は奴らの脳天に命中した

周りを確認し、何も接近していかないことを確認する

 

倒れた2人に近づき、何度もナイフで刺した

 

「…!、!!」

「…ッはっ…!」

 

ぎょロリと目玉が俺を見る

脳天に穴が空いているというのに生きているのか

あまりの嫌悪感に俺は奴の首元を何度も突き刺した

 

やがて、灰になる

 

刺した回数は…大体30?25…程度だろうか

それ程刺さないとこいつらは死ぬ気配が全く無い

ライフルを使えば木っ端of微塵だが…

 

「…ふん」

 

片方も殺す

殺すと灰になるのはとてもいい事だ

隠すのが楽…というか後処理が楽なのだ

人間と違って死体が残らないのは好感が持てる…

服はそこらの草に紛れさせておけばいい

もしくは、埋めておくか

 

…霊力で燃やすのは疲れる、論外だ

 

「ささっと行くか」

 

中腰のまま山を登る

普通に移動しているとそこらの哨戒に見つかる

面倒ごとはできるだけ避けておきたい

戦闘するというのはこの山を相手にするということだ

流石に天狗全体と1人で戦い合うことは出来ない

 

雨に身を隠し、進む

途中に天狗の哨戒が居たが、やり過ごすことは出来た

鼻が効かないから雨は嫌いだとボヤいていた…

やはり運がいい、今日は恵まれている

平日の晴れとかだったら今頃全面戦争だ…

 

「…おっと」

 

そろそろ中腹だろうか

そう思っていると、目の前に崖が現れる

どうもこの先は崖を登るしかないらしい

他に道が見えない…横から回り道は出来そうか?

 

「…」

 

辺りを見回すが、どうもかなり広く崖があるようだ

登る以外の道はなさそうである

 

クライミングの訓練ややり方は知らない

ただ、登れそうなところから登るしかないだろう

 

上を見上げ、大体の経路を想像する

雨で滑りやすいかもしれないが、ブーツだし大丈夫だろう…

 

「…ふッ」

 

心を決め、手頃な岩に手をかける

それを支点としてどんどん足をかけていく

足が地面から離れ、壁の岩に足裏が触れる

 

「…行けそうだな」

 

手頃な割れ目もあるからかなり簡単に登れるだろう

時に割れ目、時に岩に手を伸ばして俺は昇っていく

 

天狗の里はこういう崖に多いらしい

崖をくり抜いて家を作ったりするようだ

人なら不便だと思うが、天狗は違う…飛べるからな

飛翔する翼があるというのはなんとも羨ましい

 

そのまま天まで上り、太陽に焼かれてしまえ

 

そう思った時だった

 

「…?」

 

カラリ、と雨音に紛れてそんな音がした

それの後にコロンコロンと俺の肩を石が叩く

 

どうも、誰かが上にいるらしい

あまりに端に行き過ぎて石が転げ落ちたか…

 

上を見てみると天狗らしき影が1人見える

天狗らしき、というのはどうも全体が真っ黒でよく分かりにくいのだ

 

「…」

 

ナイフを抜きやすいように調整する

立てる場所があるなら、そこが目的地だろう

恐らくそこには原っぱと森が拡がっている筈だ

ここで手を離せば一巻の終わり、転落して死んでしまう

 

奴はどうも景色を見ているらしい

なんでまぁ、こんな雷雨を見ているんだか

 

音を立てないように慎重に手と足を運ぶ

 

 

…やつの足元まで来た

 

暗闇に慣れていないのか、奴は俺を見つけられてないらしい

ずっとそこに立ち尽くしている

 

何がしたいんだ?こいつは

 

何か嫌なことでもあったのか?

それともここから身投げでもしようと思っているのか?

こんな高さじゃ妖怪だと死ねないと思うが…

 

 

それはそうと雨粒の感覚がない

先程までザーザー振りだったのに、全く当たる感覚がない

辺りにはかなり降っているようだから、局地的に曇ったのか?

 

「…まぁいい」

 

左手でナイフを抜く

まずは飛び上がって胸に一刺しだ

 

俺は呼吸を整える

 

数秒後、俺は飛び上がった

霊力を込めた一撃を致命的な箇所に与えようとする

 

 

 

 

そして、何故俺は雨が止んだかのように感じたのか理解した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そりゃ、上で傘をさしていれば雨なんて降らないはずだ

 

「ごきげんよう」

「…ッ!!!」

 

ナイフの突きが一瞬止まった

その人物は天狗なんかではなかった

むしろ、天狗というのが烏滸がましい奴だ

 

その紫色のワンピースと特徴的な傘は知っている

 

俺がそいつの名前を叫ぼうとした時、奴は俺の手首を掴んだ

ナイフを持った奴を突き刺そうとした左手…

そのまま、奴に引き寄せられる

 

「あぁ、冷たいわね…長く雨に打たれたからかしら」

「…!、!?…!!!」

 

口が開かなかった

生暖かい感触が体を包み込む

何かの術か分からないが言葉を発することが出来ない

 

動くことも同じくだった

 

目の前で、奴が人差し指を俺の口元に当てた

俺はその圧力に抗えず、何も出来なくなった

 

「静かに…辺りに空気の読めない奴らが居るわ

 殺しちゃったら…」

 

そこであぁ、と奴は何かを思いついた様だった

空気の読めないヤツら…こちらを視認できてない馬鹿どもが見えた

ここで視認出来ていたら俺としてもありがたかった

ただ、このクソ野郎は何かの術を使っているようだった

 

普通こんな目立つ傘や衣装をしていれば秒でバレる

 

俺は奴に抱き留められながら、それを聞くしか無かった

奴はあっけからんと言う感じに言った

 

まるで、当たり前の様に

 

 

 

「別にいいかしら、何をしても"反対勢力"のせいになるんだから」

 

 

 

パチン、とそういった空間でもないのに音が響く

 

瞬間、周りにいた哨戒天狗が一瞬で塵とかした

なんの例えでもなく、本当に一瞬で

 

ぱらぱらと塵が雨に濡れていき、消えていく

 

…致死量の妖力?やつの謎の能力?

いや、なんであっても俺には理解できない

 

俺はどうにかしてこの情報を打破することを考える

何か言い手はないか、幸いにも手は動かせる

 

ならば、ナイフか?マテバか?ナイフか?銃か?

 

頭の中をグルグルと策が巡る

考えつかないとここで俺はデッドエンドだ

 

「さぁ、舞えよ戦え…その怒りを存分にぶつけなさい」

「…ユゥゥカァアアアリィイイイッーッ!」

 

口が開放された

俺はその瞬間、右手でマテバをクイックドロウ

左手に握っていたナイフを突き立てようとする

 

即座に引き金を六回、六回発砲音が響き渡る

 

しかし、弾丸が命中する前に奴はいなくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やつを取り逃した…

俺はその場で膝を着いた

やつを殺し損ねたからじゃない

 

「…ぅう」

 

少し嘔吐く

 

そして、俺はその場で嘔吐した

 

「おぉううえええぇぇ……」

 

喉が焼けるように痛い

しかし、それ以上に奴に抱き締められたという事実が重くのしかかる

奴に、奴なんかに抱き締められるなんて

 

先程まで雨の冷たさなんて感じなかった

再び俺の体を打つ雨が冷たく感じる

 

とても、氷のように冷たい

 

俺が嘔吐いていると、僅かに草木の揺れる音が聞こえた

どうも耳のいいヤツらが集結してきたようだ

 

「…こんなことをしている暇は無い…」

 

その場から離脱する

帰るという選択肢は無い、進むだけだ

森の中に飛び込み、匍匐で前進する

 

草木を踏みつぶす音が辺りから聞こえる

ここからさっさと抜け出してマヨヒガに行った方がいい

俺は奴らにバレないように進んでいく

 

 

「…ここら辺なら」

 

カチリとマテバのシリンダーを開き、中に弾丸を入れる

使いやすいリボルバーだと俺は思う

当てやすいし、かなり正直に飛ぶ

 

俺は好みだ…威力がもう少し欲しいが

 

薬莢の匂いも雨ならそれほど問題じゃない

どうせ雨に全て覆い隠されるのだ

 

「あ」

 

からんと余分に取ったひとつの弾丸が転がる

そのまま転がっていき、何処かに消えていった

 

…まぁ、いいか

 

俺はそう思いながら進んでいく

そろそろ匍匐でなくてもいいだろう

中腰になって進んでいく、森は静かだ

先程から森は雨の音を奏でている

 

 

「…?」

 

俺はふと、妙な感覚を覚えた

何故か分からないが何かおかしい気がした

何かが居やがる気がする…おかしい気配だ

 

「…まさか…」

 

俺が草むらから顔を上げてその先を見る

 

 

しかし、その先は存在しなかった

あるのはモヤッとした嫌悪感を感じずには居られない景色だ

その景色の中に屋敷のようなものが見える

 

「…」

 

俺は"潜入者"との情報が違うことに違和感を感じた

これ程までに目立つ境界ならば普通そう言うだろう

何か、無理矢理改変でもされたのか?

 

俺はその境界に入ることにした

 

「ウォッチャー、こちら大尉…応答願う」

 

入りながら本部に連絡をかける

かかれば上々、駄目ならばそれまでである

これ次第で後々が変わるとまでは言わないが…

 

『こち……聞こえ……大……?……応答……』

「…ダメそうだ」

 

ガックリと肩を落として俺は境界を超えた

ここで無線がかけられれば…

俺はもはや使えない無線を投げ捨てる

持っていても重いだけだ、使えない

 

そう思っていると、俺はカチリとマテバを構える

 

俺が想像していた通りだ

何もかも、寸分狂わずな状況

 

「ごきげんよう」

 

奴は挨拶を変えずにそう言ってきた

俺はカチリとハンマーを上げる

 

「ごきげんよう、そしてさようなら」

 

引き金を引いたのだった

 

 

大尉とは、部隊内では異質な存在だ

"メディック"がどこかで救ってきたというのが通例だ

ぽっと出の奴がEEFという事実を受け入れられないやつも居る

 

しかし、大尉は許されている

それほどのことをしても、許されている

 

大尉…"シャドウ"が別段気に入られている訳では無い

 

当たり前に仕事をして、当たり前に特進したからEEFなのだ

 

もしくは、彼が能力持ちだったからだろうか

 

 

 

 

 

…それは彼をEEFにした司令官しか知らないだらう




訳あってハワイです

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