スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

32 / 62
温もりの中

「…」

 

起きると、そこは暗闇だった

正確に言えば蝋燭の明かりしかない、どこかの屋敷の中

椅子に縛られて置かれている

手足が椅子に括り付けられている、背もたれは存在している

蝋燭は俺から見て左右の柱に置かれていた

 

とはいえ、もう右目は見えないから右の蝋燭は僅かに見える明かりで判断しているのだが。

 

「…畜生」

 

装備類は何一つ無い

グレネードはおろかナイフ1本すらないのだ

抵抗も脱出もままならない

 

――このまま殺される

 

最悪の想像が頭をよぎる

こんな所で死ぬなんて、クソみたいだ

それはアイツ(八雲紫)の腹の中で死ぬようなものだ

 

それだけは許されない

 

俺が死ぬんじゃない、あいつが俺に殺されるんだ

 

 

「気張っているわね、アナタ

「っ」

 

生暖かい声が耳を擽る

体が反射的に殴りかかろうとするが、動けない

かなりキツく縛られているらしい

…こいつはかなり苦労しそうだ

 

畜生…!こいつを解け!今すぐ!

「それは出来ないと言うものですわ」

 

奴は俺の後ろに回る

姿が見えないというのが恐怖を煽る

これから何をされるか、想像したものでは無い

 

…したくも無い

 

湧き出る恐怖を抑えながら声を荒らげる

 

「今からをされるか、それが気になるのでしょう

こいつを解け、今すぐ!

 

こいつの言葉を聞きたくない

その汚らわしい口を今すぐ閉じろ

 

――そして二度と 喋るな

 

あらあら…良く吠えるわね」

「あぁ!?…うぐぁっ!?

 

煽りに乗り、後ろを向こうとすると、殴られた

頭が揺れる、口の中が簡単に切れて血(赤)が出る

 

奴はそれを恍惚とした顔で見ているようだった

 

「あぁ…美しい""ね、失礼して…」

「――…!!!」

 

くちゅり、と俺の唇を貪った

初めての経験だったのもあったのか、反応できなかった

反応が遅れたのと手足が縛られているのをいいことに、彼女は俺の中を蹂躙した

俺の目の前に恍惚とした目の紫が居る

最初こそ抵抗したものの、直ぐになすがままとなった…

 

 

 

…数分が経過した頃だろうか

俺は蹂躙から解放された、意思が朦朧とする

息継ぎの暇無く接吻をやらされたのだ、死んでない方がおかしい

 

「…あら――すぎたの――大丈――?」

 

紫の声が遠く聞こえる

頭がクラクラとする、世界が回っている

金属バットで殴られてもこんなくらみ方は無い

 

頭がオカシクなりそうだ

 

「仕方な――これ――しか――」

「――!」

 

グラグラしていると、何かを刺された

その瞬間、意識が鮮明に覚醒する

横流ししていた情報が頭に殴り込んでくる

 

1番言いたかった言葉が考える前に出てくる

 

お、お前…よ、よくも俺の…!」

「あら?初めて?それは良かったわ」

 

彼女は手のひらで注射器をクルクル回しながら答える

…見覚えがある、組織で使ってた覚醒剤だ

時折耐えきれなくなるやつがいるから、治療と称して麻薬を投与する

 

麻薬にも種類があるらしく、使ったら予知能力だの時が遅くなる戦闘用ドラッグがあるらしい

…ただ、副作用はシャレにならないらしいが

 

「人をヤク漬けにする気か?」

「えぇ?そんなまさか」

 

気分が高揚しているせいか、口がよく回る

世界がレインボーロードだ、レインボーだ

物が何重にも重なって見える…奴がこんなにも…

 

ヤク漬けアナタもいいですけれど…」

 

彼女は俺の顎を上げる

奴の顔面が目の前にあるが、頭がオカシクなったせいで何も分からない

グワングワンと世界が揺れている

 

「――やっぱり、私に抵抗するアナタが1番ね」

 

ぺろり、と頬の傷を舐められた

そして俺の見えなくなった右目をなぞる

 

「あぁ…ほくろまで削っちゃったわ。

 割と好きだったのよね、アナタのほくろ」

 

十字になぎ払われた際、ほくろと右目が逝った

ホクロは割とコンプレックスだったからいいのだがね

右目はどうしようもな――

 

「…だから」

「…は?」

 

彼女は何の脈絡も無く、自分の右目を抉った

あまりの突然のことに、あっけに取られた

何も無くなった右目の穴から血が溢れる

まるで血の涙を流しているようだ…にしては量が多いが

 

「こうするの」

「…うぐっ!?あああああああああ!!!

 

彼女は俺の右目をくり抜いた

右目が何かの管をプチプチ裂きながら引っこ抜かれる

くり抜く際、俺に垂れかかって来たせいで椅子が倒れ――

 

 

いや、椅子なんてそもそも無かった

 

 

俺は床にバタンと押し倒された

俺の何も無くなった右目の穴に彼女の手から血が垂れる

 

染みて痛い、なんてものじゃない

そもそも抉られているのだ

 

「…見てて」

 

彼女は、抉った俺の目を自分の眼孔に嵌め込んだ

縦に切り裂かれた痕があったそれは直ぐに再生し、茶色の、日本人特有の瞳になる

 

妖怪の再生力によって、俺の…いや、"紫の瞳"は直ぐに再生した

 

「アハ、アナタの瞳…貰っちゃった

 

彼女は嬉しそうにそう言うと、今度は俺の右の眼孔に抉りとった自分の目をはめ込む

 

激痛が走る

 

それは感覚的、というより感情的な拒否反応だった

 

「私が奪うだけなのはダメ、取り換えっこよ」

「う、ぐぐぐ、アアアアアッッッ!!!」

 

燃えるような痛みが顔の右側に広がる

本当に燃えているかのような痛みだ

現実では何も燃えていないと言うのに

 

痛い、アツイ、熱い

 

「…フフフ、アナタが私と一緒になっていく」

 

燃えるような激痛の中、そんな声が響く

前からじゃない、辺りから一斉に聞こえるようだ

 

「あれほど恋焦がれたアナタを手に入れて…一部が私と一緒」

 

嬉しそうな声が響く

恍惚とした声が響く

楽しそうな声が響く

 

どれも音色は違うが、放っているのは同一人物だった

俺は燃え尽きそうな激痛のなか、己が右目から紫に変わっているような感覚を覚えた

 

そんな中…ふと、俺は彼女の瞳を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そこには、怯えきった顔の紫が居た

 

 

「ひっ」

 

思わず、そんな声が出てしまった

今までこんな恐怖を感じたことは無い

それ故に出てしまった本当の…恐怖の声だった

反射的に両目を瞑る、これ以上何も見たくなかった

 

 

今起こっていることも、これから起こることも、何も見たくなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナタは目を開ける

 

しかし、それは許されなかった

闇の中への逃避は許可されなかった

 

 

 

俺は、"両目"を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右目には、視力が戻っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、こちらの世界へ」

 

 

無数の、境界を映して

 

 

妖怪…に成りかけた時の感情は今も忘れられない

あの時ほど絶望したことも無かったはずだ

 

妖怪の山で殺されかけ、9年眠った時ですら、そこまでの絶望は無かった

 

俺にとって妖怪となるのは、それ程の絶望だった

 

俺は、今でも妖怪を憎んでいる

 

特に、俺の体をこうして妖怪へと変えた紫に

 

殺したい程の愛を

 

何もかも奪ってしまいたい程の憎しみを

 

 

 

 

 

ただ、ただ、一つだけ、許せるのは…

 

彼女がまだ、人の形をしていることだけだろうか?

それとも、あの時、助けてくれたからだろうか?

 

もしくは、母親を生かしていた事だろうか?

 

今でも、悩んでいる

 

 

…こうして、彼女の温かみを感じながら




もっと濃い赤無いんすかね()

次の小説

  • キヴォトスに霊夢が来る話
  • 幻想郷が現実世界に攻め込む話
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。